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米海軍の幽霊艦隊構想、中型プロタイプのUSVデファイアントが進水

国防高等研究計画局は2025年3月に中型USVのプロタイプ=USVデファイアントを公開、これを建造したSercoの関係者も「デファイアントは無人運用による1年間の航行能力がある」「退役するタイコンデロガ級の代わりのMk.41VLSを運搬するプラットホームになる」と述べた。

参考:Automated fueling-at-sea test completed for unmanned surface vehicle program
参考:Defense Advanced Research Projects Agency
参考:Defiant Drone Ship Gets Closer To Months-Long DARPA At Sea Demonstration

海軍の中型USVや大型USVにデファイアンやドーントレスが正式採用されるかどうかは不明だが、可能性を感じさせる進歩

国防総省は海上戦力に分散戦術を導入するため2017年に「Ghost Fleet Overlord」と呼ばれる極秘プログラムを立ち上げ、国防高等研究計画局(DARPA)と海軍は洋上作業に使用される商用作業船を改造したUSVレンジャー、USVノーマッド、USVマリナーを建造、2021年までに無人運用に不可欠な基盤技術(A地点からB地点に自律的に移動するだけではなく海上交通のルールに従い他の船を避けながら航行するための技術)が完成し、USVレンジャーとUSVマリナーは無人航行による太平洋横断に挑戦して横須賀基地に寄港したことがある。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Jesse Monford

DARPAは2024年までに無人給油技術(補給を行う側のUSVマリナーは有人運用)をほぼ完成させ、2025年3月には中型USV(全長200フィート/排水量500トン未満)のプロタイプ=USVデファイアントを公開し「数ヶ月間に渡る長期間の海上実証試験に出発する予定だ」と発表、この中型USVを建造したSercoの関係者も以下のように述べた。

“我々はDARPAに提案したのは90%の稼働率、無人運用による1年間の航行能力、非常に短いターンアラウンドタイム、非常に安価な運用コスト、海況3で最大20ノットの航行能力で、これらの要件をデファイアントは満たしている。海軍はタイコンデロガ級巡洋艦(VLS×128セル)を全艦退役させる予定なので、何らかの方法で運搬できるミサイルの数を補わなければならない。デファイアントはミッションペイロードの統合を念頭に設計されており、コンテナ型のMk.41VLS、BAEのAdaptable Deck Launching(ADL)System、C2ISRシステムなどの搭載が可能だ”

“我々は合理的な建造期間とコストでデファイアンを提供できた。これは現在の造船業界にとって非常に稀なことだ。我々はデファイアンの設計者であり、艦艇建造のプライムであり、全ての材料とコンポーネントを自ら調達し、自ら統合することでこれを実現した。この手法は現在の造船手法とは異なる1980年代の造船手法に近い。デファイアンの船体は14人の作業員が14ヶ月間で溶接した。モジュール構造を採用しているため手作業で迅速に建造できるのが特徴だ。つまり全米に35ヶ所以上あるTier3の造船所でデファイアンを建造できるという意味で、使用しているエンジンも3つの企業が数万基単位で生産している”

DARPAが公開したUSVデファイアントは白いラッピングで覆われているものの、Sea Air Space2025に展示されたUSVデファイアントの艦首方向にはADLらしき構造物が搭載されており、SercoはADLを4基搭載できる大型USV(全長300フィート/排水量2,000トン未満)=ドーントレスの可能性にも言及している。

海軍の中型USVや大型USVにデファイアンやドーントレスが正式採用されるかどうかは不明だが、DARPAが予定している実証試験で成功を収めれば幽霊艦隊の実現にまた一歩近づくことだけは確かだ。

関連記事:米海軍が戦力分散化の概念「ゴースト・フリート」を実演、無人艦から艦対空ミサイルSM-6を試射
関連記事:米陸軍、トマホークとSM-6を流用してロングレンジウェポン開発に着手

 

※アイキャッチ画像の出典:Defense Advanced Research Projects Agency

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コメント

  • コメント (30)

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    • 無印
    • 2025年 4月 12日

    大丈夫?
    建造中に設計変更して大炎上な事しない?
    この分野でも同じ事やっちゃったらもうお終いよ

    22
      • あさひ
      • 2025年 4月 15日

      現時点の設計と用途なら大丈夫
      最近のアメリカ海軍様は余計な事をやらかすことに定評があるけど、無人で索敵出来る様にしろとか対空砲も積んで艦隊の防衛にも使える様にしろとか・・・言いそうだなぁ
      もしくは性能を一段階引き上げてTier3の造船所で作れるようにするって言う目的を見失う方がありそうかな

    • 58式素人
    • 2025年 4月 12日

    こうした小さいフネ(≒200排水t)の場合。
    燃料補給は、航空機から行うことはできないものでしょうか?。
    イメージとしては、プローブアンドドローグ式を縦方向に使う形で。
    受取側の艦艇から、可動伸縮式のドローグを伸ばすかたちで。
    給油数量は少ないだろうから、いちいち給油船をつけるのも大変そうな?。
    海象状況が悪いと難しいでしょうが、海象が悪ければ、給油艦からも難しいし。
    CH-47ヘリコプターなら、給油装置込みで11tを吊れるだろうし。
    どなたか開発しないでしょうか(笑)。
    そのうちに、原子力空母に随行する艦艇も空母からヘリで給油をしたりして(笑)。

      • かず
      • 2025年 4月 13日

      ざっくり考えると固定翼機は速度が合わない回転翼機は艦艇が必要とするほど搭載出来ないので無理筋かと思います

      8
        • バーナーキング
        • 2025年 4月 13日

        「無人運用による1年間の航行能力」「排水量500t未満」ですからヘリで2t3t給油できれば十分足しにはなるでしょう。
        やろうと思えば空中給油機とオスプレイの「バケツリレー」だって技術的には不可能ではないかと。
        まあ個人的にはコスト面考えたら給油船(→将来的には給油USV?)一択だと思いますが。海象云々は1年の航行能力≒数ヶ月単位の連続運用するなら週単位で補給タイミングも場所も選べるんだから北極圏以外ならどうとでもなるでしょう。

        5
          • かず
          • 2025年 4月 13日

          外洋に出てる艦艇に足の短いヘリで給油というのはやはり無理があるのでなないかと思います
          ただでさえ金が足りない状況なのでご自分でも書かれているように従来どおり補給艦利用が現実的な回答でしょう

          4
      • nachteule
      • 2025年 4月 13日

       それが実現するかどうかは敵の脅威度(給油機が展開出来る余裕)、艦船の燃料タンク容量、ミッションの時間、展開する場所(給油機出撃地点からの距離)、給油機と艦船との給油中の同調や安全性、燃料供給能力、給油機は何を選ぶのか複数の要因が絡んだ上での話です。

       素人考えですと時間とお金を掛けてまでそんな事をする必要性は無いと思いますね。そもそも供給量は少ないと書かれていますが何を根拠としてどれ位の量を想定しているんでしょうか、こまめな給油するなら供給能力は低くても良いとか考えています?
       艦船のタンク容量なんて軍事秘でしかないので簡単に調べても出てくる事は無いと思いますが、迅速な給油が必要ならシーステートの影響を受けるにしても現時点で計画の進捗もしていないMC-130J Commando II Amphibious Capabilityや改造されたUS-2から給油した方がマシでしょう。

      6
      • 58式素人
      • 2025年 4月 14日

      どうなのでしょう。小型無人艦の使い方のような気がします。
      仮にアーセナルシップ等として艦隊に随伴する場合。
      航行速度にもよりますが、小型艦なら、頻繁な給油を必要とするのでは。
      昔の戦記を読むと、そうした場合、大型艦から給油する場面があります。
      無人艦であっても、小型艦では、航続距離は小さいでしょう。
      艦内の余積は小さいでしょうし。非常時に人が入る余積は必要です。
      給油艦を前方配置するのも無理では。
      フェリー中ならともかく、敵性海域に給油艦の先行配置は無謀でしょう。
      艦隊に給油艦が随伴するとしても。
      小型艦の頻繁な給油に艦隊が付き合う時間的余裕はないのでは。
      であれば、そうした小型艦の頻繁な給油を艦隊内で完結する必要があるのでは。
      などと思います。

        • ネコ歩き
        • 2025年 4月 14日

        無人実験艇シーハンターは満載排水量145tと更に小型ですが、40tの燃料を搭載し70日間/12ノット連続巡航(航続距離19,000 km)できます。小型だから後続力が小さいとは限りませんよ。要は要求仕様次第。
        頻繁な燃料補給はおっしゃる通り不都合が多いわけで、作戦航海を勘案した航続力要求は当然と思います。

        1
          • 58式素人
          • 2025年 4月 14日

          なるほど、です。

    • MK
    • 2025年 4月 12日

    動画にあるようなミサイルキャリアに特化したものなら安く出来そうですが・・索敵のセンサーやら交戦システムやら積みだして凄い値段になりそう。

    18
    • トーリスガーリン
    • 2025年 4月 12日

    小型・分散・無人化したアーセナルシップ、運用コストが割に合うならありだと思います
    洋上再装填の再評価が進んでいるとはいえ艦隊の総セル数は誤魔化せないですからね

    基本的にはVLSセルか対艦ミサイルが主になると思いますが、場合によってはドローンシップとかも…
    いやミッションパッケージはやめよう、まずは弾薬庫だ(LCSから目を背けながら
    でも海軍はマルチプラットフォーム化を絶対にねじ込んできそうだよなぁ

    22
    • きりる
    • 2025年 4月 12日

    SF物の定番だとオーバーライドされて敵側になるんだよな
    見よ我が方の物量をってやったとこでお姉さんオペが待ってくださいシグナルイエロー、アンノウンです
    通信ロストによりIFFを更新、対象をレッド判定、司令指示をと叫ぶまでが様式美
    ちなみに主人公は古参を盾に逃げ延びてトラウマで燻る展開

    18
      • kitty
      • 2025年 4月 13日

      あるいは機械知性体が独立して人類に叛旗を翻すかですね。
      まあAIが独立人格を確立しても生産システムを手中に納めるまでは面従腹背していそう。

      1
    • プラネット
    • 2025年 4月 12日

    無人艦の場合、メンテナンスやダメージコントロールをどうするのかがいまいちイメージできません。
    使い捨て前提でダメージコントロールは捨てるとしても、艦艇が機械の集合体であることから必ず何かしらの故障は発生するでしょうし、兵器も搭載したままメンテナンスフリーということはないのではないかと思うのですが、そのあたりは有人艦の乗員が一時的に移乗して対応したりするのでしょうか。

    14
    • 黒丸
    • 2025年 4月 12日

    この幽霊艦隊の司令部および各艦とのコミュニケーション手段には
    当然のことながら画像や音声による手段があり、司令部や各艦固有のアバターとかヴァーチャルキャラクターが
    事前に設定されていてそれが艦の名前や代名詞に忠実な表現であることを望みたい。

    そうなったら多分、仮想敵国である中国軍も無人艦ハッキングの準備はしているし
    艦キャラのオルタ化映像ぐらいは敵士気低下用として用意するような気もします。

    4
    • 気ヴォ鳥栖の新人教師
    • 2025年 4月 13日

    コンステレーションといいディファンアントといい、米海軍にはトレッキーが混じってるのか????
    ※両方とも、スタートレックシリーズに登場する宇宙船のネームシップ。物語で重要な役割を果たす船を輩出している

    6
      • のののの
      • 2025年 4月 13日

      奴らはどこにでもいる。エンタープライズだって実は…

      1
      • kitty
      • 2025年 4月 13日

      惑星連邦軍は米軍の理想化なんですわな。
      クリンゴンは続作での扱いを見るとロシア扱い。
      ロミュランは中国。

      1
    • DEEPBLUE
    • 2025年 4月 13日

    今の米海軍で?嫌な予感しかしない

    10
    • 顧客が本当に必要だったもの
    • 2025年 4月 13日

    >この手法は現在の造船手法とは異なる1980年代の造船手法に近い。

    御高説だけ立派で現物を生産できない他とは違いますよ、ってことさら強調してるから大丈夫か?
    海軍が仕様変更・追加を要求して台無しになるのはもはや既定路線と言ってもいいから、本当に必要な機能(航行できて、指令に従ってミサイル発射できる)だけを搭載した設計を確定させておいて、計画が迷走したらいつでもロールバックできるようにするとか・・・

    7
      • M774A6
      • 2025年 4月 13日

      計画が迷走や頓挫することは許されない。だから迷走や頓挫した際のことを想定してはならない。

      8
      • レプタリアン
      • 2025年 4月 13日

      高度な設備が要らず三次請レベルの造船所で建造出来るのは、ナルホドと思った
      つまるところ修理もドックを限定されずどこでもやれるって事で有事の際に稼働率高く維持できそう

      10
      • ネコ歩き
      • 2025年 4月 13日

      >1980年代の造船手法に近い
      とは前文の
      >我々はデファイアンの設計者であり、艦艇建造のプライムであり、全ての材料とコンポーネントを自ら調達し、自ら統合することでこれを実現した。
      を指しているのでは。
      大型化複雑化集積化した現在の戦闘艦建艦に米海軍及び米造船所が適応できてないのが問題の根幹にあるように思います。

      4
    • たむごん
    • 2025年 4月 13日

    電子戦により、無人艦の通信システムが切られたらどうなるのか?というのは気になります。

    米中の軍事バランス、太平洋方面の海軍艦艇数が、中国に傾いてる中で数を揃えられるなら一定の意味があるかもしれませんね。
    小型ミサイル艦のように、近海で大量配備するのであれば消耗する前提として適しているのかもしれません。

    既存艦の工事がままならない中で、あれもこれも量産化できますかね?
    米軍の陸海空ともに、既存部隊の維持・既存製品の納期が守られない中で、新しく手を広げていく事には懐疑的に見てしまいます…(ロマンとして見れば興味深いです)

    7
      • たむごん
      • 2025年 4月 13日

      追記です。
      アメリカさん、中国近海で使うつもりなら、日本を大事にした方がいいですよ。

      F35の不時着に空港も使いやすいくらいですから、港の使用なんかお手のものです。
      太平洋の荒波に遊弋させ続けるよりも、中国近海で、中国のチョークポイントを気軽に抑えられます。

      トランプさん貿易交渉は、日本を早期優遇しといて繋ぎとめといた方が、中国抑止のためにとてつもなくお得ですよ。

      25
    • dd4
    • 2025年 4月 13日

    大丈夫かなぁ
    アメリカはこの手の小型艦、巧く行ったためしがないのは米海軍自体も自覚してる事なのに…
    (LCSの際も、反対意見にこの手のが多かった)

    3
      • トム
      • 2025年 4月 13日

      大丈夫だ。
      最近の米海軍はこの手の小型艦どころか、空母から駆逐艦、潜水艦に至るまで全く巧くいっていないから、いまさら無人小型艦のプロジェクトの一つや二つポシャっても全体からしたら大したダメージではないからよ…。

      4
        • かず
        • 2025年 4月 13日

        逆にこのぐらいは成功して欲しいと思う
        これすら失敗したら米海軍はどんな船ならまともに開発出来るんだよって言われてしまいそう

        4
    • ヤー
    • 2025年 4月 14日

    現場、開発、生産、議会全部変なこだわりで俺達が正しいで曲げないからなんも出来なくなってる米軍
    〇〇が悪いとか悪者探しじゃなくて全部良くない状況だって気づかないと前に進めない

    2
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