米国関連

米陸軍、トマホークとSM-6を流用してロングレンジウェポン開発に着手

米陸軍は6日、海軍が使用している艦対空ミサイル「SM-6」と巡航ミサイル「トマホーク」を自走式プラットフォームに統合する契約をロッキード・マーティンに与えた。

参考:Army Picks Tomahawk & SM-6 For Mid-Range Missiles

SM-6 BlockⅠBの性能とコスト次第で大きく化ける可能性があるMRC

米陸軍は中距離核戦力全廃条約(INF)が失効したことで空軍が担当していた中長距離攻撃能力の獲得を目指しており、複数のロングレンジウェポン開発を同時進行で進めているのだが、その中で最も革新的なのが弾頭に極超音速滑空体(HGV)を採用した「LRHW(長距離極超高速兵器)」で中国のDF-17に対応した兵器だ。

出典:ロッキード・マーティン

補足:米国はロシアと締結していた中距離核戦力全廃条約(INF)の関係で射程500km~5,500kmまでの攻撃手段(地上発射型の弾道ミサイルと巡航ミサイル)を開発することも保有することも禁じられていた為、中距離弾道ミサイル戦力を拡充させている中国に対して不利な状況が生じていたが、トランプ大統領が2019年2月にINF破棄をロシアに通告したため6ヶ月後の8月2日に中距離核戦力全廃条約が失効した。これにより米国は射程500km~5,500kmまでの地上発射型ミサイルを再び開発して保有することが可能になった。

開発が順調に進めば2023年にプロトタイプが完成する予定なのだが、極超高速兵器やHGVの開発は陸軍や防衛産業にとって初めてなので開発リスクが高く、仮に実用化に漕ぎ着けても調達コストが高騰することが予想されており、開発リスクが低く調達性の優れたロングレンジウェポンも用意しておく必要がある。

そこで白羽の矢が立ったのが海軍が使用している巡航ミサイル「トマホーク」と艦対空ミサイル「SM-6」で、米陸軍はMK.41を流用した発射基でトマホークとSM-6を使用すれば比較的簡単にロングレンジウェポンを開発することが出来ると判断、ロッキード・マーティンにレイセオン製のトマホーとSM-6が統合された発射基、射撃管制システム、支援機材一式を搭載する車輌システムを3億3,900万ドルで発注した。

因みに同システムは「Mid-Range Capability:MRC」と呼ばれている。

問題は何故SM-6まで統合する必要があるのかだ。

出典:U.S. Navy photo/Released

最も有力な説はトマホークが本命でSM-6は防御的なオプションに過ぎないという説明だったが、新たに浮上した説は米陸軍の本命は「SM-6 BlockⅠB」でトマホークは保険に過ぎないという。

現在、開発が進められているSM-6の発展型「SM-6 BlockⅠB」はSM-3に使用されている21インチロケットモーターが使用されるため射程が大幅に拡張(同ブースターを使用するSM-3の射程は1,000マイルを超える言われている)される予定で、最大到達速度もマッハ5を超える=極超音速域に到達すると言われおり、SM-6自体はGPSを組み込みこむことで地上目標への攻撃にも使用することが出来る。

補足:SM-6へのGPS組み込みは高価なので現在はオプション扱いになっている。

要するに米陸軍は1,000マイルを超える射程と極超音速で飛翔することができる「SM-6 BlockⅠB」に期待しているためSM-6統合を要求しているのだが、現行使用のSM-6ですら1発500万ドルと言われているため目標に応じて安価なトマホーク(1発140万ドル:水上艦攻撃にも使用できるBlock IVは250万ドル)を使用するつもりだという説が浮上しており非常に興味深い。

果たして米陸軍の狙いはどこにあるのかは不明だが開発中の「SM-6 BlockⅠB」次第でMRCは大きく化ける可能性があり、そうなれば中国に差を付けられているミサイル戦力ギャップを埋める救世主に浮上するかもしれない。

因みにMRCの開発完了は2023年で、SM-6 BlockⅠBの開発完了は2024年だ。

関連記事:ロッキード・マーティン、米陸軍の極超音速兵器「LRHW」を初公開

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Navy photo/Released

アイアンドームを艦艇に統合、拠点防衛に特化したイスラエル製の防空艦前のページ

韓国も注目するウクライナ軍の次期自走砲、ポーランド製「KRAB」を採用か?次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    ウクライナに提供したATACMSは約20発、短射程タイプの提供が濃厚

    ウクライナ軍によるATACMS使用が確認されたが、ニューヨーク・タイム…

  2. 米国関連

    米国がバフムート放棄を提案、ゼレンスキー大統領が決断出来るかは微妙

    CNNは「バフムートを放棄して南部での反撃を優先させるべきだと米国がウ…

  3. 米国関連

    米陸軍が進める将来型攻撃偵察機の競争試作は茶番、F-35の失敗から何も学んでない

    米陸軍の将来型攻撃偵察機プログラムは試作機が初飛行に向けて準備を進めて…

  4. 米国関連

    シーウルフ級原潜2番艦「コネチカット」の船首ドームがひどく損傷しているという噂

    南シナ海で未知の物体と衝突したシーウルフ級攻撃型原潜2番艦「コネチカッ…

  5. 米国関連

    春攻勢の準備を急ぐ米国、ウクライナに時間を無駄する余裕はない

    米軍は晩春までに始まると予想されるウクライナ軍の春攻勢に向け「急ピッチ…

コメント

    • 匿名
    • 2020年 11月 08日

    ぜひ在日米軍に配備しませう。INF条約脱退は、対中共の為には英断だったと思う。トランプ大統領、お疲れさまでした!

    22
    • 匿名
    • 2020年 11月 08日

    まさか、ロシアTOR-M2の上位版がアメリカから出るとは・・まさか、マウスみたいなサイズと外見なのかな??SM-6 BlockⅠBとトマホークが撃てるというのと恐らくサード流用だからそんなことはなさそうですね。急遽とは言えロシアS-500クラスの防空ミサイルと攻撃ミサイルの併用可能兵器ですのでこれからのスタンダードになるかも知れないです。

    10
    • 匿名
    • 2020年 11月 08日

    元々持っている技術が多々あるから色々と転用出来るのが米国の強みのひとつなんでしょうね。縄張り争いも以前程では無いのもあるかな。もっともそれだけ追い込まれているとも言えますが。

    14
      • 匿名
      • 2020年 11月 08日

      ズムウォルト級の調達費用は研究開発費回収分でとてつもない額になってしまったけれども、今後、同技術適用で建造される艦艇は安くなるでしょう。
      様々な理由で失敗認定された兵器であっても、研究開発の成果は全くの無駄ではなく、むしろ他に活かせることは強みです。
      やはり今後も技術力では米国以上の国は出現しないでしょうね。
      米海軍は今苦しい時期ですが、様々な投資を回収できる日が来るはずです。

      21
      • 匿名
      • 2020年 11月 08日

      アメリカの科学力は層が厚い。弱点はあるのだろうか

      1
    • HY
    • 2020年 11月 08日

     バイデン氏が大統領になって軍事費圧縮したりINF復活(トランプ以前に戻すだけ)することになったら中止される予感がします。

    4
      • 匿名
      • 2020年 11月 08日

      INF復活にはロシアが同意・調印する必要があるんですが。アメリカが自分だけ制限するとでも?

      22
      • 匿名
      • 2020年 11月 08日

      米露中なら復活もありそう。米露だけなら多分成立しない

      27
        • 匿名
        • 2020年 11月 08日

        ですね アメリカが破棄した理由は中国が批准してなかったからだから

        27
      • oominoomi
      • 2020年 11月 08日

      バイデン氏の公約に軍事費削減というのは無いし、伝統的にも民主党が軍備削減を行ってきたとは言えません。
      日本のリベラルと混同して、~

      2
    • 匿名
    • 2020年 11月 08日

    丁度このタイミングで米大統領選がバイデンさんの勝利確定となったから、今後これらの米軍の新装備開発が軒並み削減・中止と言うオチになる未来を予言する
    そうで無くても近年の米軍の新装備開発は軒並み水子揃いだし、現在開発中の装備も高価かつハイリスクな技術開発を要する物ばかりなので、民主党とバイデンさんにとっては予算削減の絶好のターゲットだろう
    この計画も新規装備のLRHWと高価格のSM-6 BlockⅠBのMRC仕様は中止にされて、結局陸軍が手に出来るのはトマホークだけだったりして

    8
      • oominoomi
      • 2020年 11月 08日

      それはないと思います。
      アメリカのリベラルは「護憲・平和」なんて言いませんから(笑)
      アメリカの民主党は責任政党です。
      中国があからさまに米国の覇権に挑戦してきている現在、軍備縮小などという無責任な政策を示すはずがありません。

      5
        • 匿名
        • 2020年 11月 08日

        どうだろうね…下の方でも書かれているが、バイデンさんの周囲には親中とされる人間が少なくないし、同じ民主党のオバマ前大統領に至っては『核の無い世界』と言う、今となっては冗談にしか聞こえない主張をやってノーベル平和賞を貰ったが、その結末はご覧の通り
        なので、少なくともトランプ政権下での軍備計画は一から見直しとなる可能性は高いと思うけどな

        5
    • 匿名
    • 2020年 11月 08日

    最近のアメリカ軍の兵器開発は失敗続きだったが
    これからはバイデンが大統領となって軍事費削減が増えるダブルパンチとなりそうだ
    そして、中国がさらに力をつけてくるというシナリオが見える

    4
      • 匿名
      • 2020年 11月 08日

      だから中国がアメリカメディア支配やBLMなども含めてあらゆる手段を動員してバイデンをインチキで当選させた。
      これからはかって日本が民主党時代に舐めさせられた苦杯をアメリカが味わうことになりそうな悪寒。
      今の日本のようにかえって耐性が付くことになるかもしれないが・・・・。

      14
        • 匿名
        • 2020年 11月 08日

        次期副大統領で急進左派のハリスは習肉まん近平を称賛していたし、国務長官候補のライスも親中共。売電さんより周りの連中がヤバそう。

        15
        • 匿名
        • 2020年 11月 08日

        だからトランプが大統領になったんだけどね
        学習しないなあいつらは、
        オバマ以上に悪夢を見ることになるぞ
        日本も似たような状況になって少しは学習したんだがなw

        4
    • 匿名
    • 2020年 11月 08日

    要するに米陸軍はSM6とトマホークを融合させた中距離核戦力・中距離ミサイルを開発配備するのが目的なんだろ。極超音速兵器にしろ巡行ミサイルにしろ射程距離を伸ばすと飛翔体・ブースター一式が大型化する。要素研究に新しい新規設計を採用するより従来の物を流用したほうが合理的と考えるのは当然。
    まぁ完成しても大陸間弾道ミサイルには敵わないから同盟国への輸出品に成り下がるだろうが。

    1
    • 匿名
    • 2020年 11月 08日

    >「SM-6 BlockⅠB」はSM-3に使用されている21インチロケットモーターが使用されるため

    これって日本が生産を担当しているヤツ?
    だとしたら日本の防衛産業的にかなり美味しいんじゃね?
    リンク

    2
      • 匿名
      • 2020年 11月 08日

      残念ながら21インチロケットモーターとは切り離し可能な上昇ブースターのことで、アメリカの企業が製造しています。日本が担当したのはミサイル本体の第二段ロケットモーターなので記事に出てきた21インチロケットモーターとは別もの

      7
    • 匿名
    • 2020年 11月 08日

    タイトルの「米海軍」は、「米陸軍」の書き間違いなんじゃ?、と記事を一通り読んで思った。それはそれとして、面白く興味深い記事でした。
    後、トマホーク、スタンダードミサイルの系譜(直径の規格と言うべき?)は、と思っていたより長寿命で今後も活躍が続きそう。

    1
      • 匿名
      • 2020年 11月 08日

      自己レス。↑の私の投稿の前後で、既にタイトルが「米陸軍」となっていますね。解決ですね。後日にコメを読んでイミフな投稿と思われた方、スルーして下さいw

      1
      • 匿名
      • 2020年 11月 08日

      スタンダードなんて名前つけたばっかりに新型作れなくなってたりして。
      翼の意味がほぼないBMD用ミサイルは新規開発のほうがよかったろうに。

    • 匿名
    • 2020年 11月 08日

    もうすでにあるものをちょろっと改造すれば簡単に新兵器作れますは死亡フラグのような
    アメリカが世界で一番経験してることだが

    • 匿名
    • 2020年 11月 09日

    どなたも指摘してないようなので一言。
    確立された手堅い技術を用いて堅実な兵器開発を行う、という新方針の一例かと。

    米軍特に海軍は、開発中の先端技術を適用し圧倒的優位性を実現する兵器を手に入れようとして、開発期間の長期化・価格高騰化を招くという失敗を続けてしまいました。
    それが軍事予算を圧迫することにもなった。その反省から兵器開発手法の見直しを始めています。
    既存兵器の組み合わせと小改修で中露への効果的対応が可能なケースがあるなら推進すべきですね。
    捨てるべきレガシーと発展させるべきレガシーを取捨選択すれば効率的な当面軍備ができるはずです。
    そして拙速な新兵器開発を自重すれば事態は好転するかも?です。

    • 匿名
    • 2020年 11月 10日

    この地上運用SM6は中露が対艦弾道ミサイルでやってる事をするんでね?
    SM6の派生で地対地をやるとも思えんし核運用なんて論外だし。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. インド太平洋関連

    米英豪が豪州の原潜取得に関する合意を発表、米戦闘システムを採用するAUKUS級を…
  2. 米国関連

    F-35の設計は根本的に冷却要件を見誤り、エンジン寿命に問題を抱えている
  3. 北米/南米関連

    カナダ海軍は最大12隻の新型潜水艦を調達したい、乗組員はどうするの?
  4. 日本関連

    防衛装備庁、日英が共同で進めていた新型空対空ミサイルの研究終了を発表
  5. 欧州関連

    アルメニア首相、ナゴルノ・カラバフはアゼル領と認識しながら口を噤んだ
PAGE TOP