米国関連

米空軍、空中給油任務を民間に解放か? 民間軍事会社も空中給油機KC-135を購入し準備万端

空中給油サービスを提供する民間企業は、3月末に米空軍が結論を発表をする空中給油任務の民間解放調査結果を固唾を呑んで見守っている。

参考:US Air Force gets ready for decision on commercial aerial-refueling services

空中給油サービスを提供する民間企業は、米空軍が空中給油任務を民間に解放することを願う

ボーイングが開発した空中給油機「KC-46A ペガサス」を調達中の米空軍は、空中給油用リモートビジョンの欠陥や空中で燃料を移送するフライングブームの推力抵抗が大きすぎ問題のため運用が限定されており、この問題を修正するには最低でも2年~3年は掛かると言われているにも関わらず空中給油機KC-135、KC-10を早期退役させる計画を発表した。

米空軍は先月、将来の空軍を支えるプログラムへの投資を増やすために2021会計年度(2020年10月~2021年9月)中に爆撃機B-1B、攻撃機A-10、無人偵察機RQ-4、無人機MQ-9、空中給油機KC-135、KC-10、輸送機C-130Hの一部を退役させると発表した。

関連記事:米空軍、正式に「B-1Bランサー」や「A-10サンダーボルトII」など7機種の退役計画を発表

削減される空中給油機の数は29機(KC-135:13機/KC-10:16機)にも達するが、このままでは議会に義務付けられた空中給油機479機体制を維持できないため、米空軍は問題が解決していないKC-46Aを15機調達することで帳尻を合わせる計画だ。

現時点でKC-46Aが空中給油を行えるのはF-16、F-35A、F/A-18、AV-8B、C-17、A-10、KC-10、KC-135、KC-46に限定されているため運用に支障をきたすのは誰の目にも明らかだが、米空軍は今後5年間で41億ドル(約4,500億円)を捻出し、ステルス戦闘機F-35A調達や第6世代機と言われる次期戦闘機FXプログラムなどに資金を回さなければならいため、今の所計画を再考する気配はない。

 

この投稿をInstagramで見る

 

KC-135 Boom Operators(@kc135_boomer)がシェアした投稿

ただし米空軍が抱える空中給油機の問題は他にもある。

米空軍は昨年、中国の軍事力増強に対応するためには圧倒的に「爆撃機」と「空中給油機」が不足していると結論づけ、議会に対し312個ある飛行隊を今後10年間で386個飛行隊まで増やすよう訴えており、爆撃機を装備した飛行隊を現行9から14(+5個飛行隊)へ、空中給油機を装備する飛行隊を現行40から54(+14個飛行隊)増やす内容が含まれているが、あくまでも訴えであり実現するかは謎だ。

出典:Public Domain F-16に給油するKC-135R

とにかく米空軍は海外派遣の機会が急増し空中給油機不足が慢性化している問題を抱えているため本音で言えば「空中給油機」自体を増やしたいのだが、予算には限りがあり優先度の高いプロジェクトが幾つもあるため実現に至っていない。

そこで米空軍は国内訓練を支援するため空中給油任務に就いている空中給油機を海外に回し、代わりに空中給油サービスを提供する民間軍事会社を使用することを検討中だ。

商業空中給油サービス市場で先駆者的な民間軍事会社であるオメガエアーは2001年から米海軍や米海兵隊に、現在ではNATO加盟国の空軍に対しても空中給油サービスの提供しており、もはや米空軍が空中給油任務を民間に解放するのは時間の問題と思われていたが、フライングブームによる空中給油方式がネックとなっている。

空中給油サービスを提供する民間軍事会社が装備している空中給油機は全てプローブ&ドローグ方式なので、米空軍向けに空中給油サービスを行うためにはフライングブーム方式の空中給油機を導入する必要があるため中々、実現しないのだろう。

しかしオメガエアーは昨年末、民間軍事会社として世界で初めてフライングブーム方式の空中給油機(オランダ空軍が保有していたKC-10)を導入したため、一気に米空軍向けの空中給油任務民間解放が現実味を帯びてきた。オメガエアーは追加でフライングブーム方式の空中給油機を導入する意向を表明しており、当然これは米空軍需要を狙っての動きだ。

米空軍としても国内訓練の空中給油任務を民間軍事会社に任せることができれば慢性化している空中給油機不足問題に一定の目処がつき、あわよくば空中給油機部隊を縮小して浮いた予算を他に回すことも出来るため、恐らく民間に解放する可能性が高いと言われている。

出典:Public Domain F/A-18A/B ホーネット

余談だが、オーストラリア国防省は最近、米国の民間軍事会社「Air USA」に退役したF/A-18A/B ホーネット46機を売却すると発表した。

F/A-18A/B ホーネットを購入するAir USAは戦闘機が訓練を行う際に敵機役を引き受ける民間軍事会社で、この様な企業は現在幾つもあり世界各国の空軍で余剰となった機体を買い集めて訓練実施国のニーズを掴もうと企業努力を重ねている。

このように軍事分野への民間企業進出は目覚ましいものがあり、前線へ出ない任務なら何でも肩代わりするという雰囲気だ。

いずれ日本でも、この様な民間軍事会社が自衛隊の任務を肩代わりする日が来るのかもしれない。

 

※アイキャッチ画像の出典:Public Domain KC-10

水中ドローンまで装備!日本、フィリピン政府と沿岸警備隊向け巡視船の建造契約を締結前のページ

ソースコード提供拒否か? 米陸軍、イスラエル製防空システム「アイアンドーム」調達を中止次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    米海軍のシーウルフ級攻撃型原潜が南シナ海で水中衝突、現在グアム基地に向け帰投中

    米海軍の太平洋艦隊司令部は7日、インド太平洋地域の国際水域を潜航中だっ…

  2. 米国関連

    台湾にNATO加盟国と同等の待遇を求める米議員が「台湾プラス法」を提出

    米国の下院外交委員会に所属するスコット・ペリー下院議員は先週19日、台…

  3. 米国関連

    ノースロップ・グラマン、B-21の初号機が地上試験に入ったと発表

    米空軍のアーマゴスト少将は開発を進めているB-21について「現在6機存…

  4. 米国関連

    戦略国際問題研究所がレポートを発表、中国軍から台湾を守る要は日本

    戦略国際問題研究所は台湾を巡る米中の軍事衝突を分析したレポートを公開、…

  5. 米国関連

    またワスプ級強襲揚陸艦で火災、溶接が原因で3番艦「キアサージ」が燃える

    米メディアは18日(現地時間)、ノーフォークの造船所で作業中だったワス…

コメント

    • 匿名
    • 2020年 3月 08日

    米空軍がフライングブームにこだわる理由は何なのでしょうね。ブローグ&ドローグにすれば問題の半分は解決するだろうに。

      • 匿名
      • 2020年 3月 08日

      米空軍がフライングブームにこだわるのは複数の理由があると思われます。
      まず、大型輸送機や大型爆撃機に対し時間のかかるブローグ&ドローグは非効率です。
      もう一つは経皮的な問題でアメリカ空軍の戦闘機の改修費用を考えると、莫大な資金と時間を投入するのに対しKC-46の運用で済む為、問題を軽視していたのかと思います。
      最後は単純にメンツで陸・海軍と同じシステムを使うのは嫌だという軍人が決定側にいて統合する気がなかったと言う事が考えられます。

    • 匿名
    • 2020年 3月 08日

    民間機へ給油するという需要はないだろうか。
    小型機で長距離運行ができるようになれば、国内外の地方空港同士の便が増やせるかもしれない。

      • 匿名
      • 2020年 3月 09日

      ブラック企業的な考えですね

      • 匿名
      • 2020年 3月 09日

      何故普通に貼り付け型の増槽とかを発想しないw

    • 匿名
    • 2020年 3月 09日

    こんなものを購入予定の航空自衛隊は大丈夫か?

    • 匿名
    • 2020年 3月 09日

    レントシーカーが絡んでいそうな話ね

  1. この記事へのトラックバックはありません。

ポチって応援してくれると頑張れます!

にほんブログ村 その他趣味ブログ ミリタリーへ

最近の記事

関連コンテンツ

  1. インド太平洋関連

    米英豪が豪州の原潜取得に関する合意を発表、米戦闘システムを採用するAUKUS級を…
  2. 日本関連

    防衛装備庁、日英が共同で進めていた新型空対空ミサイルの研究終了を発表
  3. 欧州関連

    アルメニア首相、ナゴルノ・カラバフはアゼル領と認識しながら口を噤んだ
  4. 欧州関連

    BAYKAR、TB2に搭載可能なジェットエンジン駆動の徘徊型弾薬を発表
  5. 欧州関連

    オーストリア空軍、お荷物状態だったタイフーンへのアップグレードを検討
PAGE TOP