ウクライナ人開発者らは「ドローンが自律性を獲得すればロシア軍の数的優位に対抗できるようになる」と期待しているものの、kyiv Independentは「これは人権活動家にとってディストピア的な悪夢のように映るかもしれないが、開発者とっても聖杯のような存在だ」と報じた。
参考:AI drones in Ukraine — this is where we’re at
短期的なAIの役割は人間に取って代わるのではなく補助的な役割に留まるだろう
ウクライナとロシアが行き着いたドローン戦争を象徴する存在は「戦場認識力の拡張に大きな役割を果たしたDJI製Mavic」と「安価で低画質のカメラを搭載したFPV制御のドローン」だが、両軍とも「電子妨害によってドローンの制御リンクが切断される」「運用範囲がオペレーターと無線リンクを維持できる範囲に限定される」「ドローンの大量生産も軌道に乗ってきたのに人員の供給が追いついていない」といった問題に直面している。

出典:Brave1
1つ目の課題には光ファイバー制御のFPVドローン、2つ目の解題には中継機の活用などで問題が緩和されたように見えるものの、光ファイバー制御のFPVドローンは調達コストが高価な上、無線制御のFPVドローンよりも扱いが難しため対応できるオペレーターや無人機部隊の供給に問題があり、品質の良い中継機を搭載したマザードローンの価格も20万ドルもするため、ウクライナ軍のドローンオペレーターも「何機かのFPVドローンをより遠くに飛ばすためだけにそんなコストは支払えない」「中継機は万能ではなく依然として幾つかの問題を抱えている」と指摘。
さらに致命的なのが3つ目の課題で、FPVドローンはオペレーター1人で攻撃が完結しているように見えるものの、実際には作戦に参加するFPVドローンと同数のオペレーター、これを支援する戦場の地形を熟知したナビゲーター、標的の捜索と攻撃効果を確認するMavicも必要になり、FPVドローン生産を増やすだけではドローン戦力の強化に繋がらず、両軍が導入を急いでいる迎撃ドローンもFPV制御なので状況を悪化させる可能性が高い。

出典:ODIN
kyiv Independentは「これらの問題を一気に解決するのが自律性の獲得で、オペレーターに依存しないドローン制御の完成は教皇を含む多くの人権活動家にとってディストピア的な悪夢のように映るかもしれないが、開発者とっても自律性の獲得は依然として聖杯のような存在だ」と報じ、ドローンの自律性獲得においてAIはハードウェアの壁にぶつかっていると指摘した。
“ウクライナ人開発者はオペレーターのタスクをドローンとソフトウェアに移管することで負担を軽減し、オペレーターが作戦に関与する時間を圧縮したり、オペレーターが複数のドローンを同時制御できるようになればロシア軍の数的優位に対抗できるようになると期待しているが、自律性を獲得するためのAI技術、その基盤となるニューラルネットワークの開発度合いは戦場での意思決定を委ねるには程遠い状況だ。ドローンの誘導モジュールとソフトウェアを製造するSine Engineeringのチュリク氏も「テスラは自動運転の実現に10年の歳月ち莫大な資金を投入したが、まだ安心して使用できるレベルに達していない」と言う”

出典:Генеральний штаб ЗСУ
“さらにChatGPTのような消費者向けのAI技術は巨大なデータセンターの演算能力に依存できるものの、ドローンの自律性は制御リンクが切断される状況、つまりクラウド処理に依存できない環境下でこそ真価を発揮するため、小型ドローンが自律性を獲得するには限られたペイロードに演算能力を詰め込むか、制御リンクが切断されない強固な通信能力を獲得しなければならず、10インチ程度のドローンに戦場での意思決定を委ねる未来は依然として遠いところにある”
“ロシア軍のShahed型無人機に対抗するため開発された迎撃ドローンもAI制御の自律性を獲得し、出来るだけ少ない運用要員で広大な国土をカバーする必要性があるものの、ウクライナ人開発者らは「依然として迎撃ドローンはFPV制御に依存している」「我々とエリック・シュミット氏が開発しているような迎撃ドローンの違いはAI技術が欠けている点だ」と述べたが、それでも現在のFPVドローンには「ラストマイル・ターゲティング機能」という形でAI技術が採用されている”

出典:Сухопутні війська ЗС України
“この機能はドローンとの制御リンクが維持されている環境で「画面に映る任意の物体(兵士、塹壕、S-300など)を選択するとドローンが自律的に選択された物体に向けて移動する」という機能で、目標に接近する過程で制御リンクが切断されてもドローンは目標への衝突コースを維持し続けることができる。ラストマイル・ターゲティングはロシア軍の電子妨害を回避する上で大きな一歩となったが、自律性獲得の試みは1年以上もマシンビジョンソフトウェア領域に留まっており、そもそもラストマイル・ターゲティング機能はデジタルカメラに搭載されている予測駆動のフォーカス技術に類似したものでブレークスルーと呼べるものではない”
“それでもウクライナ人開発者らは完全な自律性の獲得を諦めたわけではなく、ニューラルネットワークを効率化した自律型ドローンのテストで目標への命中率を大幅に改善(従来型の20%から80%に向上)できると証明し、このプロトタイプは影や樹林帯を通過する目標の識別力が飛躍的に向上している。しかし、ウクライナ人開発者らは「完全な自律性をテスト環境で実演するのは何の問題もないが、これを実戦環境で大規模配備するのは全く別の課題で、これを実現する見通しは全く立っていない」と言う”

出典:Shield AI
“ドローンの自律性はオペレーターと無線通信を維持できる範囲を遥かに越えた任務でも真価を発揮し、特にStarlink端末を搭載するほどコストが掛けられない自爆型無人機にとってブレークスルーとなりうる能力だ。この点で米国のShield AIとウクライナのIron Bellyの提携は将来像を示す好例で、Shield AIのV-BATにはコストの問題で到底手が出せない最先端の電子光学センサーが搭載されている”
“ウクライナ西部の演習場ではV-BATが訓練相手に様々な角度から映像を撮影し、このデータはIron Belly製の徘徊型弾薬=D4に引き継がれ、搭載されたカメラとAIがV-BATの映像に基づき当該目標を追跡する。D4は小雨の影響でカメラ映像がぼやけたため約20分間ほど目標へのコースを見失ったが、オペレーターの介入なしに悪天候を乗り切ってコースを修正し目標への最終アプローチを開始した。この技術が採用されればラストマイル・ターゲティング機能の範囲は100km以上に拡張することができるものの、まだD4の完成度は試験的な域を脱していない”
“さらにウクライナの視覚的なAI技術を支えるソフトウェアはオープソースに依存し、You Only Look Onceのような無料ソフトは経済的でも世界最高水準の能力とは言い難く、ウクライナ人開発者らは「オープンソースベースのAI技術」を「アナログの安価なカメラで撮影されたデータ」で訓練する問題について「戦車と人間の区別が可能になるだけ」「それ以上のことは今のところ不可能」「つまりロシア軍兵士なのかウクライナ軍兵士なのか、敵兵士なのか民間人なのかを区別出来ない問題は未解決のままだ」と述べた”
ドローン戦争は地上戦の在り方を決定的に変えてしまい、Mavicで拡張された認識能力と砲兵戦力が機械化部隊の集中運用を困難し、FPVドローンが登場すると機械化部隊での突破は自殺行為と呼ばれるようになり、光ファイバー制御のFPVドローンは電子妨害を無効化してしまい、FPVドローンのような小型ドローンが自律性まで獲得してしまうと人的資源の数的優位すら覆る可能性も出てくるが、その未来は技術的な問題で当分先の話になるのだろう。

出典:Сухопутні війська ЗС України
因みにkyiv Independentの取材にウクライナ人開発者が「戦争もビジネスの延長線上にあり、戦いに役立つものを売る必要が、競合製品に打ち勝つ競争力を持つ必要がある。そして競争力を持つためには優位性が必要で、AI対応のソフトウェア、クールなAIシステムを持つことは魅力的に見えるものだ」と述べ、ウクライナのドローン開発におけるAI関連の話題は「マーケティング主導によるものだ」と示唆し、戦略国際問題研究所のボンダール氏も「短期的なAIの役割は人間に取って代わるのではなく補助的な役割に留まるだろう」と指摘している。
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※アイキャッチ画像の出典:Shield AI





















ウクライナのドローン開発技術者は戦後引く手数多でしょうね。
オペレーターもだけどそっちは早めにキャッチアップされそう。
記事にも書いてありますがAIにおける問題はだいたいハードウェア関連で、物体検出というソフトウェア面については米中英(次点で日加)がぶっちぎってるので特に引く手数多なんてことはないでしょうね
現代の物体検出はハードウェアの制限さえなければ「戦車と人間/戦闘員と非戦闘員の区別」どころか戦車の種類や何を装備してるかも判別できます
ハードウェアの制限があまりにも深刻かつ致命的過ぎて、自律攻撃なんてまだまだ聖杯レベルの話、と指摘している記事では?
確かに、chatGPTでコントロールするシステムとか出てきたら、真っ先にリンクを妨害して通信不能にしてそもそもの能力を喪失させてやろう、と仕掛けるわな。
私はコメントの「ウクライナのドローン開発技術者は戦後引く手数多」に対する反論を書いてるだけですけど…
ドローンオペレーターではなく、狙われた人物や車両の動きを記録した膨大な動画を学習データとして西側に提供してるみたいよ
最終の判断を人に任せている限りは人手不足から逃れられないのですね。正直戦場で無人機は厳密に敵味方識別する必要無いと思います、基本居るのは敵なのだから。あらかた片づくまで味方は離れてれば良いのでは。精密射撃ではなく砲撃みたいなもんで。
字面だけ見ると完全にF91のバグですね。
「誰の良心も痛めることがない、いい作戦だ。機械による無作為の粛清……!」
ウクライナの戦場監視Deltaシステムの普及具合もあるけどキルゾーンに味方がいないと言う保証がどこまで出来るかはあるし、離れて待つと言う事は上手くUAVキルゾーンが機能しない場合押し込まれるリスクがある。
砲撃は着弾点がある程度の範囲に収まるが、直線で飛行するUAVなんて最前線で発射せずに安価な物で済ませるなら飛行ルート全てに誤射リスクを抱える事になる。
それと偽装とかで明らかに標的と認識出来ないなら無駄撃ちになる可能性が高い。普通の撮影用カメラとかがいくら認識力が向上しようとも最終的に写したい物の判断下しているのは人間なのでそこはどこまで自動化出来るかはあるんじゃないかな?単純に敵を認識したとして兵員載っている歩兵戦闘車と戦車どちらを潰すべきかとか状況によって変るし。
演算能力やハードウェアの制限がなければおそらく敵味方識別は怪しくても、動いてる人間や車両への攻撃の完全自動化は容易いんだろうけど、それを使い捨てのドローンに仕込むのが大変なんでしょうね。
しかし完全自律制御のドローンが大量投入された場合って、もはや人的資源や兵士の質ではなく完全な生産力勝負になると思うんですが、そこに我々西側の勝機はあるんでしょうかと心配になります。
戦術の妙で戦おうにもドローンのお陰で機動戦ができない以上、期待できないし。
ロシアはともかく生産力がぶっちぎりでAI研究も西側のような倫理的歯止めがない中国が当面は独走しそうで、危機感を覚えますね。
自律型ドローンが戦場の支配者になったら、歩兵はもちろん機械化部隊も動く的にしかならず、戦場に出てこられなくなってしまう…。
味方の部隊の突破口を開くため、ドローン同士の熾烈な戦闘が戦争の趨勢を決める時代になるのでしょうか?
通信が遮断されたら、通信を回復、または回収されるまで安全な状態で空中ないし着陸して待機出来たらいいだけで、必要以上の高性能を要求するから聖杯になるんだわ。
開発者目線で聖杯のようなのは本当にそう。
細かくいえば開発者といっても立場は様々で、ハードウェアといっても半導体製造技術かプロセッサ設計か、それともバッテリーか。はたまた低消費電力の通信とか無線給電とか発電かとかいろんな発想はある。ソフトウェアにしてもニューラルネットの革新的な設計なのか、効率的な計算なのか、それとも用途に合わせてニューラルネット以外の専用アルゴリズムも使い分けるような最適化なのか、本当に色々ある。なのでハードウェアの制限って言い切ってしまうような単純な話ではないと自分は考えているが、とにかくどういうアプローチを取るにせよFPVドローンサイズを自律制御するのは非常に高い目標です。
結局、ミサイルに打ちっぱなし能力がついていったのと同じ進化ですから、コストと数の面で折り合いがつくかどうかなんでしょうね。
エッジAIが、自律性確保には不可欠となるわけで。
武器に求められるものを考えれば、電波妨害に対して極めて強い必要があるため、クラウドと繋がなくても何とかなる必要があるからです。
一時期エッジAIに注目が集まっていたわけですが、クラウド側に莫大な投資が集まってコストが低下していて、民生品はクラウドAIのイノベーションが進んでいるんですよね。
専用チップの開発も、マーケットがそれなりにあって儲からなければ、なかなか進まないかもしれませんね。
エッジAI向けのチップが競争力を持つかと言うと、元々そんな数年で進むような話ではないので現状で判断は難しいです。それに、専用チップというよりソフトウェアの発展が大きいですが、物体検知は現にFPVドローンクラスでもできるように進歩しています。
あとクラウドにしても消費電力を減らす需要はあります。原発なりダムなりを確保してたとしても無限の電力がタダではなく、冷却や変電施設の問題もありますので。したがって消費電力を減らすという根幹部分についてはエッジ向けとクラウド向けの技術は共通しています。
現在だとテキストでAIとやりとりするChatGPTなどが身近になって実感しにくいところはありますが、クラウドで動くAIに動画を全部送るようなのは通信量が増えてしまいます。なのでエッジAIで重要な部分だけを抽出しておくといった方向性は将来的に民生でも重要な話です。それが軍事利用とどの程度共通するかは何とも判断できないところでして、民生向けと技術的に共通化されなければ軍事利用も進まないとは思います。まあ、軍事利用が進まない方が人類にとっては良いんでしょう。
イノベーションが次々と生まれて、日進月歩なのでしょうね。
今後について興味深い反面、軍事利用が進めば、(テロ組織も活用するわけで)仰るように厳しい面がありそうですね…。
「攻撃システム」として見た時には攻撃だけでなくセンサー担当、中継機、戦果確認と分担ごとに複数の機体が必要になり、現状では全てを機体内のAIに任せることができないため、それぞれの専門スキルを持ったオペレーターが分担する必要があり、大規模航空軍事作戦並みの人数になる(かもしれない)ということですよね。
こちらもCEC(共同交戦能力)のような「ネットワーク中心の戦い」ではありますが、高強度の電子戦下での戦いで自律性が求められています。
求められているのは第6世代機ネットワークと似通ったものがありますが、これをCCAや戦闘機よりも小さい小型ドローンでやろうとしているため、現状のオペレーター負担を軽減するのは「聖杯」というくらいに難易度の高い目標だと思います。
自分自律ドローンは時間の問題だと考えてて、聖杯はあと5年以内で達成されると考えてる
なんせお宝(需要)が膨大なんでシャカリキになって推進するだろう
既に画像認識も量子化も自律運転もかなりのレベルに到達してるし、スマホにAI搭載は既に現実になってる
AppleなりQualCommなりNVidiaなりHuaweiなりスマホ関係のトップ企業が軍事ベンチャーと合併して、さらにウクライナ・ロシアのいずれかから現実的課題や現状のノウハウも吸い上げて本気でドローン開発して、さて5年ではどうかな。や、予想以上の発展は遂げてますので、ヨタ話が現実になる可能性も否定はしません。
世界初の自律ドローンは普通に中国じゃろ
もう死角がない
>テスラは自動運転の実現に10年の歳月ち莫大な資金を投入したが、まだ安心して使用できるレベルに達していない
日常であらゆる移動手段の交通量や飛び出し等の人間の行動に対して水平360°の安全性が求められるパラメーターが多い物を戦場で使用するUAVの例に出して良い物なのだろうか?
安く上げるなら飛行する進行方向だけに注力するだけで戦場において最悪何かに当たっても良い物と、地上を走り高性能なセンサーで全周に高精度の警戒が必要な物とでは求められる物が違いすぎると思うんだけど。
ハイテクで戦争にゲームチェンジャーを生み出そうとする努力は大抵徒労に終わります。
実際の環境で通用するのは比較的ローテクで信頼できる手段なので
人力精密誘導ミサイルとしてのFPVドローンが末永く使われるでしょう。
もちろん、このままでは人数の不利を覆せない…という問題点は残りますが
そもそも人数が多い方が有利というのは普通のことでしかないですよね。
技術でどうこうしようとするべき問題じゃないと思います。
レーダーもIRもミサイルもジェットエンジンも登場時点ではハイテクだった訳です。
これらの登場で即座にゲームがポジティブにチェンジした訳ではありませんが、これらを「あてにならないハイテク」として切り捨てていたら致命的なネガティブなゲームチェンジに陥っていたでしょう。
前線オペレーターの情報をもとに射出されて、数分かけて現場に行き、その間に動いてしまった敵を捜索、自律判断して突入ってのをやろうとして失敗したのがnlos-lsだし
聖杯は昔から探し求められてるんだな