米国関連

前例のないアプローチ、米空軍が開発している無人戦闘機の欧州生産を容認

AndurilとRheinmetallはパリ航空ショーで「無人戦闘機=YFQ-44Aの欧州版を共同開発する方法を検討する」と、General Atomicも「米空軍は同盟国と無人戦闘機の売却について協議して良いと許可を与えている」と明かし、米国が防衛装備品の輸出について前例のないアプローチを採用してきた。

参考:At first Paris Air Show visit, Anduril inks new partnership with Rheinmetall on drones, weapons
参考:General Atomics eyes European market, coproduction for CCA
参考:RTX touts its Europe ties as nations look warily across the pond
参考:Lockheed ‘looking for partners’ on NATO next-gen helo bid, will build in Europe
参考:Boeing In Talks To Restart C-17 Production

米空軍が「完成品を買え」から「一緒にやろう」と方針を変えたのは善意ではなく、EUが主導する欧州再軍備計画の規制をクリアするため

米空軍は有人戦闘機に随伴可能な協調戦闘機=Collaborative Combat Aircraft(CCA)を1,000機調達する予定だが、特定のCCAを1,000機調達するのではなく特性の異なる複数のCCAを調達するつりもりで、第1弾調達=Increment1にはLockheed Martin案やBoeing案を破ってAndurilのFury案とGeneral AtomicのXQ-67A案が選定された。

出典:General David Allvin

もはや有人戦闘機と無人戦闘機が協調して任務を実行する未来は夢物語ではなく「目前に迫った現実」で、米空軍のアルヴィン参謀総長も今年3月「我々は既にCCAのプロトタイプを2機保有している」「数年前に空想上の産物でしかなったCCAは今夏に飛行可能になる予定だ」「どちらのプロトタイプも将来の制空権確保において極めて重要な存在になるだろう」「我が国の歴史上初めて(両プロトタイプを)戦闘機を意味するYFQ-42AとYFQ-44Aと指定した」と発表。

米空軍も5月1日「CCAプログラムの地上テストを開始した」「これは自律システムを空軍に供給する取り組みの大きなマイルストーンだ」「地上テストはYFQ-42AとYFQ-44Aの厳格な評価が含まれ、特に推進システム、アビオニクス、自律能力統合、地上管制インターフェイスが重点的にテストされて今後の設計案決定に役立てられ、今年後半に予定されている飛行テストに向けて準備を行う」「Increment1の生産決定は2026年度に予定され、同じ年にIncrement2の開発も開始される」と述べてAndurilのFury=YFQ-44Aの実機を公開。

アルヴィン参謀総長も「CCAプログラムの地上テストが正式に開催された」「これは初飛行と迅速な納入へ向けた新たな1歩だ」「この無人戦闘機はきっと凄いものなるだろう」と述べていたが、5月20日「YFQ-42Aを世界で初めて公開する」「CCAは費用対効果が高いだけでなく本当に強力な戦闘機だと証明されるだろう」「この無人戦闘機が敵に警告を与えることになるのは間違いない」と述べ、General AtomicのXQ-67A案=YFQ-42Aの実機を公開した。

CCAの開発と実用化は前例のないスピードで進められているものの、まだYFQ-42AとYFQ-44Aのプロトタイプは一度も空を飛んだことがないもかかわらず、AndurilとRheinmetallはパリ航空ショーで「欧州市場に参入するため両社は提携する」「欧州のサプライヤーを活用して無人戦闘機のYFQ-44A、超大規模生産と大量使用を前提に設計された低コスト巡航ミサイル=Barracudaの欧州バージョンを共同開発する方法を検討する」と発表。

Andurilは「国際市場に参入するため3つの方法=直接販売、現地企業との提携、現地への子会社設立を考えている」「これは何処に行っても交わす会話と同じだ」「要するに我々は喜んで新規参入するし、顧客の市場の内側から防衛技術の再構築に貢献する」「Andurilの製品はオープンアーキテクチャを採用しているため現地企業との提携にも喜んで応じる」「政治的な意見も多いためAndurilは各市場毎に最適なアプローチを採用している」と述べて「YFQ-44Aの提供や欧州での現地生産が可能」と示唆したが、General Atomicはもっと踏み込んだ内容を明かした。

パリ航空ショーに参加しているGeneral AtomicもBreaking Defenseの取材に「米空軍は一般的なアプローチとは異なり、CCAを開発する2社に欧州とインド太平洋地域の一部の同盟国と無人戦闘機の売却について協議して良いと許可を与えている」「幾つかの輸出手続きが必要だが数週間で完了する」「これは本当に前例のないアプローチだ」「通常のアプローチならCCAを同盟国に提案できるようになるまで8年~10年はかかる」「要するに米空軍は開発段階から一緒にやろうと提案してきた」「こんなことは45年間も仕事をしてきた中で見たことがない」「YFQ-42Aについて複数の潜在的な顧客と協議した」と述べている。

出典:U.S. Air Force

General Atomicは「欧州市場においてシステムインテグレーターとしての適切な経験とノウハウをもつリードパートナーを探している」「このパートナーが各顧客のニーズに合わせてYFQ-42Aを再設計し、必要な技術や部品を現地で調達し、それらをYFQ-42Aに統合して認証を取得するようになる」「このパートナーと立ち上げる欧州のサプライチェーンや生産ラインには複数の顧客が参加することになるだろう」とも述べており、このやり方は米国にとって本当に異例で、韓国が海外市場に進出するアプローチと同じだ。

勿論、米空軍が「完成品を買え」から「一緒にやろう」と方針を変えたのは善意ではなく、EUが主導する欧州再軍備計画=ReArm Europe Planの規制をクリアして最大8,000億ユーロの投資にアクセスするためだと思われ、南アジア、東南アジア、中東が「防衛装備品の直輸入を法律で禁止し、我々の市場で武器システムの供給者として生き残りたいなら条件(法律で定められたオフセット比率、技術移転、現地生産などの条件)を守れ」と言い出したのと方向性が同じで、個別の取引毎に交渉するのではなく「法律で規制することで政治力に押し切られないようにする=拒否する法的根拠を用意しておく」という手法だ。

出典:European Defence Agency

この方針を導入した国について伝統的な武器供給大国=米国、欧州、ロシアも「方針を尊重して受け入れる=現地の法律に従う」と表明し、いい加減だったオフセット、技術移転、現地生産などの約束を守るようになっているため、今回は米国が欧州再軍備計画に対応するため従来のアプローチを大幅に変更してきたのだろう。

因みに東アジアでは韓国が防衛装備品の輸入に関するオフセットガイドラインを制定しているが、それでも「契約額に等しいオフセットの価値を要求する欧州諸国と比べると、防衛事業庁はオフセットの価値として入札契約額の50%しか要求していない」と批判されている。

出典:U.S. Marine Corps photo by Lance Cpl. Rachel K. Young

追記:Raytheonもパリ航空ショーで「我々は欧州の能力強化に重点を当てることが長期的に適切だと考えている」「我々は欧州企業とのパートナーシップを模索して参加し、今後も欧州の戦略に貢献できるよう務める」「このパートナーシップは我々の欧州におけるアプローチの核心だ」「我々はオープンな姿勢を保って各国が要件を満たせるよう支援する」と述べ、Diehl Defenceと欧州におけるスティンガーの共同生産を行うと、KongsbergとNASAMSシステム向けの新型レーダー=GhostEyeを共同開発すると発表した。

Defense Newsも「Raytheonは欧州で高まる武器システムの主権問題に対応するため現地プレゼンスの強化に乗り出した。EUは『もっと防衛装備品の調達に投資すべきだ』と加盟国に要求しており、これは欧州の防衛産業基盤を強化するのが目的だ。特にEU主導の欧州再軍備計画は米国などの域外サプライヤーへの依存を軽減するのが目的で、Raytheonのような企業にとっては欧州での存在感を高めるインセンティブになっている。Raytheonは欧州で新たなサプライチェーンやパートナーを探しだそうとしている」と報じ、Raytheonも米国製システムに対する欧州の警戒感を和らげるのに必死だ。

出典:Lockheed Martin

追記:Lockheed Martinもパリ航空ショーで「欧州諸国のヘリコプター更新需要に参入するため提携できる欧州のパートナーを探している」と発言し、これに成功した場合はS-97ベースの輸出バージョンを欧州で共同生産する計画らしい。

追記:Boeingはパリ航空ショーで「C-17の再生産について潜在的な顧客と交渉している」「この交渉は非常に初期段階のもの」「幾つかの国も再生産されるかもしれないC-17に関心を示している」と述べ、War Zoneは「潜在的な新規顧客の1つは日本だろう」「日本の首相はC-17に関心を示していた」「新たな生産ラインが立ち上がれば日本も関心を示すだろう」と報じた。

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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force

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コメント

  • コメント (18)

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    • 無印
    • 2025年 6月 20日

    S-97はアメリカじゃ没になってしまったけど、欧州ならユーザーがいるかも、ってたくましいな

    C-17再生産、「日本の首相はC-17に関心を示していた」本当に首相「しか」関心を示していなかったんですが…

    24
      • ネコ歩き
      • 2025年 6月 20日

      石破首相が関心を示していたのはモスボール保管C-17のOH再就役機導入です。新規生産となれば話はまた別でしょう。
      米軍での運用が続き運用維持部品が確保される前提ですが、PKO輸送等海外派遣任務専用に6~8機程度の少数を導入する構想ならば問題は少ないと思います。発言の根拠としてその場合の概算LCCは防衛装備庁等で検討されているはずです。
      まあ、乗り気なのは首相のみなのかもしれませんが。

      12
        • AH-X
        • 2025年 6月 20日

        ん?C-17ってもうモスボール保管されてましたっけ?

        C-17導入はメリットも大きいと思いますよ。パトリオットや03式SAM、12式も空輸可能ですし。
        C-2より高価格でしょうけどイギリスもC-17とA400Mを両方運用してるわけだかうまく使い分けもできるのでしょう。

          • あまつ
          • 2025年 6月 20日

          C-17いらないわ~。
          パトリオットはC-2でも運べるからC-17に価値無し。
          A400Mは結局重量超過とエンジンの出力不足が解決できずに性能未達のまま就役してるのでC-17に頼らざるを得ない部分があるのでしょう。
          そんな事にムダ金使うなら海自のC-130RをC-2で更新するのに使った方が断然良い。

          12
          • ブルーピーコック
          • 2025年 6月 20日

          安全マージン抜きならスペック的に使う事も出来ますが、最大離陸重量での運用など積荷次第では3000メートルクラスの滑走路でないと着陸が出来ないので、運用に制限がかかります。入間基地だとまあ厳しい。

          9
          • 匿名希望係
          • 2025年 6月 20日

          退役機が24機ぐらいあるんだったけ?

      • kitty
      • 2025年 6月 20日

      いちおうドクターヘリが遅いから、導入をという主張をする物好きがいるのですが、ダクテッドファン機の安全性には変えられませんな。

    • p-tra
    • 2025年 6月 20日

    無人戦闘機は…どうなんだろう、実戦で証明された兵器とは言えないので
    有効性も良く分からない。
    実際の戦訓からこういう形態がいいって分かってないからホントに役に立つ
    のかは結構疑問だと思う。
    有人機がやりたくないことを代わりにやれってコンセプトは共通してるが
    センサーとして危険地帯に放り込む(TACOMとか)、前方に出てシューター
    をする(YFQ-44系)、給油をさせる(MQ-25系)とか何をさせるかはかなり
    違ってくる。
    全部やらせたらただの無人にした有人戦闘機なんで意味ないがどれをさせる
    のがいいかというバランスが問題だろう。
    個人的にはMQ-25くらいで十分だろと思うけどね。

    1
      • のー
      • 2025年 6月 20日

      最近のAIの劇的な進歩からみて、有効性が無いとは考えにくく、実戦で証明されてないからといって軽視するのは危険すぎますね。それに有効性が実戦で証明されてないのは確かですが、証明されてからでは開発も生産も間に合わないので。
      ウクライナで遠くないうちに実証されそうな予感。。。

      7
      • 2025年 6月 20日

      探索と攻撃の役割の無人機を、それぞれ自機から離して配置し、短距離通信で有人機と繋いでおくだけで、会敵時に優位な立場に立てるのは実戦で証明するまでもなく明らかかと。

      3
      • ネコ歩き
      • 2025年 6月 21日

      コンピュータシミュレーションの有用性が向上著しいので、開発効率化のため構想段階から様々な条件下での「バーチャル演習を実施→評価・検討→フィードバック」というデジタルエンジニアリングが可能というか普通になってきてます。
      勿論最終的には実用試験や実機演習を経て試験的に実戦投入も有り得るわけですが、今回2タイプの採用を決めたのには相応の理由があるんでしょう。

      1
    • 58式素人
    • 2025年 6月 20日

    どうなのでしょう。
    いざ使う時に、自国技術が・・、などとストップをかけるのかな?。
    米国に限りませんが、スイスやオーストリアなども”実績”があるし。
    相手を選ばないと、ですね、きっと・・。

    8
    • PAC3
    • 2025年 6月 20日

    欧州バージョンを共同開発する用意があると言われても、トランプ政権終了後のアメリカの国家戦略次第じゃなないと参加は躊躇しますよね

    9
    • たむごん
    • 2025年 6月 20日

    経済合理性が、規制対応を促した面が強そうですね。

    EUは経済規模が大きいですから、日本企業が規制対応に汗をかいているのを見ても、マーケットの大きさは重要だなと感じてしまいます。

    4
    • カイト
    • 2025年 6月 20日

    Anduril創業者のパルマー・ラッキー氏は元々OculusVRの発明者で日本のゲーム、漫画アニメ文化に造詣が深い超親日家として有名(AndurilのPVがアニメ風なのもそれが理由)なので川崎か三菱と合弁企業を立ち上げて是非とも日本国内で生産体制を整えて貰いたいところですね
    出来れば産業用ロボットも手がけている川崎との合弁を希望ですが

    4
    • ブルーピーコック
    • 2025年 6月 20日

    既にDSEI JAPANで幾つかMOUを交わしてたけど、日本企業はまずは協業で行くしかないな。下請け呼ばわりする奴は出てくるだろうが、スバル・BELL412EPXとBK117という成功例はある訳で。

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    • カイト
    • 2025年 6月 20日

    Anduril創業者のパルマー・ラッキー氏は元々OculusVRの発明者で日本のゲーム、漫画アニメ文化に造詣が深い超親日家として有名(AndurilのPVがアニメ風なのもそれが理由)なので川崎か三菱と合弁企業を立ち上げて是非とも日本国内で生産体制を整えて貰いたいところですね
    出来れば産業用ロボットも手がけている川崎との合弁を希望ですが

    1
    • DEEPBLUE
    • 2025年 6月 20日

    1年したらC-17を欲しがってる人いなくなるんで

    1
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