ウクライナ戦況

ウクライナは弾道ミサイルを迎撃ミサイル1発で対処、IBCS採用で同じことが可能

ウクライナ空軍はパトリオットシステムによる弾道ミサイル迎撃について「我々は出来るだけ迎撃ミサイルの節約に努めており、2発~4発ではなく1発で破壊する」と明かし、Northrop Grummanも「IBCSを使用すれば目標に対する迎撃ミサイル発射を2発から1発に減らせる」と主張した。

参考:Українські зенітники збивають балістичні цілі однією ракетою Patriot замість двох-чотирьох — ПС ЗСУ
参考:Ukrainian Patriot crews downing ballistic missiles with single interceptor
参考:Luftverteidigung: Northrop Grumman sieht IBCS als Schlüssel für effizienteren Einsatz von Flugkörpern
参考:米ノースロップ・グラマン、最新防空システム「日本で5割生産も」

Northrop Grummanにとって最悪のシナリオはESSIとミケランジェロ・ドームが結びつくことで、この動きにくさびを打ち込むのがドイツのIBCS採用なのだろう

The Timesは対イラン戦の非効率な防空資産の運用や戦闘ドクトリンについて「米国や湾岸諸国はウクライナの防空部隊から教訓を学ぶべきだ」と指摘し、この記事の中で「ウクライナ軍は防空システムの隠蔽と機動の達人だ」「戦争初期の痛ましい失敗から学び、現在ではいつ、どこで、どのように防空システムを展開すべきか熟知している」「ウクライナ軍は米軍よりも速くパトリオットを組み立て・分解する方法を編み出した」「ロシアの新型弾道ミサイルは目標を隠すため2度上昇と降下を行うため防空部隊は鋼の精神で自動照準をオフにし、ミサイルが目標に命中するわずか数秒前という極めて正確なタイミングで迎撃している」と指摘。

パトリオットシステムを運用するウクライナ空軍の西部司令部も「我々は出来るだけ迎撃ミサイルの使用を節約するよう務めている」「交戦規則で特定の複雑な目標(弾道ミサイル)に迎撃ミサイルを2発~4発同時使用するよう規定されていても、我々は1発の迎撃ミサイルで(弾道ミサイルを)破壊する」と明かし、西部司令部が言及した交戦規則とはNATOが定めた迎撃規則のことで、NATOは弾道ミサイルの迎撃成功率を向上させるため1回の迎撃で複数の迎撃ミサイルを使用することを義務付けている。

Militarnyの報道を引用したDefence Blogは「ウクライナ軍の防空部隊は迎撃の信頼性を損なうことなく、この要件を1発の発射にまで緩和できるほどの状況認識能力、目標追跡精度、射撃管制の規律を身につけたようだ」と報じたが、Northrop Grummanも「防空資産をIBCS(米陸軍が採用した次世代統合防空向けの指揮統制システム)に統合すればパトリオットシステムの迎撃ミサイル備蓄を確保する上でゲームチェンジャーになるかもしれない」と主張した。

出典:Northrop Grumman

独ディフェンスメディア=hartpunktの取材に応じたNorthrop Grummanは「米陸軍のパトリオット部隊は1つの目標に対して通常2発の迎撃ミサイルを発射していたが、複数のセンサーからの目標データを統合して精度を向上させるIBCSのコンポジット・トラッキング技術によって命中確率を大幅に改善できるため、目標に対する迎撃ミサイルの発射を2発から1発に減らすことが可能だ」「すべてのパトリオット部隊が相互に接続されて単一の戦場認識力を共有できるようになれば、複数の部隊が重複して同一の目標と交戦してしまう事態も防ぐことができる」と言及。

さらにNorthrop Grummanは「IBCSには様々な紛争から得られた教訓が反映されており、米陸軍と共同でIBCSの機動性、生存性、任務への適応性を高めるためアダプティブ・フレームワークを立ち上げた」「これにはソフトウェアがハードウェアに依存しないアグノスティックな設計への投資に加え、ハードウェア自体への改修も含まれている」「米陸軍の最小車両である歩兵分隊車両(ISV)へのIBCS搭載に向けた開発も進めている」「この取り組みによってIBCSはミサイル防衛だけでなく、より下層の砲弾、迫撃砲弾、ドローンの迎撃に至るまでスケーラブルな運用が可能になる」と主張している。

既にISVへのIBCS搭載に向けたプロトタイプは開発段階で、最初のデモンストレーションは4月中旬に予定されており、hartpunktは「米国以外で最初にIBCSを採用したのはポーランドで、2025年末にIBCSとパトリオット部隊の完全運用能力を獲得している。Northrop GrummanによればポーランドのIBCSは第2段階フェーズとしてMBDA製の迎撃ミサイル=CAMMなど、ポーランド独自のセンサーやエフェクターのシステム統合要求に応えるためIBCSのソフトウェア改修が行われている」「ドイツ軍もパトリオット部隊向けの次期戦闘管理システムとしてIBCSを有力視している」と報じた。

日経新聞も3月27日「米防衛大手のノースロップ・グラマンは日本に提案している最新鋭の防空システム=IBCSに関して『日本が導入した場合、全体の50%を日本国内で生産することになる』との見通しを示した」と報じたが、Northrop Grummanはhartpunktの取材の中で「IBCSのコア・ソフトウェアは引き続き米国政府の厳格な管理下に置かれ、対外有償軍事援助の枠組みで同盟国に提供される」「車両、コンテナ、ラック、通信システムといったその他のハードウェア構成要素はドイツ企業がサプライヤーとして参画できるかもしれない」と述べている。

出典:Lockheed Martin

Northrop GrummanはIBCSへの世界的な関心について「20カ国以上が米国政府に対し正式に関心を表明している」と述べているが、オーストラリアは統合ミサイル防衛(IAMD)のコアとなる統合対空戦闘管理システム=JABMSについてIBCSではなく「豪産業界と共同開発を提案したLockheed Martin案」を選択した。

Lockheed Martinも「JABMSやIAMD構築に関するワークシェアの大半は現地企業に割り当てられ、このアプローチによって豪中小企業は世界のサプライチェーンの中で確実にボックスシートを獲得できるだろう。豪州で開発された技術は将来的に世界へ輸出され、豪産業界は830億豪ドルと予想される(統合ミサイル防衛の)国際市場にアクセスできるようになる」と述べており、イタリアのLeonardoも2025年11月にIBCSの欧州バージョン=ミケランジェロ・ドームを発表。

出典:Leonardo

チンゴラーニ最高経営責任者は3月の決算報告で「既に20カ国が関心を示している」「このミケランジェロ・ドームは2035年までに210億ユーロの新規事業が見込まれている」「最初の構成要素はウクライナの友人向けに製造中だ」「最初の試験はウクライナで行われることになるだろう」と述べ、こちらも欧州諸国がバラバラに導入している防空資産(SAMP/T、パトリオット、David’s Sling、Arrow、NASAMS、IRIS-T、タイフーン、ラファール、グリペン、F-16、F-35、艦艇、各種レーダーなど)の断片化を解消してシームレスな共同運用を実現する。

ウクライナ戦争を機に統合防空向けの指揮統制システムに対する関心や需要は高まっているが、IBCSのコア・ソフトウェアはブラックボックス化されているため「米国への不信感を募らせている欧州諸国がこぞってIBCSを選択する」という可能性は考えにくく、ドイツは欧州スカイシールド構想(ESSI)の中で長距離をカバーする防空システムにパトリオットを指定しているため、Northrop Grummanは「ドイツのIBCS導入を勝ち取ればESSIの裏口から欧州市場にアクセスできる」と考えているのかもしれない。

出典:Eurosam

ただし、ドイツがESSIの長距離をカバーする防空システムにパトリオットを選定したのは欧米関係が良好だったトランプ政権以前の話で、フランスとイタリアは長距離をカバーする防空システムからSAMP/Tが除外されているためESSIへの参加を拒否し、ESSI参加国のデンマークはパトリオットではなくSAMP/Tを選択、ESSI参加国のスイスもパトリオットの調達を中止してSAMP/Tに乗り換える動きが観測されているため、ESSIへのSAMP/T統合要求の圧力は高まっている。

Northrop Grummanにとって最悪のシナリオはESSIとミケランジェロ・ドームが結びつくことで、この動きにくさびを打ち込むのがドイツのIBCS採用なのだろう。

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※アイキャッチ画像の出典:Lockheed Martin

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コメント

  • コメント (15)

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    • L
    • 2026年 4月 13日

    IBCSが何なのか、「防空資産をIBCS(米陸軍が採用した次世代統合防空向けの指揮統制システム)」まで読み進めるまで分からなかった

    22
    • もへもへ
    • 2026年 4月 13日

    今のアメリカだとアメリカ製の指揮統制システムって時点で、アメリカの事前承認なしに対空ミサイルすら動かなくしそうな負の信頼感がある。

    29
    • たむごん
    • 2026年 4月 13日

    シェルター、掩体壕を整備する重要性を感じますね。

    長期戦ならびに確率を考えれば合理的な選択ですが、被害を覚悟してるのも感じます。
    日本=ウクライナを比較すれば、ウクライナはシェルターが整備されているからこそ、判断出来た面もあるのか気になりますね。

    防空兵器が枯渇すれば、政治(士気の低下)・外交(足下を見られる)でも厳しくなりますし、航空攻撃を受けやすくなるリスクも格段に上昇するのも重要な点かなと。

    6
      • 名無し三等兵
      • 2026年 4月 13日

      シェルターや避難施設の整備もですが強制避難勧告(退避勧告)も必要ですね
      しかも緊急避難警報が出たら即座に頭上が堅固な建物へ5分以内に退避しろとか(例え車を
      してても)、求めるとか務めるじゃなくて市民へ命令として強制しなければいけません
      都市部、人口密集地上空で防空戦をするって事は頭上から敵味方の色んな破片が頭の上に
      降ってくるんですよ、例え小さい金属片であっても高い高度から落ちて来て頭に当ったら
      致命傷になりますから堅固な施設内への避難は絶対でそうじゃなければ防空戦なんて出来ません
      どこぞのブースターの落下とか気にしてる場合じゃないんです

      10
        • たむごん
        • 2026年 4月 14日

        本当に仰る通りです。
        防空システムの迎撃によると思われるものが、ウクライナ戦争~イラン戦争の期間、落下したような映像(命中したという勘違い)・画像もでてますよね。

        日本は、至る所でやることが山積してますね…。
        強制のためには法制化が必要でしょうし、実行するためには学校レベルから避難訓練として備える必要もあるでしょう。

        左翼が、訳の分からないことを騒いだりして妨害してきましたが、やらなければいけない事は非常に多いですね…。

        1
    • リンゴ
    • 2026年 4月 13日

    >ロシアの新型弾道ミサイルは目標を隠すため2度上昇と降下を行うため防空部隊は鋼の精神で自動照準をオフにし、ミサイルが目標に命中するわずか数秒前という極めて正確なタイミングで迎撃している
    凄すぎて参考にならないんですがそれは

    25
      • nachteule
      • 2026年 4月 13日

       日本のイージスでも人力の方がシステムより上みたいな似た話しがありました。そんな職人の暗黙知に頼るようなのは参考にしなくて良いですよ。真似するにしても数が少ないミサイルを使用した迎撃が必要で、それで技術を習得したとして今ならパターンを把握出来ているならすぐにシステムに落とし込まれてやるだけ無駄になる可能性が高いと思いますけどね。

       むしろこんな事公開している時点でシステム的に対応済みかロシアのパターンが変っている可能性が高く過去の話になっているんじゃないかと思う。どう考えても弾道弾として対応が不可能な案件じゃない。
       この話は単純です弾道ミサイルが目標に対して決まった機動しかしなくなるタイミングと迎撃ミサイル能力で当てられるタイミングで迎撃しているだけです。

       この先は一応ネットにある微妙な物を含めた情報を元に個人が勝手に想像しているだけなので注意しべきだけど。注意しなければならないのはどこでどの弾道ミサイルの迎撃をした話をしているかが問題だと思う。

       新型弾道ミサイルを素直に受け取るならオレシュニクと思うが、コイツは2回しか使用されていないはずでそんな迎撃の機会が無いので違うはず。射程距離で考えると最小射程だと低軌道のミニマムエナジー軌道するしかないから今回の話と合致する可能性は高い。ロシア側の情報5000km射程だと高軌道のロフテッド軌道で発射され機動変更するとは言え高度10km以上で6個の子弾を放出するタイプなので迎撃フェーズでは垂直落下の軌道しかしないと思うので対象ではないと思う。
       恐らく機動変更の話を見るにイスカンデルMとその空中発射版のキンジャールの話と思われ、今まで1回しかしてなかったのがもう1回していると言うのが分かったのが収穫かな。高度15km以上で滑空している時に2回の機動変更して最終段階で40kmまで上昇80-90°の角度で落下する筈。目標命中の数秒前で迎撃するなら垂直落下時を狙う感じかな。

       表に出ているPAC-3 MSEの性能を考えるにざっくり最大で射高36km射程30kmの範囲を約20秒以内でカバーするが、ミサイル推進装置やランチャーの角度的に直上に穴があるはず。前記のカバー範囲内で最後の垂直に近い角度で落下してくるタイミングの迎撃を最大20秒と言う時間を考慮して行うだけで難易度が高くないんじゃないか?

      7
        • バーナーキング
        • 2026年 4月 14日

        >最小射程だと低軌道のミニマムエナジー軌道するしかない

        色々と違和感。
        特に「軌道する」という動詞。

        3
    • 名無し
    • 2026年 4月 13日

    OSINT見る限りだとkh-101の迎撃成功率は高いけど、イスカンデルは相当着弾してるみたいだけどね

    11
      • NIVEA万能論
      • 2026年 4月 14日

      「1発で迎撃している(撃墜出来てるとは言ってない)」という感じで、弾数節約のための苦肉の策ではないかというのがこの記事を読んだ自分の感想です。

      14
    • SB
    • 2026年 4月 13日

    ミケランジェロドームはIBCSよりも上位レイヤーの統合防衛構想だし、意外とC2にIBCS導入するのでは

    3
    • 暇な人
    • 2026年 4月 13日

    これはそもそも言っては悪いけど多数発射してでも守るものがないウクライナと、一発着弾するだけで大損害の湾岸諸国や米軍基地の違いではないかと思うのだけど
    F35や空中給油機が地上破壊されたり、油田が吹き飛ぶと大損害ですから
    一発撃って当たらなければ仕方ないで済ませられるウクライナとは状況が異なる

    33
      • せい
      • 2026年 4月 13日

      それは自分も思った
      けど、最終的な迎撃成功率が上がったり、防空ミサイルの消耗を抑えられる部分もあるから、参考に出来るところは参考にしていいと思う

      7
      • nachteule
      • 2026年 4月 14日

       無印PAC-3の頃に中東で迎撃した結果がニュースであって、PAC-2とPAC-3使用してPAC-3は4発しか発射しなかったけど全弾命中みたいな内容もあるので実際どうなんだって混乱する話があった。
       結局はターゲットが昔ながらの弾道ミサイルだとか落とせればラッキー、そもそもミサイルの数が少なく仕方無しの状況とかケースバイケースなんだろうなと。計算上は何発同じターゲット狙おうが100%にはならないと思うし。

      1
    • 通りすがり
    • 2026年 4月 20日

    MD計画上がりの兵器は、核弾頭を積んだ弾道ミサイルの迎撃を目的としているので、抗戦規定も、それに準じている可能性があると思う。ミサイル1発の迎撃率を75%に見積もって、4発撃てば迎撃率99%みたいな。撃ち漏らした場合の被害を考えると、そういう考え方もあるでしょう。
    「実際の利用で、PAC3MSE弾が1発で90%以上の迎撃率が出ていて、撃ち漏らした場合の損耗を通常弾で考えたら、1発だけの方が合理的」みたいな判断を、ウクライナ軍がしたんじゃないかな?

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