米国関連

米国、150km先を攻撃可能な長距離攻撃兵器を含むウクライナ支援を発表

バイデン政権は3日に総額21億7,500万ドルのウクライナ支援を発表、このパッケージは大統領権限の4億2,500万ドルとウクライナ安全保障支援イニシアチブの17億5,000万ドルで構成され、長距離攻撃兵器が含まれている。

参考:Biden Administration Announces Additional Security Assistance for Ukraine

株主が存在するボーイングも契約に署名していない段階でGLSDBの生産ラインに投資するほどお人好しではない

米軍備蓄から引き出される大統領権限(PDA)にはHIMARSの追加弾薬、155mm砲弾、エクスカリバー砲弾、120m迫撃砲弾、赤外線照準装置を備えた対無人機用重機関銃×190門、MRAP(恐らくクーガー装甲車)×181輌、ジャベリン×250発、対装甲ロケット弾(恐らくMK153 SMAW)×2,000発、クレイモア、構造物解体用爆薬、冬用装備などが含まれており、バイデン政権が2021年8月以降に承認したPDA経由のウクライナ支援は31回目になる。

出典:Public Domain 米海兵隊の兵士がMK153 SMAWを構えるシーン

産業界から新たに調達するウクライナ安全保障支援イニシアチブ(USAI)にはHAWK×2基、対空砲と弾薬、西側製とウクライナ軍保有の防空システムを統合する装置、ウクライナ軍保有の防空システムを維持する装置、防空システム向け発電機、対無人航空機システム、対空レーダー×4基、対砲兵レーダー×20基、RQ-20プーマ、精密誘導ロケット弾、通信機器、医療品、訓練やメンテナンスをカバーする資金が含まれており、国防総省はGLSDB(地上発射型小口径爆弾)が含まれると言及しているので精密誘導ロケット弾がGLSDBのことなのだろう。

PDA経由の支援は米軍備蓄から引き出されるため直ぐにウクライナへの移送が開始されるが、産業界から新たに調達するUSAI経由の支援は企業と契約を締結→新たに当該装備を生産してウクライナに提供されるため時間がかかり、国防総省はUSAI経由の支援がいつ戦場に届くのか明らかにしていない。

出典:SAAB GLSDB

繰り返しになるが、ボーイングとサーブが開発した150km先の目標を攻撃可能なGLSDBは「クラスター弾非活性化のため用済みになるM26弾のロケットモーター」と「アフガニスタン紛争で余ったSDB」を再利用した地上発射型の滑空爆弾で、これまでGLSDBを採用した国はないためUSAI経由の資金で契約締結後に生産ラインが立ち上げる。

昨年11月にボーイングが国防総省にGLSDBのウクライナ提供を提案した際「春(4月~6月)までに届けられる=契約締結後5ヶ月~7ヶ月ほどで提供できる」と述べていたが、Bloombergは業界関係者の話を引用して「最初の納品は契約締結から約9ヶ月後になる」と報じており、USAI経由の資金でボーイングと直ぐに契約が成立しても初回出荷は10月頃になる=予想されている春の攻勢には到底間に合わないという意味だ。

契約の手続きや製造に「約9ヶ月後かかる」という数字が早いの遅いのかは判断しかねるが、株主が存在するボーイングも契約に署名していない段階でGLSDBの生産ラインに投資するほどお人好しではなく、現代の複雑な兵器生産には時間がかかる上、米国の防衛産業は戦時体制(民需を犠牲にして必要な物資を武器生産に優先供給したり24時間のフル操業を保証できる規模の生産量を要求していない)に移行していないため仕方がないのだろう。

追記:シンクタンクの分析によれば9ヶ月後に2基の発射基と24発のGLSDB(SDBの価格は4万ドルらしい)をウクライナは受け取れる可能性があるらしい。

関連記事:米国が長距離攻撃兵器を含むウクライナ支援を間もなく発表、但し戦場到着は秋頃
関連記事:米国が長距離攻撃兵器を含むウクライナ支援パッケージを準備中、GLSDB提供か

 

※アイキャッチ画像の出典:SAAB GLSDB

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コメント

    • 58式素人
    • 2023年 2月 04日

    当分の間、M31とエクスカリバーで我慢でしょうか。
    ロシアの兵站を叩かねばならないと思いますが。
    JDAMは既に供与されたのでしょうか。話が出ませんが。
    Migとの統合に手間取っているのでしょうか。

    2
      • ミリ飯食べたい
      • 2023年 2月 04日

      JDAMの入力IFが公開されていれば、ソフト開発旺盛なウクライナは簡単に統合しそうなものですが、どうなんでしょうね。

      1
        • 774rr
        • 2023年 2月 04日

        JDAM自体は投下後30km程の誘導しか出来ないらしいので(自由落下爆弾にしては破格の射程?だけど)
        今のウクライナが手持ちのMiGにJDAMを統合出来ても役に立たないと思われ
        目標到達前に戦闘機ごと迎撃されて終わっちゃう。。。

        3
          • 58式素人
          • 2023年 2月 04日

          素人考えなのですが。
          JDAMの写真を見ると、飛行機の主翼にあたる翼が随分と小さく見えます。
          この部分の面積を拡げれば、誘導距離が伸びそうな気もします。
          爆弾の重さにより面積と形状は検討が必要とは想像しますが。
          どなたか、実行していただける方はいないものでしょうか。
          トスする高度にもよるでしょうが、M31と同程度か、
          それを超えるくらい(≒100km?)が良いのですが。

            • 774rr
            • 2023年 2月 04日

            技術的には勿論出来るんだろうけど
            そもそもJDAMはフツーの爆弾に誘導能力を付与するキットやから射程?誘導距離?の長さは
            開発時に求められて無いんだろうなと想像

            米軍では射程距離が必要な場面では空対地ミサイルを使うやろうし
            そっちの方が運用時の制約も少なくて良さそう
            (JDAMは推進剤が無いから高高度から投下しないと距離稼げない)

            3
            • クローム
            • 2023年 2月 04日

            JDAMの射程を伸ばすには多少の設計変更では効果が無いと思います。
            JDAM-ERをはじめKGGBやSPICEなどのMkシリーズ用の射程延長キットはどの製品も展開式の大型の翼が採用されていることから、通常のJDAMの射程は限界に達していて大幅な変更が必須かと。
            その点KGGBは理想的です。JDAMより射程が長く、機体の制御システムと統合しなくとも操縦士が持つ端末からBluetoothで設定可能、ウクライナのMiGにぴったり。

            2
            • ネコ歩き
            • 2023年 2月 05日

            JDAM-ERのことをおっしゃっているのでしょうか。

            ボーイングによれば、JDAM-ERの公称射程は45マイル(72km)以上で、JDAMの15マイル(24km)に対し3倍になるとされています。
            いわゆる滑空誘導爆弾ですから最大射程は投下速度及び高度によって変化します。豪州空軍により高度40,000 ft (12,190 m) から 10,000 ft (3,048 m)の範囲で投下試験が行われたということですが、投下速度等詳細は不明です。
            勿論翼面積を拡大すれば更に伸延できるのは確かですが、諸々の事情で現在値なんでしょう。

            ちなみにJDAMは誘導爆弾であって滑空誘導爆弾ではありません。
            尾部ユニットの制御翼で落下軌道を制御するもので、投下後の着弾距離を延ばす機能はありません。

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