ウクライナ戦況

ロシア軍が迫るポクロウシク地区、人々が前線の街や集落に留まる理由

Kyiv Independentは16日「ドネツク州のポクロウシクと占領下のドネツクを結んでいた幹線道路沿いの町や集落はロシア軍の絶え間ない砲火に晒されているが、住み慣れた土地から見知らぬ場所に避難することが絶対的な選択肢になるわけではない」と報じている。

参考:Thousands flee as Russian troops take one Donetsk Oblast village after another

個人的にこういった人々に「親露派」とレッテルを貼るのは本当に馬鹿げていると思う

ドネツク州西部のポクロウシク(人口約7万人)はドニプロペトロウシク州に隣接するポクロウシク地区(人口約38万人)の中心都市で、ロシアが目標に掲げているドネツク州制圧はスラビャンスク地区とポクロウシク地区の占領を意味し、アウディーイウカからポクロウシクまでは40kmほど距離があったのだが、ロシア軍は「オチェレティネの突破」や「プログレスの突破」を経て30kmほど西に進み、もはやポクロウシク到達は時間の問題になってしまった。

出典:管理人作成(クリックで拡大可能)

Kyiv Independentは16日「ドネツク州のポクロウシクと占領下のドネツクを結んでいた幹線道路沿いには美しい町や集落が点在していたが、現在はロシア軍の絶え間ない砲火の脅威に晒され、そこに住んでいた何千人もの民間人は生活を維持することすら困難になっているものの、住み慣れた土地から見知らぬ場所に避難することが絶対的な選択肢になるわけではない」と報じている。

“ポクロウシクから約10kmほど南に位置するセリダブには周辺集落から避難してきた人々を支援するNGOの拠点が急遽設置され、ノヴォホロディフカから避難していた家族は急速に悪化する状況に衝撃を受けている。この家族は「もうノヴォホロディフカ(2004年時点の人口は約1.6万人)に残っている人は誰もいない。今は友人がいるフメリニツキーに行きたいと考えている」と述べ、戦争勃発後に生まれた息子(8歳)は1度も学校で授業を受けたことがなく「安全な場所に落ち着いたら学校に通わせたい」と付け加えた”

出典:Покровськ Online / Покровська МВА

“セリダブから西に数km離れたところにあるペトリフカには国際的なNGOによる人道支援の拠点があり、まだ避難していない周辺集落の家庭に物資と水を届けている。ここで働くノヴォホロディフカ出身の女性は「魅力的な街で人々は互いに助け合って暮らしていた」「まだ1ヶ月前は何とかなっていたが今では耐えられない」「それでも市内には数人の高齢者が避難せず留まっている」「みんな混乱しており、何をすべきか、何処に行けば良いのか、何を諦めて何を持って行くのか迷っている」と述べた”

“ペトリフカで働く別のボランティアも「前線が近づくにつれて人々の避難が加速している」「特にディミトロフ、セリダブ、ノヴォホロディフカでは子供がいる家族の避難が相次いでいる」「身体的に問題のない人々は避難するが、高齢者、障害者、金銭的な余裕がない人々は住み慣れた土地に留まることが多い」と、セリダブの支援物資配給所に物資を受け取りに来た年金暮らしの男性も「約4ヶ月間ほどジトーミル州に避難していたもののお金が尽きたため家に戻るしかなかった」「今でも避難したいが(避難先の)家賃が高すぎてアパート代か食費かを選ばなければならない」「今は戦争が終わることを祈るしかない」と明かした”

出典:Покровськ Online / Покровська МВА

ウクライナ国内や海外メディアでは「最前線の街や集落から避難しない人々の問題」について定期的に取り上げているのでKyiv Independentの記事に目新しさはないが、避難しない人々は「ロシア軍の到着を待っている」とか「親露派住民だ」という訳ではなく「親族も知り合いもいない見知らぬ土地で避難生活をおくるのが困難な高齢者」「避難先の生活資金がない人々」「この先の人生が長くないので住み慣れた土地で死にたい」といった理由の方が多い。

個人的にこういった人々へ「親露派」とレッテルを貼るのは本当に馬鹿げていると思う。

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※アイキャッチ画像の出典:Покровськ Online / Покровська МВА

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コメント

    • 日本でも
    • 2024年 8月 17日

    土地から離れたくない高齢者は結構いる。
    こういう人たちはもう老い先短いので、死をそこまで恐れていない。死ぬ可能性があっても、住み慣れた町にいたい。

    40
      • Natto
      • 2024年 8月 17日

      災害と違って食料や水を渡しに行く人の危険の問題が。

      8
        • 幽霊
        • 2024年 8月 17日

        渡しに行かなければ良いだけでは?
        記事にもある通りボランティアなんだから危険が迫れば辞めたって良いわけですし。

        42
          • SB
          • 2024年 8月 18日

          そりゃそうかもしれんけど、仮に本人の希望でも国が国民見捨てる訳にはいかんしな

          4
            • はなく
            • 2024年 8月 19日

            本当の前線になればボランティアなど不可能なのでは。
            それに金銭的な問題で戻らざるを得ない人がいる時点で半分見捨ててるようなものだし

            5
      • ポンポコ
      • 2024年 8月 18日

      バフムトで激戦が始まっていた頃に、チヤシブ・ヤールに日本人のジャーナリストの綿井?綿抜?さんだったか、現地で避難しない住民のインタビューをしていた。

      記憶だと、
      一人の女性は「高齢の障害のある母が避難しないので自分も残るしかない」みたいなことをいっていた。

      もう一人は幼い女の子の父親だが。彼は「西に避難すると途中の検問でそのまま動員されることがある。子どもと離れ離れになりたくないから避難しない」と述べていた。

      8
    • Active Present
    • 2024年 8月 17日

    なんか自分も仕事と生活がなんとかなれば、たとえ侵略されても避難しない気がする。言語学ぶのが好きという面もある。北朝鮮レベルになるとちょっと無理。

    19
    • 暇な人
    • 2024年 8月 17日

    ヤヌコビッチ応援して選挙で民主的に擁立したのにクーデターで追い出され、キエフ軍がやってきて支配されている人達がウクライナに帰属するかって話でしょう。
    中年以上はウクライナ語なんて話せませんし、ウクライナ人なんて意識もない。
    そのうえ西部に避難したら売国奴呼ばわりされ、拉致的徴兵されるわけですから彼らは「解放軍」であるロシア軍を待ちますよ。
    農地などを持っている人達は逃げられませんし。

    10
      • はい
      • 2024年 8月 18日

      お前は記事本文を読んだのか?

      16
        • 暇な人
        • 2024年 8月 21日

        記事の内容に全面同意しているのならそもそもコメントなんてしませんよ

      • 特盛
      • 2024年 8月 20日

      なんか思い込みが激しいな

    • たむごん
    • 2024年 8月 17日

    ウクライナ人は高齢者を中心に、ソ連時代の持ち家率が高いという情報を見た記憶があります(ソースは失念しました…)。

    その持ち家が、年金暮らしの少ない収入を支えているという背景でしょうか。

    日本の大地震を考えればイメージしやすいですが、『自己責任』として避難先の暮らしも過酷ですからね…

    30
      • housekeeper
      • 2024年 8月 18日

      List of countries by home ownership rateなるwikipedia記事はありました。ウクライナの数字はありませんでしたが、旧共産圏がおしなべて高い傾向は見て取れます。基本的には、ソ連崩壊時後に国営住宅(アパート含)が格安で払い下げられたことに起因している現象ですね。housing privatizationで調べると色々出てくると思います。
      ソ連繋がりで連想されるのが、ソ連時代の計画都市に住んでいる人間は今でも他所に出掛けない(生活基盤が一通り揃っているため)という話で、そういう閉鎖性は未だにあるのだろうなと思います。今の最前線であるヴフレダル、トレツク、ペルヴォマイスケ、そして件のポクロフスクもまさしく、ドンバスに典型的な鉱山に付帯した計画都市です。

      22
        • たむごん
        • 2024年 8月 18日

        ご教示ありがとうございます。
        文化的背景・歴史的背景は、やはり大事ですよね。

        管理人様の仰る通り、背景を理解すれば、レッテル貼りは無知なのでしょう。
        彼等・彼女達が、ホームレスになるリスクも考えて動かない(動く動機がない)のは、非常に理解できます。

        22
      • 7743
      • 2024年 8月 18日

      元々、ウクライナは地方の独自性の強い国家であったという話も聞きますね。
      地域によって民族も言語も変わってくるので、住み慣れた土地を離れる事の難しさは日本人が感じる以上のものがあると思います。

      20
        • たむごん
        • 2024年 8月 18日

        文化ルーツを考えれば、仰る通りと思います。
        少数民族問題が、全方位の国境沿いに、複数の国と外交問題になっていますよね…

        深いコミュニティに所属していれば、新しい土地(避難先)で、ゼロから築くのは難しいなと感じます。

        5
    • 毛多留根抜頭
    • 2024年 8月 17日

    つまり、こうだ、避難した連中が親露派

    もしくは…

    避難するやつは親露派だ。 避難しないやつは、よく訓練された親露派だ。

    25
      • NIVEA万能論
      • 2024年 8月 17日

      ホント、戦争は地獄だぜ!

      13
    •    
    • 2024年 8月 17日

     妄想だけど。 この地域の人たちの親戚は、西部に少なそう。
     南部や東部。最悪、ロシアの方が多かったりして。

    21
      • 暇な人
      • 2024年 8月 18日

      高齢者はウクライナ語が話せない可能性すらある

      44
        • 山田
        • 2024年 8月 18日

        日本の報道では出てこないウクライナの事情ですね。
        ウクライナ語を母語としない人たちがいる

        28
        • 名無し
        • 2024年 8月 18日

        まあウクライナのロシア語話者とウクライナ語話者はお互い喋れない場合でも大体聞き取りは出来て
        ロシア語とウクライナ語でそのまま会話したりするとは言うけど
        これから通じない世代が増えていくんだろな。

        7
      • ポンポコ
      • 2024年 8月 18日

      セベロドネツクやリシチャンシクの時は残っていた住民は、ロシア軍を歓迎しました。しかし、バフムトの時は建物が廃墟になるような戦い方だったので、残り住民は少なかったようです。

      バフムトで勇敢に戦った第93旅団がチヤシブ・ヤールに戦線を下げた後のことですが、その第93旅団の一兵士の発信に「ここの住民はロシア軍を待っている。我々はなんために戦っているのだろうか」という愚痴がありました。

      そのチャシブ・ヤールも廃墟になろうとしています。

      1
    • ざる
    • 2024年 8月 17日

    きちんと強制的に避難させて住居と費用まで面倒みるのが普通ですが財政に余裕のない今のウクライナにはできないんでしょうねえ…
    戦禍に巻き込まれて犠牲になる前に捕虜と交換でロシア側に引き取ってもらえないんでしょうかね。

    20
    • 暇な人
    • 2024年 8月 18日

    東部の人達は地元のヤヌコビッチを応援してたのにクーデター
    その後キエフ政府軍に支配されたという認識でしょうから、そもそもウクライナ軍を歓迎しておらず、ロシア軍を待ち望んでいる可能性のほうが高い

    10
      • nton
      • 2024年 8月 18日

      強引すぎる理論展開です。
      まず、当時はロシアは全面侵攻はおろかクリミアや東部にも介入しておらず、現在とは世論が大きく異なります。
      次に、当時親露的な自国の候補を応援することと自国に侵略してくるロシア軍を待ち望むことは天地の差があります。
      無理筋です。

      7
        • 暇な人
        • 2024年 8月 21日

        そもそも東部はロシアを敵だと認識していたと思っているんですかね?
        言語も違い、交流も通商もキエフではなくてロシアのほうとあります。

        ウクライナ人という認識をもっているのはウクライナ西部だけでは?

        1
        • 名無しの元ウクライナ
        • 2024年 8月 21日

        クーデター後から
        自分達を差別したり攻撃する政府をどう思うでしょう?
        誰を頼れますか?
        ロシアを待ち望んだ人々は確かにいました。

      • しろちゃん
      • 2024年 8月 20日

      ちょっと妄想きついよ

      2
    • kame
    • 2024年 8月 18日

     ウクライナもロシアも戦争勃発後にさっさと国外に出たのは国民全体で見れば富裕層なので、大多数の人達にとっては逃げるという選択肢すら存在しないんでしょう。言葉も分からん、親族や知り合いがいるわけでもない、どういった扱いを受けるかも分からんのなら、故郷や自分の家がある場所に留まろうとするのは別に不思議な事じゃありません。
     願わくば逃げたから『親宇』、逃げなかったら『親露』とレッテル貼りして、陰口を叩かれない事を祈るばかりです。

    30
      • 名無しの元ウクライナ
      • 2024年 8月 21日

      クーデター後から
      自分達を差別したり攻撃する政府をどう思うでしょう?
      誰を頼れますか?
      ロシアを待ち望んだ人々は確かにいました。

    • カリアゲ
    • 2024年 8月 18日

    例え避難出来る身内や知人が居たとしても、老い先短い身なら、迷惑を掛けたくない。と考える方も結構いらっしゃるのでは無いでしょうか。
    もし後期高齢者になったとして自身に置き換えた場合、現状のウクライナ国内情勢(停電等のインフラ喪失や未来の社会不安)を鑑みると息子・娘の所へ厄介になろうとは思わないでしょうし、社会の負担にもなりたくないとの自尊心も芽生えるかも…。妻も同意見になるのではと思います。
    とは言え、周りは放って置く事も出来ないし、尊厳や考えも理解できるし、で難しいですね…。経済的な問題も有るなら尚更でしょう。避難しないからといって、一方的な誹謗中傷は避けて欲しいですね。

    19
    • いそきち丸
    • 2024年 8月 18日

    高齢者や貧困層が故郷に留まるのは金銭的な理由や故郷への愛着だからというのは、理解できるし個人の自由だと思うけど、本格的に戦場になれば自宅は陣地に使われて砲撃を受け、敵味方関わらず略奪も受ける可能性もある訳で、投降してもスパイかどうかの尋問を受けたり、或いは兵士と見なされ殺される。てか残ってもほぼ確実に死ぬのに、そこまでして故郷に残る理由が自分の様な青二歳には論理的には理解できても、本当にその心情を理解できいるとは言えない。実際、ハルキウ反攻で解放したウクライナ軍が住民の尋問を行い親露派狩りをやったり、ロシア軍のブチャの虐殺もあったし、

    3
    • 分析
    • 2024年 8月 18日

    新ゴジラの首相の台詞で、有志諸国による東京への核爆弾投下通告をされた際に、
    「避難は生活を根こそぎ変えてしまうという事だ、簡単に言わないで欲しいなあ」というものがありますね。
    しかも、家に戻ってくる事前提の災害に備えた事前避難ではなく、高い確率でロシアに占拠されて、将来に渡る国交断絶もしくは戦禍で破壊される等により、二度と戻れなくなるかもしれない避難ですからね…
    仮に日本が中国に占領されそうな地域があったとして、逃げない人々が出て来ることは間違いないでしょう。

    17
    • いそきち丸
    • 2024年 8月 18日

    高齢者や貧困層が故郷への愛着や金銭的な問題で避難せず残るのは理解できるけど、本格的に戦場になったら自宅は陣地に使われ砲弾が降り注ぎ、敵味方関わらず略奪を受ける可能性もあり、投降してもスパイかどうかの尋問とか、或いは兵士と勘違いされて殺害される可能性もある。水や食料も手に入れない。危険すぎると思う。僕には彼らがそこまでして故郷に残る理由が論理的には理解できても、本当にその心情を理解できているとは言えない。

    4
    • いそきち丸
    • 2024年 8月 18日

    高齢者や貧困層が故郷への愛着や金銭的な問題で避難せず残るのは理解できるけど、本格的に戦場になったら自宅は陣地に使われ砲弾が降り注ぎ、敵味方関わらず略奪を受ける可能性もあり、投降してもスパイかどうかの尋問とか、或いは兵士と勘違いされて殺害される可能性もある。水や食料も手に入れない。危険すぎると思う。僕には彼らがそこまでして故郷に残る理由が論理的には理解できても、本当にその心情を理解できているとは言えない。

    • らんらんるー
    • 2024年 8月 18日

    こういった残った人たちは色々な背景と思惑があるでしょうから、一方的にレッテルを貼ることは”正しく”は無いですよね
    でも、現地の特にウクライナ側からすると少しでもロシアに利する点があれば”親露派”のレッテルを貼って糾弾したくなるものかもしれませんね
    判断するには情報の”量”と”質”が乏しく、それらを補える”速さ”もこの戦時下では難しいでしょう。そして情報を集めるための”時間”すらも限られるわけで
    情報伝達速度が速い社会に慣れ切った現代の我々にとって、劣悪な情報アクセル環境における振舞はもしかしたら依然と比べて低俗になりがちかもしれません、気をつけたいですね

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