ウクライナ戦況

ポクロウシクの後を追うコンスタンチノフカ、ロシア軍の攻撃で街は死にかけ

ロシア軍の夏季攻勢における最優先はポクロウシク方面で間違いないものの、その隣に位置するコンスタンチノフカ方面も状況が悪化しつづけており、Wall Street Journalは21日「コンスタンチノフカは死にかけている」「2022年や2023年を戦った本物の兵士はもう存在しない」と報じた。

FPVドローンに狙われた際の対処方法は電子戦システムのスイッチを入れ、加速し、機動し、祈るだけ

ロシア軍の夏季攻勢における最優先はポクロウシク方面で間違いないものの、その隣に位置するコンスタンチノフカ方面も状況が悪化しつづけており、Wall Street Journalは21日「ウクライナ軍の地下司令部を出ると建物には空爆の傷跡が残り、道路にはドローン攻撃で焼け焦げた車の残骸が転がっている。街に残る住民も僅かで、ほとんどの店は閉まったままでコンスタンチノフカは死にかけている」と報じ、ポクロウシクとコンスタンチノフカの状況について以下のように述べている。

出典:管理人作成(クリックで拡大可能)

“コンスタンチノフカ周辺では第93機械化旅団の兵士が3ヶ月間も塹壕に閉じ込められたままで、兵士のローテーションはドローンの視界が遮られる霧や雨を待つ必要がある。2014年からウクライナ東部でロシア軍と戦っている第93旅団の大隊長=デレヴィアンコ中佐は「かつてない速さで戦争が進化している」「戦場を覆うドローンは歩兵、装甲部隊、歩兵、後方支援、塹壕の設計までドローンに適応せざるを得ないほど支配的になっている」と言う”

“この細身の指揮官は廃墟になったアパートの地下司令部から担当区域の防衛戦を指揮しており、ノートパソコンを操作する兵士が侵入を試みるロシア軍兵士の場所までドローンオペレーターを誘導している。6万7,000人の住民が暮らしていた工業都市コンスタンチノフカは夏季攻勢における主要目標の1つで、ロシア軍は肥沃なドネツク地方を西へゆっくりと前進しており、僅かな戦場の利益のため毎日数百人の兵士を失っている。この死傷数の最大の原因は砲撃ではなくドローンの攻撃だ”

出典:93-тя ОМБр Холодний Яр

“コンスタンチノフカは経験豊富な第93機械化旅団が守りを固めているが、ロシア軍は田園地帯を通過して側面の突破を試みているものの、これを実現するには何マイルも遮蔽物のない田園地帯を徒歩やバイクで通過しなければならず、大半の攻撃はウクライナ軍の防衛ラインに接近する前にFPVドローンで破壊されるが、生き残ったロシア軍兵士は再結集してウクライナ軍の塹壕や陣地を襲撃するため、このロシア軍兵士を1人づつ追跡して攻撃しなければならない”

“逆にロシア軍のドローンもコンスタンチノフカを苦しめている。固定翼のOrlanとZaraが街を絶えず監視しており、光ケーブルで制御されるFPVドローンは電子妨害の影響を受けないため民間人を含む全てのものを攻撃する。ウクライナ軍の地下司令部を出ると建物には空爆の傷跡が残り、道路にはドローン攻撃で焼け焦げた車の残骸が転がっている。街に残る住民も僅かで、ほとんどの店は閉まったままでコンスタンチノフカは死にかけている。この地域で運用される車輌は溶接されたドローンシールドで覆われており、まるでマッドマックスに出てくるディストピアファンタジーのようだ”

出典:管理人作成(クリックで拡大可能)

“コンスタンチノフカから約30マイル離れたポクロウシクは破滅への道を先に進んでいる。まだ街は陥落していないものの被害は甚大で、ロシア軍のゆっくりと流れる溶岩のように前進し、ドローンと爆弾で破壊可能な全ての集落や街を飲み込んでいる。第68猟兵旅団のT-72はポクロウシク郊外の森林地帯に身を潜めており、街に前進するロシア軍を標的に長距離攻撃を行っているが、戦車部隊の指揮官は「ドローン戦争において戦車は移動砲台としてしか役に立たない」「攻撃に戦車を投入しても目標に近づくことすらできない」「戦車はFPVドローンによって殺されるだけだ」と言う”

“このT-72は数日前、ポクロウシクに向けて夜明け前の道を移動中、後方を走る車のヘッドライトに照らされ直ぐにFPVドローンがやって来た。戦車に搭載された電子戦システムもドローンの接近を検出して妨害を試みた。この際の対処法について兵士らは「加速し、機動し、祈るだけで、ロシア軍のFPVドローンは数ヤード離れた場所で爆発した」と述べた。大統領旅団のブルアヴァ無人機部隊は秘密の地下壕でドローンの技術開発に専念している”

出典:68 окрема єгерська бригада ім. Олекси Довбуша

“この部隊の指揮官はドローン戦争における次のトレンドについて「AIを搭載したFPVドローンになる」と予想しており、AIチップを内蔵したドローンを見せてくれた。このドローンはオペレーターが移動する目標を選択すると制御信号が妨害されても自律的に攻撃を遂行すると言う。さらにウクライナのドローン生産はロシア軍の進化に対応するため数ヶ月毎に改良型に切り替わり、この指揮官は「現在のバージョンは6世代目で故障することは1度もない」「以前はロシア軍の車輌が15輌も現れると恐怖だったのに今では楽しみになった」と述べたが、同時に「(この状況は)ロシア軍のドローン部隊にとっても同じだ」と付け加えている”

“大統領旅団はキーウで儀礼的な警護任務を担っていたが、ウクライナ侵攻が始まると通常の戦闘旅団として戦争に参加した。この指揮官と部下は戦いの様相が変化するのを目の当たりにしてドローン技術者に転向し、彼らは「戦場で生き残るためには既存の概念に囚われない発想が必要で、自らの資金で装備を購入し技術を磨いた」と語り、軍服ではなくTシャツ姿で働く様子は宮殿を警備する部隊というよりも、テック系のスタートアップ企業のような雰囲気だ”

出典:93-тя ОМБр Холодний Яр

“コンスタンチノフカの東で戦っているアルカトラズ大隊は「突撃部隊(歩兵部隊のこと)に志願した有罪判決を受けた犯罪者」で構成されており、ロシア軍のドローン攻撃から逃れるため日々奮闘している。この戦いに志願することで犯罪者は条件付き釈放や恩赦が与えられ、この大隊の兵士らは「昨年の最初の任務は順調だった」「現在はドローン攻撃による損害が深刻化している」と言う。彼らはドローン攻撃に耐えられる塹壕の構築方法を練習しているが、大隊の副指揮官は保護能力の劣る塹壕を掘る兵士に「これは葬儀用の穴でしかない」と叱咤した”

“彼は現在の戦争について「侵攻初期と今では戦い方が大きく異なる」「2022年や2023年を戦った本物の兵士はもう存在しない」「現在の兵士の過去と同じ戦果を上げることはできない」「これがドローン戦争の実態だ」と語り、両軍の質は大きな損害によって侵攻初期とは比べ物にならないほど低下している”

出典:93-тя ОМБр Холодний Яр

チャシブ・ヤールの後方に位置するコンスタンチノフカも都市生活の機能を既に喪失しており、ロシア軍の無人機が常時監視しているためコンスタンチノフカの役割は「前線を支える兵站拠点」ではなく「ロシア軍の前進を阻む巨大な要塞」に格下げされているのだろう。

ポクロウシクに比べればコンスタンチノフカの状況はマシな方だが、両都市に共通するのは「前線の状況に改善の見込みがない」「今後も状況はどんどん悪化していくだけ」という点で、ポクロウシクはコンスタンチノフカが直面する将来の姿である可能性が高い。

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※アイキャッチ画像の出典:93-тя ОМБр Холодний Яр

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コメント

  • コメント (27)

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    • p-tra
    • 2025年 7月 23日

    宇のドローンオペレーターのインタビューでもちょくちょく同じこと言ってたな。
    戦車なんかウッキウキで破壊出来るけど歩兵で分散してくると一人づつ攻撃する
    ことになって圧倒されてしまう事がある、と。
    別にジャングルでも何でもない地形で車両に乗っている方が攻撃に不利になる
    ので降りた方がマシという不可思議な現象が起きている。
    後年の「機械化歩兵」の項目には「2022年から始まった宇露戦争においてこの
    兵科はドローンの登場によって危機に瀕した…」とか書かれてるんだろうか。
    あと戦車。

    32
      • NHG
      • 2025年 7月 23日

      つぎはドローンの運用やAIにより一兵士への攻撃能力が上がり、それをしのぐためにやっぱり装甲車が必要というループになるんじゃないかな
      今は一人の操縦者が一台のドローンを操縦してるけど、ゆくゆくは操縦者が動かすドローンからの指示で随伴ドローンが(ライフル的なもので)随時攻撃をしていくみたいな

      2
        • らっく
        • 2025年 7月 23日

        ドローンには無反動砲しか載せられないから、結局は攻撃するなら体当たりというのは今後も変わらないと思う。

        2
          • NHG
          • 2025年 7月 23日

          自分としてはその隙間をドローンの大型化という形で埋めていくと思う
          もちろん大きくなったら見つかりやすく(撃墜されやすく)なったり、高価格になったりのバランス取りは難しいとは思うけど、手りゅう弾を投下するだけだった原始の航空機が爆撃機になり、接近拒否されたらステルス化って流れのリバイバル
          自分的には、無人戦闘機はこういう用途で普及すると思うんだよね、今のコンセプトがはっきりしない随伴無人戦闘機じゃなく

          *今は戦闘機である必要はなく、手りゅう弾を10発搭載できるみたいなのが現実的なところではあると思うけど

          3
    • ポンポコ
    • 2025年 7月 23日

    コンスタンチノフカは、ロシア軍は東側のチャシブ・ヤール方面は停滞していて、トレツクなど南側から段々と北上していますね。

    ロシア軍側は、ここも三面包囲して、北側の補給線を遮断する戦略でしょうか。ウクライナ軍側は、少しでもそれを遅らすという戦略でしょうか。ウクライナ軍はかなり頑張っていますね。その反面、撤退が遅くなる傾向もあるように思います。

    7
    • L
    • 2025年 7月 23日

    イスラエルのTIKADでも入手できたらさぞ効率が良いんだろうな。なんせ武装は銃だ

      • ゴモラ
      • 2025年 7月 23日

      ポクロウシク方向の状況は結局どうなったんだろう?ロシア軍が橋頭堡を確保したのかな?それともウクライナ軍がなんとか防いだのかな?

      4
        • お家芸
        • 2025年 7月 23日

        deepstateとAMK mappingがラジン、ボイキフカのロシア軍による大規模な突破を報告しました。
        これは既存の陣地戦というより攻勢、あるいは浸透戦術の成功のようです。

        数人のロシア軍破壊工作・偵察部隊(DRG)を短時間に察知して破壊することが困難なほど、ポクロフスク周辺のウクライナ軍人員不足は深刻なようです。

        23
    • ノーテイスト
    • 2025年 7月 23日

    酷い話ではありますが、戦争初期の兵士が“殆どいない”のであれば、適切で十分な訓練と「生き延びられる優勢な戦場での実戦」を多く経験している新兵を抱えた側の有利が益々鮮明になってゆくのでしょう。

    24
      • 拓也さん
      • 2025年 7月 23日

      加えて開戦初期に多くのロシア軍高級将校が殺害されたけど、もしこれで新しい戦場への適応が早くなってたら皮肉だわね。バルバロッサ作戦時の赤軍みたいな。

      23
        • ノーテイスト
        • 2025年 7月 24日

        ウクライナ側は「敵将、討ち取ったり!」とばかりに気勢を上げ、実際一時的にせよロシア軍には打撃だったとは思いますが…。民族主義国家は過去の自民族の歴史を美化・称揚し過ぎて戦場の現実に合わない行動をとる傾向がある気がします。江戸幕府を倒し、楠木正成に代表される天皇に忠義を尽くす中世武士を模範とした新政府・大日本帝国は、近世世俗主義から中世への逆行でもありました。民族主義者に占拠された現ウクライナの軍事行動が時に不可解に見える事と、日本が殆どガラパゴス的にウクライナを応援する傾向がある事は、民族主義を通じた両者の類似性に起因するのかも知れません。

        4
    • tameike
    • 2025年 7月 23日

    目的はどうあれ、戦争の終わらせ方を考えて話す人って悲しいことにトランプしかいない。
    欧州は非現実的な原則論、べき論と正義を振りかざす。
    ウクライナは領土を事実上断念するのであればアメリカによる「安全保障」という一方的とも言える対価を要求。

    ロシアはロシアで、いくらでも続けられるぞというスタンス。
    中印やバチカンなどは現実路線を語ったらロシアに与するのかと名指し非難された経験から相当な距離を置いてる。
    (まして今下手に目立つとトランプに目をつけられるし)

    ゼレンスキーやEU首脳、プーチンは分類するなら完全に継戦派で、中立はロシア派や力による変更を許すとレッテル貼りされて排除され、終戦派がトランプと当事国の一部国民くらいなのがきついですね。

    損得じゃなくて人の命が日々失われているのに、メンツやコミュニケーションミスで遅々として進まないのが悲しい。
    悪者ロシアが全ての資源と資産を捧げたって、死んだ人は戻ってこないんやで。悪者は諭せないから悪者

    38
      • たむごん
      • 2025年 7月 23日

      仰る点、理解できます。

      欧州が、戦争のタームをどれくらいで見ているのかは気になってるんですよね。
      欧州の安全保障の延長線上として見れば、半永久的というのも、視野に入るわけで…

      ゼレンスキー大統領へのデモが、ウクライナで発生したという話を見かけましたが、大規模戦争を終わらせる難しさを感じますね。

      24
        • 無名
        • 2025年 7月 23日

        ウクライナ汚職対策当局から独立捜査権を奪う法案が22日、最高会議(議会)で可決されたからです。
        すでに、汚職対策当局が家宅捜索を受けたりしてます。
        ゼレンスキー大統領の政権与党が法案に賛成しました。

        32
          • hoge
          • 2025年 7月 23日

          トランプが「バイデンからもらったお金で私腹を肥やしたやつがいる」ってずっとプレッシャーかけてるからな
          任期切れの大統領は必死やで

          27
            • たむごん
            • 2025年 7月 23日

            検察官でさえ汚職があったくらいですから、叩けばホコリがでてきそうな気はしますね…

            6
          • たむごん
          • 2025年 7月 23日

          情報ありがとうございます、勉強になります。

          政争と言いますか、一種の政治的報復になりつつあるように感じますね。
          ウクライナ保安庁長官・検事総長までもが、弁明しているのが何ともなあと。

          そういえば、ウクライナ検察官の汚職が問題になり、前任の検事総長が飛ばされたのを思い出しました。

          (2024年10月22日 ウクライナ検事総長が辞任、徴兵不正疑惑で ロイター)
          (2025.7.22 ウクライナの保安庁と検事総局、汚職対策機関の権限縮小を擁護 ウクラインフォルム)

          8
            • 無名
            • 2025年 7月 23日

            ゼレンスキー大統領も法案に署名しました。
            ウクライナ至上主義勢力の強い西部リビウ等でも抗議活動が起きています。

            9
              • たむごん
              • 2025年 7月 23日

              余程まずいのかなと勘ぐってしまいますね。

              撤回するのか、ズルズル批判され続けるのか、2.3日間の展開に注目したいと思います。

              10
    • たむごん
    • 2025年 7月 23日

    FPVドローンの出現は、都市防衛の姿も変えたのでしょうね。

    都市インフラ維持=修復が、長期防衛のために不可欠ですが、(日本も)人力が極めて重要になります。

    ドローンが突っ込んでくる環境では、現場の制約が以前よりも、かなり大きいだろうなと。

    8
      • かず
      • 2025年 7月 23日

      >(日本も)人力が極めて重要に
      労働力人口は今の日本で一番不足してるリソースやからなあ
      ドローンは買ってこれても人手はどうにも

      6
        • たむごん
        • 2025年 7月 23日

        仰る通りです。

        どの職種でも、現場仕事は、人手不足が厳しそうなのを感じますね…

        3
          • ルイ16世
          • 2025年 7月 23日

          共有地の悲劇
          皆が好きに共有地の資源を使える状態ならば個人の利益を最大化する為に最大限資源を使おうとしてしまう為過剰に資源は浪費され速やかに消耗し尽くされる
          リョコウバト、牧草地、森林も一見大量にあっても実は繁殖力は低く再生は遅かった為自由にすれば少しの間繁栄したが直ぐに使い果たし絶滅、砂漠化し後者は古代文明崩壊に繋がった
          21世紀になると新しい例に労働者が入るとは

          7
            • たむごん
            • 2025年 7月 23日

            仰る通りですね。

            老人医療費+1割負担=共有地の悲劇、日本だとこれも分かりやすい事例だなと。

            労働者に関して、経済合理性が働けば緩和されそうなものですが、賃金上昇があまりにも遅すぎたため次世代育成できなかった気もしますね…

            5
    • col
    • 2025年 7月 23日

    ポクロウシク北方は、どんな犠牲を払っても取り戻さないといけない。
    やらないと支援国家から見放される。

    3
      •  
      • 2025年 7月 23日

      > やらないと支援国家から見放される

      ないない
      ウクライナ支援が完全に途切れることなど100%あり得ないと断言できる
      今までの情勢を見てなぜウクライナが見放されるなどと思えるのか不思議

      18
    • kitty
    • 2025年 7月 23日

    ロシアの工場の話でも思ったけど、最前線の兵士に徴兵されるより、ドローン兵器技術者になった方が安全でしょうね。
    そこそこの後方でTシャツで勤務できるわけで。

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