米国関連

米空軍長官、AETP採用のためF-35Aの調達を70機減らす覚悟があるのか?

米空軍のケンドール長官は7日、出席したシンポジウムで「AETP(アダプティブエンジン)採用のためF-35Aの調達を70機減らす覚悟があるのか?」と語り、F-35AのAETP移行には厳しいトレードオフが待っていると警告した。

参考:New adaptive engine or fewer F-35s? Kendall says it’s time to choose

最終的な判断は議会の軍事委員会が下すので、まもなく空軍が議会に提出する報告書の中身に注目が集まる

米空軍の高官は先月、産業界とのカンファレンスの中で「一般的に米国の推進技術は軍事的優位性を維持していると見られがちだが、新しいエンジンプログラムが不足しているため関連産業界への資金流入が停滞し、既存技術の延長線でしかないレガシーシステムへの依存が高まり推進技術における優位性を失いつつある。もし空軍がF-35AへのAETP搭載を見送りF135の改良型=F135EEPを選択すれば、先進的なエンジン産業基盤は崩壊するだろう」と述べて注目を集めた。

出典:GE Aviation XA100

米エンジン産業界に用意された技術革新の機会は次世代戦闘機向けの技術実証としてスタートした「Adaptive Engine Transition Program=AETP」しかなく、これを技術実証のみで終了させると次期戦闘機のエンジンプログラム(Next Generation Adaptive Propulsion program=NGAPP)だけになるため、産業基盤の観点から見るとAETPをF-35Aに採用して関連産業界への資金流入を確保しなければ産業基盤自体が縮小もしくは停滞し、先進的なエンジン産業基盤が失われるという意味だ。

予算が限られる米空軍にとって次期戦闘機に2種類のエンジンを用意することは不可能なため、この高官は「NGAPPを開発する企業を1社に絞り込む必要があり、AETPなしでNGAPPを進めると実質的に産業基盤が縮小する」と警告、さらに米国に追いつき追い越そうとする中国に勝ちたいなら「推進力の優位性に投資しつづけなければならない、さもなければ米国と中国は推進力で対等になり、最終的に中国が推進力の優位性を獲得するだろう」と述べている。

出典:Pratt&Whitney

議会は2022年度の国防権限法案に「AETPを2027年からF-35Aに統合する義務ある」という文言を盛り込み、統合方法や財政的に競争力のある調達戦略を提出するよう命じており、国防総省は9月中にAETPへの移行に関する分析結果を発表する予定だが、ケンドール長官は「F-35AがAETPに移行すれば厳しいトレードオフに繋がる」と警告した。

ケンドール長官は「AETPを採用して資金供給を行わなければ先進的なエンジン産業基盤は崩壊する」という指摘は誇張されたものだと述べ、もしAETPを採用すれば開発費だけで数十億ドルの費用がかかり「大雑把に言えばF-35Aの70機分に匹敵する。AETPを採用するためF-35Aの調達を70機減らす覚悟があるのか?」とシンポジウムの参加者に問いかけ、量産に繋がらないエンジン開発に資金を投資するのは好ましくなく「我々は決断しなければならない」と主張している。

出典:Lockheed Martin

つまり議会が別財源から「AETP開発のための予算」を手当してくれるなら問題ないが、限られた空軍予算からAETP開発にかかる資金を捻出すればF-35Aの性能や将来性を拡張できても「F-35Aの調達数自体は減る」という意味で、遠回しに「F135の改良型=F135EEPを選択した方が良い」と示唆しているのだろう。

因みに米空軍は19日「次期戦闘機向けエンジンのプロトタイプを開発するためGE、P&W、Boeing、Lockheed Martin、Northrop Grummanの5社に各9億7,500万ドルの契約=総額48億7,500万ドル=約6,700億円の契約を授与した」と発表済みで、ケンドール長官の発言の背景には「エンジン産業基盤への資金注入が確保されている」という点も影響している可能性が高い。

出典:ロッキード・マーティン NGAD

まぁ最終的な判断は議会の軍事委員会が下すので、まもなく空軍が議会に提出する報告書の中身に注目が集まる。

関連記事:米空軍の次期戦闘機向けエンジンのプロトタイプ開発は5社で競争試作

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by Senior Airman Erica Webster

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コメント

    • ななし
    • 2022年 9月 08日

    新型エンジンは米軍以外には供与しない方針だっけ?
    ケチケチするからユーザーが減って選択肢が無くなるんだよ

    30
      • 匿名希望
      • 2022年 9月 08日

      構造の都合上F-35Bにも適用されないんで改良ブログラムを実質二つ持つことになるのも嫌っている理由よね。

      9
        • 全てF-35B
        • 2022年 9月 08日

        C型も駄目だったよな。

        1
          • 匿名希望
          • 2022年 9月 09日

          Cは物理的にはいけそう

          2
    • 匿名
    • 2022年 9月 08日

    防衛産業基盤への心配、ひいては国家の先行きへの心配
    IHIはXF9-1エンジンを作ってみせましたが、アレの先も日本の未来につながってるといいなぁ

    26
      • 匿名希望
      • 2022年 9月 08日

      F7の次点で艦載用転用は議論されていたらしいけど。
      採用数の壁がね・・・。

      2
    • 折口
    • 2022年 9月 08日

    民需と軍需でシナジー効果があればまた違うんでしょうけど、ターボファンエンジンはバイパス比で軍民の技術的境界線が出来てしまいましたからね…。AETPにしろEEPにしろ、ここでつぎ込む投資は軍需にしか活かされないんですよね(そもそも航空業界の需要が技術的にも量的にも頭打ちしているのもあるが)。まぁ公共投資って本来そういうものだと思いますが、GDPの3割を軍事技術に投資しているアメリカの苦境ですな。
    しかし、市民生活に全く貢献しない技術に喜んで大金を投資する国がライバルである以上はここでアメリカに頑張ってほしいところ。

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