米国関連

パトリオットの後継、米陸軍が開発を進める次世代防空システム

ロシアや中国が次々と新型の防空システムを完成させている中で、西側を代表する防空システム「パトリオット」の後継開発の状況はどうなっているのだろうか?

ロシアや中国の航空戦力を迎え撃つのはパトリオットシステム+LTAMDS+PAC-3MSE弾の組合せ

西側を代表する地上配備型の防空システムといえば米国のレイセオンが1970年台に開発したパトリオットミサイル(1984年に初期運用能力を獲得)で日本を含めた14ヶ国が導入している。

出典:U.S Army Photo by Capt. Adan Cazarez パトリオットミサイル

勿論、脅威の進化に合わせて改良が続けられているので開発から50年経過した現在でも高い能力を維持し続けているが、設計自体が1970年台と古く改良も限界(迎撃弾の性能にパトリオットのシステムとレーダーが追いついていない=新型迎撃弾PAC-3MSEの能力が活かしきれていない)に達しているため、米国では次世代の防空システム開発が進行中だ。

今回は米国で進められている次世代防空システムについてまとめてみた。

米国の次世代防空システムはパトリオットのようにミサイルやレーダーをパッケージ方式で開発するのを止めて別々に開発しており、既にパトリオットレーダー(AN/MPQ-53やAN/MPQ-65)に代わり統合防空ミサイル防衛(IAMD)で使用する航空機/弾道ミサイル用下層レーダー(LTAMDS)のプロトタイプは完成している。

レイセオンが開発したLTAMDSの特徴はパトリオットレーダーとほぼ同サイズながらフェーズド・アレイ・アンテナ(主1基:副2基)を3基備えているため、死角がない360度の常時警戒を実現しているという点と、レーダーの出力がパトリオットレーダーの2倍まで引き上げられているという点で、米国はLTAMDSを統合防空ミサイル防衛のセンサーとして使用する予定だが、既存のパトリオットシステムにも接続可能なので既存のパトリオットの海外顧客に対しても提供可能らしい。

出典:raytheon Lower Tier Air and Missile Defense Sensor

パトリオットミサイルに代わり統合防空ミサイル防衛で使用する次世代迎撃ミサイルの開発については競争試作開始が当初予定より遅れており、今のところ具体的なタイムスケジュールは提示されていない。さらに米陸軍はパトリオット用の新型迎撃弾「PAC-3MSE」はパトリオットシステムやレーダーの性能以上の能力を備えているので、新型レーダーのLTAMDSが実用化されればPAC-3MSEの制約を解放することが出来ると説明しているため次世代迎撃ミサイル開発を急いでいないとも考えられる。

逆を言えばLTAMDSのテストを行って特性や性能を見極めてから出ないと次世代迎撃ミサイルの要求性能が定まらないとも言えるため、本格的な開発に取り掛かるのは時期尚早なのだろう。

補足:次世代迎撃ミサイルの重要な要素に米陸軍はコストを挙げている。PAC-3MSEのコストは1発約300万ドル(約3.2億円)で1億ドルの戦闘機から100ドルの商業用無人機まで相手にしていては費用対効果が悪いと言っているが、次世代迎撃ミサイルのコストを劇的に下げる努力をするのか、次世代迎撃ミサイルとは別の安価なミサイルを用意するのかは不明だ。

以上のことから西側を代表する地上配備型の防空システムの将来はパトリオットシステム+LTAMDS+PAC-3MSE弾という組合せになる可能性が高く、次世代迎撃ミサイルについてはパトリオットシステムと互換性を備えているのか、同盟国に提供されるのかについては今のところ不明のままだ。

仮にパトリオットシステムと互換性があって同盟国に提供されても米国以外の国は引き続き古いパトリオットシステムに依存することになるのに対し、米国はパトリオットシステムではなく統合防空ミサイル防衛の指揮統制システム「IBCS(Integrated Air and Missile Defense Battle Command System)」に接続して運用されるため同じレーダーや迎撃弾を使用しても防空戦闘効果に違いが出てくる。

出典:U.S Army Photo by Capt. Adan Cazarez

要するに米国は地上配備型のセンサーや早期警戒機、各種戦闘機(無人航空機)に搭載されたセンサー等が収集したデーターをIBCSに集約して一元管理することで、脅威判定の効率化や標的への重複迎撃をなくすなど防空戦闘の効果が高め、各ユニットの制御システムが統制している迎撃ミサイルの発射指示すらリモート管理する方針で、究極的にはレーダーと迎撃弾を装填したランチャーを分離して運用を行うことを目標に掲げている。

日本でも2011年から対空戦闘指揮統制システム(ADCCS)を導入して情報の共有化と防空戦闘の効率化を進めているが、IBCSのような一元管理までには至っていない。これは日本の指揮統制システム(C4)に国産の03式中距離地対空誘導弾などはシステムレベルで統合可能だが、パトリオットは米国がソースコードは開示しない限り日本独自のC4に統合するのが難しいからだろう。

例えばロッキード・マーティンから例外的に許可を受けているイスラエルは、F-35が搭載するコンピュータの基本ソフト(OS)上で動かす「ソフトウェア扱い」で独自のC4システムを搭載することが可能で、これによりF-35が収集したターゲット情報をイスラエル全軍で共有することが出来るようになった。

出典:Major Ofer, Israeli Air Force / CC BY 4.0 F-35I アディール

そのためイスラエル軍は空軍のF-35Iが発見した地上目標のデーターを独自のC4経由でシームレスに共有して陸軍の自走砲が攻撃が攻撃したり、敵が発射した弾道ミサイルの飛翔データからコースを割り出して国産の弾道ミサイル迎撃弾「アロー」で撃ち落としたりすることが可能だ。

米国もIBCSにF-35のセンサーを統合してデーターを吸い上げ防空戦闘に活用するつもりだが、恐らく日本が同じことをするにはイスラエルと同じ様にF-35のコンピュータに日本のC4システムを載せて情報を吸い上げるしかなく、それにはロッキード・マーティンから許可を取り付ける必要があるのだが果たして日本に強化が下りるのかは謎だ。

もしかしたらパトリオットシステムとF-35をつなげる何かを開発して同盟国に売るのかもしれないが、F-35が収集したデータを直接吸い出しで好きなように利用出来る方が良いのは言うまでもない。

まぁ、これは日本だけの問題ではなくNATO加盟国も同じ条件なので文句を言っても仕方ないのだろう。

少し話は脱線したが、レイセオンが開発した航空機/弾道ミサイル用下層レーダー「LTAMDS」が無事実用化に漕ぎ着ければ、日本も導入しているPAC-3MSE弾の迎撃性能が向上することが見込まれるため、パトリオットレーダーと入れ替える形で導入することになる可能性が高いと言える。

関連記事:狙いはS-400の情報収集? ロシアが警戒するイスラエルのF-35特殊試験機

 

※アイキャッチ画像の出典:raytheon Lower Tier Air and Missile Defense Sensor

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 8月 17日

    日本は向こう30年間、大真面目に防空能力を獲得したかったら自分で開発するしかないということになってしまう。
    パトリオットのシステムじゃ中国に太刀打ちできない。

    1
      • 匿名
      • 2020年 8月 17日

      なんで、次期戦闘機と中SAM発展型を連接させる方向に進むんじゃないですかね
      もっとも、あまりにも多くのシステムを連接させると指揮中枢の機械と人がボトルネックになるとの事で、分散処理型システムになるそうですが

      2
        • 匿名
        • 2020年 8月 18日

        NGFは制空戦闘機であってマルチロール機ではないので中SAMと統合とか余計な機能つけちゃうと、開発が遅れてしまうのでは・・・。

        1
    • 匿名
    • 2020年 8月 17日

    ところでS-400等ロシアの対空ミサイルは、ペトリオットミサイル等西側のそれと比べて射程がかなり長い(数百キロ)様ですが、この射程の差は東西の戦術思想等の差によるものでしょうか?

      • 匿名
      • 2020年 8月 17日

      西側は早期警戒機などによる制空権を確保しやすいから、それ前提で陸上発射型のミサイルは射程短め。そういった能力に劣る東側はできるかぎりアウトレンジから撃つ必要があるから長射程化って流れのはず。

      2
      • 匿名
      • 2020年 8月 18日

      カタログデータは高い方が売りやすいから。
      目標に命中するかどうかは分かりませんが…。

      3
    • 匿名
    • 2020年 8月 17日

    資金さえ許せば03式の発展型を開発するのもありですね。西側ではパトリオット以外の広域防空システムはロクに見当たらないので輸出も期待したいけど、やっぱりアメリカから横槍入るんだろうな。

    1
    • 匿名
    • 2020年 8月 17日

    THAADもミサイルとレーダーは分離(基本、同じ設置場所である必要が無い)可能なのを開発済みだったはず
    まあ、この方向なんでしょうね
    PACはあくまでの防空の最後の手段で、前段(もっと前の距離)ではTHAAD、BMDがある。 連携をより密にするのは当然だろうし、
    PAC-3は輸出としては大事な商品(攻撃壁じゃあないしね)だから、独立したレーダーでの稼働は将来型でも提供されるでしょうね。

    • 匿名
    • 2020年 8月 17日

    パトリの後継と言えばMEADSはどうなっているのでしょう? 一時これたようで、でもLM社は諦めずに続けて、ドイツがパトリの後継として採用するかも(したのかな)、という話だったと思ったが。
     今回のエントリにはでてこないところを見ると、米陸軍としては死んだ子扱い?

      • 匿名
      • 2020年 8月 18日

      ちょっと調べたんですが、ドイツが採用予定だったものが2017年に契約延期したあとから情報がないですね。
      ドイツはパトリオットを最新版にアップデートするそうなので・・・採用見送り?

        • 匿名
        • 2020年 8月 18日

        ドイツは抜けましたか。ドイツも「米軍に採用されない米国製兵器」というのは使いたくないのでしょうね。

    • 匿名
    • 2020年 8月 17日

    えっえっえ、それじゃF-35買う意味ないくない?データの統合・共有はF35同士までしかできないってこと??(自衛隊のF35においては)

      • 匿名
      • 2020年 8月 17日

      意味はないとまでは言わないけど、地上の防空システムとの連携はできないね。

      • 匿名
      • 2020年 8月 17日

      寿命を超えたF-4の更新する為に必要。
      もう改造する余裕はないし、部品が出ない。

      2
      • 匿名
      • 2020年 8月 17日

      アオビニクスで主導権を握れるNGF (F-3)で頑張る・・のかな?

      1
      • 匿名
      • 2020年 8月 17日

      記事にもあるように技術的には可能だから、今後の情勢・交渉次第で変わるかもしれないでしょ。

      それにF-35自体は元々ソフトウェアアップデートで比較的容易に機能拡張できる仕様で開発されてるのだから、許可されたときに速やかに対応できる点は強み。

      • 匿名
      • 2020年 8月 18日

      いや、LINK16では連接してるでしょうに

      1
        • 匿名
        • 2020年 8月 18日

        それそれ、F-35とはLink16で情報やり取りできる前提だと思ったんだがなぁ。
        取り扱える情報の範囲はわからないけど。

        F-35の僚機間はMADLでもっと蜜結合ぽいイメージ。

        2
      • 匿名
      • 2020年 8月 18日

      何故、一つの事が出来ないだけで、買う意味が無いってなるんだ?
      君は、何ができない事が1つでもあったら、その相手を全否定してしまうような輩なのか?
      中々、キてるな。

      3
    • 匿名
    • 2020年 8月 17日

    日本もとっととパトリオット捨ててFK-3買った方がいいわ
    ソースコード弄って自国システムと統合出来ないとか使えん米軍兵器より余程使える筈

      • 匿名
      • 2020年 8月 17日

      FK-3はソースコード開示の上で自由に弄れるという根拠は?
      対価になにを要求されるやら、トルコ程度の扱いで済めばいいけど。

      3
      • 匿名
      • 2020年 8月 17日

      文谷数重さんですか?

      3
      • 匿名
      • 2020年 8月 18日

      日本が中国よりアメリカを選ぶというのは、中国人ですら誰でも知ってる事だぞ?
      それなのに中国が日本に販売してくれるだの、ソースコードまで開示してくれるとか考えるって、
      頭の中お花畑すぎないか?

      工作員でももっとましな事書くだろうに…。頭悪すぎ。

      3
        • 匿名
        • 2020年 8月 18日

        っと、途中で送信してしまった。

        いやまあ、本当に購入可能、ソースコードも開示してくれるっていう根拠があるなら謝罪するけれど。

        1
      • 匿名
      • 2020年 8月 18日

      お前チャンコロだろ?

      3
      • 匿名
      • 2020年 8月 18日

      お前千ャンコロだろ?

      2
    • 匿名
    • 2020年 8月 18日

    サードシステムとパトリオットシステムの統合も気になります。
    管理人さん、次回に追加情報をお願いします。(m。_。)m オネガイシマス

    リンク

    • 匿名
    • 2020年 8月 18日

    冷却ファンの数が多いなぁ。
    発熱量はどんだけなんだろう。

    1
    • 匿名
    • 2020年 8月 18日

    用途次第で新型迎撃ミサイルが大型化して発射台がS400に様な垂直発射式に成りそう。ソ連の地対空ミサイルSA-8の様に共通の台車で運用される場合、装備重量次第ではSA-8と同じ装軌式になる。新型迎撃ミサイル研究は来る極超音速ミサイル時代に間に合うのか?

    • 匿名
    • 2020年 8月 18日

    ロケット技術を持たない途上国じゃないしそろそろ自前のミサイル持つべきじゃ無いの?
    プラフでもパトリオットを捨てて自前でシステム作ると言えばラインメタルの120ミリ砲の時のように向こうからソースコードを出すからお願いします使ってくださいってなるよ?
    必要な固体燃料ミサイル本体そのものはイプシロンで実績があるから必要に応じて小型化すればいいだけ、レーダーシステムはは米国の上を行くAESAシステムが有るので、次期主力戦闘機のように次期防空防空システムをあくまでも国産主導で協賛企業を公募すればいいだけ

    • 匿名
    • 2020年 8月 19日

     >IBCSのような一元管理までには至っていない。
     >各ユニットの制御システムが統制している迎撃ミサイルの発射指示すらリモート管理する方針
    それADCCSでも検討したことあるんだが、中央にコントロールやらせると処理落ちしたり通信ラグ発生したりするらしく、
    結局、最終的には各FUが独自に射撃した方が迎撃率高いって結論が出てる。

     >日本独自のC4に統合するのが難しいからだろう。
    ペトリもJADGE入ってるんですが・・・・。

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