米国関連

米メディア、なぜエジプトは複数の提案から韓国のK9を選んだのか?

米ディフェンス・メディアのDefenseNewsは2日、約17億ドルのK9輸出契約を韓国と締結したエジプトについて「なぜ彼らはK9を選んだのか?」という興味深い記事を掲載した。

参考:Why did Egypt choose to buy South Korea’s K9 howitzer?

性能やコストいった以外の要素も「武器輸出で受注を確保する重要な要素」であると物語っているため非常に興味深い

韓国とエジプトは約17億ドル/約1,900億円規模のK9輸出契約(調達規模はK9約200輌+弾薬補給車輌K10)をエジプトと締結したが、この件に詳しいアラブ政策フォーラムのモハメド・アルケナニー氏は米ディフェンス・メディアのDefenseNewsに対して「初期ロットは韓国のハンファディフェンスから供給され残りはカイロ近郊の国営企業で製造される」と明かした。

さらに興味深いのはエジプト陸軍がエジプトがK9を選んだ理由だ。

出典:Hanwha Defense

アルケナニー氏によるとエジプト陸軍の自走砲調達プログラムには韓国のK9、フランスのカエサル、ロシアのコアリツィヤSV、中国のPLZ-45が提案され、激しい競争が行われ最終的に「韓国の提案したK9が勝利した」と説明、 さらにエジプト戦略研究センター(ECSS)のアフマド・エリバ氏は「K9を選択したエジプトにとって最も重要だったのは現地製造契約を確保した点で、K9には韓国以外の技術も使用されているが今回の技術移転で将来的にエジプトは自力で自走砲を開発するための専門知識と技術を構築することができる」と述べている。

エリバ氏は「海外輸入に依存した兵器システムは供給国との関係が変化するとスペアパーツの供給が止められ運用に支障をきたす恐れがあり、このリスクを回避するため武器供給国の多様化や国産化を進めるエジプト軍の方針にK9は合致した」と主張しているのが印象的だ。

出典:Public Domain エジプト空軍の保有するF-16

つまりナセル政権以降のエジプトは親ソ政策を捨てて親米政策に転換、その影響でエジプト軍の装備の多くは米国調達が増加したものの2012年にシナイ半島の過激派に対する軍事作戦を実施したことで米国に発注していたF-16やAH-64Dの引き渡し拒否に直面、さらに米国は政治的な理由でエジプトが要請していたF-15売却や保有するF-16のアップグレードを妨害したりM1エイブラムスなどのスペアパーツ供給を止めると圧力を加えたためエジプトは「独自の安全保障政策が制限を受けた」と考えている。

これを解消するためエジプトは米国一辺倒だった武器輸入の多様化や国産化にシフトしており、ここに韓国のK9が上手くハマったという意味だ。

勿論「条件さえハマれば何でも良かった」ということではないが、性能やコストいった以外の要素も「武器輸出で受注を確保する上で重要である」と物語っているため興味深い。

関連記事:F-16を200機以上保有するエジプト、ラファールやSu-35を同時並行で導入する理由
関連記事:米メディア、何故これほど多くの国が韓国のK9を購入するのか?

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Army Photo By Pfc. Dasol Choi K-9サンダー

お知らせ:記事化に追いつかない話題のTwitter(@grandfleet_info)発信を再開しました。

口先だけの連帯では不十分と主張するポーランド、ウクライナへの武器供与を発表前のページ

アイアンドームの限界を認めたイスラエル、1年以内にレーザーウォールのテスト開始を約束次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    ケンドール米空軍長官、退役するA-10に関心を示す国は1ヶ国だけ

    下院軍事委員会の公聴会でスコット議員は「NATO加盟国や友好国と退役さ…

  2. 米国関連

    どんどん増えていくHIMARS、まもなくウクライナへの追加提供を米国が発表

    国防総省のジョン・カービー報道官は「ロシア軍の前進を食い止めるのに効果…

  3. 米国関連

    米議会、F-35の状況が改善されない限り別の戦闘機で不足分を穴埋めすると警告

    米軍全体の航空機調達に強い影響力をもつ戦術航空陸上部隊小委員会のドナル…

  4. 米国関連

    米国、新たな攻撃を計画を企てていたテロ勢力の人物をMQ-9による攻撃で殺害

    米国はカーブル空港付近での爆弾テロを実行したイラク・シリア・イスラム国…

  5. 米国関連

    F-35はいよいよ成熟段階に突入か? 米国、カテゴリー1Aの欠陥を全て修正完了

    F-35を操縦するパイロットの生命を危険に晒す「カテゴリー1A」に分類…

  6. 米国関連

    米空軍がU-2とRQ-4 Block40の退役を要求、高高度偵察機が姿を消す?

    米空軍は2024年度予算の中でRQ-4 Block40とU-2の退役を…

コメント

    • もり
    • 2022年 2月 02日

    これが赤の女王の強さよな

    5
    • 折口
    • 2022年 2月 02日

    装輪式を提案していた仏や、MBTベースで152ミリ規格のロシアはともかく、中国にも競り勝ったのはすごいですね。
    ところで中国が提案していたのが現行最新かつ人民解放軍で使っている05式の輸出仕様であるPLZ-04ではなく、80年代に設計された輸出専用のPLZ-45だったのはなぜなんでしょうね。現地製造を踏まえた技術移転のためにあえて本国とは別ロットのものを提案していたという感じなんですかね。

    18
      • G
      • 2022年 2月 02日

      エジプトは国産化も視野に入れているのでその可能性は十分あるかと
      そしてPLZ-45とK-9を比較すると、K-9のほうが設計が新しくパーツ不足が問題になるまでの期間も長い、つまり本体も使用されている技術も長く使えるということになりますし、これらの中でK-9が選定されたのは当然の成り行きに思えますね

      15
    • ハガ
    • 2022年 2月 02日

    韓国のやり方って、もちろん現時点では正解なのでしょうけど焼畑農業的というか、
    最終的にはむしろ受注が取れなくなってしまう(現地での自製化が進んでしまう)と
    思うんですが、それで良いんでしょうかね?
    製造技術を供与した国が自製化する頃には別の国が韓国の兵器を欲しがるように
    なっているだろうということなのか、それとも将来の事はさておき今とにかく
    売らなければ将来につながりすらしない、ということなのか・・・。
    いやもちろん考えなしにやってるわけではないんでしょうけど。

    10
      • 無無
      • 2022年 2月 02日

      それは買い手側の視線が欠けてますね
      いつまでも売り手に左右されたくないから国産化へ進もうとする段階にすでに入ってる国に、あれこれ注文をつけられるほど韓国の国際的立場は強くない、今売らないと、将来も売れない可能性のほうが高いです
      ソ連製→アメリカ製→やがて国産化へ
      この流れに食い込めるとしたら、今でしょ

      34
      • ウーン
      • 2022年 2月 02日

      >それとも将来の事はさておき今とにかく売らなければ将来につながりすらしない、ということなのか・・・。

      これに尽きると思いますよ。
      何度も言いますが、企業が撤退すれば作りたい兵器も作れません。
      もちろん数十年後に企業が残ってる保証はありませんが、売らなきゃ事業として絶対に続かない。

      29
      • 幽霊
      • 2022年 2月 02日

      今ここで売らなくても国産化を進めるでしょうから結果は変わらないと思いますよ?

      11
      • 240Z
      • 2022年 2月 02日

      こういった兵器ビジネスで得たお金は一般人が考えるような利益として計上するんじゃなくて次世代の技術への投資や代替装備品の開発に投入されるんで、エジプトがK-9を生産して戦力としてカウントできるようになる頃には韓国は後継の自走砲か能力向上型の派生型を開発して同じように売り込みをかけていくだけじゃないでしょうかね
      過去記事にもあったけど兵器ビジネスは雇用の面だけじゃなく次世代の装備品の開発サイクルを早める側面もあるんで

      23
        • 雑魚
        • 2022年 2月 02日

        韓国だって永遠の隙間産業のつもりはないでしょうしねぇ…10数年後には武器輸出大国になっててもそんなに驚く未来でもなさそうな気がします。

        8
          • G
          • 2022年 2月 02日

          韓国は2020年の段階で武器輸出額世界6位(約8億ドル)、大規模契約が多数あった2021年では推定契約額が約50億ドル(実際の入金額や順位は集計中)なのですでに十分な武器輸出大国と言えるかと
          リンク

          ただ現状では輸出額の大半がK-9自走砲とT-50練習機およびその派生COIN機関係に偏っていますので、これらを欲する国に売りつくしたあとは売れ筋があまりなく(目玉にできるのは天弓2ぐらい?)、輸出額をどれだけキープできるかが課題に思えますね
          (K-9は基本技術転移あり、つまり保守部品の多くを販売先の国が自国生産でき、またそれが難しいエンジンはライセンス品で利率が低い。T-50系は高価なエンジン関係がアメリカからのキット購入品なため、K-9ほどでないにしろ総合的な保守部品等の利率はそこまで高くないと考えられる)

          9
      • 折口
      • 2022年 2月 02日

      軍事技術の拡散という点でなら自分も思うところがあります。
      自走砲は枯れた技術と言われていますが実際のところ高度なヴェトロニクスや電子式照準システムの結晶で、製造できる技術を持ってる国は多くないです(枯れた技術うんぬんは先進国の基準)。
      ですので生産技術を持たない国への輸出と生産基盤輸出はかなり意味合いが違うと思います。もちろん欧米や中ソも過去に生産ライン単位の販売はしてきましたが、生産技術を得た国が第三国に兵器を販売していくのを止める手立ては超大国をしてもほとんどない訳で、第三世界の軍事バランスやエスカレーションを抑制する責任をもった先進国の振る舞いとしては、手放しで称賛すべきではないと思います。
      とはいえ他の方の言うように、技術たるものいつかは行き渡る訳ですが。

      5
    • もり
    • 2022年 2月 02日

    先手対立煽りは草

    3
    • バナナ
    • 2022年 2月 02日

    >日本は最新鋭の兵器を税金で拡充する。

    さて、いつまで続けられますかね?

    11
    • 240Z
    • 2022年 2月 02日

    管理人を隠れ蓑にしてるとこ悪いけどこのサイトは他所のサイトが触れない自衛隊や防衛省の問題点にも意図的にガンガン触れていくし、管理人がそもそも輸出推進派だから日本製装備品の輸出を妨げている理由をあえて積極的に取り上げてんの分かるだろ
    だから同じような考え持つ人がコメント残す事は当たり前だし、それで議論を深めようと考えていてもおかしくない
    君のような人こそこういう議論に向いてないよ

    15
      • 通りすがり
      • 2022年 2月 02日

      管理人さんは日本や防衛省の問題点、日本の武器輸出には触れてないけど、各国の武器輸出の背景や輸入国の意図なんかを深々する事で武器輸出がスペックや価格だけ決まる訳じゃないことを伝えようとしてるじゃない?

      日本の一般的な報道でここまで詳しく説明することはないから、○○が△△で売れた程度の情報しか知らない自分みたいな者にとって貴重な視点だと思う。

      6
      • 匿名
      • 2022年 2月 02日

      すいませんが、誰に対するコメントなんですか?

      7
        • ウーン
        • 2022年 2月 02日

        韓国と日本を比較するな!煽るな!管理人に迷惑かかるだろ!愚痴なら便所で言っとけや!

        って内容のコメントが管理人によって消されたんですよ。

        8
    • 無題
    • 2022年 2月 02日

    いくら技術があっても完成品として作り上げて売らないと意味が無いのは今まで散々学んできたことだな

    • 戦略眼
    • 2022年 2月 02日

    エンジンとトランスミッション、サスペンションは、欧州製じゃなかったかな?
    そちらの輸出規制は大丈夫なのかな。
    エジプトも昔から魔改造AFVを作っているので、いずれ自国開発になるのだろう。
    韓国の販売先はドンドン自国開発になるから、次は無いのかもしれない。
    AFV生産もコモディティになったなあ。

    4
      • qwx
      • 2022年 2月 02日

      商談成立したのでエジプトに関してはお咎めなしだと思いますよ。
      エジプト軍とパイプが繋がれば今後韓国軍の別の兵器を売り込みやすくなりますし、
      エジプトが購入すれば他のアフリカ諸国も韓国兵器に注目するかもしれません。

      5
    • 匿名
    • 2022年 2月 02日

    井の中の蛙、夜郎自大のお隣の島国がまた敗北した様だ

    5
    • 2022年 2月 02日

    狙いに合致して売れたのはいいんだけど、あの地域で軍備の独自化が進むのは怖くもあるな。
    成長すればするほどテロ組織も強くなるなんて事にならないといい気取り

      • 無無
      • 2022年 2月 03日

      では超大国がすべてを決め、いいとこをすべて奪っていく今までの構造を善しとしない考えが間違ってるのかと。
      今まで大国の軍事的傘下にあった国々が自主開発、自立の方向で動いてる群雄割拠の方向がいけないって、それを誰が言える資格があるのかこそ疑問ですね

      4
  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 中国関連

    中国は3つの新型エンジン開発を完了、サプライチェーン問題を解決すれば量産開始
  2. インド太平洋関連

    米英豪が豪州の原潜取得に関する合意を発表、米戦闘システムを採用するAUKUS級を…
  3. 軍事的雑学

    4/28更新|西側諸国がウクライナに提供を約束した重装備のリスト
  4. 米国関連

    F-35の設計は根本的に冷却要件を見誤り、エンジン寿命に問題を抱えている
  5. 欧州関連

    オーストリア空軍、お荷物状態だったタイフーンへのアップグレードを検討
PAGE TOP