EUはウクライナ建国記念日の15日「防衛・軍事援助のトランシェ2として10億ユーロの融資を実行した」「ドローン、ミサイル、戦闘機の調達資金として承認済みの防衛・軍事援助枠から100億ユーロを融資する計画を承認した」と発表し、この資金によってグリペンEの調達資金が確保される。
参考:The President of Ukraine and the President of the European Commission Signed a Document Marking the First Step Toward the Drone Deal
参考:EU launches Ukraine defence industrial partnership, Drone Deal and disburses €1 billion for drones
参考:EU signs Drone Deal with Ukraine, releases 1 billion euros for unmanned systems
参考:“We are shutting the door on the Russians” – Hungary’s Defense Minister says
参考:Zelensky dismisses Defense Minister Fedorov
ウクライナとロシアの双方で重要さを増しているのは「戦場での決定的な勝利」ではなく「相手の資金源をどう遮断するか」だ
欧州理事会はウクライナ向けの財政援助300億ユーロ+防衛・軍事援助600億ユーロ=計900億ユーロ(利子はEUが負担するため事実上の無利子融資/900億ユーロの返済もロシアからの賠償金受領時のみ)を2025年12月に承認、2026年2月に欧州議会も融資に向けた関連法案を承認したものの、欧州連合理事会が融資に向けた実行・法的枠組みを最終承認する過程でハンガリーが拒否権行使を発動。

出典:European Union
ハンガリーのオルバン首相はロシア軍の攻撃で損傷したドルジバ・パイプライン(ロシア産原油をウクライナ経由でハンガリーとスロバキアに運ぶパイプライン)について「ウクライナが修理を意図的に遅らせてハンガリーを脅迫している」「石油が流れない限りウクライナ向けの融資は認めない」と主張し、これにスロバキアも同調してウクライナへの融資手続きがストップしてしまい、フィツォ首相も「もしハンガリーの選挙で(オルバン首相が)敗北しても、我々が融資手続き阻止のバトンを引き継ぐ用意がある」と強気な姿勢を見せていた。
実際に4月の選挙でオルバン首相が敗北し、政権を引き継いだマジャル首相も2025年12月の合意に従う=融資を阻止しない姿勢を見せ、ドルジバ・パイプラインによる原油輸送も再開したため、ハンガリーとスロバキアが拒否権を撤回して欧州連合理事会が実行・法的枠組みを承認、5月にウクライナ最高議会が「融資協定」と「相互理解に関する覚書」を批准したことで融資実行に関する法的手続きが全て完了し、EUは6月25日に財政援助のトランシェ1として32億ユーロ、6月30日に防衛・軍事援助のトランシェ1として39億ユーロの融資を実行。

出典:President of Ukraine
防衛・軍事援助の39億ユーロはドローン調達・生産パッケージ=約60億ユーロ(約1.1兆円)の一部で、EUはウクライナ建国記念日の15日「2026年末までにEU加盟国とウクライナの間でドローンと対ドローンシステムの共同生産を行う協定を締結した」「防衛・軍事援助のトランシェ2として10億ユーロの融資を実行した」「ドローン、ミサイル、戦闘機の調達資金として承認済みの防衛・軍事援助枠(600億ユーロ)から新たに100億ユーロを融資する計画を承認した」と発表した。
欧州委員会の外交官はkyiv Independentの取材に「ドローン調達に約60億ユーロ(約1.1兆円)、ミサイル調達に約15億ユーロ(約2,800億円)、戦闘機調達に約25億ユーロ(約4,600億円)が充てられる」と明かし、戦闘機調達に充てられる約25億ユーロはグリペンE×16機調達のための資金で、まだ融資は実行されていないもののグリペンE調達資金はほぼ確保されたと解釈しても良さそうだ。

出典:President of Ukraine
2026年のウクライナ国防予算は約4.4兆フリヴニャ(約15.9兆円)なので2026年分のEU防衛・軍事援助300億ユーロ(約5.5兆円)を合わせると20兆円規模となり、ここに米国を除くNATO加盟国31ヶ国から軍事援助として計400億ユーロ(約7.4兆円)が加算されるため、ウクライナが2026年に使用できる軍事向け資金の総額は1,560億ユーロ(約29兆円)で、ロシアが2026年に拠出する国防支出=14.9兆ルーブル=約1,688億ユーロ(GDP比6.3%)と比べても遜色がない。
ウクライナは1,560億ユーロの全額を対ロシア戦に投入可能だが、ロシア軍はウクライナ侵攻作戦に国防支出の全額を割くわけにはいかず、ハイエンドの装備品開発・調達や核抑止能力の維持・拡張にも大金を注ぎ込まなければならないため、この戦争に注ぎ込める「数字上の資金力」においてウクライナはロシアを上回る可能性もある。

出典:Fire Point
さらに付け加えるなら、判明しているEU防衛・軍事援助の大部分がドローンやミサイルの調達に割り当てられているため、ロシアが2026年後半から2027年にかけて対処しなければならない長距離攻撃の規模は現在よりも深刻化する可能性が高く、これに備えてより多くの資金を防空能力の強化に回すためには「侵攻先のウクライナ領で戦うための資金」か「ハイエンドの装備品開発・調達や核抑止能力の維持・拡張の資金」か「非軍事分野への予算」を削らなければならず、このトレードオフは「侵攻作戦のさらなる停滞」「総合的な国防能力の弱体化」「国力の低下」の何れかを招くだろう。
資金力の効果には速攻性がないため戦場の様子が直ぐに変化することもないし、ロシアの攻撃強度が下がることもないし、毎日飛んでくるロシアの自爆型無人機やミサイルの数が減るわけでもないが、同時にロシア軍が地上戦で戦争の行方を左右するような戦略的勝利(スラビャンスク占領は戦術的勝利であって戦争継続を断念させるような決定的勝利には該当しない)を収めるのはほぼ不可能になっており、戦場の前進もほぼ停止しているのと変わらないほど停滞しているため、このまま戦争が長引いて最後の非対称分野=弾道ミサイルによる攻撃能力がロシアのものだけではなくなると戦場での決着はますます遠ざかるはずだ。

出典:Президента России
そのため重要さを増しているのは「戦場での決定的な勝利」ではなく「相手の資金源をどう遮断するか」で、ウクライナはますます長距離攻撃で石油収入を削ることに、ロシアもますます戦場以外の外交や政治工作に活路を求めるはずで、第二のオルバン首相をEU加盟国に擁立されればウクライナは一気に苦しくなる。
ちなみにオルバン首相が去ったハンガリーではロシアの影響力の残滓が露呈しており、マジャル首相はオルバン前政権時代に「プロパガンダ機関」と化した国営メディアの改革に乗り出し、ハンガリー国営放送は2026年7月7日「公共メディアは嘘をついてはならない」「それにもかかわらず長年そうしてきたことをお詫びする」「公共メディアは独立性と信頼性を確保するために変革される」「それまでニュース放送は一時停止する」と発表、マジャル首相は「プロパガンダ放送が終わった歴史的な日だ」と述べた。
The day Hungary’s state media went off the air
“Public media must not lie. We apologize for having done so for years. Public media is being transformed to ensure it’s independent and trustworthy in future. News broadcasting has been temporarily suspended. Please stay with us” pic.twitter.com/OPOMTVkh9k
— Viktória Serdült (@viktoriaserdult) July 7, 2026
マジャル政権のセンディ国防相も「我々が最初にしなければならないことはNATO加盟国との信頼を再構築することだ」「そのためにはオルバン前政権によってNATO加盟を遅らされたフィンランドなど、一部の加盟国に謝罪することだ」「オルバン前政権の態度は到底容認できるものではなかった」「当時はロシアの情報機関が裏口から侵入しようとしたが、我々はロシアに対して扉を閉ざしている」「マジャル政権は新たに策定する国防戦略において国家とNATO双方の利益と価値観を考慮する」「我々は2035年までにNATOで合意した国防支出基準=GDP比5.0%を確実に達成する」と言及している。
マジャル首相はオルバン前政権がロシアとどのような取引をしていたのかを調査して公表する予定で、ロシアにとっては気まずい政治的状況だ。
It has been a great honor to serve the Ukrainian people as the Minister of Defense.
Here is what our team managed to achieve:
1. Disabled Starlink access for Russian forces.
2. Took over a Ministry of Defense with zero budget, took a risk, reallocated funds from payroll from… pic.twitter.com/18B5QQaeqL
— Mykhailo Fedorov (@FedorovMykhailo) July 15, 2026
追記:ゼレンスキー大統領がフェドロフ国防相を解任した。主な原因はシルスキー総司令官との対立=シリコンバレー式の合理的で迅速な改革と旧ソ連時代の軍事文化を色濃く残す軍首脳部が衝突したことで、軍はドローンや中長距離無人機を重視する非対称戦よりも砲弾やミサイルを重視した従来の戦い方を好み、改革に抵抗する人物の排除や調達分野における説明責任文化やNATO基準の導入に反発してフェドロフ国防相の解任につながった。
フェドロフ国防相が去ることで何がどう変化するのかは不明だが、ロシアにとっては好ましい変化の1つかもしれない。
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※アイキャッチ画像の出典:President of Ukraine





















有権者の抗議やEU介入の可能性などを考慮すればフェドロフ氏が完全に影響力を失うかはまだわかりませんが、仮にそうなった場合、調達関連の改革が後退するだけでなく、動員や兵士の待遇改善に関しては完全に頓挫するかもしれませんね。
兵士の給与や社会復帰支援の改善,外国人兵の増員計画などは予算(及びそれを理由とした実際の運用)に対する懸念を多く見かけますし、それらの計画を前提としているであろう復員や動員猶予に関しては予定止まりかつ、軍も反対しているため、かつての動員法改正時の復員規定削除を思い起こさせます。動員期間が長い兵士に対する不平等なども未解決のまま。
任務放棄や動員逃れに対する厳罰以外の対応も正式な制度ではなく試験扱いなので、いつ消えてもおかしくない。
動員改革に関しても国防相の後任最有力候補が(根本的な制度に変更が無いのに動員の実務と責任を押し付けられそうで抵抗を続けている)警察出身の内務相からのスライドで、次の内務相も警察からの採用が有力視されているため、このままでは改革は困難に思えます。
まだ破綻するような状況ではないはずですが、動員への苦情やTCC職員による暴力,TCC職員に対する暴力は増加が続いていますし、単発かつ200か300人程度とはいえ群衆によるTCC車両の破壊も起きたばかり。
一つ一つの対応が普段よりも重要であろうタイミングなので、NABU事件のようにEUが強く介入してもいい案件なのではないかと。
人は簡単には変われないとは言いますが······よりによってそうなるかという思いですね。
>スラビャンスク占領は戦術的勝利であって戦争継続を断念させるような決定的勝利には該当しない
戦争の継続は2014年以来の経緯から言ってないだろうし、ドローンアタックのやり合いが主流に傾くとは思う
しかし、ドネツク州最後の大拠点を奪われて「戦略的敗北」ではないというのは微妙な気がする
間違えてすまんこ
「継続」ではなく「断念」
停戦条件にも「ドネツク州の残り地域からのウクライナ軍の撤退」が入っていた事ですし、スラビャンスクやクラマトルスクを占領すれば流石にロシア側は一応目標は達成したという体で停戦を言い出すと思いますけどね。
その時にウクライナ側が応じられるかは知りませんが。
戦略的敗北でいうと明確に対外的に戦略的に大敗しているロシアはどうなるんだよ
中東や南米での影響力を奪われたり北欧のNATO加盟を招いたりロシア国内も悲惨な状況になっているのに
勝敗の判断をするのは当事国のウクライナとロシア国民だよ
キーウにウクライナ国旗が掲げられるのがウクライナの勝利条件ならもうすでにウクライナはロシアに勝利している
”軍はドローンや中長距離無人機を重視する非対称戦よりも
砲弾やミサイルを重視した従来の戦い方を好み”
テキトーを言うと。どちらも必要では?。
ウクライナは、ロシアのような人的損害は許容できないだろうし。
最後は歩兵で蹂躙するにせよ、相手を弱らせることは必要では?。
などと思います。
フェドロフ国防相解任含め、今起きてるウクライナの内閣改造は政治の腐敗も引き起こしてるんじゃないか。ウクライナプラウダによればフェドロフは任期中ずっと国防予算の横領を阻止してきた。それに、ウクライナ安全保障局の長官にオレクサンドル・ポグラーダを任命しようとしてるらしい。以前、NABU事件で国家半汚職局や汚職専門検察局を攻撃してた人だ。
ゼレンスキーは自滅的な人事異動をしてる
改革の阻止が戦況の悪化に繋がるんなら、NATOから厳しいお叱りを受けて結局フェドロフ戻ってきそう
ここまで金注ぎ込む以上、NATOも後には引けないし
第二のオルバン首相はあり得ないと思います。戦時中は統制が強化される為小国の反乱は恐らく事前に潰される。あり得るとすれば力ある大国、英仏独のいずれかが耐えきれなくなり統制が崩壊するパターンだと思います。そしてロシアの狙いは多分ここでしょう。
そうなる前に間違いなくロシアが先に崩壊すると思うのだが
分かりません。何故ならロシアとは空であるからです。ロシアに文化は存在しません。文化を作るべき貴族や中産階級はフランス語を話しロシア語は話せなかった為独自の文化は育たず、僅かにあった民間の文化はマルクスレーニン主義により潰されました。そしてプーチンのユーラシア主義も元を辿ればドイツ保守革命でありピョートル大帝の頃から思想や文化はドイツから来ます。だが逆に言えばプーチン皇帝に匹敵する独自の思想や文化を兼ね備えた独自勢力は存在しないか故ナワリヌイ氏の様なガス抜き要員くらいの為統制自体は容易なのです。まあ私は自由主義者なのでロシア人になりたいかと言われればNOですが。