米国関連

米陸軍、地上発射型弾道ミサイルのほぼ全てを対イラン戦で使い果たす

戦略国際問題研究所は7月27日「米軍は対イラン作戦で消耗した結果、パトリオットの在庫は1,000発以下まで減少した」と報告し、Defense Newsも4日「米軍はMLRSやHIMARSで使用する陸軍戦術ミサイルシステム(ATACMS)と精密ストライクミサイル(PrSM)をほぼ全て使い果たした」と報じた。

参考:Renewed Iran War Would Test Diminished Interceptor Inventories
参考:US used ‘virtually all’ long-range precision missiles during Iran war, sources say

どちらにしてもMLRSやHIMARSでATACMSを運用している同盟国やパートナー国は大きな影響を受けるだろう

戦略国際問題研究所(CSIS)は7月27日「米軍は対イラン作戦=エピック・フューリー作戦の第一段階で多数の迎撃ミサイルを消費した」「戦闘行動の再開に伴い在庫はさらに減少している」「一連の防空作戦は概ね成功を収め、完全ではないものの高い迎撃率を維持している」「イランによる攻撃の一部は防空網を突破し、死傷者や基地への広範な被害をもたらしたものの、米国および有志連合の作戦遂行能力を低下させるには至っていない」「この戦果は迎撃ミサイルの大規模な使用によって支えられたものであり、現在のパトリオット(PAC-3 MSE)の在庫は1,000発以下、THAADの在庫も約250発にまで減少している」と報告。

出典:Center for Strategic and International Studies

CSISはエピック・フューリー作戦開始時のPAC-3 MSE在庫について推定2,330発、4月8日の停戦までに在庫は推定1,030発まで、7月27日までに在庫は推定759発~827発まで減少し、作戦開始時のTHAAD在庫は推定452発、4月8日までに推定232発~262発まで減少、7月27日までに234発~278発まで微増したと試算し、CSISの試算が正しいなら米軍はエピック・フューリー作戦でPAC-3 MSEを1,503発~1,571発も消耗したことになり、この数字はPAC-3 MSE在庫の約2/3に相当する。

さらにDefense Newsも4日「米軍はエピック・フューリー作戦中、MLRSやHIMARSで使用する陸軍戦術ミサイルシステム(ATACMS)と精密ストライクミサイル(PrSM)の在庫のほぼ全てを使い果たした」「これまでATACMSとPrSMの在庫減少に関して報告されていなかった」「ATACMSとPrSMの在庫減少は有人機の撃墜リスクを避けるというトランプ政権の決定を反映したものだ」「トマホークの在庫もエピック・フューリー作戦で約半分まで減少した」と報じた。

出典:Lockheed Martin

米国は対イラン戦で武器備蓄を消耗したため、英国、ポーランド、リトアニア、エストニアを含む欧州の同盟国に「契約済みの武器納入が遅れる可能性が高い」と通知し、エストニアのペヴクル国防相は7月16日「ATACMSを除く全ての弾薬の供給再開が許可されている」「ATACMSの供給だけはイラン情勢の推移に依存している」と明かしていたが、地上発射に対応した長距離攻撃能力の不足は想像よりも深刻な状況にある。

ATACMSは射程300kmの戦術弾道ミサイル、PrSMはATACMSの後継として調達が始まったばかりの短距離弾道ミサイル(射程500km以上)で、米陸軍は既にATACMSの調達を打ち切ってPrSMの調達に移行しており、ATACMSの生産ラインは台湾、ポーランド、エストニア、ラトビア、リトアニア、モロッコ発注分を処理しているものの、ATACMSとPrSMの生産は同じ施設と人員を共有しているため、米陸軍はPrSMの調達を拡大・加速するためATACMSの生産終了を望んでいた。

出典:Riigi Kaitseinvesteeringute Keskus

ロッキード・マーティンとラインメタルは7月に開催されたNATO首脳会議の防衛産業フォーラムで「ATACMS共同生産に関する覚書」に署名し、両社はATACMS生産のドイツ移転を計画中だが、米国政府がATACMSの技術移転を承認するかどうかは保証されておらず、ここから予想される影響は「米陸軍が地上発射に対応した長距離攻撃能力を補充するためPrSMの海外供給分を備蓄回復のため取り上げる可能性」「ATACMSを生産縮小して施設と人員をPrSMの生産拡大に振り向ける可能性」で、ATACMSの供給再開が保留されているということは前者の可能性が高い。

どちらにしてもMLRSやHIMARSでATACMSを運用している同盟国やパートナー国は大きな影響を受けるだろうし、ATACMSの供給問題は間接的に同盟国やパートナー国の目を「別のシステム」に向けさせる可能性があり、この別のシステムの最有力候補は韓国製ロケットシステム=Chunmooになるだろう。

関連記事:米国が欧州の同盟国に弾薬供給を再開、ATACMSだけは現在も保留中
関連記事:米ロッキードと独ラインメタルがATACMS共同生産に関する覚書に署名
関連記事:米国が技術移転を拒否、ポーランドのHIMARS大規模調達が行き詰まる
関連記事:PrSM生産拡大のためATACMS生産中止が現実味、独企業は生産移管を希望

 

※アイキャッチ画像の出典:Photo by John Hamilton

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コメント

  • コメント (15)

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    • p-tra
    • 2026年 8月 05日

    従来戦VS非対称戦という枠組みでずっと苦しんでいるように見える。
    従来戦は全力を尽くす戦いなので有人戦闘機を消耗すること自体は
    別にいいのだが、イランのごとき格下には許されない。
    だからリスクのない兵器に偏重するけど、そればっかり使えばすぐ無くなってしまうよね。
    そこで非対称戦に特化したら従来戦の弱者になるというのは分かりきってるし。
    ベタな意見だと思うけど、どこかでバランスするしかない。
    少なくともF-35、PAC-3等は従来戦志向すぎると思う。
    あえて質を抑えて低コストにして(そもそもF-35って安価な戦闘機の計画機だったしな)
    パイロットの損耗はある程度甘受するべきじゃないか。
    PAC-3もすごいけど数が少なすぎるので、もうちょっと質を抑えていいと思う。

    12
      • 名無し
      • 2026年 8月 05日

      中東専門の某OSINTで情報集めてるんですけど、現地民が撮影した映像で1つの弾道ミサイルに対して3発ものPAC-3が発射されて、それでも撃墜できずに着弾を許してしまう映像がありました
      それ見ると質を抑えた廉価版で大丈夫なのかという疑問はありますな

      36
      • 帰ってきたロゴス
      • 2026年 8月 05日

      イランを単純な非対称戦国家と見るのは気をつけたほうがいい。沿岸域戦闘艦を見てもアメリカの想定した非対称戦は、防空ミサイルを枯渇させる程弾道ミサイルを撃ってこないし、E-3をピンポイントで破壊したりしない。今のイランの弾道ミサイルの能力は米軍とほぼ遜色ないレベルもしかすれば、長距離打撃能力ではリードしている可能性さえある。高度なジャミング耐性、慣性航法システムの進歩と北斗衛星を介した高精度化、回避軌道さえ取るようになった弾道ミサイルをどう非対称戦の兵器だと見ればいい。

      47
      • 名無しの大佐
      • 2026年 8月 05日

      ウクライナ、ロシア戦争で証明されているように、弾道ミサイル、巡航ミサイルとドローンを組み合わせて戦うしかないんだろうなあと思います。
      従来型兵器はコスパが悪すぎ、生産数も少なすぎなので、節約しながら、高価値目標を攻撃するしかない。ドローンで間に合う攻撃は全てドローンで行う。
      地上兵器もウクライナでは自走砲以外役に立ってないようですし、従来兵器のほとんどが使えなくなる日も近いかなと思います。

      10
    • 帰ってきたロゴス
    • 2026年 8月 05日

    今回はアメリカの戦略的な敗北だな。それも二次大戦以来最大規模の。アメリカの中東プレゼンスにここまで泥を塗るとは。

    67
    • ハムスター名無し
    • 2026年 8月 05日

    台湾有事への悪影響を心配する声があるけど、
    LRASMやNMESISといった台湾有事で主軸となる対艦ミサイルは殆ど使って無いみたいだから、
    無問題とは言わないまでもそこまでダイレクトな影響は出ないんじゃないかと思う。

    6
      • 名無し
      • 2026年 8月 06日

      台湾有事に影響があると声高に言ってる中にはそこら辺の事知っててわざと言ってるのもいると思ってる

      2
      • 帰ってきたロゴス
      • 2026年 8月 06日

      普通に影響は出るよ。迎撃ミサイルも枯渇しているからね。それに、中国はアメリカより遥かに台湾に近い。普通に台湾周辺は、中国の地対艦ミサイルの射程圏内それを叩ける対地ミサイルが減るのは普通に不味い。

      11
    • 暇な人
    • 2026年 8月 05日

    CNNだとTHAADミサイルの8割、パトリオットミサイルの半分とありましたね
    もう米軍による戦争遂行はこれからはノーガードでの殴りあいになりますね。
    長距離ミサイルも在庫厳しいので被弾覚悟でイラン上空から爆撃するしかなくなってきた

    血を流して勝てるかどうかわからない戦争を継続するか、屈辱の和平を結ぶかしかありませんな

    26
    • ななし
    • 2026年 8月 05日

    何があれって今のトランプ政権
    あまりにも気まぐれすぎて生産ライン関係無しに供給が不安定なんだよな
    そりゃ韓国製にするわ

    31
    • 名無し
    • 2026年 8月 05日

    不安定な供給とトランプ政権の同盟国に対する攻撃的な態度もあり、ますます米国兵器離れが進みそうです。
    日本も各種ミサイルの開発を進めておいて本当に良かったです。

    21
    • 愛国戦線
    • 2026年 8月 05日

    トランプ+アメリカ軍<アレクサンドロス+マケドニア軍

    4
    • あばばばば
    • 2026年 8月 05日

    今ここで止めたらアメリカは膨大な資源を投入したコミットが何無いでしょう。
    さぁ損切出来ますか? 失われた資材や人員は帰ってきませんけど。

    10
      • まめ
      • 2026年 8月 06日

      最初の停戦の時に、米軍の勝利と宣言して撤兵すればよかったんですよね。
      戦略的な目標に対する手段がミサイルをバカスカ撃ち込むことってんじゃ解決しないので。
      情報戦諜報戦でイラン国内を分断とかしないと。
      一種の塹壕戦だから無理。ミサイルに対して地下化で対抗してるんだから。
      地上戦でもしない限り国費と兵器を溶かすだけでしょ。
      国民国家が武力だけでどうにか出来るわけ無いし、出来たらそれは国を灰燼に帰す事だから。

      6
    • たら
    • 2026年 8月 08日

    アメリカは弾道ミサイルを使いまくるという選択肢が残ってる

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