米国関連

V-Batを開発するShield AI、次世代の自律型航空機を9月に発表すると予告

防衛分野のAI技術で大きな存在感を示すShield AIは「次世代航空機の予告映像」をパリ航空ショーで披露し、この次世代航空機は自律性に重きをおいた全く新しい無人機で「V-Batを単純にアップグレードしたものではない」「9月に正式発表する」と明かした。

参考:ShieldAI launching ‘next-gen aircraft’ in September: ‘Tremendous opportunity,’ new CEO says

もし次世代航空機が革新的なAI技術の実装なら「一般人にとっては理解しにくいもの」になるかもしれない

一般的なVTOL対応の無人機は「垂直飛行」と「水平飛行」に異なる推進装置を搭載するか、1つの推進装置で「垂直飛行」と「水平飛行」を実現するため推進装置の向きを変更するかのどちらかで、前者の場合はデットウェイトが飛行性能の妨げに、後者の場合は推進装置の向き変更する機構が複雑になりやすく保守や信頼性の妨げになる問題に直面するが、Martin UAVが開発したV-Batは同問題をユニークな方法で解決して注目を集めた。

出典:Shield AI

V-Batは機尾の固定式推進装置だけで「垂直飛行」と「水平飛行」を実現するためデットウェイトが発生せず、推進装置の向き変更する複雑な構造も不要で「戦術的な無人航空機の運用に革命を起こす」とまで評され、米海軍の主催したデモンストレーションで優勝したものの、米陸軍のRQ-7B後継機選定(この計画はトランプ政権の陸軍改革で中止された)には敗れてしまった。

Martin UAVはソフトウェア開発企業のShield AIに買収され、同社のAI技術と統合されたV-Batは高度な自律能力を獲得、国防総省も2023年5月「MQ-35A」と正式に指定し、沿岸警備隊や海兵隊がV-Batを導入、2024年11月にはインド企業=JSW Defense and AerospaceとV-Batの現地製造契約を締結、2025年1月には「海上自衛隊が艦艇で運用するISR用途の無人機にV-Batを選定した」と発表したが、V-Batはウクライナにも供給されている。

Shield AIは今年4月「キーウを拠点にする運用チームはV-Batを使用した130回以上の任務を完遂した」「ウクライナ軍の無人機部隊と共に過酷な電子戦環境下でV-Batを運用した」「ウクライナ軍によればV-BatはGPS信号や通信手段がない環境で運用できる能力と精密な標的捕捉機能を併せ持ち、他の無人機と比較しても決定的な優位性を戦場にもたらしている」と発表、さらにギリシャもV-Batを導入しているが視覚的に確認されているため、公表されているよりも多くの国がV-Batを導入しているのかもしれない。

Shield AIの技術は目立ちにくいもののXQ-58、MQM-178、MQ-20といった無人機にも同社のAI技術が組み込まれており、国防総省、米空軍、米海軍、シンガポール空軍、Boeing、Northrop Grumman、L3Harris、Airbus、韓国航空宇宙産業、LIG Nex1などともAI技術分野で提携しているため、この分野におけるShield AIの存在感は非常に大きなものがあり、パリ航空ショーでも「次世代航空機の予告映像」を公開して注目を集めている。

Shield AIはパリ航空ショーで次世代航空機の正体を詳しく語らなかったが、Breaking Defenseの取材には「この次世代航空機は自律性に重きをおいた全く新しい無人機で、V-Batシステムを単純にアップグレードしたものではない。これは次世代の自律型航空機で9月に正式発表する。この分野に非常に大きなチャンスがあると考えている。業界が抱えている非常に重要なギャップを埋めることが出来ると確信している。そしてShield AIが世界中の防衛分野において果たせる役割は意義深いものになると考えている」と述べた。

現時点で判明したことはShield AIが次世代航空機と呼ぶ無人機は「V-Batとは異なるもの」「仮に構造上の特徴がV-Batに似ていても自律性の分野で全く新しい無人機」「明確に定義されていない現在のギャップを埋めることが出来る」という位で、もし次世代航空機が革新的なAI技術の実装なら「一般人にとっては理解しにくいもの」になるかもしれない。

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※アイキャッチ画像の出典:Shield AI

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コメント

  • コメント (6)

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    • paxai
    • 2025年 6月 20日

    結局AIは軍事に使われるんだよなあ。悲しいなあ。
    ただAIドローンはあっさりと敵に解析されそう。本体に情報が全部詰まってるから自律行動取れる訳だし。

    5
    • p-tra
    • 2025年 6月 20日

    うーん、ホントに役に立つんだろうか。
    実際の戦場の主役は防衛企業の作った高価少数のプラットフォームではなく
    大量安価な民用品だと思う…特にドローンに関しては。
    昔ウクライナの司令官が電子的耐性があるドローンを作るくらいならドローン
    を使い捨てるように運用した方が早いって言ってたよね。

    2
      • SB
      • 2025年 6月 20日

      イランの空爆でも分かった通り(というかもともと分かりきってましたが)、戦争とは兵器の強さ安さで決まるものではありません
      安価な民生品を大量に用意しただけでは、今回のイランの用に殆どが叩き落されるか嫌がらせレベルの被害を与えるだけで、肝心の敵戦闘機は頭上を優雅に飛んでいるという様なことになります

      ドローンを何の為にどう使うか、どの価格のものがどの程度必要か、そもそも自国と同盟国はどれくらいの生産能力があるのか…諸々を検討してから調達するべきですね

      13
    • たむごん
    • 2025年 6月 20日

    ライジングライオン作戦の初動を見ると、結局は、統合作戦が重要ということでしょうね。

    敵地での極めて危険な任務を、(低コストで)無人化して代替できるのであれば、無人化は自然な流れなのかもしれないなと。

    1
    • ブルーピーコック
    • 2025年 6月 20日

    《もし次世代航空機が革新的なAI技術の実装なら「一般人にとっては理解しにくいもの」になるかもしれない》

    APFSDSによるユゴニオ弾性限界、魚雷によるバブルパルス、ECMなどの電子戦。興味ない人に説明するのが既に難しいというか、爆発物でドッカンドッカン以外はもう理解してもらえない段階でございます。

    1
    • kitty
    • 2025年 6月 20日

    V-Batの写真はいつも狙ってるのか?と思ってしまいます。
    フロイト先生が見たらなんと言うかw

    1
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