米国関連

初期作戦能力獲得は2021年? 予定より約6年遅れてズムウォルト級ミサイル駆逐艦が完成

米海軍は24日、1隻あたり42億4,000万ドル(約4,500億円)もの費用をかけて建造したズムウォルト級ミサイル駆逐艦1番艦の引き渡しを受け入れたと発表した。

参考:Destroyer USS Zumwalt Delivers to Navy After Combat System Activation

約4年間塩漬け状態だった駆逐艦ズムウォルトが初期作戦能力獲得に向けて遂に動き出す

ズムウォルト級ミサイル駆逐艦1番艦のズムウォルトは2016年10月に就役したことになっているが、実際には議会が十分な戦闘能力の備わっていない艦の受け入れを禁じたため海軍の戦力としてカウントされていなかったという事情があり、今回ようやくBEAシステムズが開発していた戦闘システムの設置が完了したため海軍が正式に引き渡しを受け入れたという訳だ。

ただこれは形式上の話であり、これまでも海軍の手によって駆逐艦ズムウォルトの運用が行われていたため正式な引き渡しを受け入れたからと言っても実際の運用体制に大きな変更はない。

今後、駆逐艦ズムウォルトは設置が完了した戦闘システムの評価試験を海上で実施して2021年12月(※別の情報源では2023年と言っている)までに初期運用能力を獲得する予定で、2番艦「マイケル・モンスーア」も今年6月までに戦闘システムの設置が行われる予定だが3番艦「リンドン・B・ジョンソン」についてはまだ何も発表がない。

補足:当初の予定では2014年までに戦闘システムを搭載された状態の駆逐艦ズムウォルトを受け取るはずで、2015年3月までに初期運用能力を獲得するはずだった。

出典:public domain 工事が進む3番艦「リンドン・B・ジョンソン」

ズムウォルト級ミサイル駆逐艦は戦闘システムを統合されたことでトマホーク BlockVと艦対空ミサイルSM-6 Block IAの運用が可能になる。

米海軍は保有している全てのトマホーク BlockⅣを最新のデータリンクや誘導システムを備えたBlockVへアップグレードする予定だが、レイセオンは更にBlockVaとVbの開発に取りんでおりBlockVaは通称「Maritime Strike」と呼ばれている。このBlockVaは移動するターゲットの識別能力向上を、BlockVbはハードターゲットに対する貫通能力向上を目的に開発されており2023年までに初期運用能力を獲得する予定で、ズムウォルト級ミサイル駆逐艦にはトマホーク BlockVa搭載が見込まれている。

さらに艦対空ミサイルSM-6 Block IA(RIM-174 Standard ERAM)に対応したことで水平線下の目標と交戦する能力(リモート交戦)やターミナル・フェイズ(終末段階)での弾道ミサイル迎撃を行う能力を備えることになるのだが、唯一の欠点は対潜戦用のアスロックが統合されていないため対潜戦には対応していない事ぐらいだ。

因みに船首方向に2つ設置されているプレハブ小屋や、研究開発費まで含めると1隻あたりの建造費はニミッツ級空母の建造費とほど同額の75億ドル(約8,000億円)という大金が投じられている事実は、もはやどうにもならないので触れてはいけない。

出典:public domain ズムウォルト級ミサイル駆逐艦に搭載されているAGS 155mm砲

とにかく1度目の就役から約4年間塩漬け状態だった駆逐艦ズムウォルトが実戦投入に向けて動き出したことに意義があるのだろう。

果たして、完成した戦闘システムは上手く作動するのか?遅れに遅れた駆逐艦ズムウォルトの初期作戦能力の獲得は予定通りに進むのか?海軍に散々騙されてきた米議会も今度ばかりは注目しているに違いない。

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Navy photo by Petty Officer 3rd Class Emiline L. M. Senn

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 4月 26日

    肝心要の155mmAGSが使えなければ根本的な存在意義を喪失するってとこも触れちゃいけないんだろうなぁ・・・w

    • 匿名
    • 2020年 4月 26日

    プレハブ小屋w
    イナバの物置のほうが役に立つなんてことないよね?

    • 匿名
    • 2020年 4月 26日

    2番艦以降もあの後付けアンテナ設置してぼこぼこになるのかな。
    アンテナ撤去して、すっきりした見た目に戻るのか。

    • 匿名
    • 2020年 4月 26日

    アメリカの本当に怖い部分はこうやって当初はダメそうに見える物も
    最低限の運用状態まで力技で持っていってしまう粘り強さだと思う

      • 匿名
      • 2020年 4月 26日

      確かに!なんたってリアル戦闘国家!
      それにAGSに問題があるのではなく、専用砲弾が高過ぎて数を揃えられないのが問題なので〜もし、計画中の軽AGS砲の配備が進んで量産効果で単価が下がれば、懐かしの艦砲射撃が観られる日も…来るのか?

        • 匿名
        • 2020年 4月 26日

        >懐かしの艦砲射撃が観られる日も…来るのか?

        湾岸戦争の際にアイオワ級戦艦がイラクの地上設備に行った様な艦砲射撃は相手側に自軍の艦隊を攻撃されない程の力量差が無いと無理だから、そんなに必要とされる機会は無さそう。

          • 匿名
          • 2020年 4月 29日

          それは判ってるんですけどね〜ただ、元々のコンセプトが艦砲射撃だからさ…それに沿岸から対艦ミサイルやレーダーで捕捉されない為の究極ステルス形態な訳だし〜もしかしたら、南沙諸島辺りで出番来るかもよ?笑

    • 匿名
    • 2020年 4月 26日

    アメリカ海軍さあ…。これもそうだし、LCSも結局異様に高価格の巡視船になってしまったし、フォード級空母にはF35載せらんねえし(F35も欠陥品だが)、色々と酷すぎるだろ。テロ対策という名の弱いものいじめに注力しすぎた結果だろうね。はっきり言って自業自得。今や中国海軍はおろかロシア海軍すらまともに相手できるのか怪しく感じる。

    1
      • 匿名
      • 2020年 4月 26日

      それ本気?
      防衛費予算の世界ランキング調べた方が良いよ〜自分はアメ公が好きではないが…奴らがその気になったら何処も太刀打ちできないよ。

      2
        • 匿名
        • 2020年 4月 26日

        そらドル換算の数字だけ見ればアメリカが強く見えるけど、実際には購買力平価も加味しないと現実離れするよ。そもそも中国は名目GDPでもアメリカに迫ってるし…。あと、当たり前のことだけどいくら金があっても無駄遣いすれば足りないし、世界一の借金を背負ってるアメリカにはもう無駄遣いしても大丈夫なほどの力は残ってない。

        1
          • 匿名
          • 2020年 4月 27日

          いや、それは中国も同じだからさ〜並んでから言おうぜ?
          もしかして貴方は親中派?
          まさか客観的に物事を言ったまでさ〜とか言わないよね?
          そりゃ、中国が並ばないとも限らないが〜軍事技術は一日して成らずだよ。
          実際、民間レベルの技術では5Gをはじめ、日本すら追い付かない分野も多数あるのも事実だけど…日本含めて他の国もポッカーンと口を開けてないと思うよ〜それが進化なんだからさ。

          3
    • 匿名
    • 2020年 4月 26日

    「やっぱりAGS。タマが無くても大丈夫」とはいかないですからね。
    せめてミサイル周りの武器システムがイージスシステム以上の機能を備えているか、タイコンデロガ級のような艦隊防衛の機能を持っていれば活躍の余地はあったでしょうが、個艦防衛・攻撃ではアーレイ・バーク級と組み合わせてパシリをやらせるしかないでしょう。

      • 匿名
      • 2020年 4月 26日

      航行の自由作戦で使ったら威圧感は有りそう。

    • 匿名
    • 2020年 4月 26日

    トップランナーによる産みの苦しみか。
    事後諸葛亮は簡単だけど、手を焼いたシーウルフ級って感じする。

    • 匿名
    • 2020年 4月 26日

    対潜戦に使えない駆逐艦って…

      • 匿名
      • 2020年 4月 29日

      それは判ってるんですけどね〜ただ、元々のコンセプトが艦砲射撃だからさ…それに沿岸から対艦ミサイルやレーダーで捕捉されない為の究極ステルス形態な訳だし〜もしかしたら、南沙諸島辺りで出番来るかもよ?笑

        • 匿名
        • 2020年 4月 29日

        無理やりカテゴライズすれば現代版巡洋戦艦?

        21世紀のマイティフッド?

      • 匿名
      • 2020年 4月 29日

      対潜=駆逐艦って…古く無い?笑
      近代海軍では、対潜=フリゲート艦で…駆逐艦は防空艦というのが今のご時世かな。

    • 匿名
    • 2020年 4月 27日

    おっもう廃艦かと思ったらこれから就役かw
    日本近海に来航したら思いっきり中国海軍におちょくられるんだろうなw

    • 匿名
    • 2020年 4月 27日

    また何かトラブルで使えなくなりませんように。

    最初から満足行く兵器はほとんど無い。改良重ねて使えるようになれば良いでしょう。

    少なくとも、空母よりは早く実戦配備できそうだし。

    • 匿名
    • 2020年 4月 27日

    詳しい方教えていただきたいのですがこの船って何する船なんですか?
    先進技術を詰め込んでいろいろと難儀があってそれを克服しようとしている。
    ここまでは分かるんですが結局従来の船の何がダメなのでこの船が必要なんでしょうか。
    素人なので申し訳ありません。

    2
      • 匿名
      • 2020年 4月 27日

      開発当初の運用理念は、ステルス性を活かし敵国海域に接近して対地攻撃を敢行する、謂わば現代版の砲艦でした。
      でも、余りの先進性に惚れ込んだ米国海軍と米国企業が、最強ミサイル巡洋艦に仕立て上げようとしたのが迷走の始まり。ヤバイ伯父様達の夢を乗せた結果、空母の建造費と変わらぬ値段となり、沿岸域での運用が危険となる程までに大型化。
      ブチ切れた米国議会が予算を削りまくるのですが、結局は中身を削る事となり戦略価値はダダ下がりの中途半端。更には官僚と議員の攻防戦の末に3艦建造と云う、これまた中途半端な配備となりました。
      そう、貴方が仰せの如く『何する船なんですか?』と云う艦船になってしまったのです。之が敵国なら笑い転げる処なのですが、残念ながら同盟国。笑うに笑えない。結局、従来型と比べて優秀なのはステルス性と発電能力だけ。アレイバーグが大量に有った方が良かったとの状況です。

      6
        • 匿名
        • 2020年 4月 27日

        ということでこれより旧式のアーレイ・バークを現行で大量建造

        1
        • 匿名
        • 2020年 4月 28日

        お答えいただいた方々ありがとうございました。
        丁寧なご説明で大変よくわかりました。
        醜いアヒルの子が白鳥に変身できればいいですね。

        2
        • 匿名
        • 2020年 4月 28日

        一隻あたりは高価だが基礎技術の開発費用込みなんで一概に高価と言えない。

    • 匿名
    • 2020年 4月 27日

    元々は対地攻撃能力能力を超強化した「現代版戦艦」というような感じだったのに、肝となる主砲と戦闘システムが何時までたってもポンコツでこうなった

    • 匿名
    • 2020年 4月 27日

    1番砲塔を対空レーザー 2番砲塔をレールガンにでもできればいいんだが
    実戦向け試験艦としては良いかもしれない

    • 匿名
    • 2020年 4月 27日

    対イスラム原理主義組織、対テロ戦争
    非正規戦には、お呼びでない艦艇であったが
    対中国、対ロシアが想定される新冷戦構造下に置いて
    その真価を発揮するのはこれからだ。(ダーパ先生の次回作にご期待ください)

    • 匿名
    • 2020年 4月 27日

    超電磁砲搭載までは頑張ってほしい。

    • 匿名
    • 2020年 4月 27日

    最強の駆逐艦を作ろうとしたら予算オーバーで無事死亡するが間に合わせ状態で3隻まで建造される予定の不遇すぎる艦。
    費やしたお金を考えると廃艦にできないだろうから実験艦扱いされるか港の記念艦にでもなりそう。
    次のアーレイ・バーク級後継艦は上手くいくと良いね。

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