ロシア国防省が7月に発表したウクライナ軍の固定翼無人機の撃墜数を集計すると「12,827機」となり、逆にロシア軍の発射数は4,719機に過ぎず、ウクライナは自爆型無人機の攻撃量でロシアを5ヶ月連続で上回ったが、依然として弾道ミサイルの迎撃率の低さが浮き彫りになった。
参考:Генеральний штаб ЗСУ
参考:Минобороны России
参考:The highest number of glide bombs and almost 8,000 combat engagements: the situation on the front line in July
参考:Fire Point CEO details FP-9 ballistic missile and Patriot rival program
参考:Ukrainian F-16 Scored First Air-To-Air Kill Against A Russian Fighter: Top U.S. General
敵に与える破壊や損害が社会や産業の回復力を上回れない膠着状態
ウクライナとロシアの長距離攻撃能力には当初「絶対的な差」が存在していたが、ウクライナ製の自爆型無人機(FP-1、FP-2、UJ-22、UJ-25、UJ-26、Lyutyi、パリャニツャなど)や巡航ミサイル(FP-5や対地攻撃用のネプチューン)の量産が軌道に乗り始めるとロシア領内への長距離攻撃が徐々に増加し、2025年7月からは月間攻撃数が1,000機を下回ることがなくなり、2025年12月には月間攻撃数が5,000機を超えて長距離攻撃能力の格差が急速に縮まった。
| 2026年1月から2026年8月4日まで両軍が発射した自爆型無人機の数 | ||
| 月 | ウクライナ軍発射数 | ロシア軍発射数 |
| 1月 | 推定1,000機~2,000機 | 4,442機 |
| 2月 | 推定1,500機~3,000機 | 5,059機 |
| 3月 | 7,347機 | 6,583機 |
| 4月 | 9,372機 | 6,583機 |
| 5月 | 8,973機 | 8,150機 |
| 6月 | 11,999機 | 5,749機 |
| 7月 | 12,827機 | 4,719機 |
| 8月 | 2,068機 | 635機 |
| 7月以降のウクライナ軍発射数はロシア国防省が発表する固定翼無人機の撃墜数(飛来数は非公開)を管理人が集計した数字、ロシア軍発射数はウクライナ参謀本部発表が発表したシャヘド型無人機(囮を含む)の飛来数を管理人が集計した数字 | ||
ロシア国防省が7月に発表したウクライナ軍の固定翼無人機の撃墜数を集計すると「12,827機」となり、仮にウクライナ軍の自爆型無人機が「ウクライナの防空網を貫通するロシアの自爆型無人機の突破率=約10%」と同じと仮定すると発射総数は14,000機(1日平均451機)を超え、逆にロシア軍の発射数は4,719機(1日平均152機)に過ぎず、ウクライナは自爆型無人機の攻撃量でロシアを5ヶ月連続で上回ったことになる。
この傾向は8月(4日時点)も継続しており、ウクライナの対無人機・ドローン迎撃シールドは迎撃手段が多重化して厚みを増し、ロシアは攻撃と防御のコスト交換比が悪化して「自爆型無人機による物量攻撃戦術」を諦めた可能性すら勘ぐりたくなるほどだ。
| ウクライナ参謀本部発表に基づく自爆型無人機(囮を含む)の迎撃率と着弾数から計算した実効迎撃率 | ||||
| 攻撃型無人機(囮の数) | 撃墜数(迎撃率) | 着弾数 | 実効迎撃率 | |
| 1月 | 2,915機(約1,527機) | 2,725機(61%) | 649機 | 77%~85% |
| 2月 | 3,220機(約1,839機) | 3,238機(64%) | 548機 | 83%~89% |
| 3月 | 4,186機(約2,276機) | 5,833機(90%) | 530機 | 87%~91% |
| 4月 | 4,335機(約2,248機) | 5,861機(89%) | 609機 | 85%~90% |
| 5月 | 5,181機(約2,980機) | 7,588機(90%) | 543機 | 89%~93% |
| 6月 | 3,679機(約2,070機) | 5,300機(90%) | 464機 | 87%~92% |
| 7月 | 4,719機(数字なし) | 4,298機(87%) | 658機 | 86.7% |
| 1月の撃墜数(迎撃率)は飛来したシャヘド/ゲランのみの撃墜数、2月から公式の集計方法が変更されて攻撃型のシャヘド/ゲラン、イタルマス、多目的=ガーベラ、囮=パロディの撃墜数(電子戦による無力化を含む)、実効迎撃率は飛来した「飛来数の合計数」と「攻撃型のシャヘド/ゲランとガーベラの合計数/2月以降はシャヘド/ゲラン、ガーベラ、イタルマスの合計数」を公式の着弾数で割った数字 | ||||
ロシアが7月に発射した146発の巡航ミサイル(Kh-101/カリブル)も135発が撃墜・無力化され、誘導ミサイル(Kh-59/Kh-69)、対艦ミサイル(ツィルコン/オニクス)、対レーダーミサイル(Kh-31/Kh-31P)の撃墜・無力化はまちまちだが、やはり問題は弾道ミサイル(イスカンデルM/KN-23/S-400の迎撃ミサイル=48N6シリーズ)の貫通率だろう。
7月に発射された弾道ミサイルの数は123発で迎撃できたのは35発で迎撃率も28.5%に過ぎず、米国とポーランドがPAC-3 MSEの供給を約束して7月14日に弾道ミサイルの迎撃が再開され、14日に5発、16日に3発、19日に17発(イスカンデルM/S-400×25発、ツィルコン×10発、オニクス×3発の飽和攻撃に対する撃墜数)、26日に5発、30日に1発を撃墜・無力化したが、発射される弾道ミサイルの数に対してPAC-3 MSEの供給数が追いついていない印象だ。

出典:Mil.ru/CC BY 4.0
この傾向は8月(4日時点)も継続しており、28発の弾道ミサイルの内1発しか撃墜・無力化できていないが、ロシアも毎日発射できるほど弾道ミサイルの数がなく、イスカンデルMの弾頭重量は約480kgなので100発着弾しても投射火力は約48トンに過ぎず、ウクライナのFP-1が1,200機着弾した場合の投射火力(72トン)の方が強力で、どちらの側も「経済が崩壊するほどの破壊が発生した」「軍需生産に致命的な破壊が発生した」「軍の指揮系統に深刻な問題が発生した」という兆候はないため「弾道ミサイルの迎撃率の低さ」が戦争の勝敗に大きな影響を与えるわけではない。
そもそもロシアのミサイル生産力は約1年前の見積もりと大きく向上しておらず、備蓄量もイスカンデルMは400発減、イスカンデルKは240発減、キンジャールは50発減、Kh-101は160発減、Kh-22/Kh-32は30発減で、ロシアが発射する弾道ミサイルの大半はイスカンデルMではなくS-300用の迎撃ミサイル=5V55、S-400用の迎撃ミサイル=48N6を改造して作られた標的ミサイル(Raketa-Mishen)のRM-48Uである可能性が高く、RM-48Uは対空訓練で使用される標的なので地上目標に対する精密な誘導能力はほとんどない=イスカンデルMの囮として使用されているというのが戦術的な評価だ。
| ウクライナ国防省情報総局が7月に明かしたロシアのミサイル備蓄とミサイル生産能力の見通し | ||
| ミサイル | 備蓄量 | 月あたりの生産能力 |
| イスカンデルM | 100発+ | 約50発 |
| イスカンデルK | 60発+ | 15発 |
| キンジャール | 約100発 | 5発 |
| カリブル | 450発+ | 20発 |
| オニキス | 600発+ | 5発 |
| Kh-101 | 最大100発 | 60発 |
| Kh-32 | 250発+ | 10発 |
| ツィルコン | 120発+ | 3発 |
| KN-23 | 約50発 | – |
| RM-48U | 400発+ | 40発 |
| Kh-69 | 最大20発 | 4発 |
つまり弾道ミサイルが100発着弾したとしても半分程度はRM-48Uであり、実際の投射火力は約24トン程度でウクライナ産業を焼け野原にするには全くと言っていいほど量がたりないが、それでも放置できないのは電力などのエネルギーインフラを破壊されると問題が深刻化するためで、PAC-3 MSEの供給数が限られているので軍需産業などは分散と地下化で対応するしかないだろう。
ロシアも同じように対無人機・ドローン迎撃シールドの構築を軽視していたため、迎撃手段の多重化や量で出遅れ、国土の広さが問題を更に悪化させ、ウクライナの戦費獲得手段は農作物の輸出と国際支援だが、ロシアの戦費獲得手段は石油や天然ガスの輸出に依存しているため自爆型無人機が引き起こす被害が甚大で、どちらの側も決定的に優位ではないものの決定的に劣勢というわけでもなく「敵に与える破壊や損害が社会や産業の回復力を上回れない膠着状態」といったところだ。

出典:Ministry of Defence of Ukraine
ちなみにウクライナ国防省は4日「ロシア軍が7月に滑空爆弾=KABを8,300発以上(6月は8,266発)使用した」「これは過去最大の月間使用量だ」と発表したが、これは8,300発以上の滑空爆弾(約300kgから最大3トンまで)が目標に命中して効果を発揮したという意味ではなく、KABの誘導装置は電子戦システムによって目標を外すことも多く、さらにウクライナ空軍のF-16が初めてロシア空軍の戦闘機(恐らくSu-35S)を撃墜することに成功し、ウクライナも独自の滑空爆弾を完成させて実戦投入を始めているため滑空爆弾の非対称性も緩和されていく可能性が高い。
そしてFIRE POINTのデニス・シュティレルマン氏はモスクワを攻撃できる短距離弾道ミサイル=FP-9について「秋頃までには初飛行できるだろう」と述べており、2027年に入れば首都を弾道ミサイルで一方的に攻撃できるという非対称性も緩和されるかもしれないし、そうなればS-400の迎撃能力やロシア軍の弾道ミサイル対処能力が本格的な実戦で試されることになる。
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※アイキャッチ画像の出典:Fire Point





















まあ結局ウクライナもロシアも現状の戦線を突破して占拠地を広げるのは難しいので、長距離攻撃でどちらが先に根を上げるかが肝になってくるでしょうね
何を今更って話だけど弾道ミサイル50発、ドローン300発でようやくb-52の1機の満載重量って現代戦は本当にとんでもなく不経済だな
むしろWW2型のばら撒き型の戦略爆撃の方がずっと不経済と言うべきかと
対独戦略爆撃のドイツ本土への投弾量:約136万トン
対日戦略爆撃の日本本土への投弾量:約16万800トン
これだけ落としても日独の工業生産力を完全破壊は出来なかったのですから
(ドイツの場合は地上軍の侵攻で工業地帯が占領された方が影響大)
今はずっと少ない投弾量で同じ効果を出せますからね
あちこちの記事を読んでいると。
大陸国家を相手にするなら、こうした遠距離自爆無人機は必要と思えます。
前にも書いたけれど、射程3,500kmくらいのもの。
弾頭は、最低250lbくらいは必要でしょうか。長距離ミサイルとは別に。
あちこち読んでいると、ロシアは、ゲラン2からゲラン3/4(ジェット推進)に
移行しつつあるように見えます。
さらには、S8000バンテロールへ移行するのかな?。低コスト巡航ミサイルですね。
ゲラン5(ミサイル形状、ジェット駆動)は能力不足と見られたみたいですね。
ゲラン2も生産を止めるわけではなく、新たな形式の物と混ぜて、
同時弾着を目指しているようにも見えます。
部品は大部分が中共製ですから、当然、中共も装備するのかな。
来るであろう?、台湾事変に向かって、日本は準備できているのかしら?。
と思ったり。
ロシアは電子部品等の不足のために、思うようにドローンを生産できないのかもしれませんね。
地上軍は戦線を突破できないし長距離攻撃邪相手の息の根も止められない
いったいどうやって終わるんだろうこの戦争
無人機攻撃、とんでもない物量戦ですね。
小型ドローン攻撃・砲撃、さらに空爆が加わるわけですから、過酷な消耗戦が続いているのを感じます。
昨今のフェドロフ解任劇の背景には前線戦力より戦略爆撃戦力にリソース配分を優先していることに対する軍部の不満の慰撫があったと言われていますが、どうなんでしょうね
シルスキーの軍制改革によって今春の戦線は安定を得られていましたが、ロシア軍の夏季攻勢は主に北東部で奏功しつつあり、余談を許さぬ状況にあります
特にボルチャンスク東では2022年以来最大となる包囲戦が展開されており、帰趨によってはどこを燃やしたよりも戦況に対する影響は大きくなるでしょう
大規模な包囲を完成させるには相手側の撤退を上回る速度で包囲を完成させる機械化戦力は肝要です。
しかし、ドローン飛び交うウクライナ戦場では大規模な運用は厳しいでしょう。
これまでも双方、あちらこちらで相手の兵力を包囲したと発表してきましたが、それが戦争の趨勢に影響を与えた事はありませんでした。
これもここの掲示板で繰り返されてきた議論ですが
戦術学において包囲とは敵の後方連絡線を圧迫する状態であり、別にあなたが挙げたような要素は包囲の肝要ではありません
よってアウディーイウカも、ポクロフスクも、スジャも、クピャンスクも、コンスタンチノフカも包囲は完成しましたし、今回のボルチャンスク東の突出部の包囲も既に完成しています
ドローンによる戦場認識力の拡張は機甲戦力の集中運用を難しくしましたが、非接触戦力は戦線を押し上げることなく道路の1本を通行不能にすることなど容易いため、使用可能なルートを限定出来さえすれば敵の退路を直接的に遮断する必要はありません
ウクライナの40日間の長距離攻撃作戦が終わったから、ウクライナ側の攻撃は一旦落ち着くかもしれません。
滑空爆弾の脅威についてはむしろPAC3迎撃ミサイルの枯渇を見透かしたような距離からの発射が見られるそうです。
私には迎撃ミサイルが不足するウクライナも次の冬は相当厳しいように思えます。とはいえ航空打撃では決着がつかないのでしょうが
私には依然としてウクライナが不利というのが現状に見えますね。ドネツクの戦線を中心に押し込まれているようですし
PAC3は主に弾道迎撃を任務としていると思いますが、滑空爆弾と何の関係があるんでしょうか?
確かにPAC3は弾道迎撃が主任務ですね。
まあ全体的にPAC2も不足しているので迎撃ミサイルの不足によりパトリオットの運用に制約が生じ、戦闘機の迎撃も困難になっているためという事がいいたいだけでした。
補給とか兵站に問題を抱えてる今のロシアがずっと攻勢を続けることが前提で話すべきではないんじゃないの?
前線での滑空爆弾の使用量の順調な増加、キエフへの従来型の巡航ミサイルや弾道ミサイルの着弾が続いていることを考えると、発射数の低下は大量のドローンでウクライナの防空を破壊する段階は過ぎたと言うことかもしれない。
そうであれば他の目標に振り替えるだけの話で、発射数が低下する理由にはならんですけどね。
まあ、柔軟な目標変更ができないほどロシアの軍事組織の思考硬直が常態化しているなら、ウクライナにとってはありがたい話でしょうなあ。
シャヘドの有効性が下がったのと志願兵減少による歩兵戦力不足を空爆拡大で補おうとしていると見る事も出来るのでは
そう言えば砲火力の方は今はどうなってるんだろ?
>依然としてウクライナが不利というのが現状に見えますね。ドネツクの戦線を中心に押し込まれているようですし
他の戦線で逆に押し込まれているようなら意味はないでしょう。局地的な勝利は全体の戦況に影響しないですからね。
全体で見てナメクジ速度(数百平方キロ/月)の侵攻面積の拡大という状況が変わっているかで判断すべきでしょうな。
今年に入ってからウクライナ側は殺害確認戦果を強調する様に成りましたが、この戦争でソレ以外に意味のある数字なんてありませんから仕方が無いと思います。
兵器の破壊数なんて神風ドローンの自爆数を数える位には意味が無い数字ですが、死者や不具者の数にはソレ自体に意味がありますから。