第12特務旅団=アゾフ旅団の指揮官はWar Zoneの取材に応じた中で「ドローン戦争」の実態を明かし、光ファイバー制御のFPVドローンがもたらす有効性と問題点、どうしてロシア軍の電子作戦能力が世界最高レベルなのか、無線制御ドローンの効果的な運用方法などに言及している。
参考:Inside Ukraine’s Fiber-Optic Drone War
どれだけ技術が進化しても戦争の優位性を左右するのは人間の適応能力なのだろう
ウクライナとロシアの戦争において一般的なメディアは「ゲームチェンジャー」という言葉を乱発し、もはやウクライナに提供された西側兵器はゲームチェンジャーだらけだが、ディフェンスメディアや専門家が認める真のゲームチェンジャーはF-16でもなく、巡航ミサイルでもなく、HIMARSでもなく、ATACMSでもなく、エイブラムスでもなく、コストが安価で大量調達による消耗可能な無人機=ドローンだ。

出典:Сухопутні війська ЗС України
この戦いにおけるドローンの役割は戦争初期と現在では大きく異なり、2022年~2023年中盤までは主に商用ドローン=DJI製Mavicによる戦場認識力の拡張が砲兵部隊の効果を飛躍的に高め、爆発物を運搬して車輌の開口部、塹壕、移動中の歩兵に向けて投下することで攻撃手段としての可能性を切り開いたが、2023年後半になると成形炸薬弾を搭載したFPVドローンが登場、これによって戦車や歩兵戦闘車を直接破壊できるようになった。
さらにFPVドローンの大量生産にも成功して価格が下がり、この兵器の供給量は敵兵士1人を排除するのに使用できるほどで、2024年の戦いは「FPVドローンの運用に有利な地形を確保するか」「如何の通信アンテナを標高の高い地点に設置するか」「電子戦システムでFPVドローンの有効性を如何に妨害するか」に注目が集まったが、ロシア軍は2024年春頃に電子妨害を受け付けない光ファイバー制御のFPVドローンを投入、これを大量に使用することでウクライナ軍をスジャから追い出すのに成功したため、光ファイバー制御のFPVドローンは大きな脚光を浴びている。

出典:Сухопутні війська ЗС України
第12特務旅団=アゾフ旅団の指揮官(コールサインはヤス)はWar Zoneの取材に応じた中で「ドローン戦争の実態」を赤裸々に明かしており、アゾフ旅団の一指揮官に過ぎないヤスの言及は「戦場全体の傾向」や「ドローン戦争の全貌」を網羅しているわけではないものの、それでも一読する価値があるものだ。
“光ファイバーでドローンを制御するというアイデアは本当に素晴らしいと思う。なぜなら光ファイバーは電子妨害を無効化するだけでなく、敵のパッシブセンサーにも検出されないためオペレーターの位置がバレない。但し、無線制御のFPVドローンとは異なる操作上の特性があり、オペレーターのスキルが不十分なら機器やシステムに重大な損失を招く。さらに光ファイバーによるFPVドローンの制御技術は非常に脆弱で、誤った扱い方をすれば断線する可能性もあるが、それでも攻撃は成功した。完璧な運用条件が整っている光ファイバー制御のFPVドローンなら標的への命中確率は50%だ”
“光ファイバー制御のFPVドローンが抱えている技術的な問題は、供給企業が技術を正しく理解しないまま光ファイバーシステムを中国企業から購入していた点にあり、これをドローンに組み込んだだけの企業のものはシステム面で非効率だと判明した。しばらくすると一部の企業が我々の意見に耳を傾けてくれて問題点が改善され、攻撃の成功率が50%、あるいはそれ以上に向上したんだ。それでもウクライナ軍における光ファイバー制御のFPVドローン使用は全体5%未満に過ぎない”
“このドローンが全軍に普及しないのは「優れた効率性を示すドローン」を生産できる企業が限られているためで、質の優れたものを生産できる企業には相当長い待機リストが発生しており、この企業が生産するドローンを手に入れるには2ヶ月~3ヶ月ほど待たなければならない。そのため質の低い光ファイバー制御のFPVドローンを購入しなければならないジレンマに陥っている。このドローンは飛行距離で価格が異なり、最大10km飛行可能なものは約1,200ドルだが、本当に質の高いドローンは不足している”

出典:АРМІЯ TV
“光ファイバー制御のFPVドローンが飛べる距離は光ファイバーコイル次第で、我々は最大15km飛べるドローンを効果的に使用してきた。20km飛行可能なモデルの実戦配備が成功したことも知っているが、敵が30km飛行可能なモデルを使用していることも分かっている。このギャップをどうやって埋めるのか前線で戦う私には難しい質問だが国家的な取り組みが必要だと思う。この点について完璧だと言いたいところだが、残念ながらそうではない”
“現在の取り組みではこうしたシステムやドローンの安定供給が確保されておらず、そのため殆どのシステムで敵に追いつくのが困難な状況だ。全部とは言わないが、敵は少なとも主要システムの多くを国家レベルで管理している。私たちも単純なドローンや無線制御のドローンなどは国家レベルのプロセスが確立されているものの、光ファイバー制御のドローンを安定供給するにはまだ数多くの課題が残っている”

出典:117 окрема механізована бригада
“光ファイバー制御のFPVドローンが目標に到達する確率は50%以上だが、無線制御のFPVドローンは使用する周波帯の過負荷問題で目標到達率が大幅に低下する可能性(30%程度)があり、実際に目標を破壊できるかどうかも目標の状態に左右される。敵が積極的に移動している場合、敵兵士が隠れている場合、地下室や塹壕に隠れている場合などは効果が低下する。つまり無線制御のFPVドローンも目標に到達すること自体は問題ではない。部隊間で使用する周波帯を調整しておけばいい話だ”
“光ファイバー制御と無線制御の大きな違いは敵の電子妨害に影響を受けるかどうかで、無線制御のドローンは前線から5km~8km程度の深さでしか運用が出来ない。敵の電子妨害は我々の無線信号を妨害することに成功しているものの、これは電波の強度にも影響されるため強力で高品質な中継機を使用し、作戦範囲の拡張と効率的なドローン運用に努めている”

出典:Vitaly V. Kuzmin/CC BY-SA 3.0
“現時点でロシア軍の電子作戦能力は世界最高レベルだと言えるが、これは電子戦システムの質が高いという意味ではない。この能力を世界最高と言わしめているのは電子戦システムの質ではなく量で、これは電子戦の優位性を決定づける重要な要素だ。さらにロシア軍は我々の対抗手段を素早く分析して解決手段を見つけ、これを直ぐに全部隊へ普及してしまう。ロシア軍の電子作戦能力が世界最高レベルなのは数の多さと適応力の高さのことだ”
結局のところドローン戦争に使用されている技術は主に商用ベース、構成部品も高価で特別設計の軍事仕様ではなく入手性の良い汎用品ばかりだが、これを目的に合わせて組み合わせる統合技術が重要で、さらにロシア軍の電子作戦能力はシステムの驚異的な性能ではなく「圧倒的な量」と「人間に依存する適応能力」に支えられている。つまりロシアと同じシステムを手に入れても「同じレベルの電子作戦能力が手に入る」と考えるのは間違いで、どれだけ技術が進化しても戦争の優位性を左右するのは人間の適応能力なのだろう。
Fiber-Optic FPV Drones Strike Enemy Targets
We will find a countermeasure-resistant FPV drone to break through any Russian electronic warfare system. This is precisely the type of weapon deployed by Azov drone operators in the Toretsk sector.
This video features strikes on… pic.twitter.com/hQXVBMoyD0
— First Corps Azov of the National Guard of Ukraine (@azov_media) March 24, 2025
さらに興味深いのは「アゾフ旅団が無線制御のドローンをどのように活用しているか」に関する言及で、FPVドローンが建物の中に隠れた敵を攻撃する映像を良く見かけるが、こういった建物の中は電波の影になりやすいため「中継機能を搭載したドローンを建物の真上に展開させ、その後にFPVドローンを建物の中に突入させる。中継器のお陰でドローンからの映像は非常に鮮明だ」と、ドローンを無線制御する見通し通信の距離についても「電波の送信強度が重要」と、飛行船に中継器を搭載して飛ばすというアイデアについても「あまり効率的とは言えないので支持できない」と述べている。
恐らくウクライナとロシアはFPVドローンの運用方法を命がけで試行錯誤しているため、血を流して獲得したノウハウを持たない国がFPVドローンのみを導入しても、ウクライナやロシアと同じレベルの運用能力に到達することはないだろう。

出典:Photo by John Hamilton
追記:ウクライナとロシアの戦争でF-16、巡航ミサイル、HIMARS、ATACMS、エイブラムスがゲームチェンジャーではないと言ったものの、戦争の優位性を左右する武器システムは戦場の環境や敵の能力によって変わるため、F-16、巡航ミサイル、HIMARS、ATACMS、エイブラムスが将来の戦いで大きな役割を果たせないという意味ではない。
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※アイキャッチ画像の出典:Brave1
光ファイバーと一緒に電力供給できたら無限に飛べそうだけど流石に重すぎて無理か
PoEと同じように伝送は出来るのですが、終端側となるドローン本体に光→電力への変換装置を乗せる必要があります
変換装置はどうしても大きくなりますしコストも高いので、ちょっと現実的では無いですね
光給電装置が超小型化+低コストになったらアリだと思いますが、その頃にはもっと大容量バッテリーが実現してるかもしれません
極めて基本的で正しい事を述べている。
日本人が忘れかけている摺合技術と言ってもいい。
日本もしっかり教えてもらう事だ。
代わりに、余剰のFH-70、M270、M110A2を送れば良い。
「自分たちが要らなくなったゴミ送って、我々が血で書いたノウハウを簒奪しようとするのではなく、兵士を送ってください。それも精強なやつを。」
適応力の高い国、(適応するまでの間)損害に耐え続けられる国は、戦争に強いですね。
血を流す上でノウハウが得られるという事は、北朝鮮兵の派兵が金銭面だけでなく、現代戦のどういった能力を獲したのか気になります。
日本にとっては、尚更、厄介な話しですね…
北の兵士は、最初はドローン攻撃に適応できなくて、あっという間に死屍累々となったけど、ウクライナの精鋭部隊の兵士も驚くほどの早さでドローンの戦場に適応して、驚異の部隊に様変わりした。と言われてますからね。
命をかけた、究極のOJTかもしれませんね…
損害許容度の高さと適応力の早さのに国内の統制効いている国は戦争すると強いのが再認識されましたよね。
ドローン関係は日本も本腰入れていけば良い線いけそうですが、中国やロシアに対抗出来るかと言われると厳しいとは思いますが現実的に軍隊には必須の装備と言えるレベルになったとは思います。
まさに仰る通りです。
世界有数の会社が、光ファイバーケーブル分野に複数ありますから、かなり良い線いけると思います。
日本の場合は、ドローン分野の規制が強すぎたため、産業発展を阻害・人材育成も妨げたこと、中国・ロシアといった隣国の強さが難点でしょうか…
「ドローンの軽量な弾頭で正規軍の重装甲車両による進軍を阻止することは出来ない」
と真顔で語られていた時代が懐かしいですね。
そんな時代がありましたね。
機銃などの車外兵装・各種センサー・アンテナ・光学機器など、車体外に剝き出しのものだけでも被害を受ける可能性は充分にある、この趣旨でさえもコメント欄に書いて否定されたことがあったんですよね。
戦車万能論ではありませんが、ウクライナ戦争前~途中までは重装甲車両に対する過信(信頼)が、一般的だったのかもしれません。
無線LANでも中継器が存在するくらいだから、無線通信の中継するドローンも当然あるだろうと思ったら、やっぱり。
光ファイバーの中継器ドローンで無線ドローンを操作というパターンも当然あるんだろうなあ。
ロシアは比較的に少品種大量生産で戦域ごとに細かく周波数など微調整するのが苦手らしい。光ファイバードローンはどの戦域でも安定して戦果を出せるか扱いやすいんだろう。
生産に時間がかかる理由としては光ファイバーコイルの生産が大変って話を聞いたな。10kmあたり1.5時間だったっけな?おばちゃんが良い感じの張力で切れないように加減しながら巻いてくらしい。絹糸かな?
ロシアは北朝鮮にこの仕事を投げてるかも知れんな。北朝鮮には服飾で鍛えられたおばちゃんがいるし。
生産の現場、興味深い情報ありがとうございます。
日本企業は、光ファイバーケーブルの世界シェアが高いのですが、日本もドローンに搭載できる技術がありそうだなと少し気になっています。
>近年、極細同軸ケーブルは、モバイル機器やウェアラブル機器、ドローンなど様々な用途で用いられ、非常に限られたスペース内で高屈曲・捻回特性を有した接続やさらに細径でノイズに強く高速な信号を伝送するニーズがあります。
(極細同軸ケーブルアセンブリ 研究開発 フジクラ)
光ファイバー用の巻取り機械(ボビン巻き取り機)があるので手巻きなんてしないです
km単位のプラスチック光ファイバーケーブルを手巻きで大量生産しようとしたら不良品率が跳ね上がりますし、生産コストが掛かりすぎてやってられません
昔に比べると15mm以下の曲げ半径も一般的になっていますが、それでも手巻きでやろうとするとちょっとした力の掛けすぎであっさりと破断します
ウクライナが光ファイバードローンを大量生産できない理由はそれ。
今までのようにベンチャー企業が中華の部品を集めてガレージで作るということができないんだよね。
巻き取り機械をなんとか入手して国産化に成功したと宣伝してるけど、その企業も量産にハードルが高いことを認めている。工場設備も規模を拡大すると移動も難しくなるし。なんせロシアの空爆から逃れるため2カ月おきに引っ越ししてるらしいし。
ロシアは中国から大量に機械も技術者も入れてるからな
はいそんな感じです。おばちゃんは機械オペレーターみたいなもんですね。
いずれ妨害電波に負けないようにAIが自動的に認識して攻撃するようになるのは時間の問題かなあ
海上ドローンはAI判断でロシアの戦闘機を攻撃したというし
また某国ではAIがそうやって住民の選別からの殺害をしてるというし
そしてAIが反乱というSFに
添付映像を見ると、FPVドローン用の光ファイバーケーブルユニットをそのまま活用したUGV開発も行ってるようですね。
電子戦によって正規軍にホビードローンなぞ通用しないとされていた時代、懐かしい…
冷静に考えたら一電子戦ユニットでカバーできる範囲が数キロに過ぎないんだから
とても全戦線をカバーできるわけないのに、こういうこと言ってた人たちはそもそも
電子戦自体よく分かってなかったな。
そして全戦線を覆うようなユニットは当然質より量になると。
”ロシア軍の電子作戦能力はシステムの驚異的な性能ではなく「圧倒的な量」と「人間に依存する適応能力」に支えられている”
思想的には右派的なアゾフ旅団がロシア軍の適応能力を評価しているのは驚きですね。
ともすれば我々西側でロシア軍の2022年以降の評判は張子の虎で、硬直的で適応能力がなく只々人海戦術にのみに頼る無能軍隊ってのが一般大衆だけでなく、ミリ界隈、エリート層の大多数だと思います。
適応能力もウクライナ軍がロシア軍を圧倒しており、それがウクライナの質的優位に繋がっているという認識でした。
前線でロシア軍と死闘を繰り広げてると相手を侮る”建前”ではなくどうしても現実を認めざる得なくなるという事でしょうか。
有線サイコミュのほうが良いということですか。
エルメスよりも、ブラウブロ、ジオングのほうが抗甚性が高い。
前々から有線サイコミュって、動力供給以外の意義があるのかなと思ってた。
ミノ粉で無線操縦のドローンが使えないからサイコミュ波で操縦するのに、ヒモ付きってナンセンスだよなあと。
最新のガンダムでは、ビットは推進剤を使い切ってしまうと、どうしようもないという設定に。
本体で補給できる設定の機種もあったようだけど。
ガンダムの場合は本質的に高いニュータイプ能力依存の無線制御とある程度本体との位置情報やり取りしてセミオート制御可能な有線制御とでは操縦者への負担が大幅に違うというのもあるようです。
さておき有線が無線の1.5倍以上の射程を得たという話は示唆的です。
釣り糸より強靭そうな光ファイバーばらまいて、あとで野鳥とかいろいろ問題でそうだなあ。
まあ野生動物の心配より人間同士の殺し合いを止めるのが先決なのだが
これで儲かるのはどこの国のどこの企業だろうか?
犯人は…
光ファイバーを辿れば
見つかるよきっと
生え際戦線にいるよ