米上院はトルコへのF-16V売却を阻止する状況を含まないの国防権限法(NDAA)を11日に可決、バイデン政権によるF-16V売却は上院案と下院案のすり合わせ作業に運命が委ねられた格好だ。
参考:Conditions on F-16 sales to Türkiye dropped from US NDAA bill
ウクライナ問題で手一杯のバイデン政権は「これ以上欧州で問題を抱え込みたくない」というのが本音
米上院は2023会計年度の国防権限法(NDAA)を11日に可決、下院が先に可決したNDAAに含まれる「政権は戦闘機を売却する際『売却先の国が米国の安全保障にとって重要である』と議会に証明する必要がある」「政権は売却した戦闘機がギリシャの領空を飛行できないよう具体的な措置を講じて議会に説明する必要がある」という条項を上院バージョンのNDAAは含んでおらず、バイデン政権によるトルコへのF-16V売却問題は上院案と下院案のすり合わせ作業に運命が委ねられた格好だ。
この問題を理解するにはトルコのパトリオット導入にまで話を遡る必要があり、オバマ政権時代にトルコはパトリオットシステムの導入交渉を試みたが、防衛産業の自立を目指すトルコはパトリオットの技術移転や現地生産を要求、米国はこの条件に難色を示したため両国の交渉はまとまらず、最終的にトルコの条件に最も近い提案(技術移転やS-400を構成する部品の現地生産を容認)を行ったロシアからS-400を導入することになった。
これに慌てた米国はパトリオット導入交渉を試みたが技術移転がネックとなりトルコのS-400導入撤回に至らず、今度は「F-35AとS-400の同時運用は不可能」と主張して「S-400導入撤回」と「完成品のパトリオット導入」を要求、もしS-400導入を強行するなら「F-35プログラムからトルコを追放する」と圧力を加えたため大問題に発展する。
厳密に言えばF-35プログラムへの参加条件に「ロシア製装備品の導入禁止」という条項は存在せず、法的にトルコをプログラムから追放する根拠がなため「何を導入するかはトルコの安全保障に基づいた決定であり、完成品のパトリオットを買わないならプログラムから追放するというのは米国の横暴で主権の侵害だ」と反発、最終的に米国はプログラム参加国の賛同を取りまとめてトルコを追放してしまうのだが、トランプ政権はトルコ追放の後始末を放置したため問題はさらに複雑化してしまう。
要するに「トルコがF-35プログラムに出資した資金を没収するのか返還するのか」「製造に参加していたトルコ企業への保障をどうするのか」「トルコが発注済みで支払いも終えているF-35Aの取り扱いをどうするのか」という問題をトランプ政権は放置、さらに議会は米空軍にトルコ発注分のF-35A取得を認めたため、これに怒ったトルコは支払った資金の全額返還を要求。
この問題を解決してトルコとの関係修復を試みるバイデン政権は、トルコ追放の補償としてF-16V売却(新規にF-16Vを40機+既存機のV仕様アップグレード80機分)を水面下で打診、これに基づきトルコはF-16V売却を正式に米国へ要請したが、S-400導入を問題視する下院はNDAAにF-16売却をブロックする条項を盛り込み、一方の上院は当該条項を盛り込まないNDAAを可決したため、今後のすり合わせ作業で当該条項を残すのか削除するのかに注目が集まっている。
この熾烈な綱引きにはトルコと対立するギリシャ政府、ギリシャロビー、アルメニアロビーも介入しており、トルコも「F-16V売却が成立しないなら他の戦闘機(ラファール、タイフーン、ロシア製戦闘機などが候補)を買う」と述べているので、トルコとの関係修復を試みるバイデン政権とって頭の痛い問題だ。
もし当該条項が含まれたNDAAが大統領のデスクに到着すると拒否権を発動するか、トランプ前大統領と同じように「国家安全保障上の緊急事態を宣言」して強行突破=事実上議会の決定を無視するか、トルコへのF-16売却を断念するかの何れかを選択する必要があり、最も政治的負担が少ないのは当該条項が削除されたNDAAが上がってくることだ。
果たしてトルコへのF-16V売却問題はどこに着地するのだろうか?
ウクライナ問題で手一杯のバイデン政権は「これ以上欧州で問題を抱え込みたくない」というのが本音で、極端に軍事的バランスが崩れると地域の安全保障は不安定になるため、一定のバランスを保つためにも「トルコへF-16Vを売却したい」と考えているに違いない。
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この辺が落としどころか
色々強引にやった部分があるとは言え、先端技術の移転をしなかったのは正解だったと思う
それなりにまともな西側国家だったトルコの後退ぶりを甘く見たツケ。勉強代
トルコがロシア製や中国製の戦闘機を導入したらアメリカはもっと頭を抱えそう。
この期に及んでロシア製戦闘機は、流石に物理的に有り得ないかと
インドが近代化改修の為にロシアに送ったT-90Sを、無断でウクライナ戦に使用していた様ですから
もはやロシアには最新兵器の生産能力が残っていないかと。経済制裁での半導体禁輸と、総動員によるインフラ崩壊・兵器産業従事者の動員などでね
売らないなら売らないでいいけどまずはf-35の代金は返せや・・・
本記事に関係ないコメントで悪いけどF-16Vのコンフォーマルタンクが盛り上がった広背筋みたいで何度見てもカッコイイなと思ったのとF-16の息が長すぎね?
ギリシャ空軍はF-16Cを持っててアップグレードしそうだけどエーゲ海でトルコのF-16Vと同じミサイルで撃ち合うとか、そっちもアメリカ的にはかなり頭が痛いからそれもどうなんだろう。
アメリカの都合でF-35から排除したし結果的にお金返してもらってラファールとかタイフーン40機とかになりそうな気がするんだよなぁ。そうすると英仏独的には金返して黙ってそう。
ラファールVSアップデートされたF16Cでの空戦がみれるのかい?
2020年にミラージュとF-16Cで空戦してるので、もしラファール導入したらやるでしょう。アメリカ的には今のミラージュ2000を運用しててラファールが最有力だと思ってるから、トルコもF-16Vなら文句言わないだろうし、議会も第4世代なら返金より反対しにくいと考えたのでは。
契約になくとも、ロシアに技術流れたら困るからF-35は渡せないっていうのはまあわかるが、返金もしないことはどうやって正当化しているのか気になる。
正直バイデン政権にならなければ普通にケアされてたんだろうなって言う・・・。
政権が変わったのも痛かったんだと思う
記事を読みました?
オバマ政権がやらかし、トランプ政権が放置していたのをバイデン政権が修復しようと苦悩している趣旨。
バイデンが嫌いだからと現実を歪めるのはいかかなものですか?
技術は大切だから渡せないのは分かる。
ならせめて払われた金は返そうよ。
強引に行くにも相手にも事情があるんだから、、、
返金すると、トルコには売らないと決定的に断絶な意思表示になりかねないが、それはしたくない、というか、本音では売りたいんですよ。
NATOというアメリカの傘下に敵対するトルコとギリシャを取り込んだ政策のツケですから
トルコもロシアが健在前提で中立外交の延長でやってたけど、
ロシアがあの有様では、S-400の追加も無理ですし、ロシア製戦闘機導入も無理でしょう
アメリカ政府も困ってるけど、それ以上にトルコのエルドアンも
ロシアの威を使えなくなって迷走してるのではないかと
じゃあ中国かというと、中国の場合は色々導入したら属国みたいになってるケースばかりなので避けたいでしょうし
上手く使えたロシアが兵器市場から居なくなるのは、色々バランスが崩れますね
そのうち技術移転を完了させたポーランドが兵器王国になりそうな予感。ウクライナという隣国の購入先も確定してるし。
しばらくはロシアの後釜は韓国製品かな。
んで、力をつけたポーランドがその次。
パワーバランスが崩れた今、何が起きてもおかしくはないけどね。うむ
万年火の車のギリシャにすらF-35は売るしフリゲート艦も共同開発するが、トルコには売らないし返金も放置し古い戦闘機なら売ってやらないこともない、と。プーチンロシアに接近し利用しようとするとこうなるという米国からの熱いメッセージ
F-35に代表されるように、現代の兵器は統合されたシステムの一部として機能するし、なんなら同盟国も含めて一体のシステムと見なされる。
これは(安全保障面においては)国益と同盟関係が概ね一致する東アジアや東欧の正面では問題とならないが、トルコの場合最大の敵ギリシャが同じNATO内なので、兵器の運用を他国に干渉されたくない。何しろヨーロッパはギリシャにつくだろうし(これはエルドアンの強権政治とは無関係に)技術移転されず自国で維持できない兵器には意味がない。
ロシア憎しの世論のせいでトルコが非難されるが、トルコ抜きのNATOは機能不全に陥る以上、どこかでケリをつけないとね。