ウクライナ戦況

ロシア軍は本当にチャシブ・ヤールを占領したのか、 それともトレツクと同じか

ロシア国防省は先月末「チャシブ・ヤール解放」を発表したが、DEEP STATEが主張してきた「占領を演出するためだけの国旗部隊」が視覚的に確認され、チャシブ・ヤール防衛を担当しているドンバス大隊も「ウクライナ軍は依然としてチャシブ・ヤール市内を支配している」と説明した。

参考:“Мы начали терять Часов Яр из-за нехватки пехоты”. Командир батальона “Донбасс” Скиф о почти полутора годах обороны города

数時間後に始まるトランプ大統領とゼレンスキー大統領の会談で「前線の細かな動きなど無意味にする合意」が発表されるかもしれない

ロシア国防省は7月31日「チャシブ・ヤールを解放した」「ベロウソフ国防相はチャシブ・ヤールを解放した空挺軍の親衛隊部隊を祝福した」と発表、さらに「チャシブ・ヤール市内の各地で国旗や軍旗を掲げるセレモニー映像」も公開、ロシア軍兵士がチャシブ・ヤール市内ツェーフ2地区、ユージネ地区、シェフチェンコ地区で国旗や軍旗を掲げる様子を確認し、RYBARを含むロシア人ミルブロガーらも「ロシア軍がチャシブ・ヤールを占領した」と報告したが、本当にロシア軍がチャシブ・ヤールを占領しているかどうかは謎に包まれている。

出典:管理人作成(クリックで拡大可能)

ロシア人戦争特派員のアレクサンダー・シモノフ氏は「正確な状況は戦争の霧に包まれている」「敵はチャシブ・ヤールから駆逐された可能性が高いものの街全体の支配も確立できていない」と指摘し、DEEP STATEも「ロシアが公開したシェフチェンコ地区やツェーフ2地区で旗を掲げる様子は「旗立て作戦」に過ぎない」「この出来事は暗闇の中、雨合羽を着て接触線の後方に侵入し、昼に旗を掲げるという単純な作戦だ」「そのため敵は旗を掲げた地域を制圧していない」「過去2ヶ月間にロシア軍はシェフチェンコ地区へ少しだけ前進した」「それ以上の進展は確認されていない」と報告。

特にドネツク南西・ドニプロペトロウシク南東方面では「ロシア軍兵士が国旗を掲げて集落占領を主張する事例」が頻発し、DEEP STATEは「ロシア人は休暇と引き換えに旗を掲げる任務を行っているだけ」「外国人や一部のウクライナ人はロシア軍が集落を占領したと主張しているが事実ではない」と報告し「占領を演出するためだけの国旗部隊が存在する」と主張してきたが、これを裏付ける視覚的証拠と旗を掲げる任務を行ったロシア人兵士の捕虜の映像が登場した。

ウクライナ国防省情報総局は15日「ロシアは情報戦に新たな偽情報戦術を積極的に採用している」「これは集落を占領したと見せかける映像を撮影して戦場での成功を意図的に作り出すことを目的している」「ロシア軍は国旗を掲げるための小規模なグループ(2人編成)をウクライナ軍の陣地の背後に回り込ませて『占領』を主張するための映像を撮影している」「このような映像はクレムリンに勝利を報告するため、ウクライナ社会への圧力を目的にした情報戦に使用されている」と報告。

情報総局はロシア軍兵士が国旗を掲げて集落占領を主張したアンドリーイフカ・クレフツォヴェ集落内でウクライナ軍兵士が国旗を掲げる様子、この国旗を掲げる任務を行ったロシア人兵士捕虜を公開し、DEEP STATEも「ロシア人が旗を掲げているだけで集落を支配していない証拠が登場した」「アンドリーイフカ・クレフツォヴェでは最低でもロシア人兵士50人が排除され10人以上が捕虜になった」「したがって、アンドリーイフカ・クレフツォヴェの状況に変化はない」「ゼレニ・ハイ経由で旗を掲げる任務を行ったロシア人兵士が侵入してくる以外は」と主張。

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チャシブ・ヤール防衛を担当しているドンバス大隊(国家親衛隊第18旅団の第2特務大隊)のミコラ・シェフチュク中佐もUkrainska Pravdaの取材に応じた中で「ロシア軍はチャシブ・ヤールの大部分を支配しているが、ウクライナ軍はシェフチェンコ地区、ツェーフ2地区、ザヒドネ地区の一部、ピヴニチュニ地区の一部を支配している」「現在はマイスケ、ヴィロリュビフカ、ザヒドネ地区、ミコライウカへの進入路で戦闘が起きている」「ドンバス大隊の兵士はチャシブ・ヤールを防衛する部隊の中で最も深い位置、つまりチャシブ・ヤールの中心部で戦っている」と説明し、ロシア軍によるチャシブ・ヤール占領は事実ではないと強調した。

ウクライナ軍は重要拠点を失っても政治的調整が整うまで「まだ市内(集落内)の陣地を保持している」と主張し続けることがあるものの、この場合はDEEP STATEや現地部隊から容赦ない批判が浴びせられるが、チャシブ・ヤールに関してはDEEP STATEや現地部隊も「ロシア軍占領は事実ではない」という見解で一致しており、どちらかというと「壮大な嘘報告=占領発表から半年が経過しても完全占領に至っていないトレツク」と同じ流れになってきている。

出典:18 Слов’янська бригада

今のところRYBARを含む主要なロシア人ミルブロガーらは「国防省発表」に忠誠心を見せているが、占領したはずのチャシブ・ヤール市内でウクライナ軍兵士を攻撃する視覚的証拠でも登場すれば手のひらを返す可能性があるものの、これはロシア軍が嘘つきと言っているのではなく「夏季攻勢に合わせて相当量の情報戦が仕掛けられている」「夏季攻勢が次々と成功を収めていると演出している」「夏季攻勢の成功でウクライナ社会を揺さぶろうとしている」という意味だ。

例えばロシア国防省は「クピャンスクをオスキル川西岸から包囲しかけている」と演出するため、6月20日「ロシア軍がモスコフカを占領した」と、7月6日「ロシア軍がソボリフカを占領した」と発表し、国営メディアも国防省発表に基づいて「ロシア軍がクピャンスクから1km~2kmの距離まで前進した」と大きく報じ、プロパガンダ色の強いロシア人ミルブロガー=Воин DVも「第43機械化旅団と第151機械化旅団は司令部の大部分をクピャンスクから撤退させた」「兵士たちは自身が置き去りされたことを理解し、絶望的な状況から脱出するため司令部と共に逃げようしたが、賢い指揮官らは全ての道を地雷で封鎖した」と報告。

出典:管理人作成

しかし、実態が伴わないオスキル川西岸から包囲には直ぐに疑問の声が上がり、RYBARは「ロシア軍がモスコフカやソボリフカを占領した形跡が見られない」と、Два майораも「ロシア軍によるモスコフカやソボリフカの占領は事実と異なるとRYBARは指摘した」「我々も両拠点にロシア軍が存在する証拠を見つけられずにいる」「前線で戦う兵士も国防省の公式発表後に強い不満を述べた」「実際に戦っている兵士の間で『戦場における成功の前借り』は受け入れがたく士気を低下させるだけだ」と批判した。

ポクロウシクでもDRG=ロシア軍の破壊・工作を行う特殊部隊の市内侵入に合わせて「ロシア軍の到着を喜ぶポクロウシク市民の偽映像」がネット上に投稿され、ロシア軍がポクロウシク市内に安定した足場を確保して市内中心に到達したという偽情報が蔓延したが、DEEP STATEは「これはセリダブの再現=市内に侵入してウクライナ軍部隊にパニックを引き起こし撤退させることが目的だった」と報告しており、もうモニター越しの観察者には何が事実で何が本物か区別がつかない。

ウクライナ側というより西側でも「ポクロウシク方面でウクライナ軍がラジンを奪還した」という偽報告もしくは誤った評価が蔓延し、視覚的証拠のみ頼った観察者の評価が如何に信用できないかを浮き彫りにした格好だが、こんな問題も数時間後に始まるトランプ大統領とゼレンスキー大統領の会談で「前線の細かな動きなど無意味にする合意」が発表される可能性があり、そうなれば戦況マップの更新も終わりを迎えるものの、今度は戦後に出てくる情報と答え合わせが始まるのだろう。

関連記事:戦争情報との付き合い方、立場が異なる視点を組み合わせ判断するのが無難
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関連記事:ロシア国防省がチャシブ・ヤール解放を発表、市内の各所で国旗を掲げる

 

※アイキャッチ画像の出典:Генеральний штаб ЗСУ

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コメント

  • コメント (9)

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    • エーミール
    • 2025年 8月 18日

    チャシブに関しては映像を見る限り隠れる場所なども皆無ですし、両軍とも兵士を送って占拠できないグレーゾーンと化しているのではないでしょうか。

    都市側を占領しているロシア側からすれば侵入しようとすれば攻撃できるが兵士を送ることもできない、けれども大部分は占拠しているし旗揚げなどもやろうと思えばできるので良し。
    ウクライナ側は完璧に占拠できないが、攻撃自体は可能であるし何とか取り返そうと戦闘を継続しているのでロシア側は完全に占拠できていない。この差なのだと思います。ロシア側からすれば9割占拠できているしヨシ!ウクライナ側は1割占拠できていないし奪還の可能性があるのでヨシ!と。

    ウクライナ側もまだ戦ってるので占拠できていない!と言うようなスタンスは以前からありましたし、ロシア側も大体占拠したしもう解放したって言ってもいいかもな〜みたいな具合がありましたし、ウクライナは口が裂けても負けを早々に認めたくたい。ロシア側は大部分さえ占拠できればあとは消化試合なのでぱぱっと功績を上司に報告して旨みが欲しい。こういう流れは開戦時から多く、何とも両軍の問題でもありますよね。

    余談ですが、まだウクライナ側はロシア領土に固執しているんですかね……。ポクロでアゾフなりが功績を上げたのを見るに、今クルスク方面に張り付かせている部隊を戻らせて少しでも各前線の状況改善に尽くしてくれれば、停戦しても一般のウクライナ兵は助かるのではないのかなと……。

    37
    • Mr.R
    • 2025年 8月 18日

    確かにたまにポンチョを着た2~3人程度のロシア兵がFPVに攻撃される動画があって夜間なら分かりにくいだろうなとは思っていたのですが、浸透するためだったのか。
    頭からすっぽり被っていて前しか見えてなさそうだし場合によっては見つからないようにするためか自爆ドローンが接近する中でも微動だにしない兵士もいたりします。閉ざされた視界の中で死をもたらすドローンの羽音が急速接近してくる恐怖は想像もできませんね

    10
    • ポンポコ
    • 2025年 8月 18日

    チャシブヤールは掃討が完全に終わってないか、隣接地域から反撃か浸透してきているのではないかな?本当の状況はわかりませんけどね。でも、すでに作戦はコンスタンチノフカ戦になっていると思う。例えばサイパンもある大隊が降伏したのは終戦後だしね。でも、すぐに硫黄島の戦いに移っていますしね。

    17
    • p-tra
    • 2025年 8月 18日

    まあハイブリッド戦争がどうたらとか言ってた時から
    胡散臭いこと言ってんなとはちょっと思ってた。
    クリミアは首尾よく手に入れたけど、結局全土占領を目標にしようと
    思ったらガチの陸戦をする必要性が絶対にあって、ちょっとSNSを
    ポチポチして情報戦()をすれば楽勝なんてことは全然なかった。
    成功の前借り云々は正論でしょう、
    結局戦場で物理的に状況を動かさない限り無意味だ。
    情報戦は成功をアピールするものであって、これ自体で戦果を生み出そう
    とするのは馬鹿げてます。

    13
    • 理想はこの翼では届かない
    • 2025年 8月 18日

    胡散臭かったり、何度も使うことで信頼性が失われるリスクはありますが、情報戦で「戦わずに勝つ(撤退させる)」事ができればものすごく効率が良いので仕掛けまくってるのかもしれませんね
    ただ、流石に狼少年状態な気もします

    23
    • たむごん
    • 2025年 8月 18日

    トップ会談、外交で一気に情勢が変わるというのは、よくある話しですからね…

    トランプ大統領=ゼレンスキー大統領、首脳会談の議題ならびに、何を合意するのか・合意できなかったのかについて注目したいと思います。

    5
    • レプタリアン
    • 2025年 8月 19日

    そろそろ戦争も終わりかと思うと、長きに渡りこの戦争をウォッチして情報発信してくれた管理人さんに感謝してもしきれない思いです
    ありがたや、ありがたや

    14
    • nanashin
    • 2025年 8月 19日

    当初ウクライナが頑張って海や川を渡って旗立てて部隊壊滅させていた
    当時は眉をひそめたものだがさてロシアは追い詰められたのか学んだのか

    1
    • ノーテイスト
    • 2025年 8月 19日

    記事中でも指摘されている「答え合わせ」にこそ、両陣営の正当性と未来がかかっているとさえ考えています。どこまで事実に基づいた検証が出来、それを今後に活かせるのか注目です。

    3

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