米国関連

日本への影響は? 米空軍、空中給油機KC-46Aのフルレート生産を延期

米空軍は8日、次期空中給油機「KC-46Aペガサス」のフルレート生産の決定を2024年度末まで延期することを発表した。

参考:The Air Force delays a full-rate production decision for the KC-46

日本が発注した空中給油機KC-46Aの不具合修正費用はボーイング持ちなのか米国政府持ちなのか?

ボーイングが開発したKC-46Aには2つの致命的な欠陥(カテゴリ1)が存在し、この問題が修正されない限り米空軍はKC-46Aの初期運用能力の評価試験を法的に完了することが出来ないため、同機のフルレート生産の決定を2024年度末まで延期することになったのだ。

KC-46Aに残る致命的な欠陥の1つは空中給油作業で使用するカメラやセンサーシステムの制御装置「リモートビジョンシステム(RVS1.0)」に関連するもので、特定条件下で空中給油作業を監視する映像に歪みが発生してフライングブームの操作が困難に陥り空中給油を受ける機体に損傷(フライングブームが給油を受ける機体にぶつかって損傷するという意味)を与える可能性が指摘されおり、米空軍とボーイングは新たに開発する「Remote vision system 2.0(RVS2.0)」に入れ替えることで今年4月に合意したがRVS2.0の開発には少なくとも3年かかると言われている。

出典:U.S. Air Force Photo by John D. Parker

さらにKC-46Aのフライングブームは攻撃機A-10への空中給油が不可能(※1)という欠陥を抱えており、この問題を解決するにはフライングブーム自体の設計をやり直さなければならない。

※1補足:KC-46AのフライングブームをA-10の給油口に差し込んだ状態は空力的に不安定で予想以上の力がA-10にかかり機体を損傷させる可能性がある。

結局、このような問題が解決するまで法的にKC-46Aの初期運用能力の評価試験が終わらないため同機のフルレート生産の決定を2024年度末まで延期することになったのだが、ボーイングはフルレート並な生年体制(15機)でKC-46Aの製造を開始しており、米空軍も完成したKC-46の受け取りを行っている。

これはKC-46Aの研究開発費は固定価格(最大49億ドル:約5,310億円)で契約を結んでいるので、欠陥への対応や生産済みの機体に対するアップグレードなどの費用は全てボーイング側が負担するため欠陥が残るKC-46Aを米空軍が引き取っても問題がない(飽くまでコスト的に)という意味だが、ボーイングにとって悪夢だ。

ボーイングはKC-46Aプログラムに自社資金を46億ドル(約4,900億円)もつぎ込んでいるため同機の研究開発費は推定95億ドルに達しており、欠陥を抱えたKC-46Aを生産すればするほど生産済みの機体に対する修正費用が雪だるま式に増えるが、生産を止めれば米空軍から支払われる資金が止まりライン維持が難しくなるためKC-46Aの生産を止められないジレンマを抱えている。

出典:AirbusDefence エアバス 完全自動空中給油システム(A3R)

そこでボーイングはKC-46Aの負債を回収するため海外受注に力を入れているのだが、現時点で正式に受注しているのは日本が発注した2機(約4.4億ドル)とイスラエルが発注した8機(約24億ドル)のみで苦戦して中、競合するエアバスの「A330 MRTT」はKC-46Aよりも先にフライングブームによる空中給油作業を自動化させてしまうなど状況はボーイングにとって不利になるばかりだ。

因みに、日本が発注したKC-46Aの組み立ては昨年9月に開始され2021年に引き渡しが予定されているため、当然搭載されているリモートビジョンシステムは欠陥が残るRVS1.0で、当然RVS2.0が完成すればアップグレードされると思うが契約上、このような場合の費用負担はどの様になっているのだろうか?

恐らくFMS方式なのでKC-46Aの性能や品質は米国政府が保証しているので、日本負担にならないはずだが武器取引には謎が多いので蓋を開けてみるまで分からない。

関連記事:資金が溶けるボーイング、次期大統領専用機と空中給油機で約7.2億ドルの追加負担
関連記事:ボーイングが空中給油機に革命を起こす? KC-46A空中給油作業無人化に繋がる技術を開発

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Joshua J. Seybert

韓国製T-50採用が内定していた米空軍RFX計画、伊企業との競争入札に変更前のページ

米空軍、今年の夏に戦闘機開発の常識を覆すブレークスルーを議会で披露か次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    米空軍長官、AETP採用のためF-35Aの調達を70機減らす覚悟があるのか?

    米空軍のケンドール長官は7日、出席したシンポジウムで「AETP(アダプ…

  2. 米国関連

    米海軍、次期駆逐艦DDG-Xでタイコンデロガ級とアーレイ・バーク級の更新を想定

    米議会調査局(CRS)は海軍のDDG-Xについて「1万2,700トン前…

  3. 米国関連

    米海軍兵学校で士官候補生105人が試験中にカンニング、18人が退学処分になり82人は留年

    士官候補生の大規模なカンニングが発覚した米海軍兵学校(アナポリス)は2…

  4. 米国関連

    米日は台湾侵攻を阻止できるものの失う戦力は膨大、在日米軍基地は攻撃を受ける

    戦略国際問題研究所は台湾を巡るウォーゲームの結果をまもなく発表するが、…

  5. 米国関連

    急増する第5世代戦闘機F-35への需要、年間生産量を180機まで引き上げ

    ロッキード・マーティンはF-35の年間生産量を2024年までに180機…

コメント

    • 匿名
    • 2020年 6月 10日

    流石にコレは受取拒否でも良いのでは?まだ運用評価試験が終わって無いのに納入とか…。後日システム全体のアップデートが必要だから金払えとか平気で言いそう。

      • 匿名
      • 2020年 6月 10日

      >後日システム全体のアップデートが必要だから金払えとか平気で言いそう。

      ホント、
      米空軍向けはボーイングの自腹、
      他国向けは各国自腹、
      となるかも。

    • 匿名
    • 2020年 6月 10日

    去年横田基地で展示されていたA-10は機種部分が凹んでいました。空中給油時にぶつけたのだろうなーと思いました。

    • 匿名
    • 2020年 6月 10日

    ボーイングに技術無しはもはや盤石だな。

    • 匿名
    • 2020年 6月 10日

    しっかり検討してA330 MRTTを導入した韓国と、思考停止アメポチ日本との差が如実に表れている話だなあ

      • 匿名
      • 2020年 6月 10日

      まず「装備その物の必要性」を検討すべきじゃないのかなぁ。

      • 匿名
      • 2020年 6月 10日

      A330 MRTTの方が高価だし。
       日本の場合はE-767、KC-767J、KC-46と一応767シリーズで揃っているけど、韓国さんの雑多な機種ぶりは、ハタから見ていても維持運用は大変そうだなぁ、位に思います。まぁ展示飛行をやる分には機種がいっぱいあった方が楽しいよね。

      • 匿名
      • 2020年 6月 11日

      大韓航空が767は導入せずA330を多数運用している点、日本が767シリーズの15%を製造してる点、日本のエアラインがA330は運用せず、767の運用数はアメリカに次いで多い点、自衛隊が既にE767KC767を導入している点、英伊開発のAW101や仏開発のピューマシリーズを導入してる点。

      思考停止で知的障害並のコメントをしているのが如実に表れているコメントだなああああああああああああ。。。。。。。。。。。。。

      • 匿名
      • 2020年 6月 11日

      JALとANAが767を導入してA330は導入せず、大韓航空がA330を導入して767を導入してないことを考えれば、韓国軍がA330MRTTを導入して、自衛隊がKC46を導入するのは自然な話なんだが、思考停止コリアポチには理解できないらしい。

    • 匿名
    • 2020年 6月 10日

    仕方ないですよ、日本に対応してないと自我が保てない、お国なんですよ。機種選定で日本に勝ったとか言って狂喜乱舞しているのだから、そっとしておいてあげましょう(笑

    • 匿名
    • 2020年 6月 11日

    買っても整備できず、どうにもならなくなると次の新製品に飛びつく
    しかも値切って予備パーツも買わない
    違法ラ国で製の予定が失敗してどうにもならず導入当初からニコイチの定めが待ち構えている
    そんなウリナラは最先端装備の墓場ニダ

  1. この記事へのトラックバックはありません。

ポチって応援してくれると頑張れます!

にほんブログ村 その他趣味ブログ ミリタリーへ

最近の記事

関連コンテンツ

  1. 軍事的雑学

    サプライズ過ぎた? 仏戦闘機ラファールが民間人を空中に射出した事故の真相
  2. 欧州関連

    トルコのBAYKAR、KızılelmaとAkinciによる編隊飛行を飛行を披露…
  3. 米国関連

    米陸軍の2023年調達コスト、AMPVは1,080万ドル、MPFは1,250万ド…
  4. 欧州関連

    アルメニア首相、ナゴルノ・カラバフはアゼル領と認識しながら口を噤んだ
  5. 米国関連

    米海軍の2023年調達コスト、MQ-25Aは1.7億ドル、アーレイ・バーク級は1…
PAGE TOP