トランプ大統領がゼレンスキー大統領に約束した「ウクライナでのパトリオット迎撃ミサイル生産」が決定的でないのは「実現にどれだけ時間がかかるのか」を理解しているためで、PAC-2 GEM-Tの欧州生産立ち上げと同じ時間がかかると仮定すれば、ウクライナでの生産立ち上げには最低でも4年はかかる見込みだ。
参考:Украина в скором времени получит пакет PAC-3, ракеты приходится “выжимать”, – Зеленский
PAC-2 GEM-Tのライセンス生産と同じだけ現地生産化に時間がかかると仮定すると、ウクライナでPAC-3 MSEの現地生産を立ち上げるのに最低でも4年はかかる
ウクライナ軍は7月2日に発射された計25発の「戦術弾道ミサイルのイスカンデルM」と「弾道ミサイル攻撃に転用されたS-400の迎撃ミサイル=48N6シリーズ」のうち4発しか迎撃できず、4日に発射されたイスカンデルM×1発、6日に発射されたイスカンデルMとS-400の迎撃ミサイル×計23発、7日に発射されたイスカンデルMとS-400の迎撃ミサイル×計5発、9日に発射されたイスカンデルM×2発は迎撃されることなく全弾が着弾し、7月9日までに発射されたイスカンデルMとS-400の迎撃ミサイル×56発のうち4発(迎撃率7.1%)しか迎撃できていない。
ウクライナ空軍のイグナット報道官は弾道ミサイルを迎撃できない理由について「パトリオットシステムの迎撃ミサイルが不足しているためだ」と、フェドロフ国防相の顧問を務めるベスクレストノフ氏も「我々にはミサイルが全くない」「弾道ミサイルに対抗できる手段は何もない」「弾道ミサイルのほぼ全てが目標に命中した」「このままではウクライナの重要インフラ全て破壊されるだろう」と、ゼレンスキー大統領も「我が軍は巡航ミサイルと自爆型無人機の迎撃において優れた働きを見せたが、残念ながら弾道ミサイルの迎撃はできなかった。その理由は迎撃ミサイルの供給不足にある」と述べている。
パトリオットシステムで使用する迎撃ミサイルには「レイセオンが製造する弾頭の爆風・破片効果で目標を破壊するMIM-104E PAC-2 GEM-T」と「ロッキード・マーティンが製造する直撃方式の運動エネルギーで目標を破壊するMIM-104F PAC-3 MSE」の2種類があり、PAC-2 GEM-Tは旧型のMIM-104C/D PAC-2をアップグレードして戦術弾道ミサイルの迎撃に最適化したものだが、これはあくまで「PAC-2に比べて戦術弾道ミサイルへの対応能力が向上した」という意味であり、複雑な軌道で目標に接近してくるイスカンデルMの迎撃には根本的に向いていないため航空機や巡航ミサイルを阻止するための迎撃ミサイルだ。

出典:NATO Support and Procurement Agency (NSPA)
本ブログの読者に説明する必要はないと思うが、イグナット報道官、ベスクレストノフ顧問、ゼレンスキー大統領が言及しているパトリオットシステムの迎撃ミサイル不足とはPAC-3 MSEのことを指しており、ロッキード・マーティンの生産率は日2発(年約650発)に過ぎず、これを年2,000発に引き上げるための取り組みが始まったものの、年2,000発の生産率を達成するのは7年後の話で、現在の650発という生産枠を米国、同盟国、パートナー国、ウクライナが奪い合っているためPAC-3 MSEの供給には全く余裕がない。
例外的に日本はライセンス生産が認められ、三菱重工業が自衛隊向けにPAC-3 MSEを生産している。米国はウクライナに供給している迎撃弾の在庫を補填するため日本に輸出を打診、これを受けて日本政府は2023年12月「国内で生産したパトリオットミサイルの米国輸出を認めた」と発表したが、ロイターは2024年7月「迎撃弾に使用しているシーカー増産が遅れているため三菱重工業の迎撃弾増産は行き詰まっている」と報じた。

出典:外務省
“三菱重工業はパトリオットシステムで使用するPAC-3弾を年30発生産しており、この生産量は年60発まで増える可能性がある。この計画に詳しい関係者は「ボーイングが生産しているシーカーの供給量が増えなければ日本での生産拡大は不可能だ」「三菱重工業がPAC-3弾の生産量を増やせるようになるまで数年かかるかもしれない」「仮に追加のシーカーが手に入っても三菱重工業側も生産能力を増強しなければならない」という”
要するに「自衛隊が1年で調達するPAC-3 MSEの数は年30発である」「日本はPAC-3 MSEのライセンス生産が認められたものの、シーカーだけは技術移転が許可されていないためブラックボックスとしてボーイングから供給を受けている」「日本のPAC-3 MSE生産はシーカー供給によって米国のコントロール下にある」という意味だが、オーストラリアもGMLRSとPrSMのライセンス生産が認められているものの、米国から誘導装置、推進薬、信管などの部品を輸入しているため「完全な現地生産」ではなく「現地での最終組立」でしかない。

出典:COMLOG
MBDAとレイセオンの合弁会社=COMLOGは2022年11月「PAC-2 GEM-Tのドイツ生産」で合意し、2026年末にバイエルン州のシュローベンハウゼン工場が稼働を始めるとPAC-2 GEM-Tの生産率は年240発から年420発まで拡張されるものの、PAC-2 GEM-Tのシーカーだけは「ドイツで生産する」という記述がないため、レイセオンがブラックボックスとしてCOMLOGに供給する可能性が高く、このように米国は軍事機密の保護と兵器の供給量制御の観点からシーカーをブラックボックス化するため「ライセンス生産を許可されたら自由に好きなだけ作れる」という意味ではない。
トランプ大統領がNATO首脳会談でゼレンスキー大統領に「パトリオット迎撃ミサイルを製造するライセンスをあなた方に供与する」と述べたのに大きな話題にならないのは、機密性が高い迎撃ミサイルのライセンス生産に関する官僚的手続き・法的要件の確認にどれだけの時間がかかるのか、ロッキード・マーティンやレイセオンと商業的利益の調整にどれだけ時間がかかるのか、複雑な迎撃ミサイルを現地生産化するためのサプライチェーン構築にどれだけ時間がかかるのかを理解しているためだ。

出典:President of Ukraine
PAC-2 GEM-Tのライセンス生産と同じだけ現地生産化に時間がかかると仮定すると、ウクライナでPAC-3 MSEの現地生産を立ち上げるのに最低でも4年はかかる計算なので、ロシアとの戦いが2031年まで続いていれば現地生産化されたPAC-3 MSEがパトリオットシステムのランチャーに装填される可能性が高く、ゼレンスキー大統領もNATO首脳会議後に「米国製兵器を購入してウクライナに供給する枠組み=PURLは公式な取り組みで機能はしているものの、それだけでは(パトリオット迎撃ミサイルを確保するのに)十分ではないのだ」と述べている。
“まもなく1つのパッケージが発表される。いつになるか具体的な時期は明かせない。我々はPAC-3のパッケージについて合意した。我々は各国とPURLについてだけ協議しているわけではない。PURLは公式な取り組みで機能はしているものの、それだけでは十分ではないのだ。敵の(弾道)ミサイルはPURLを通じて供給される(パトリオット迎撃)ミサイルの2倍の頻度で飛来している。そのため公式には言及していないが、各国から支援を絞り出すような代替パッケージが存在する。ウクライナが生き残るために各国から少しずつ、5発、10発、20発といった感じでミサイルを調達しているのだ”

出典:Lockheed Martin
ゼレンスキー大統領の発言から「PURLを通じて供給されるPAC-3 MSEの数は必要量の約半分(恐らく弾道ミサイル1発に対して2発ではなく1発で対応した場合の数字)」「PURL経由だけの供給では防空ニーズを満たせないため、PAC-3 MSEを保有する欧州諸国(ドイツ、オランダ、ポーランド、ルーマニア、スウェーデン)と個別に交渉して備蓄分から支援を絞り出すような代替パッケージで必要量を満たそうとしている」と推測でき、まもなく発表されるパッケージはそういった類のものなのだろう。
ゼレンスキー大統領は「弾道ミサイルを迎撃可能なPAC-3 MSE不足に対する唯一の選択肢はPAC-3 MSEの代替手段確保だ」「今後数週間、あるいは1週間以内にでも対弾道ミサイル防衛連合に参加している国々を召集しようと考えている」「彼らは我々の対弾道ミサイルシステム=Freya(フレイヤ)の部品を製造している」と述べており、FreyaとはFIRE POINT製の弾道ミサイルをベースにした低コスト弾道弾迎撃ミサイル=FP-7.xをコアにした防空システムのことで、シンプルに言えばFP-7.xと欧州製の既存センサー、射撃管制システム、指揮統制、データリンクを組み合わせた防空システムだ。

出典:Denys Shtilierman
センサーにはヘンソルトのTRML-4D、サーブのGiraffe 4A/8A、タレスのGround Master 400、射撃管制・照射レーダーにはワイベルのGFTR-2100/48、レオナルドのKRONOS LAND、指揮統制にはコングスベルグのFire Distribution Center、データリンクにはLink16が予定されており、FP-7.xはPAC-3 MSEと同等の能力を備えた迎撃ミサイルではなく「PAC-3 MSEの数分の1のコストで弾道ミサイルを迎撃可能なミサイル」で、PAC-3 MSEと比べて70%の能力だったとしても数で補えるというアプローチになる。
目標はFP-7.xの迎撃テストは2027年末に実施することなので、開発が順調に進んでも実用化は1年半~2年先になるため、それまでの空白期間を「各国から支援を絞り出すような代替パッケージでPAC-3 MSEを補充しつつ、長距離攻撃でイスカンデルMの生産施設を攻撃して発射テンポに干渉し、それでも着弾してしまう弾道ミサイルの被害は受け入れて耐える」という忍耐が必要だ。
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※アイキャッチ画像の出典:Lockheed Martin





















武器輸出の制限も無くなったことですし、日本はアメリカに積極的に働きかけて、輸出を主眼としたPAC3完全ライセンス生産権を得てはどうでしょうかね。
日本は自国増備&第三国への輸出増で良し、米企業は身銭切らずにライセンス料が得られて良し、パトリオット導入国は納期が短縮されて良しの三方良しだと思うのですが。
PAC3はほぼ防御用装備だし、世論的にも批判は少ないでしょうし。
アメリカは「いつか、日本は中国に寝返るかもしれない」と、頭に一瞬でもよぎると、完全な能力は持たせないでしょうねえ。
天安門の制裁破り先頭に立ったの日本だからね
今更中国に追い詰められても自業自得としか
シーカー問題に関しては、日本の機密保持・情報保全に問題を感じてるからなのかなと思ってましたがドイツにもシーカー許諾しないとなると、パトリオットに関してはアメリカ側で一定のハンドリングをしていたいんでしょうね。
ゼレンスキー大統領がPAC-3MSEのライセンス生産に関して三菱重工との協力に関心があると言っていましたが、なんらかの形で日本も協力出来ると良いですね。(当然見返りは大事ですが)
これって国際市場で天弓2が引っ張りだこになるって事じゃん
LIGネクストワンの株価が更に上がりそう
中露に強硬に詰められたら
韓国はメンテ停止して無効化されそう
海外で戦時体制のウクライナなら1年で実践投入までいくんじゃないかという人はいた
(契約的にはできるかは疑問だけど)魔改造キメラ・パトリオットミサイル生み出すんじゃないかって
できれば凄いけどなぁ
こういっては何ですが今のウクライナはドローンだけでなく弾道ミサイル迎撃の絶好の実験場なんですよね……
パトリオット増産が行き詰る中、米国相手にシーカー生産権の譲歩引き出すためにも日本もフレイヤ開発に便乗して独自開発したシーカーを幾つか乗せて試射実験でも出来たら良いのですが
年単位とは言え、ウクライナに資金が流れてまだまだ装備増強していく様を見せられるのは、ロシアにはプレッシャーだろうな
Lockheed MartinのCGはなんかモーションブラーっぽいのかけて、スゴく速く生産しているイメージに見せようと必死になっているようなw。