米国関連

米陸軍、生産量を劇的に増やして最終的にロシア軍を圧倒できるようにしたい

米陸軍の調達担当者はウクライナ支援で不足する砲弾不足について「生産量を劇的に増やして最終的にロシア軍を圧倒できるようにしたい」と明かしたが、これは短期的な話ではなく中長期的な取り組みで3年後~4年後に実現するかもしれない話だ。

参考:Army plans ‘dramatic’ ammo production boost as Ukraine drains stocks

複数年契約で調達数量を明確に提示さえすれば企業は自発的に必要な能力の開発に動く

米国はロシア軍と戦うウクライナ軍を支援するため砲弾を100万発以上(11月23時点で155mm砲弾を92.4万発、エクスカリバー砲弾を4,200発、105mm砲弾を18万発、120mm迫撃砲弾を13.5万発)提供してきたが、航空支援が拒否された戦場での砲弾消費は恐ろしいほど早く、西側諸国の砲弾生産量(米国の155mm砲弾は月産1.5万発)は戦場での需要をカバー出来ていない。

出典:Генеральний штаб ЗСУ

この問題について米陸軍の調達担当者は「155mm砲弾の生産量を3倍にするための契約が進行中で、米軍備蓄量を2月24日時点に戻すのではなく『それ以上』に増やしたい。通常砲弾の生産量を3年かけて劇的に増やすつもりだ」と明かしたが、この取り組みは中長期的なもので2023会計年度の国防権限法(NDAA)に含まれる「軍需品の複数年購入権限」が承認されないとご破産になる。

国防総省で調達担当者として働いた経験をもつエレン・ロード氏は「防衛産業界の弾薬生産能力が低いのは軍の単年度契約が原因で長期的で安定した需要がなければ企業は設備投資を行わない=希望的観測で企業が工場を拡張したり人員を増員したりはしないという意味」と説明、さらに「複数年契約で調達数量を明確に提示さえすれば企業は自発的に必要な能力の開発に動く」とも訴えており、NDAAで軍需品の複数年購入権限が承認されるかどうかが軍にとっても産業界にとっても重要なのだろう。

出典:Генеральний штаб ЗСУ

因みに米陸軍の調達担当者は「ウクライナ向けの砲弾」を調達するため海外企業と契約を結びたいとも明かしており、最終使用者が「ウクライナ」に指定された砲弾を売ってくれる国(韓国は最終使用者が米国でないと砲弾を売らない)は限られてるため非常に興味深いが、この中長期的な取り組みが実を結びウクライナとロシアの戦いが3年も4年も続けば「米国からの供給量だけでロシア軍を圧倒できる立場を手に入れることができる」と述べている。

あとレイセオンのヘイズ最高経営責任者はウクライナ軍が10ヶ月間の戦い消費したジャベリンとスティンガーの量について「5年分(年間生産量1,000発)と13年分(年間生産量720発)を使い切った=米国供与分を指しているのか西側諸国全体の供与を指しているのは不明だが恐らく後者」と明かしている。

関連記事:ウクライナ支援で減少した米軍備蓄、ジャベリン7,000発の補充に最低でも3年
関連記事:NATO、大半の加盟国がウクライナ支援で武器・弾薬の備蓄を使い果たした

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Marine Corps photo by Lance Cpl. Ryan Ramsammy

米陸軍、UH-60の後継機にティルトローター機のV-280を選択前のページ

米国にとって好都合、韓国と関係強化で合意したベトナムがKF-21を検討か次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    米国が19番目のウクライナ支援パッケージを発表、AGM-88HARMを追加提供

    バイデン政権は19番目のウクライナ支援パッケージを19日に発表、このパ…

  2. 米国関連

    米軍備蓄量が急速に減少、今後のウクライナ支援に支障が出る可能性も

    米国防当局者はCNNに対して「155mm砲弾、スティンガー、ジャベリン…

  3. 米国関連

    国防総省、ウクライナ支援資金をほぼ使い尽くしたと民主党に警告

    国防総省は民主党に宛てた9月29日付の書簡で「ウクライナ支援資金は16…

  4. 米国関連

    米メディア、30万人以上に拡張されるNATO即応部隊の80%は欧州が負担すべき

    米ディフェンスメディアは28日、マドリードで開催されるNATO首脳会議…

  5. 米国関連

    カーブル空港に航空機73機を残したまま米軍が撤退、軍用犬もゲージに入れたまま放置

    米中央軍は米軍が撤退したカーブル空港から運び出せなかった航空機73機を…

  6. 米国関連

    1週間で3隻目、今度は艤装工事中の空母「ジョン・F・ケネディ」で火災発生

    米メディアは20日(現地時間)、艤装工事中のジェラルド・R・フォード級…

コメント

    • 774rr
    • 2022年 12月 06日

    やっぱりアメリカも増産に向けて動くよね
    とは言え実現が3〜4年後と言われると やっぱり当面の間はウクライナ軍の射撃数を制限するのはもう仕方が無いね

    日本も弾薬不足解消に向けて工場を新設〜ってハナシが出てたけどこっちも3〜4年後を目処にしてるのかな?
    続報が無いから何も解からんけど

    30
      • 戦略眼
      • 2022年 12月 06日

      本物の戦争は、ベトナム依頼ということだね。

      6
      • 名無し三等兵
      • 2022年 12月 06日

      いっそ、朝鮮戦争の時の様に日本がアメリカ国防省から弾薬製造の
      外注を受けて米軍へ納入する提案でもすれば良いのでは?
      日本がアメリカの兵器庫を担うわけです。
      その生産力を自衛隊向けにも振り向けられる訳ですから一石二鳥です。

      23
        • 774rr
        • 2022年 12月 07日

        自衛隊や弾薬メーカーには美味しいお話やね
        出来るなら今直ぐやって欲しい位!

        ウクライナへの武器支援が未だ(!)に出来ていない本邦がアメリカの兵器庫になるには
        政治家の並々ならぬ決意が要りそうやけど。。。

        5
      • けい2020
      • 2022年 12月 06日

      ウクライナ名目だけど、対中国って感じもしますね

      15
      • ぱんぱーす
      • 2022年 12月 07日

      3,4年先ならばウクライナへの支援用というよりも自国用と考えるほうが自然ですよね。
      ウクライナで湯水のように消費される状況を見て現在の常備分では足りないと判断したのかも。
      日本も他人事ではないですが、生産設備以外にも保管庫などの確保も必要ですし課題は多そうです。

      6
      • 名無し3
      • 2022年 12月 07日

      >続報が無い

      防衛産業で「国が工場保有」、関連企業の設備負担軽減へ-自民・小野寺氏
      リンク

      【独自】自衛隊弾薬庫、130棟整備へ…「反撃能力」要の長射程ミサイル想定
      リンク

      1
    • 無題
    • 2022年 12月 06日

    中国との戦争も誘導弾の飛び交うスマートな戦いばかりじゃないだろうから何にせよ砲弾の増産は急いだほうがいい

    38
      • .
      • 2022年 12月 06日

      台湾海峡挟んで砲撃戦は無理だし、PLAが大規模な砲兵を揚陸展開出来る状況ならどうせ陥落不可避で、対中国で優先されるべきはやっぱり誘導弾でしょう。
      対ロシア向けにリソース取られ過ぎて大丈夫か?とも思うけど、まぁその分日本が倍増させた防衛費で誘導弾の増産頑張れよって事なんだろなぁ。

      21
    • 鼻毛
    • 2022年 12月 06日

    最初は油断してたアメリカが本気出して徐々にえぐい物量が出てくるのは第二次世界大戦みたいですな

    51
    • 2022年 12月 06日

    工廠復活待ったなし

    25
    •  
    • 2022年 12月 06日

    ロシアが三年持つの?
    来年には世界地図から国旗消えそうだけど。

    12
      • ななし
      • 2022年 12月 06日

      持つというか持たせるんじゃないの?
      エスカレートさせずに生かさず殺さずで搾り取って軍需産業大儲け

      7
      • wasser
      • 2022年 12月 06日

      むしろロシアの衰退後を見込んでるんじゃないかな。
      ロシアの軍事力という圧力がなくなれば、ロシア国内や周辺国は不安定化するだろう。またシリア、イランといったロシアの友好国も尻に火が付きかねない状況でもある。ウクライナ戦争が終結すれば、抱えきれなくなった兵器類がウクライナから流出するだろうし、そういった紛争が起きれば西側規格の砲弾の需要が出てくると考えているのだろう。

      8
        • 平八郎
        • 2022年 12月 07日

        ウクライナ軍みたいに航空優勢がない中で地べたを這いずり回って砲弾を大量に撃ち合うみたいな戦争はアメリカは自分ではこれからもあんまりやらないでしょうね。
        世論が許さないでしょうし、そんなことしないで済むだけの戦力がある。

        これがウクライナ後を見据えての話だとするなら、アメリカのこれからの(非同盟の)地域紛争への関わり方も見えてくるかなと思いました。
        派兵はしません。
        代わりに大量の砲弾と、エスカレートしない程度の射程の精密誘導兵器は送ります、でも戦車と航空機は送りません。
        みたいな。

        7
    • mun
    • 2022年 12月 06日

    アメリカさんエスカレーションを避けるとか綺麗事言うけど
    どっちにしろ世界大戦になる様相だよね

    自分で蒔いた種でしょ、さっさと覚悟決めてくれ
    ミサイルで自国民が大量に死ぬ戦争の時代に導いたのはアメリカ自身でもある

    7
    • TKT
    • 2022年 12月 06日

    しかしこれは今、クレミンナだとか、バフムトだとかの最前線で必死に戦っているウクライナ兵からすれば、ほとんど絶望的な話であり、唯一希望があるとすればロシア軍の榴弾砲の方もタマ切れを起こしてくれるか、ウクライナ国産の122㎜砲弾や、152㎜砲弾が、いくらかでも補給されることしかありません。

    フランス製のカエサルだとか、M777だとかは、このままいくと近いうちにただの鉄屑同然になるかもしれません。記事にあるようにジャベリン、スティンガーももう来ないかもしれません。

    複数年契約にしても、海外企業との契約にしても、要するに今、現在はそうではないという話であり、3、4年後はともかく今年、来年の冬はどうすんだ?ということです。

    弾幕を張らずに、砲弾を節約した砲撃でロシア兵のウラー突撃を阻止できるなら、別にアメリカ陸軍がこれからわざわざ砲弾の生産量を増やす必要もありません。その一方でドイツ軍の砲弾生産の原材料はよりによって中国頼みときています。

    日露戦争の奉天会戦後に日本が講和会議を急いだ理由も、やはり砲弾不足であったのです。

    18
      • l
      • 2022年 12月 06日

      ロシア軍の消耗がウクライナ以上ならば、戦力バランスは変わらないし絶望的という程でも無い。
      それにNATO側はまだ武器提供にセーブ(より長射程の誘導兵器や航空機など)かけてるので
      本当にヤバければさらなる支援強化にとっくに踏み切ってると思う。
      もしNATOがF16やグリペンなど提供してれば、とうに航空優勢は取れてるだろうし、ロシア軍をさらに圧倒出来てるはず何だよね。

      20
      • ミリオタの猫
      • 2022年 12月 06日

      ここで冷や水を掛ける様な話で恐縮ですが、実はロシア軍も砲弾が有り余っている訳では無いらしいんですよ
      12月5日付の当ブログの記事「中国頼みの弾薬生産、ドイツ軍の弾薬備蓄量が数時間~数日分まで急減」の末尾にこんな事が書いて有ります
      『因みにCIAのヘインズ長官は「正確な数値は提示できないが、ロシア軍は生産量よりも多い弾薬をウクライナで消費していると信じている」と述べており、国防総省は11月に「ロシア軍は1日最大20,000発の砲弾を発射している(ウクライナ軍は6,000発~10,000発という情報がある)」と明かしている』
      つまり、今やウクライナの戦場はどっちが先に砲兵用弾薬を撃ち尽くすのかのチキンゲームになっている感が有ります

      20
      • タイヤキ
      • 2022年 12月 06日

      152ミリ砲弾は、ウクライナ国内にロシア軍が50万発も置き忘れているので、ウクライナの広報いわく優しいウクライナは、ロシア軍人にかえしてあげているから、数ヵ月はもつ。

      20
      • 霞ヶ浦
      • 2022年 12月 06日

      日露戦争時は日本の弾薬の多くも輸入だったけど生産国の能力限界まで使ってたかなぁ

      7
      • nachteule
      • 2022年 12月 07日

       少なくとも砲弾が有ろうが今のウクライナの使い方なら砲身の心配すべきだろう。長距離飛ばす為にフルチャージで数撃つとか1番寿命を削る使い方でしかない。
       カエサルに関しては自分が知る製造ラインのままなら、新品だろうが中古だろうがフランス軍含め何処かの分を奪って送らない事には対応しようがないと思う。

      2
    • 名無し2
    • 2022年 12月 06日

    予算不足と厭戦ムードで西側砲弾払底、ロシア有利な条件で講和締結する可能性も20%くらいありそう。

    3
      • ミリオタの猫
      • 2022年 12月 06日

      どうでしょうね…仮にそれをやれば、次はロシアがバルト三国へ御礼参りに行って、そこからNATOとの全面戦争か、西側の体たらくに味を占めた中国が台湾侵攻開始と言うオチしか待っていない様な気がします

      17
        • 名無し2
        • 2022年 12月 07日

        もはやどう転んでもロシアの負けは明らかですが現体制を維持したまま生き残れる確率もまだ2割くらいはあるんじゃないでしょうか。どういう道かは知りませんが…。

    • たけやぶやけた
    • 2022年 12月 07日

    日本も今回の5年43兆円予算で産業界が設備増強してくれないものか

      • samo
      • 2022年 12月 07日

      話はやや変わるけど、その額を最初に明示するのがどれほど大事なのか実感するよね。
      この記事にもある通り、中期的以上の予算がわからなければ投資は難しい。

      「予算ありきだ」「額を最初にやるとかわかってない」とかドヤ顔で指摘してきてる連中は
      ほんとに何もわかってない。
      保証がなければ投資はできないんだよね。

      これにぎゃーぎゃー文句行っているやつは、環境をつくらないといけない指導者、政治家としては三流以下のど素人
      石破とか石破とか石破とか石破とか

      17
    • たら
    • 2022年 12月 08日

    ウクライナによるロシア本土攻撃ができるなら、西側による航空機提供もなし崩し的にできるようにならないかな。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 軍事的雑学

    4/28更新|西側諸国がウクライナに提供を約束した重装備のリスト
  2. インド太平洋関連

    米英豪が豪州の原潜取得に関する合意を発表、米戦闘システムを採用するAUKUS級を…
  3. 軍事的雑学

    サプライズ過ぎた? 仏戦闘機ラファールが民間人を空中に射出した事故の真相
  4. 米国関連

    米海軍の2023年調達コスト、MQ-25Aは1.7億ドル、アーレイ・バーク級は1…
  5. 欧州関連

    オーストリア空軍、お荷物状態だったタイフーンへのアップグレードを検討
PAGE TOP