米国関連

米国は空母へ投資を続けるのか?ミサイルへ投資先を変更するのか?

米国の国防総省では現在、米国の力を象徴している空母を中心とした航空戦力に今後も投資を続けるのか、それとも既存のシステムへの投資を減らし長距離攻撃システム=極超音速ミサイルへの投資を増やすのかについて頭を悩ませている。

参考:Will ground-based hypersonic missiles replace aircraft carriers in the defense budget?

米国は空母へ投資の続けるのか?ミサイル戦力へ投資先を変更するのか?

中国は、2,000発の極超音速ミサイルと航空機を搭載した空母のどちらを恐れるだろうか?

米国がこの異なる2つの戦力について、どちらを優先するのか選択を迫られているのはコストの問題であり、中国やロシアを軍事的に抑止するための米国の資金力は、もはや相対的に見て圧倒的では無くなったためだ。

多くの軍事アナリスト達は、中国やロシアの極超音速ミサイルについて警告を鳴らし、米国も極超音速ミサイルを開発し対抗する必要があると主張すると同時に、既存の攻撃システム、特に移動可能な航空基地である空母の必要性と極超音速ミサイルに対する脆弱性について疑問を投げかけている。

もっとはっきり言えば「長距離攻撃」という目的を達成するために、空母というシステムよりも、ミサイルのほうがより効果的ではないかという意味だ。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Kaila V. Peters/Released

これに対して米国では、このような考え方が展開されている。

中国やロシアの極超音速ミサイルに、米国が極超音速ミサイルで対抗することは冷戦時代の対処方法と同じで、ただ問題や脅威がエスカレートしていくだけなので、経済的に見て絶対的な優位性がなければ勝利することが難しい戦い方であり、もっと本質的でシンプルな言葉にすればこうだ。

確かに極超音速ミサイルは単一の兵器として優秀だが、中国はこの兵器で米国の空母を本当に攻撃するだろうか?恐らく中国の指導者達は、極超音速ミサイル発射ボタンを押す前に米国が核兵器を持っていることを思い出すだろう。

結局、核兵器という絶対的な報復兵器の前では、どんなに優秀な兵器(核兵器を除く)であったとしても「抑止力」としての価値は無きに等しいという意味だ。

さらに米国は冷戦時代にソ連との直接対立を回避し、問題を「局地的」に限定する方法を学んでいる。

例えばソ連がアフガニスタンへ侵攻した際、米国は軍を派遣するのではなくアフガニスタンの兵士を訓練し、米国製の兵器を提供することでソ連軍と直接交戦することを避け、ソ連や中国もベトナム戦争当時、兵器供給等でベトナムを支援し、米軍と直接交戦することを避け、戦線を局地的(あくまで世界規模で見た場合)に抑え込むことに成功した。

この手法は現在でも有効で、もし中国との衝突が発生した場合、破滅的なミサイル戦力による応酬に発展させるのではなく衝突の範囲を局地的に限定することの方が、極超音速ミサイルを何千発も用意することより重要であると指摘している。

米国の軍事的プレゼンス後退=日米安保が機能しなくなる可能性も

極超音速ミサイルの脅威が高まり空母不要論が出てくる中、米海軍は空母の存在理由をこのように説明している。

空母が持つ機動性と運用方法の弾力性は、他の兵器では再現不可能であり、応答性、持久性、多様性、存在することで影響力を及ぼす範囲、指揮統制能力など米国の空母戦力は他国の軍事行動を抑止するために必要となる全ての要素を兼ね備えている。

しかも空母は、変化していく戦術や脅威に対応するため、搭載する航空機を進化しつづけることで、航空機に搭載する兵器を進化しつづけることでアップグレードが可能なため、このような柔軟なプラットフォームは空母以外に存在しないと説明している。

確かに陸上機と変わらない性能の固定翼機で構成された航空戦力を、世界中のどこへでも展開できるという点で米海軍の空母戦力は唯一無二の存在を保っているが、極超音速ミサイルなどの登場で空母の生存性が危機にさらされているのも事実だ。

出典:Bill Bostock / CC BY-SA 4.0 中国の大陸間弾道ミサイル「DF-41」

核兵器の報復という後ろ盾があるので、中国の極超音速ミサイルで米空母が攻撃を受けることはない主張したとことで、その考え方はあくまでも論理でしかなく、中国にもまた核兵器があることを忘れてはいないだろうか?

もし、中国が極超音速ミサイルで米空母を攻撃した際、米国が核兵器による報復を行えば、中国も核兵器を米国に向けて発射するだろう。

そして世界は、通常兵器(極超音速ミサイル)で米空母を攻撃した中国よりも、先に核兵器を発射した米国を非難するはずだ。

特に、中国との衝突が発生した場合、その範囲を局地的に限定する方法にアフガニスタンの例を持ち出しているが、これは日本と中国が局地的な衝突に発展した場合、日米安保条約があったとしても米国は中国との直接的な交戦を避けるため、兵器や物資供給、情報提供程度の支援に限定してくることを示唆している。

米国は、これを問題を「局地的」に限定する賢い方法だと認識しているようだが、中国からすれば逆に米国の直接参戦がないという状況を作り出せたという点で非常に歓迎すべき傾向と捉えるだろう。

結局、上記のような考え方は米国の軍事的プレゼンス後退を如実に物語っており、日本も米国に頼らない独自の防衛力を検討すべき時期が来ているのかもしれない。

※あくまで管理人の私見であることを留意して読んで欲しい。

 

※アイキャッチ画像の出典:pixabay

2020年には初飛行? 中国、空飛ぶ円盤型攻撃ヘリのコンセプトモデル公開前のページ

最高速度が若干性能ダウン?韓国型戦闘機「KFX」の実物大モックアップ初公開次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    米中央軍の最高司令官、UAV接近を検出するのは困難で完全な制空権を失ったと告白

    中東や中央アジア等を担当する米中央軍のケネス・マッケンジー海兵隊大将は…

  2. 米国関連

    米国のミリー議長、ウクライナへのF-16提供コストは10機で20億ドル

    ウクライナに対するF-16の提供について様々なニュースや話題が飛び交っ…

  3. 米国関連

    調達よりも維持する方が大変? 戦闘機「F-22A」は退役にまでに1機約320億円が必要か

    国防総省は20日、空軍が運用中の戦闘機「F-22」のメンテナンスを担当…

  4. 米国関連

    米当局が機密文書漏洩の容疑で空軍州兵を逮捕、セキュリティクリアランスの保持者

    米連邦捜査局は13日、機密文書漏洩の容疑でマサチューセッツ州の空軍州兵…

  5. 米国関連

    答えが出ないF-35のエンジン問題、P&WがF135EEPの予備開発契約を獲得

    P&WはF135EEP開発に関する予備開発契約を獲得したと発表、この契…

  6. 米国関連

    米空軍、チーミングが可能な無人戦闘機の競争試作を2024年に開始か

    有人戦闘機とエアチーミングが可能な無人戦闘機について米空軍のケンドール…

コメント

    • 匿名
    • 2019年 10月 14日

    正面対抗では敵わないから非対称兵器で――というのはどこかの国からもよく聞こえてくる主張ですが、言葉尻だけを捉えれば結局負けを認めてんじゃん、と思えなくもないんですよね。ことはそう単純な話ではないんですが。
    1か0かの話ではなく、要はバランスの問題なんでしょうが。米軍の(贅沢な)限られた予算をどうリバランスしていくかという問題の解決は今後かなりの時間を必要とするのでしょう。
    終わりのないいたちごっこが軍拡競争というものの本質なのだとすれば、ずーっと現在進行系のままなのかもしれませんがね。

    • 匿名
    • 2019年 10月 14日

    論として決定的に欠けているのは、ではなぜその当本人の中国は空母の建造を急いでいるのか、という点です。仮に今配備されているという極超音速ミサイルによって空母が無効化されるのであれば、中国こそ空母を建造する必要がありません。完全に矛盾しています。アメリカは空母を保持した上で極超音速ミサイルを開発するだけでしょう。

      • 匿名
      • 2019年 10月 14日

      結局の所、極超音速ミサイルが如何に優れていようが、自国領内から沿岸に投射する兵器でしかないということでしょう
      自国沿岸であれば極超音速ミサイルと各種観測手段でキルチェーンを組む事が出来ても、それを大洋の向こうへ持ち出すには結局航空基地が必要で、信頼できる同盟国の無い中国では結局洋上航空基地である空母に頼るしかないと(少なくとも現状は)
      また、単純に空母機動部隊が砲艦外交に適した強力な見せ札であり、保有するだけで国家の威信が高まるのも無視できません。少なくとも、空母機動部隊が誰の目にも時代遅れの役立たずであると証明される事件が無ければ
      あとは、シースキマーから艦隊を守るにも早期警戒機は必須で、十分な性能を得るにはやはり固定翼機で無いと無理という現状も

      • oominoomi
      • 2019年 10月 14日

      まったく同感です。
      評価は「空母vsミサイル」ではなく、「艦載機発射ミサイルvs地上配備型or陸上機発射ミサイル」で行われなくておかしい。
      おそらく米中ともその観点から、空母の有用性が脅かされることはない、と判断しているものと思われます。

    • 匿名
    • 2019年 10月 14日

    日本が当て馬ににされたりするようじゃたまりませんな…

    • 匿名
    • 2019年 10月 14日

    目には目を、歯には歯を、核には核を、同盟国への関心が薄い=干渉や締め付けも少ないトランプ政権のうちに、日本も核武装するべき。当の核弾頭や運用プラットフォームもアメリカ製を導入すれば、お金と実績にしか目が行かないトランプは容認してくれるだろう……

    というのは妄言にしても、安保があるから大丈夫ではなくなってきたね。少なくとも防衛費は増額しないと……

    • アメリカの終わり
    • 2019年 10月 14日

    日本が直接攻撃された際にアメリカが反撃しなければ、アメリカの権威は地に落ちる。
    今のアメリカの繁栄を支える世界のルールが、全て中国に都合のいいルールに変わる。
    アメリカの繁栄は失われ、崩壊するだろう。
    その日がいつ来るのだろうか。

      • 匿名
      • 2019年 10月 14日

      問題は、アメリカという国は自国に閉じこもっても十分やって行ける国だということですね
      南北アメリカ大陸の覇権さえ確保できれば問題無く、実際そうやって大英帝国やドイツ帝国を上回る国力を蓄積することに成功しているので
      オバマ政権からトランプ政権まで、政権支持層には確実に他国への紛争介入に否定的な層が増えているので

        • oominoomi
        • 2019年 10月 15日

        シェールガスやオイルがある今は、確かに覇権を投げ捨ててもアメリカは何とかやっては行けるでしょう。
        ただし戦後アメリカの力の根源だった「国際ルールを書く権利」が中国に奪われるので、アメリカ経済は著しく衰退するでしょう。
        それよりも問題は、日本を放棄すればアメリカの対中防衛ラインがハワイまで後退する、マリアナ諸島周辺を中国の軍艦がウロつくようになる、という事です。
        果たしてアメリカは、それを耐えられるのでしょうか?

    • 匿名
    • 2019年 10月 14日

    空母は移動できる基地だという事を忘れてないか?
    地上基地は逃げ出す事ができないから弾道でも巡航ミサイルでも狙いやすいし、近隣からのテロもしやすい。つまり脆弱性は空母以下だ。
    海上基地たる空母は危険で有れば逃げる事もできるし急所へ攻める事もできる。まさに移動する要塞
    地上基地に比べ高価である事は間違い無いが、世界中の海を自由に移動できる空母はそれだけの価値はあるだろう。

      • 匿名
      • 2019年 10月 15日

      単に「移動可能」な事を強調するだけなら、じゃあ超音速ミサイルを艦船に積めばいいんじゃねって話になりますよ。

    • 匿名
    • 2019年 10月 15日

    空母の代わりにミサイルってなったら、かつてこれからは戦略爆撃機の時代だって核搭載の爆撃機に全フリして後で困ったことが浮かぶ

    • 匿名
    • 2019年 10月 16日

    イージス・アショアのような高いだけで効くかどうかわからんお守りにカネ使うのやめて
    確実に相手にとどく報復手段を持つことが現実的な戦争を抑止する手段だと
    日本人の思いが至るのが早いか 屈服を強いられるのが早いか
    相手は人間だ ヒトの理に応じた対処が求められる

    他よりヒトもカネも払うべき努力もせず あり得ないハンデ戦を公言して尚 相手を押し留められると思うなんて
    日本人はどうかしている
    しばりプレイをしていいのは日本のあり方とは対局にある国 そんな国は実在しないが

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 欧州関連

    BAYKAR、TB2に搭載可能なジェットエンジン駆動の徘徊型弾薬を発表
  2. インド太平洋関連

    米英豪が豪州の原潜取得に関する合意を発表、米戦闘システムを採用するAUKUS級を…
  3. 日本関連

    防衛装備庁、日英が共同で進めていた新型空対空ミサイルの研究終了を発表
  4. 中東アフリカ関連

    アラブ首長国連邦のEDGE、IDEX2023で無人戦闘機「Jeniah」を披露
  5. 軍事的雑学

    4/28更新|西側諸国がウクライナに提供を約束した重装備のリスト
PAGE TOP