電子妨害を受け付けない光ファイバー制御のFPVドローンは戦場で大きな成果を上げているものの、全く対抗手段がないと言うわけでもなく、エストニアで開催されるNATOとウクライナのイベント(今月20日)で民間企業が研究している対抗技術が披露されるらしい。
参考:Ukraine, NATO eye tech trials for intercepting Russia’s cabled drones
商業的な側面からも「対抗手段の需要」は大きなビジネスチャンスに発展する可能性が高く、民間企業の競争から何らかの結果が得られるかもしれない
ウクライナとロシアの戦争において一般的なメディアは「ゲームチェンジャー」という言葉を乱発し、もはやウクライナに提供された西側兵器はゲームチェンジャーだらけだが、ディフェンスメディアや専門家が認める真のゲームチェンジャーはF-16でもなく、巡航ミサイルでもなく、HIMARSでもなく、ATACMSでもなく、エイブラムスでもなく、コストが安価で大量調達による消耗可能な無人機=ドローンだ。

出典:Сухопутні війська ЗС України
この戦いにおけるドローンの役割は戦争初期と現在では大きく異なり、2022年~2023年中盤までは主に商用ドローン=DJI製Mavicによる戦場認識力の拡張が砲兵部隊の効果を飛躍的に高め、爆発物を運搬して車輌の開口部、塹壕、移動中の歩兵に向けて投下することで攻撃手段としての可能性を切り開いたが、2023年後半になると成形炸薬弾を搭載したFPVドローンが登場、これによって戦車や歩兵戦闘車を直接破壊できるようになった。
さらにFPVドローンの大量生産にも成功して価格が下がり、この兵器の供給量は敵兵士1人を排除するのに使用できるほどで、2024年の戦いは「FPVドローンの運用に有利な地形を確保するか」「如何の通信アンテナを標高の高い地点に設置するか」「電子戦システムでFPVドローンの有効性を如何に妨害するか」に注目が集まったが、ロシア軍は2024年春頃に電子妨害を受け付けない光ファイバー制御のFPVドローンを投入、これを大量に使用することでウクライナ軍をスジャから追い出すのに成功したが、全く対抗手段がないと言うわけでもない。

出典:Сухопутні війська ЗС України
光ケーブルは日光を反射しやすいため上空からの発見が容易で、ウクライナ軍は光ファイバーを辿って敵の運用拠点を攻撃する方法、発見した光ファイバーをドローンで切断する方法、ドローン本体を何らかの手段で破壊する方法を採用しているが、戦場での使用が増えると光ファイバーの残骸が散乱して射点まで辿り着くのが困難になるため「光ファイバーの発見と追跡に依存した方法」だけでは不十分だ。
この問題は民間企業でも研究されており、Defense Newsは「エストニアで開催されるNATOとウクライナのイベント(今月20日)で民間企業が研究している対抗技術が披露される」「想定されている対抗手段は探知範囲が最低でも500m以上、昼夜を問わず能力を発揮でき、重量は100kg以下、費用は10万ドル以下であることが要求されている」「最善の対抗手段は複数の対抗手段を組み合わせること」「特に敵の通信を傍受してオペレーターの場所を特定する技術の併用が重要」と報じている。

出典:Brave1
戦争は状況への適応が重要で、敵側が適応努力を怠らない限り「どれだけ画期的な戦術や技術も時間の経過とともに効果が劣化していく」と言われており、光ファイバーの優位性を根本的に無効化することは出来なくても「一方的な状況を緩和・改善すること」は可能だろう。
因みにDefense Newsは「電子妨害を受け付けない光ファイバー制御のFPVドローンは世界的な軍事課題になっている」と指摘し、商業的な側面からも「対抗手段の需要」は大きなビジネスチャンスに発展する可能性が高く、民間企業の競争から何らかの結果が得られるかもしれない。
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※アイキャッチ画像の出典:Brave1
ここ2年で一気に未来の戦争感がしてきましたね…
対人ドローンは怖すぎます
バグか何かか
人類の10分の9を抹殺しろと命令されれば、こうもなろう
あんな細い光ファイバーでも分かるんだな
ちょっと意外
ウクライナ=ロシアの間で、(有効な)新技術・新戦術、それに対する対抗手段がドンドン進化していきますね。
軍事技術の進歩は、戦時・平時で全然違うと言われてきましたが、ドローンに関しては分かりやすい形でそれを見ている気がします。
昔光ファイバーの工事のバイトしてた際に光ファイバーはすぐに折れるものなので慎重に扱うようにと言われたの思い出すけど、技術の進歩は進み釣り糸の様な強度耐性の光ファイバーが開発実用化されるの見ると技術革新の早さに驚嘆する。日本は当時はフジクラと住友が光ファイバー関係頑張っていた記憶あるけど何とか国産で軍事民需両面での奮闘に期待したい。
光ファイバードローンって要するに有線式ドローンなんですよね?
だったら対応策の一つとしてケーブルを切ってしまえばよろしいのでは?
素人の意見ですが。
実際にハサミでパチンと切る動画がありますね。
目の前を通り過ぎる光ファイバードローンをやり過ごす瞬間は映像で見てるだけでも恐怖を感じます。
両軍ともにわざわざアピールしたがらないでしょうが光ファイバーの経路に地雷撒くくらいはやってそうですよね
もちろん他のドローンや砲撃の脅威もありますし、光ファイバー辿るのもおそらく命がけです
書いてて気づきましたが、危なすぎて不可能なのでさすがに上空から辿ってるんでしょうね
これも結局、肉眼と人間では難しいので、カメラとAIで操作位置を予想するようになるんだろうな。
対策も必要だけど、光ファイバーFPVドローンは開発しないといけない。
一方その頃、ロシアはハサミを使った
使用済み光ファイバードローンを確保してその端から光を当てると逆にドローン操縦者の位置まで流れてく。極僅かな漏れを察知出来れば対処法としては完成する。
まあ操縦者も発射位置と操縦位置を離したり 定期的な移動で回避するのだが。
後ろから追随するドローンにカッターや散弾持たせるか、単に砲撃するかで光ファイバー切るくらいはやってるんじゃないでしょうか。被覆で光ファイバーを見えにくくするのは重量が増えて難しそうですが、耐久性を高めるために色々コーティングする技術はあるようなので外から光を反射しにくくするコーティングとかも開発されるかも。
理論上はその通りなんですが、髪の毛より細い光ファイバーを見つけて数キロとか数十キロ辿るというのは戦場ではほぼ不可能じゃないでしょうか。
光ファイバー自体を即座に一目瞭然に検出できる画期的な技術でも出てこない限り「辿られる」という弱点はほぼ無いと見ていいと思います。
聞くところによるとレーダーは当然ダメなのでレーザーとかを当てて赤外線カメラで反射を検知して見つけるみたいなことが模索されてはいるようです。
>操縦者も発射位置と操縦位置を離したり
これはすぐ思いつくし間違いなく実践されてるのだろうが、発射位置(ドローンから光ファイバーでつながった受信部側末端)と操縦位置の間はどうやって通信を繋ぐのが実用的なのだろうか。
単純に無線で通信すると、敵が光ファイバーの受信部末端まで辿り着いたときのリスクがあるし、中継地点を複数かますとか、あるいは受信部末端と操縦位置の間も光ファイバーで繋いだうえで地中に埋めてしまうとか?
あまり複雑で手間がかかる運用は現実的ではないだろうし。
単に、ケーブルを草むらの中を通したり、上に土を撒いたり建物の中を通したりするだけですよ。
普通の信号線や電源ケーブルを隠すのと同じです。
有線ドローンは、ケーブルの方向で大体の操縦者の潜伏地点の予想は出来るんですよ。なので、その辺りにめくら打ちに155ミリを何発か叩き込めば、衝撃で線が切れるか操縦者が逃げるので無力化出来ます。
ただ、そんなスピードで制圧射撃を砲兵に依頼して照準して着弾させるなんて不可能、というのが目下の課題ですね。
結局、「性能の割にやたら安くて手軽」というのがドローンの圧倒的なアドバンテージなんですよ。
確保したドローン起爆されない?
光ファイバーを付ければ当然コストが上昇するので、結局は無線ドローンが一番安牌とも思えますが
帯域の混線を回避して攻撃密度を上げるにも光ファイバードローンは有用ですし、光ファイバー型も廃れる事は無さそうですね
本当に日進月歩で油断すると置いていかれますね…
光ファイバードローンはクッソ長い尻尾が付いている訳なので本体を直撃できなくても光ファイバーを絡めとって振り回したり、ファイバー沿いに追尾すればよいとか尾を照らせば航跡から追いかけられるという面もあるのかね?
もっとも、兼用ドローンとかだと光ファイバーだけ切ってもダメだし、トカゲのしっぽ切りで切り離してきたりなんだろうけどもね。
光ファイバーはドローン側が繰り出すので「絡めとって振り回し」は意味無いです。
記事にあるように、戦場での運用が進めば光ファイバーが地上に散乱する状況になるので、それを辿ってドローンやオペレーターの位置を特定しようとするのはアミダくじを引くようなものかと。
対ドローン対策なんかは日本も民間ベンチャーでも勝負できそうな分野なんでしょうか?
火薬を使用していないだけに、免許と第三者が侵入できない敷地を確保すれば、
実験し放題という日本の民間企業が簡単に行えない実証実験の壁をクリアできそうな気が
ドローン自体の製造は多大な資金調達可能な大企業でもない限り中国企業と戦えなさそうですが
思うのですが。
光ファイバードロンを多用した戦場の、戦場清掃などはどうしてるのかな。
よその記事の中で、森の中がファイバーだらけ、と言うのも読みました。
霞網状態(!)なのかな、と想像します。
ガラスは僅かに水に溶けるけれど、時間は掛かるだろうし。
「敵の視線と腕の位置、照準の方向を見れば敵の銃撃は避けられる…」
のガンカタ理論並みの無理難題に聞こえるわ>光ファイバー対策
懐かしのワイヤートラップとか低コストドローン対策になりませんかね
記述されている対ドローン策は、蚊を一匹ずつ叩いているようなもので対策にはなっても根本的に排除は出来ない策ですからねぇ。
無線ドローンを妨害電波で妨害するといった蚊取り線香や殺虫剤的な物が出て来ない限りは、費用対効果でやらないよりはマシ・やらないとダメなので効率悪くてもやるしかない。のが現状かと。
まあそのうち強化された自律徘徊型のドローンがまた出て来るでしょうから、イタチごっこが延々と続いて手軽に自分達の首を自ら絞める事になる技術を磨き続けるチキンレースを際限無く続ける事になるでしょう。
この戦争のおかげで、テロリストたちは大喜びですな。
アリエクとかTEMUでみるとドローン用のは高速ネット光回線で使うような高品質のガラスファイバーではなく
軽量の使い捨てできるプラスチック光ファイバー(POF:Plastic Optical Fiber)
フライング・ラムばりの切断用の翼持った大型ドローンでトロールするとか
ドローンの光ファイバ切断に対しては、自動自立挙動を仕込むか無線制御による冗長構成にするか。
あと光ファイバ中継台を設置し、後方遠隔地から複数の光制御ドローンを管理するのがこれからの課題だね。
最近のドローンは非常に面白そうだから、インフラエンジニアとして研究開発に参加してみたいよ。