ウクライナ戦況

ウクライナ軍、ロシア軍によるアウディーイウカ包囲は徒労に終わった

ウクライナ軍の報道官は初めて「ロシア軍がアウディーイウカの包囲に注力している」と言及したが、投入された第98親衛空挺師団の特殊部隊はウクライナ軍の反撃に遭い「人員と装備に大きな損害を被っただけで何も成功しなかった」と主張した。

参考:“Хотят взять в кольцо”: в Силах обороны раскрыли основной замысел Кремля по Авдеевке

ヴーレダーのようにウクライナ軍の反撃でロシア軍を撃退したのか、バフムートのように静かにウクライナ軍の後退が進んでいるのか

ドネツク近郊のアウディーイウカは侵攻直後からロシア軍の前進を食い止めてきた要衝で、昨年後半はロシア軍もアウディーイウカ方面に前進するのを諦め比較的平穏(マリンカ方面よりマシという意味)だったのだが、2月上旬頃からアウディーイウカ方面でも動きが観測され、3月上旬には活発な攻撃が始まり観測者の間でバフムートに継ぐホットスポットに浮上していたが、ウクライナ軍の報道官も初めて「ロシア軍がアウディーイウカの包囲に注力している」と言及した。

出典:GoogleMap ウ軍発表に基づくアウディーイウカ周辺の推定前線/管理人加工(クリックで拡大可能)

報道官は「ロシア軍の目的はドネツクの郊外に位置するアウディーイウカの制圧ではなく、同拠点に展開するウクライナ軍部隊を排除することで、今のところ敵の試みは全て無駄になっている。投入された第98親衛空挺師団の特殊部隊はウクライナ軍の反撃に遭い、人員と装備に大きな損害を被っただけで何も成功しなかった」と指摘したが、アウディーイウカの街自体は「ロシア軍の砲撃でほぼ完全に破壊されている」と付け加えている。

つまり報道官は参謀本部の発表に沿って「ロシア軍のアウディーイウカ方面に対する攻撃は全て撃退され戦線に変化がない」と言っているのだが、ウクライナ側とロシア側の情報源、見つかった視覚的証拠は「アウディーイウカ包囲に向けてロシア軍が前進している」と示唆しており、バフムートと同じように公式発表と観測される状況に差が生じ始めているのが興味深い。

出典:GoogleMap アウディーイウカ周辺の戦況/管理人加工(クリックで拡大可能)

2月1日以降に確認された視覚的証拠はロシア軍の前進を示唆(ジオロケーションが確認できないものは含まれていない)しており、ウクライナ側とロシア側の情報源は「クラスノホリフカとベゼルをロシア軍が支配している」と主張、ヴォーダインについては1月頃に「ロシア軍が支配している」と報告されている。

但し、クラスノホリフカ、ベゼル、ヴォーダインを支配しているという決定的な視覚的証拠(街のモニュメントや街の名前を示す看板など)は登場していないため、ウクライナ側とロシア側の情報源が間違っている可能性もあり、飽くまで「公式発表と観測される状況に差が生じ始めている」止まりだ。

出典:93-тя ОМБр Холодний Яр バフムートの様子

ヴーレダーのようにウクライナ軍の反撃でロシア軍を撃退したのか、バフムートのように静かにウクライナ軍の後退が進んでいるのか、これを判断するにはまだ情報が足りない。

関連記事:3万人以上の兵士を失った露ワグナー、5月中旬までに約3万人を獲得して戦力補充
関連記事:バフムート周辺で戦うウクライナ軍兵士、弾薬の続く限りロシア軍を阻止する

 

※アイキャッチ画像の出典:93-тя ОМБр Холодний Яр

3万人以上の兵士を失った露ワグネル、5月中旬までに約3万人を獲得して戦力補充前のページ

トルコが第5世代機に続きステルス無人機ANKA-3も公開、まもなく初飛行に挑戦次のページ

関連記事

  1. ウクライナ戦況

    マリウポリの製鉄所を巡る戦い、ロシア軍はトンネル経由で敷地内に侵入か

    マリウポリで最後の抵抗を続けるウクライナ軍との連絡は再びついたが、アゾ…

  2. ウクライナ戦況

    ポーランド、スロバキアがウクライナにMiG-29を送れば領空保護を提供

    ウクライナが要求する戦闘機の提供問題は「扱い慣れたMiG-29を誰が供…

  3. ウクライナ戦況

    シヴェルシク方面の戦い、ロシア軍がヴェセレを占領しウクライナ軍は後退

    シヴェルシク方面についてロシア人ミルブロガーが運営するRYBARは18…

  4. ウクライナ戦況

    ドニエプル川左岸地域へのウクライナ軍上陸、まだ誰も確認できていない

    米国の戦争研究所(ISW)はロシア人軍事特派員やロシア人情報源の情報に…

  5. ウクライナ戦況

    ウクライナがロシア軍司令官の殺害を発表、これで将官の戦死は5人目

    ウクライナ軍参謀本部は19日、ロシア軍南部軍管区の第8諸兵科連合軍のア…

  6. ウクライナ戦況

    クラファンでウクライナ軍支援、ポーランド人もTB2購入資金の調達を開始

    リトアニア人やウクライナ人に続きポーランド人もロシア軍と戦うウクライナ…

コメント

    • らっく
    • 2023年 3月 19日

    クレミンナ、バフムト、アウディーウカ
    ロシアの攻勢力点はどこなんでしょうなあ?

    2
      • 58式素人
      • 2023年 3月 19日

      同じことを思っていました。
      何だか、軍団(複数の師団を隷下に置く組織)規模で、
      浸透戦術をしているように見えました。
      担当する接触線の全てで威力偵察をして相手の弱点を見つけ、
      そこに注力して突破し相手の本営を狙うやり方ですね。
      でも、相手(ウクライナ軍)もそれを承知していて、
      弱点を見せないようにしていたように思えます。

      3
      • TKT
      • 2023年 3月 19日

      今の重点はとにかくバフムトの包囲、制圧が第一、最優先でしょう。

      クレミンナ奪回を目指して攻撃をかけていたといわれるのは、もともとウクライナ軍の方であり、これは現時点では失敗したとみなされ、ロシア軍はリマンの奪回には至らないものの、バフムトでロシア軍を阻止、消耗させて、クレミンナを奪回する、と言われていたようなウクライナ軍の企図?を失敗させることに成功?したのです。

      セルヒー・ハイダイが解任されたのも、クレミンナ奪回作戦の失敗と無関係ではないでしょう。

      一方でウクライナ軍の方は、バフムトからの撤退を拒否し、他の地区、方面から予備の部隊、旅団などを次々と引き抜いて投入していると思われ、ロシア軍が何もしなくて、他の地区のウクライナ軍の部隊、旅団などはどんどん減っているでしょう。

      おそらくアウディイーウカに配置されていたウクライナ軍の旅団で、増援としてバフムトに送られているともあるでしょうし、そうすれば、ウクライナ軍の方も、自然にアウディイーウカ周辺の前哨陣地などを減らしていく、集約していくしかありません。

      またそれ以上に、バフムトでの砲弾の消耗が激しくなると、アウディイーウカ周辺に配置されているウクライナ軍砲兵が持つ砲弾の数も減ってくるでしょうから、ドローンでロシア軍の偵察隊を発見しても、ウクライナ軍が砲撃できなくなることが増えていくでしょう。

      またロシア軍としては、アウディイーウカ周辺での威力偵察を増やすことで、バフムトへの増援、部隊の引き抜きを行いにくくさせる、ということもできます。

      6
        • Artillery
        • 2023年 3月 19日

        >セルヒー・ハイダイが解任されたのも、クレミンナ奪回作戦の失敗と無関係ではないでしょう。

        軍事作戦の失敗と行政長官の解任は直接は関係ないのでは?
        何かしら間接的に関係している可能性はありますが、時期が合っているというだけで勝手に関連付けるのは危険な考え方です。

        15
    • パセリ
    • 2023年 3月 19日

    年末ぐらいから言われてたロシアの大攻勢とは一体何だったのか•••
    実はまだ始まっていないとかは流石にないだろうし(お偉いさんが言ってた期限までのドネツク全土の制圧をブッチできるほど軍に権力あるとは思えんし)、30万近く動員しておいてマジでこんな程度しかできんのか?

    13
      • トブルク
      • 2023年 3月 19日

      ロシア軍の前進速度が遅すぎるんですが、これはウクライナ軍を拘束して消耗を誘い、ウクライナ軍予備戦力を引き釣り出してすり潰し、ウクライナ軍が戦線を維持できない状態にしてから戦線を流動化させたいんじゃないですか。
      ロシア軍は動員した30万人を一度に訓練するのは難しいので、現状は最低限の訓練を終えた兵士から順次戦場に送り、持続的に消耗攻勢を仕掛けてるのではないかと。発想としては第一次大戦レベルですが、ウクライナ軍は、消耗についていけなくなったら負けです。
      ロシア軍は、消耗攻勢と並行して突破作戦用の精鋭部隊は別に訓練してるんじゃないかと思います。
      ただ、ウクライナ軍が粘り強くて、またロシア軍も砲弾が足りなくなってきて、ロシア軍も思い通りになっていない感じじゃないかと。

      12
      • (=^・^=)
      • 2023年 3月 19日

      泥濘期に大攻勢かけるほどロシアも馬鹿じゃないでしょ。
      軽歩兵中心のワグネルは別としても。
      今は先に手を出したほうが負けだからお互い小隊規模の威力偵察レベルの攻撃で突っついて腹の探り合い。

      6
    • ゼンハイザー
    • 2023年 3月 19日

    とは言え終わる気配が見えませんね・・・

    どの情報が正確か、と言う事の大前提のもと
    ロシア軍の損害が継続しているとか、補給が限界に達しているというものもあるが
    じりじりロシア軍の占領している領域が増えて行っているのは事実

    何とかウクライナからロシア軍とそれに類する親ロシア武装勢力を叩き出せないものか・・・

    それまでウクライナ人の苦難が続くのが不憫だ・・・
    復興も10年とかでは無理だろうし
    どう着地させていくのだろうか・・・

    10
      • 月虹
      • 2023年 3月 19日

      ロシアの内部では着実に異変が起きている様です。

      アゾフ海に面するロシアの都市であるロストフ・ナ・ドヌではロシア連邦保安庁(FSB)の支局が爆発、炎上。ロストフ州知事は電線の混線による事故であることを説明し、FSBも外部からの攻撃を否定していますが真相は果たして…
      リンク

      5
    • なぬ
    • 2023年 3月 19日

    包囲の仕方がバフムートの時と同じような感じ。
    やっぱ根本的な数が違うと、似たような形で押し込まれるのかなぁ。

    4
    • paxai
    • 2023年 3月 19日

    半包囲の形を作るとロシア空軍の活動が活発になる印象があるわ。
    バフムートとアウディーイフカはちょくちょく空爆報告上がってるし。
    戦線がIIなら戦闘機は正面にしか攻撃出来ないからUターンするしかないじゃん。
    でもバフムートの形を作れば南北から入って90度旋回で東に抜けたり何なら南から入ってそのまま北に抜けれるじゃん。

    8
  1. この記事へのトラックバックはありません。

ポチって応援してくれると頑張れます!

にほんブログ村 その他趣味ブログ ミリタリーへ

最近の記事

関連コンテンツ

  1. 日本関連

    防衛装備庁、日英が共同で進めていた新型空対空ミサイルの研究終了を発表
  2. 欧州関連

    アルメニア首相、ナゴルノ・カラバフはアゼル領と認識しながら口を噤んだ
  3. 欧州関連

    BAYKAR、TB2に搭載可能なジェットエンジン駆動の徘徊型弾薬を発表
  4. 中国関連

    中国、量産中の052DL型駆逐艦が進水間近、055型駆逐艦7番艦が初期作戦能力を…
  5. インド太平洋関連

    米英豪が豪州の原潜取得に関する合意を発表、米戦闘システムを採用するAUKUS級を…
PAGE TOP