ウクライナのドラパティ陸軍司令官は8日「第155機械化旅団の問題は陸軍司令部、参謀本部、最高司令部に責任がある」「この問題を取り上げてくれたジャーナリストに感謝する」と述べ、第155旅団は前線で戦いながら問題の修正に取り組んでいると明かした。
参考:Михайло Драпатий – Командувач Сухопутних військ Збройних Сил України
問題を告発されて動揺する兵士の心配はブトゥソフ氏ではなく軍が対応すべきもの
ウクライナ人ジャーナリストのブトゥソフ氏が告発した第155機械化旅団事件は国内外に大きな波紋を引き起こし、シルスキー総司令官は5日「第155旅団の解決すべき問題について協議した」「同旅団強化に必要な全ての指示を出した」としか説明しなかったが、ドラパティ陸軍司令官は「ブトゥソフ氏の告発内容が概ね事実である」と、仏軍当局もAFPの取材に「数十人のウクライナ軍兵士が訓練中に脱走した」と認め、さらに陸軍司令官は第155機械化旅団の問題と対応策を公式に発表した。
“ウクライナと同盟国が新しい旅団を0から編成するという取り組みは初めてで、しかも数ヶ月間という短期間で行われたが、編成プロセスの管理や統制が不十分で、人員配置にも誤りがあり、これらの決定にはバランスが欠如していた。さらに国内外での訓練計画も不完全で、新旅団編成や能力獲得の過程で生じた問題に対する最高司令部の対応も遅かった。大半のミスは陸軍司令部が犯したもので、参謀本部は第155旅団編成に関する分析と評価を進めており、既に幾つかの問題には解決策が講じられている”
“第155旅団は前線に到着してから1ヶ月も経過しておらず、人員配置や訓練に関するあらゆる欠点が明らかになる時期だ。同時に兵士の戦闘意欲や精神が明らかになる時期でもあり、私は困難な状況にも関わらず状況に適応して戦い続けている兵士たちに感謝している。第155旅団は最前線で戦闘任務を継続し、陣地を維持し、問題を改善し、戦闘能力を向上させるため努力している。この取り組みは主に「訓練と士気」「兵站」「指揮統制」の3分野で行われている”
“新しい旅団長は陸軍司令部から派遣された作業グループと協力し、経験豊富な将校や前線指揮官を採用することに重点を置いている。さらに新旅団長は兵士に対する追加訓練を導入し、陸軍司令部も必要に応じて訓練リソースを提供し新旅団長を支援する予定だ。心理学者で構成された特別グループが士気の改善や強化にも取り組んでおり、例えば部隊からの無断離脱(самовільне залишення частини=СЗЧ)した兵士の帰還等で一定の効果が出ている。私も第155旅団から要望を受け取り、あらゆるレベルで検討が行われ、国防省も供給面で最大限の協力を行う”
“第155旅団が直面している主な課題は兵士を直接管理する中堅指揮官の効率とモチベーションの低さだ。この問題と実戦への投入が第155旅団からの離脱者(СЗЧ)数を決定づけている。さらに「戦闘配置状態の兵士が大規模に脱走するケース」が確認されていないことにも言及しなければならない。私が確認できるのは概念の混同、つまり「部隊からの無断離脱(懲役5年から10年)」と「前線からの脱走(懲役5年から12年)」を取り違えている状況だが、それでも問題に対する解決策に特効薬はない。離脱者数は「戦闘能力や兵士のモチベーションに影響する決定」に比例して減少するため全軍をあげて取り組むべき課題だ”
“この問題を取り上げてくれたジャーナリスト(ブトゥソフ氏のこと)に私は感謝しているが、第155旅団の兵士らは実戦経験を獲得している最中で、自身の能力を証明している最中だ。自身に対する不当な扱いだけでなく、旅団への一方的な報道にも非常に敏感であることを忘れないでほしい。兵士らは問題点だけでなく是正的な部分も見ている。例えば無人システムの開発、Army+のようなツールの導入、パートナーから提供された高品質の武器や効果についてだ”
“そしてアンナ・ヤロスラヴナの名を冠した第155旅団は将来有望な旅団であり、その実力が証明されることを私は信じている。編成時の過ちを修正するには多くの時間と努力が必要だが、アンナ・ヤロスラヴナにちなんで創設された第155旅団は誇り高く、不屈で、自由のため戦う準備が出来ているフランスの象徴=ガリアの雄鶏になることが出来るし、絶対にそうなるべきだ”
ドラパティ陸軍司令官は「第155旅団の問題を改善するため陸軍司令部が下した決定を最高司令官=ゼレンスキー大統領に報告し、現在の状況、下した決定の理由、取り組み対する責任者といった内容を説明した」「問題を把握するため前線の第155旅団にも赴いて直接話を聞いた」と述べており、最も注目すべきはブトゥソフ氏が指摘した責任の所在=陸軍司令部、参謀本部、最高司令部のミスであると認めた点で、問題の告発に感謝しつつも「一般の兵士に対する影響も忘れないでほしい」と注文をつけたところだろう。
外に漏れて困るような問題を自主的に解決できる組織は理想的だが、ブトゥソフ氏は「政府や軍は国民から批判されないと動かない」と主張しており、この件が表沙汰にならなかったら「今回ほどの特別対応(第155旅団の兵士はドラパティ陸軍司令官に直接問題を相談できるホットラインが与えられている)」が取られたかどうかは怪しく、問題を告発されて動揺する兵士の心配はブトゥソフ氏ではなく軍が対応すべき種類のものだ。
因みにブトゥソフ氏は政府や軍上層部には批判的だが、前線で戦う兵士を日々称賛し、その様子をTelegram上で紹介し続け、ウクライナ軍を支援するため立ち上げた基金(Всеукраїнський фонд зміцнення національної безпеки)で政府や軍がカバー出来ていない物資提供(主にドローン関連)を行い、その知名度と影響力を活かして各旅団や部隊の寄付活動を紹介し、YouTubeのライブ配信では寄付者の質問に回答するなどウクライナ軍支援のため精力的に活動している。
さらに前線へ頻繁に赴いて取材を行うためウクライナ軍関係者と強い繋がりをもち、前線の兵士からも人気が高く、ロシアとの戦争についても非常に精通しているためリトアニア国防相から招待されビリニュスで講演(バルト三国の防衛:ウクライナ戦争からの教訓)まで行っており、もはやジャーリストやЦензор.НЕТの編集長といった肩書きだけでブトゥソフ氏を評価するのは困難だ。
ウクライナ人が運営する情報分析グループ=DEEP STATEも同様で、日々の戦況報告だけでなくウクライナ軍の活躍を取り上げたり、その知名度を活かして寄付金を集めドローンを前線部隊に提供したり、グッズを販売して収益をウクライナ軍支援に充てており、ウクライナ軍に不利な戦況だけを伝える存在ではない。
同時にロシア人ミルブロガーも同様の取り組みを積極的に行っているため、日本人が想像するような「軍事ブロガー=ミリタリーオタク」とはかけ離れた役割りを果たしているのが実情だ。
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※アイキャッチ画像の出典:Сухопутні війська ЗС України
内容見落としていたら申し訳ないけど、これって第155旅団だけに限った話じゃないよね。言われた事だけしてますって感じで大丈夫かと思ってしまう。
逃走兵問題は第155機械化旅団に限った話ではありませんがこの問題で特に深刻なのは第155機械化旅団がレオパルト2A4筆頭に西側中心の装備や訓練兵のフランス派遣等、明らかに第47機械化旅団のような精鋭機甲部隊を意図して編成しようとしていた旅団である事です
にも関わらず訓練途上で前線へ兵力を引き抜かれ4桁の逃走兵を出し旅団の体を成してないのに前線投入と装備と新兵の無駄遣いと言い切れる結果でありこの体たらくではフランスが領土妥協の停戦に言及したのも無理はないかと思います
こういった方々が生き残り、銃後ウクライナの刷新へと結びついていくならば、ウクライナの未来は暗くないと言えるのかもしれません。
逆に、一部で言われている、こういった方々すらも戦場に放り込んで溶かした上での敗戦となれば、未来も何も無くなるということなのでしょう。
ブトゥソフ氏・DEEP STATE・ロシア人軍事ブロガーなど、社会的起業家のような役割を感じます。
国家(大組織)だけでは、情報が止まる・細やかな支援は難しいなどの問題はでてきますから、解決策として非常に興味深いですね。
日本で、こういったことができるのか少し考えますが、最近SNS規制が話題になるくらいですからおそらく不可能でしょうね…。
>>アンナ・ヤロスラヴナにちなんで創設された第155旅団は誇り高く、不屈で、自由のため戦う準備が出来ているフランスの象徴=ガリアの雄鶏になることが出来る
ここは少々分かりにくいと思うので補足します。アンナ・ヤロスラヴナとはキエフ・ルーシの大公ヤロスラフ賢公の娘で、フランス王アンリ1世に嫁いだ人物です。そのためフランスで訓練される部隊に名がつけられ、ドラパティ陸軍司令官も”ガリアの雄鶏”に準えているわけですね。
しかし、ヤロスラフ賢公もアンナ・ヤロスラヴナも特にウクライナで人気のある人物ですが、ロシアでも偉人扱いされています。ロシアとウクライナの一体性を感じますね。やはり、この両国が引き裂かれ、互いに相手を滅ぼそうとしているのは間違っています。「ロシア抜きのウクライナ」という実現不可能で過激な方針を採用したマイダン政府、そしてそれを後押しした西側諸国の罪は深い。中でも、「正義」の名の下に安全圏から好戦主義を声高に主張し、その結果ロシア人を大勢死なせ、そしてウクライナを今まさに破滅させようとしている米英に関しては、破廉恥という言葉も生温いと感じます。
>「ロシア抜きのウクライナ」という実現不可能で過激な方針を採用したマイダン政府
なんで不可能なんです?
「ガリアの雄鶏」というのは良い意味だけではなく裏では口先だけで力はない。(夜明けをけたたましく告げるが・からっきし力はなく、狩られる側)というニュアンスがある。ナポレオンは「ガリアの雄鶏」を嫌い鷲をシンボルにしらしい。最近はマクロンをバカにする時にも使われたりしている。(「ガリアの雄鶏」がまたけたたましく鳴いているが(EU軍のウクライナ派遣など)何も実行できず西アフリカでは旧植民地での権益を失い続けているが何もできない。)滑稽なイメージが濃い。
そういう意味で155旅団問題=ゼレンスキー一味の体たらくは 「ガリアの雄鶏」の呼称に相応しい。これから目指すということなら益々滑稽だ。
ここも日本語圏で唯一に近い信頼性の高い本戦争の情報源ですので頑張って頂きたいです
何なら管理人様のモチベーション維持の為に投げ銭で応援出来る仕組みが欲しいです
それは思います。
you tubeあたりにチャンネルを作ってみてはどうでしょう?
あちらは投げ銭できますよね。
なんていうかもう分類が難しいな軍事ブロガーってのは
ファンクラブの会長みたいな事してるかと思えば、パトロンみたいな事もしてるし……
こういう新しいタイプの職業が現れたのも今回の戦争の収穫と言えば収穫なのだろうか
そのうち戦闘実況系ユーチューバーとか出てくるかも。
実際には口だけの改善で、督戦隊置いたから脱走減るんじゃね?だと思う。
ブトォソフ氏にもお世辞で持ち上げて、本質は、監視強めるから、の脅しとそれを取り上げたディープステートも牽制してるのではないかなあ。
まだ本格的なポクロウシク攻略には間があるからコントロールしてますよ、の中身だと思う。一応脱走しなかった兵士も上げないといけないからね。
まあ、脱柵と前線逃亡では難易度が違いますしね。
しかし、前線逃亡が死刑じゃないところが「西側化・近代化」なのか…。
ブトゥソフの発言に兵士が〜と苦言を言う司令官はさすがに検閲入ってそうですね…或いは兵士=糾弾の一部たる自分たち司令のことか。
改善に動くのなら良いのですが、政府の確約は何度も裏切られたという糾弾でもあるので、実際に与えられた兵装と部隊の宣伝戦略で持ち返すしかないですね。
意図せず返信になってしまいました
ここに書かれた155機械化旅団対策のようにどの旅団、部隊も手厚く対策がなされるならば有効だろうが、現実には155機械化旅団に対してさえ大したことは出来まい。リソースが払底しているのだから。
貧して鈍しているので、ある問題点に施した応急措置が別の複数の副作用/問題を引き起こしその対策がさらに、くらいの状況なんだろう。
言い換えれば、偉い人たちにもどうにもならない、できない。でもそのことを見つめ、認めたくない。責任を取ってすべてを喪うのは御免だから。それで他人の命で先延ばしにしている
対策をすると約束されたのは良いことですが、でもそれって部隊単位の話ではなく根本的な問題をなんとかしないと場当たり的な対処にしかならないでしょうね
では動員年齢を引き下げるのかというと厳しいでしょうし、今から素人を訓練してという時間も無いのでどうすんんおこれ?って感じです
「Army+」って何じゃらホイと調べたら、ウクライナ軍用のSNSアプリらしい。
「Армія+ – Google Play のアプリ」
「お使いの全てのデバイスでは使用できません」とか表示された。
まあそりゃそうか。
フランスから降伏の仕方を学んだ部隊