ウクライナ戦況

ゼレンスキー大統領がシルスキー総司令官を解任、後任はドラパティ少将

Financial Timesは「フェドロフ国防相解任に対する抗議が拡大したことを受け、ゼレンスキー大統領はシルスキー総司令官の解任を検討中だ」と報じていたが、ゼレンスキー大統領は21日「統合軍司令官のドラパティ少将をウクライナ軍の新たな総司令官に任命することを決定した」と発表した。

参考:Breaking: Zelensky dismisses Commander-in-Chief Syrskyi after widespread protests, appoints Drapatyi
参考:Зеленский выбрал Драпатого новым главкомом ВСУ
参考:Я визначив, що новим Головнокомандувачем Збройних Сил України стане Михайло Драпатий – звернення Президента

今回の対立における唯一の軍事的実益は有能なドラパティ少将がシルスキー総司令官の後任になったことだが、それでも後味の悪い事件だったことに変わりはない

ゼレンスキー大統領は内閣改造に合わせてフェドロフ国防相を解任し、首都キーウの大統領府やイヴァン・フランコ広場では市民による抗議デモが行われ、この動きはウクライナ各地に飛び火して抗議デモは3日目に突入しており、ウクライナ軍の中からも「フェドロフの解任は理解不能だ」「国防相として在職中、職務や国防省の効率性に問題があったのなら今回の内閣改造は理解できるものの、そういった問題は一切ない」とフェドロフを擁護する主張も登場したが、同じウクライナ軍の中からフェドロフ国防相を批判する声も少なくない。

出典:President of Ukraine

今回の解任劇を旧ソ連の軍事文化を色濃く残す軍改革を軸にした「善の改革者=フェドロフ国防相」VS「悪の抵抗者=シルスキー総司令官」と描くパターンが多く、多くの市民も善の改革者を擁護するため抗議デモに参加しているが、この問題は多面的で改革という1面だけで見ていくのは非常に危険で、フェドロフとシルスキーの対立は「どちらが正しいのか」「どちらが善でどちらが悪なのか」ではなく、両者に適切さと柔軟性が欠けていたために発生した軋轢だ。

Financial Timesは「国防相解任に対する抗議が拡大したことを受け、ゼレンスキー大統領はシルスキー総司令官の解任を検討中だ」と報じていたが、ゼレンスキー大統領は21日「私はミハイロ・ドラパティ氏をウクライナ軍の新たな総司令官に任命することを決定した」「シルスキーはキーウ防衛、ハルキウ攻勢、クルスク作戦でウクライナに成果をもたらしたことは事実だ」「私たちは長い道のりを歩んできた」「ウクライナの防衛は今後も続き、全ての戦士は尊厳をもって扱われなければならない」「私はシルスキーとフナトフと今後の立場と役割りの引き継ぎについて協議した」と発表。

出典:Генеральний штаб ЗСУ

フェドロフが要求していた国防相への復帰については言及がなく、今回の対立原因を作ったフェドロフとシルスキーは喧嘩両成敗となり、今回の対立における唯一の軍事的実益は有能なドラパティ少将(統合軍司令官)がシルスキー総司令官の後任になったことだが、それでも後味の悪い事件だったことに変わりはない。

ちなみにドラパティ少将は陸軍司令官として危機的だったポクロウシクの状況を立て直してロシア軍の主力を1年以上も釘付けにし、統合軍司令官としてクピャンスクからロシア軍を追い出した作戦にも深く関与しており、あの辛口なブトゥソフ氏が手放しで称賛する稀有な存在の指揮官だ。

追記:ドラパティ少将は総司令官への任命を受けて「ウクライナへの奉仕は常に私にとっての名誉であり、独立を懸けたこの戦時下においては、それは絶対的な責任を意味するものだ。我が国を防衛している人々への敬意を胸に責任感を持ち、専心して職務を遂行する所存だ」と表明、ウクライナ人が運営するDeepStateは「さようなら、我らの親愛なるミーシャ、君のおとぎの森へお帰り(ウラジーミル州出身をモスクワ五輪の閉会式に登場したミーシャ=熊に揶揄した皮肉)」と言及。

ロシア人ミルブロガーらはシルスキー総司令官の後任がドラパティ少将だったことに「最悪だ」と嘆いている。

関連記事:ゼレンスキー大統領、抗議の拡大を受けてシルスキー総司令官解任を検討中
関連記事:クピャンスク解放作戦に参加中のブトゥソフ氏、具体的な作戦の推移と結果を報告
関連記事:ゼレンスキー大統領がドラパティ少将を統合軍司令官に任命、前線問題に専念
関連記事:ウクライナはドラパティ陸軍司令官を、ロシアは多数の戦略爆撃機を失う

 

※アイキャッチ画像の出典:СИРСЬКИЙ

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コメント

  • コメント (26)

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    • 古銭
    • 2026年 7月 22日

    報道によればフェドロフ前国防相は国防相への復帰以外の提案は断っているそうなので、そこがどうなるかですね。

    大統領府長官交代時にも話題になっていましたが、フェドロフ前国防相は党内において稀有な2019年の改革者としてのイメージを維持している人物であり、良くも悪くも現在の大統領や党の方向性とは乖離しています。
    今回の件で次期大統領候補としての人気も上昇するのは間違いなく、政権内に政敵候補を置くことを嫌うかのような人事を続ける近年のゼレンスキー大統領との関係は懸念事項かもしれません。

    個人的には、仮に前国防相が復帰出来たとして、復員を含む動員改革を宣言通り年内に行うことが可能なのかが非常に気になります。

    29
      • TKT
      • 2026年 7月 22日

      いよいよイメージの悪くなったゼレンスキーの首を切って、フェドロフを後釜に据える、という思惑がやはりどこかにあるのでしょうかね。

      8
      • たむごん
      • 2026年 7月 22日

      (提案を断ったという報道は)よくある話しですが、別の閣僚への横滑りにより、軟着陸を模索していたと推察しました。

      動員改革の動向(継続・停滞のどちらか)が、ウクライナ世論にどういった影響を与えるのか、今後しばらく見守りたいですね。

      4
    • 7743
    • 2026年 7月 22日

    そもそものフェドロフ解任の理由も、このタイミングで内閣改造する理由もよくわからなかった
    が、政治的に公にできないこともあるだろうと思っていた
    フェドロフ自身が解任の理由が意見の対立にあることを暴露するのも最悪だし、ゼレンスキーの対応も泥縄以外の言葉見つからない

    22
      • 古銭
      • 2026年 7月 22日

      フェドロフ前国防相の問題は大きかったとは思いますが、内閣は大臣が二人代行のままかつ、首相も政治的な後援者が失脚して頼りない状態だったので、いずれにせよ年内の行動が必要だったかと。

      国防相騒動で隠れがちですが、外相も決まっていないあたり、内閣改造の理由としていた外交(及びエネルギー)方針の変化というのは政権としては深刻な問題なのかもしれません。

      14
    • YF
    • 2026年 7月 22日

    総司令官に関しては大方の予想通りにドラパティ少将になりましたね。指揮官としても有能ですが軍制改革にも功績のある人なのでウクライナ軍の士気や能力のついて大きく変わることはないと思います。

    この戦争をロシア側有利で終わらせる(勝利といってもいい)方法として、ウクライナ指導部と国民を完全に離反させてウクライナ全土で反戦ムード醸成させるというのがあります。これだと軍の動員もままならないですし、前線の士気も落ちます。キーウで数十万人規模の反戦デモが起きた場合、欧州はこのまま援助を継続出来るでしょうか?
    こうなるとウクライナとしてはロシアの言い値に近い形で停戦せざる得ないです。

    こう考えるとロシアの認知戦を含めた情報・政治工作が上手くいってないのが気になりますね。
    ウクライナ指導部に汚職だの確執だの材料は幾らでもありますし、スパイや内通者なんて戦争前から沢山いたでしょう。ベルギーでも上手くやりましたし、それがダメになると速攻ブルガリアを離反させたりとロシア側の政治工作は一定の成果が上がってます。
    ロシア側としては東部4州を完全に制圧するまで停戦したくないのか、軍部と情報部で戦争の手柄をめぐって確執があるのか、何かしら政治工作に注力出来ない理由があるんですかね。

    いずれにしろ劣勢になってきてるロシア側ですがまだ勝ち筋はあります。

    ウクライナとしても動員と動員解除について大きな問題となりつつあります。これ一つ対応を間違えると反戦に世論が傾きかねないので充分気を付けて欲しいですね。

    9
    • u
    • 2026年 7月 22日

    管理人さんの評通りフェドロフとシルスキー、両者に適切さと柔軟性が欠けていた,
    これがすべてだろう

    三国志で言えば魏延と楊儀の関係性みたいなもの
    最終的に魏延は三族戮され楊儀は自害に追い込まれた
    諸葛亮でさえどうにもならなかったのだからどうしようもない

    ゼレンスキーは蜀漢の丞相である諸葛亮のような独裁的権力は持っていないので保守派を含めた軍の総意と民意両方を配慮しつつバランスをとりながら戦時国家を運営せねばならない。その前提条件でウクライナの大統領になるなら仮に諸葛亮がなってもゼレンスキーと大差ない結果になっていただろう

    25
      • 名無し
      • 2026年 7月 22日

      田母神空幕長は三国志なら誰ですか?

      1
        • 特盛
        • 2026年 7月 23日

        関係ない話やめてね

        17
          • ルイ16世
          • 2026年 7月 24日

          馬超とか?武官としてはいいけど政治がダメで有力者の反感を買い勢力維持にマイナスなタイプ。ウクライナだと極右の旅団長タイプかな?

          1
    • たむごん
    • 2026年 7月 22日

    本土決戦中でも(だからこそ?)、色々とあるものだなと。

    人事は、政治トップの求心力を高めたり、不満をかわすことにも繋がります。

    軍総司令官が、(4年半の戦争は長いものの)戦時中に2回も代わるというのは、巨大組織運営の複雑さを感じますね。

    9
      • たむごん
      • 2026年 7月 22日

      追記です。
      ドラパティ少将、個人の能力は置いておいて。

      巨大組織の引継ぎともなれば、幕僚(側近)の異動・引継ぎなど忙しくなりますからね。
      『急な異動』避けるべきですが、組織運営の面で、しばらくの期間どういった影響がでるのか見守りたいと思います。

      4
      • 無名
      • 2026年 7月 22日

      ザルジニーは政権というか大統領の意向通りやらないから代えられた感じでしたけど、シルスキーは意向通りやってて犠牲の多きく肉掻き屋とか揶揄され現場から嫌われていたのは事実としても、政権の意向通りに軍事的より政治的なの優先してたからだから結局政治や政局の都合なのでは?

      というかフェドロフの復帰とシルスキーの辞任を要求するデモは黙認されて、別の場所で規模は小さいけどあった拉致徴兵に抗議するデモは解散させられていたの考えると、国民とかのガス抜きの為に首を挿げ替えた感じで方針は今までと変わらないままなのではって気もしますが。

      26
        • たむごん
        • 2026年 7月 22日

        たしかに、仰る通りですね。

        戦時中ですから、公のデモ(ガス抜き)でさえも許認可あるわけですから、デザインされたものと見るのは正論だと思います。

        10
    • たら
    • 2026年 7月 22日

    組織で万全な人事は絶対に無理なので,定期的にこのような内紛は起こらざるを得ない。この非効率を乗り越えながら進むしかない。

    23
    • 名無し
    • 2026年 7月 22日

    田母神さんが統幕長に王手かけてた日本見てるから
    適材適所のウクライナが羨ましい

    3
    • コンニャク補充兵
    • 2026年 7月 22日

    ロシアからすると有能なドラパティ氏が総司令官の方が嫌でしょうね。
    ウクライナとしてはゼレンスキー氏のイエスマンだったシルスキー氏から変わることで、大統領と総司令官が上手くやれるかが課題でしょうか。ザルジニー氏がゼレンスキー氏との不仲で左遷された過去があるので少し不安ですが。

    18
    • paxai
    • 2026年 7月 22日

    ロシア人ミルブロガーの姿勢って川に流されるような感じで好きじゃないんだよなあ。
    ウクライナ軍の決定はウクライナがする事だからどーにもならんやん。論ずる事自体が無意味なのだ。
    ロシア人が出来る事はゲラシモフを更迭する事だけだよ。その為の活動をするしかないのに。

    14
    • せい
    • 2026年 7月 22日

    戦時中は成果を挙げた物へ正統な報酬出さないと続かないが、平和な時代が続くと既得権との戦いも起こる物
    それ考えたら中々良いところに落ち着いたと思う

    1
    • 名無し
    • 2026年 7月 22日

    日本では43歳の統幕長ていうか
    陸幕長も無理だよね

    1
      • 中村
      • 2026年 7月 23日

       日本で言えば新設の統合作戦司令官でしょう。制度上、英米日では有りそうで無かった職位ですけれど、現代の大元帥閣下にも防衛大臣にも軍事的な素養は望めないので仕方が有りませんな。

      1
    • ななしびと
    • 2026年 7月 22日

    シルスキー更迭でドラパティ就任は悪手だろうな
    まあ国民の声に応えましたと言えばそうなんだろうが

    8
      • 大野
      • 2026年 8月 03日

      戦略重視のドラパティが政治的軍事重視のゼレンスキーと相いれるとは思えない。
      ザルジニーと対立してイエスマンのシルスキーを後任にしたのにまた同じ轍を踏むようだ。
      内部のゴタゴタはいろいろあるようだが表向きは戦略の方向性が違うという趣旨だから。

      1
    • kagk
    • 2026年 7月 23日

    いまだに領土奪還出来ない時点でどこがウクライナ有利なのかさっぱり分からない。
    ロシア経済崩壊、武器枯渇ネタは開戦当時から散見されるが全く当たってない。
    開戦当初のモードは経済制裁+武器援助でプーチン政権崩壊が当たり前のようにコメント欄をにぎわしていた。
    5年経ったが全然ロシアは崩壊しない。
    現実だけが真実である。

    23
      • アルマジロ
      • 2026年 7月 25日

      >ロシア経済崩壊、武器枯渇ネタ
      ここじゃなくて他のネットニュース真に受けた人じゃないかな?

      2025年辺りまでのウクライナ関連の日本語記事って、大半が殆ど軍事知識のない人が根拠も良く分からない海外の適当なゴシップ記事の中から、ウケのよさそうなモノだけ翻訳して垂れ流してるだけだし、そんなのばっかり見てたらそーなるよ

      M1戦車やF-16をゲームチェンジャーとか言うようなレベルだったし

      17
    • イキスギィ
    • 2026年 7月 26日

    プーチンがんばえ~

    5

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