ウクライナ戦況

エネルギーインフラを狙った長距離攻撃の応酬、ウクライナもロシアも損害を被る

ウクライナ軍とロシア軍による長距離攻撃の応酬は激しさを増しており双方のエネルギーインフラに損害が生じている。特にウクライナ軍の攻撃規模は2日連続で縮小したものの、ヴォルゴグラード州の天然ガスプラントや石油パイプライン、ロストフ州の石油備蓄施設への攻撃に成功した。

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ウクライナ軍は長距離攻撃の詳細を一切明かさず、ロシア軍も迎撃した無人機の数しか報告していないため、どれぐらいの規模でロシア連邦領を攻撃している不明

ウクライナ軍とロシア軍による長距離攻撃の応酬は激しさを増しており、ウクライナ空軍は8日「ロシア軍が7日夜から8日朝まで183機の無人機を発射した」「183機中100機がShahed型無人機=自爆型無人機で、防空部隊が183機中154機を無力化し、22機の自爆型無人機が11ヶ所に着弾した」と、9日「ロシア軍が8日夜から9日朝まで112機の無人機を発射した」「112機中70機がShahed型無人機で、防空部隊が112機中87機を無力化し、22機の自爆型無人機が12ヶ所に着弾した」と報告。

出典:管理人作成(クリックで拡大可能)

ウクライナメディアも「8日夜から9日朝の攻撃でオデーサのエネルギー施設に甚大な被害が発生した」「チェル二ーヒウ州のエネルギー施設に対する攻撃で電力供給が厳しい」「チェル二ーヒウ州とスームィ州を結ぶ鉄道が攻撃され移動や輸送が制限されている」と報じ、ゼレンスキー大統領も「最も激しく攻撃されているのはハルキウだ」「もしエネルギーインフラに対する攻撃が止まらないなら我々も同じことをする」「ロシアも戦争の代償を痛感しなければならない」と述べ、9月末に続き「ウクライナに停電を強いるならロシアも停電を経験することになる」と警告した。

ウクライナ軍も2日連続で200機超えの無人機攻撃を繰り出していたものの、ロシア国防省は8日「7日夜から8日朝までの間に9地域で計53機の固定式無人機を撃墜した」と、9日「8日夜から9日朝までの間に7地域で計19機の固定式無人機を撃墜した」と報告し、ウクライナ軍の攻撃規模が2日連続で縮小したが、ヴォルゴグラード州コトヴォの天然ガスプラントと石油パイプライン施設で火災が発生し、ウクライナ軍参謀本部もコトヴォの天然ガスプラントと石油パイプライン施設を攻撃したと発表。

ロシア国防省が10月に発表したロシア連邦領内で迎撃した自爆型無人機(固定翼のみ)の数
ロシア国防省の報告数
10月30日夜~1日未明20機
1日夜~2日未明85機
2日夜~3日未明0機
3日夜~4日未明117機
4日夜~5日未明32機
5日夜~6日未明251機
6日夜~7日朝208機
7日夜~8日朝53機
8日夜~9日朝19機
785機

ロストフ州マトヴェエフ・クルガン上空でもFP-1が目撃され石油備蓄施設で火災が発生し、ウクライナメディアも「ロシアの燃料不足は深刻化している」「クリミアでのガソリン販売は30リットルに制限されていたものの現在は20リットルに制限が強化されている」「同様の制限がスヴェルドロフスク州とチュメニ州にも導入された」「シベリア地域の中心都市=ノヴォシビルスク市でガソリンスタンドを展開する企業(АЗС ПРАЙМ)もプレスリリースの中で『精製所の出荷停止を受けてAI-92グレードのガソリン販売を中止せざるを得なくなった』と報告した」と報じている。

冬に向けたエネルギーインフラへの長距離攻撃は双方が相手に損害を与えている状況で、ゼレンスキー大統領も「ベルゴロドもウクライナ軍の攻撃で停電に見舞われている」「先週にはネプチューンとフラミンゴミサイルを同時に使用した攻撃が行われた」「これは両ミサイルが大量使用されたことを意味するわけではない」「それでも両ミサイルが初めて目に見える形の戦果を上げたという意味だ」と述べ、さらにパリャヌィツャ、ルタ、リュートイについても興味深い言及を行った。

出典:Президент України

“パリャヌィツャは既に数十回もロシアの軍事施設を攻撃しており、もう単発での使用ではなくなった。さらにルタが250km離れた海上目標を初めて攻撃することに成功した。そしてリュートイを300機使用した攻撃は本当に本格的な作戦で、我々はウスチ・ルガやプリモルスクに到達することができると認識している。これまでの結果について私は大きな成功だと確信している”

パリャヌィツャはジェットエンジンで作動する小型の自爆型無人機(推定射程700km前後)で、ルタはプーチン大統領が始めたウクライナ侵攻を正面から批判し、2024年1月にロシア国籍を放棄した富豪ミハイル・ココリチ氏が欧州に設立したDestinus製の自爆型無人機(推定射程300km前後)で、リュートイはウクロボロンプロムが初めて開発した自爆型無人機(推定射程1,000km以上)で、FIRE POINT製のFP-1登場前から実戦投入されている。

出典:Destinus

ゼレンスキー大統領は核心をぼかして話しているため「リュートイを300機使用した攻撃」が「今年8月のウスチ・ルガ攻撃」とリンクしているのか不明で、ウクライナ軍は長距離攻撃の詳細を一切明かさず、ロシア軍も迎撃した無人機の数しか報告していないため、どれぐらいの規模でロシア連邦領を攻撃しているのか知る手がかりがない。

それでもウクライナ軍が利用できる長距離攻撃の手段が多様化(パリャヌィツャ、ルタ、リュートイ、FP-1、フラミンゴミサイル、ネプチューン対地バージョンなど)していることは非常に興味深く、特性や飛行プロファイルが異なる手段の同時使用は敵防空システムの負担を確実に大きくしているだろう。

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※アイキャッチ画像の出典:Генеральний штаб ЗСУ

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コメント

  • コメント (13)

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    • Mr.R
    • 2025年 10月 10日

    ロシア側もジェットエンジン搭載のシャヘドを少数ながら投入しているそうです。これまでは技術等の進歩が早い様を日進月歩と表していましたがもう新しい言葉が必要かもしれませんね

    13
    • クラスノヤルスク
    • 2025年 10月 10日

    石油資源が豊富なチュメニでさえもガソリン規制がかかっているんですね。ロシアの燃料不足はかなりのところまで来てそうです。

    12
      • ras
      • 2025年 10月 10日

      いやまあガソリンは原油あっても精製が必要なのであまり関係ないですね…
      結局モスクワなど都市部が優先される経済の中で地方のほうがいつも物資的にかなり不憫な思いします

      4
    • たむごん
    • 2025年 10月 10日

    ガソリン販売の制限強化・ネット上での批判増加など、ヒューミント(現場)に近い点から言えば興味深く感じます。

    赤外線衛星を持つ国ならば、石油施設の『フレアストックの定点観測』を続けたりして、動向を調査できるのかなあと。

    チュメニのようなソ連時代からの巨大石油資源地帯は、『地産地消』のように最適化されているのに供給制限あるということは、(一時的かもですが)やはり厳しい状況なのかもしれませんね。

    11
      • kitty
      • 2025年 10月 10日

      なにも知識がないのですが

      >『地産地消』のように最適化されている

      というファクトがあるのですか?
      むしろロシアの様な強権的な国では穀倉地帯のウクライナで飢餓を起こすような事態の方が起きやすそうですけど。
      国内で飢餓輸出していそうで。

      4
        • たむごん
        • 2025年 10月 10日

        経済合理性ですね。

        石油精製施設から、近隣のガソリンスタンドまで運んだ方が、物流コストが安くなる(利鞘が大きくなる)からです。
        正確に申し上げると、地元に競争力のある安価な原油があり・精製施設もあるのであれば価格競争力が極めて高く、ガソリンとして使うという趣旨でした。

        日本でも、都道府県ごとにガソリン価格が違うわけですが、一般的には石油精製施設のない都道府県・遠い場所は高くなります(長野県・離島なんかは有名ですね)。

        7
    • ponta
    • 2025年 10月 10日

    まさに長距離砲の打ち合い
    どちらが打ち勝つのでしょうか?

    3
    • Whiskey Dick
    • 2025年 10月 10日

    ロシアの製油所はタンクなど主要機材に金網を付け始めた模様。射程数百kmの大型ドローンの攻撃に耐えるには不十分だが、対空センサーで検知しづらい電動ドローンぐらいなら効果はありそう。

    4
    • 名無し
    • 2025年 10月 10日

    ロシア内はドローン被害だから順次復旧されてるのに対し、ウクライナ内はドローンだけじゃなくミサイルやら爆弾みたいな高火力だから致命的な破壊多いな

    そもそもロシアの製油施設やら破壊してもベラルーシや中国で精製されたり備蓄されてるでしょ?
    結局ガソリン価格安定し給油制限も一時的でしかなかったんだから効果あるのか?
    去年から製油施設破壊と報道し続けてるが2024年の経済成長率4%だったし兵器も増産されてるのに。

    もうウクライナ国民を強制徴兵し死地に送るような代理戦争はやめようぜ。
    ウクライナ国民を一番殺害してるのは欧米に支援されてるウクライナ政府じゃん。

    29
      • たむごん
      • 2025年 10月 10日

      仰る点も、真理でしょうね。

      日本もそうですが、サプライチェーンに混乱でても、長期的に見れば復旧したりします。
      ナビウリナ中銀総裁を見ても、ロシアのテクノラートは優秀という前提で見た方が、なんだかんだ無難なのかなと。

      前線での攻勢がどうなっているのか、これを少し長い目(1.2か月くらい)見た方が、無難なのかもしれませんね。

      4
    • 名無し
    • 2025年 10月 10日

    これからは攻撃を受けては修理するの我慢比べになりそうですが、ロシアはどれだけ中国が支援してくれるか鍵になりそうですね。
    ただ、支援を受けるほど中国の経済的な属国化が進みそうですが、どうなることやら。

    5
    • AKI
    • 2025年 10月 10日

    人的な資源ではウクライナはロシアにかなわないので、資金的消耗戦の方がいいんでしょうか?

    1
    • ウクライナ人の妻を持つ男
    • 2025年 10月 10日

    ご無沙汰しております。

    日本ではロシアのガソリン不足の報道が盛んですが、実際はどうなのかを妻が探ってみました。クリミア半島にすむ知人に数日前に尋ねたところ、返ってきた答えは「ガソリン不足?知らなーい。クルマ持っていないし。少なくとも交通公共機関は何の変化もないよ。」とのことでした。

    当然ながら、ガソリン不足になって最初に規制を受けるのは一般車であり、次に業務用車、公共交通機関、最後に軍用車両という順になるでしょう。ガソリン不足が軍の活動を抑制するという期待は過剰だと思います。

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