ウクライナもロシアもFPVドローンの開発と量産化に成功したが、前線地域でISR用途に使用するMavic3の代替品開発には成功しておらず、ウクライナメディアは「Mavic3を代替品に切り替える難しさ」「独自にMavic3の代替品を開発する難しさ」を説明している。
参考:Кінець епохи DJI Mavic 3. Як військові житимуть без головного китайського дрона та де українські аналоги?
参考:DIU launches Project G.I. to speed UAS development with $20M prize pool
参考:Pentagon pushes US dronemakers to innovate as quickly as Ukraine does
作ったシステムを戦いが終わるまで永遠に適応させていく「産業界の深く継続的な関与」が優位性を左右する
ウクライナもロシアもFPVドローンの開発と量産化に成功したが、前線地域でISR用途に使用するMavic3の代替品開発には成功しておらず、DJIは2025年初頭にMavic3の生産中止=後継機のMavic4移行を発表、さらに中国は欧州に対するこの種のドローン販売を制限しているため、ウクライナではMavic3不足に対する懸念が広がり世界中の店頭在庫をかき集めている状況だ。

出典:77 окрема аеромобільна Наддніпрянська бригада ДШВ ЗСУ
ウクライナメディア=Mezha.Mediaは5月末の記事の中で「Mavic3を代替品に切り替える難しさ」「独自にMavic3の代替品を開発する難しさ」を説明しており、代替品の有力候補=Mavic4、Matrice4T、EVO Max 4Tは機能面でMavic3より優れているものの、操作が複雑だったり、価格が高価だったり、機能が過剰だったりするため「前線で一般兵が使用するにはMavic3ぐらいが丁度いい」と言われており、何よりも厄介なのはMavic3を何十万台も使用してきたことで構築されたエコシステム=オペレーターの訓練方法、Mavic3本体とソフトウェアの改造方法、スペアパーツの供給体制などを捨てなければならない点だ。
もう一つの懸念は「Mavic3の脆弱性を利用した独自ファームウェアのインストールがMavic4で出来るかどうか保証されていない」という点で、もしMavic4への移行が輸入制限や技術的に出来ないなら「独自にMavic3の代替品を開発する」という選択肢が浮上するものの、これに取り組んでいるウクライナ人開発者は「安定的に飛行して撮影可能なドローンを作ること自体に問題はないが、小型で、静音で、高機能なカメラを搭載し、特に子供で操作できるインターフェイスを備えたものにまとめ上げるのが本当に難しい」「小型化や静音性は多くのドローンで実現されているが、インターフェイスとカメラだけは同じレベルにない」と指摘。

出典:Сухопутні війська ЗС України
“DJIは世界中から自社製ドローンのデータを収集し「様々な天候や動作条件下で作動するドローンの挙動」を分析できるため、ソフトウェアを改良する能力やスピードが圧倒的だ。DJIのドローンはどの部分においても完璧で、これと同じレベルのことをするには多くの研究、テスト、改良が必要だ。フライトコントローラーひとつをとっても他の中国製はDJIレベルに及ばないし、中国製以外の構成部品を採用すればするほど製造コストも上昇して競争力を失う”
それでもウクライナはMavic3の代替品を幾つか開発中で、時間さえあれば代替品開発に成功すると思われるものの、それはDJI製の使いやすさ、スペアパーツの入手性、子供で操作できるインターフェイスを備えていない可能性が高く、Mavic3の代替品を作ることとDJI製と同じレベルのドローンを作ることは似て非なるものなのだろう。

出典:U.S. Army photos by Elena Baladelli
米国もドローン開発において同じような問題を抱えており、防衛イノベーションユニット(DIU)はドローン取得のスピードアップを目的にした取り組みとして「Project G.I」を発表、これは「今直ぐ使えるソリューションを特定し、評価し、ドローンに統合するアイデアを募集する」というもので、Defense Oneも「どれだけ急ぎの案件でも要件策定や予算獲得に何年もかかるのが現実で、現在の国防総省における速さの定義はプロトタイプの開発開始まで5年、これは納品ではなくプロトタイプだ」「国防総省は米ドローン企業にウクライナ並な速さでの革新を求めている」と報じた。
“現在の戦争は「進化する敵の対抗手段に適応したドローンを如何に短時間で届けられるか」を競う戦いだ。Shield AIはウクライナに24時間体制で活動するチームを派遣しており、昨年8月にロシア軍のGPS攻撃でミサイルが目標を外すようになると直ぐに問題を米国のチームに報告し、ソフトウェア技術者が徹夜で問題を解決し、翌日には米国の射撃場でテストを行い、ウクライナのチームが24時間以内で新しいソフトウェアを実装して能力を回復させた”

出典:Photo by 1st Lt. Aylin Hernandez
“Shield AIのツェン社長も「ロシア人は問題に近い場所で行動する」「そうすることで問題を早く特定して迅速な変更を行えるからだ」「これが現代戦のスピードで重要な役割を果たすには問題の直ぐ側にいなければならない」「こうした深く継続的な関与を標準化することでドローンのプログラム修正にかかる時間を劇的に短縮できる」「ハードウェアの問題修正なら数年を数ヶ月に」「ソフトウェアの問題ならもっと短時間で対応できる」といい、目標は24時間以内に問題を解決することだと言う”
日本からの観測だけでドローン戦争の実態を把握するのは到底不可能だが、この戦いに勝つためには適応力が重要で、しかも「信じられないほど短時間で適応しなければならない」というのだから、高い技術力で高性能なドローンを作っておけばいいなんて発想は的外れもいいところで、作ったシステムを戦いが終わるまで永遠に適応させていく「産業界の深く継続的な関与」が優位性を左右するという意味だ。
そういう視点から言えばDJIの開発能力は他を圧倒しているのかもしれない。
関連記事:米陸軍、新型ドローンの投入で兵士の認識力と攻撃範囲が30kmまで拡張
関連記事:ドローンが変えた陸上戦、ウクライナでは戦場の一部から兵士が居なくなる
関連記事:米陸軍、戦術弾道ミサイルで徘徊型弾薬や精密誘導兵器の投射を検討中
関連記事:ドローンが従来の戦闘概念を覆す、もう海兵隊は制空権の保証が得られない
関連記事:米海兵隊はライフル兵をドローン操縦兵に、交戦距離をmからkmに拡張
関連記事:ウクライナとロシアが戦場で使用するFPVドローン、米陸軍も演習でテスト
関連記事:ウクライナで実証されたドローンと手榴弾の組み合わせ、米陸軍も演習でテスト中
※アイキャッチ画像の出典:115 окрема механізована бригада ЗСУ
勉強になるなぁ…
24時間以内に変化に対応ですか、本邦でそれができそうな所ってありますかね……
いや、それでもSAGAWAなら!
追記:日本時間の本日昼頃、メリトポリおよびトクマク近郊の変電所で高温反応がありました(FIRMSで確認)クリミア大橋の爆破といいここ数日特殊作戦のオンパレードです
俺もDJI製のドローン使ってたけどハッキリ言って民生用ドローンでDJIの右に出るメーカーはまず存在しないだろうと思わせる程の完成度だったな。
民生品でアレなら軍用は一体どんな性能してんだか・・・
中国製のドローンは、世界シェア80%であり、キーデバイスの生産も圧倒的ですからね。
中国のドローンショーが話題になりましたが、制御技術の進化には、動画を見ていて驚いてしまいました。
戦争は適応力が求められるわけですが、ロシア=ウクライナともに、過酷な戦闘を続けているなと感じています。
つまりわーくには汎用性高くて操作も整備も教育も現地改造も簡単で改良型も作りやすいFPVドローンを開発出来ちゃうメーカーを官民一体となって育成し、有事の際の増産ラインを国が保持し続けないといけないということに?
一応自衛隊も300機程FPVドローン購入してテスト運用してるらしいからそれは良いとして、問題は敵のFPVドローンへの対処なんだよなぁ
ランクルかHONDAの改造トラックにでもAI管制の機銃何丁か乗っけるとか?
こんな感じの
リンク
運用するとして1個小隊に何台当たりが適切なんだろうか
Mavic3をリバースエンジニアリングしてコピーするという手が無いわけでないですが、それをすると中国を怒らせる事になりますし部品の調達などを考えるとデメリットの方が多そうですよね。
このサイトの戦況実況図が超分かりやすかったんだけど、もう更新されないのかな?
Iswの地図見るとロシア軍が結構攻勢強めてる見たいなんだけど、英語なんでイマイチ分かんない。
絶え間無くほぼ毎日更新されてたから尚更😥
日本はドローンの需要がないからなぁ
需要がない→仕事が無い→人が育たない
必要は発明の母
日本のドローンの需要が少ない・オペレーターが少ないというデータはあるのですか?
ふつうに農業・建設・空撮業者など、あって当然のところは十分浸透していそうなイメージですけど。
需要はあると思うけどオペレーターが少ないのはたしかなんじゃないかな
海外で具体的に何人がドローンを使ってるかは知りようがないけどこの間のニュージャージードローン大量出現事件で指摘されてたように
アメリカとかは24時間原則飛行自由でほぼいつでもどこでも飛ばせるからね(夜だったから全貌は見えなかったけど明らかに産業用レベルの大型のドローンが道路の10m上くらいのところを我が物顔で飛んでたりやりたい放題だった
原則禁止に近い規制の日本と比べてオペレーターがはるかに多いのは自明だと思う
>原則禁止に近い規制の日本
「日本と海外とのドローン規制を比較してみました!!」
を見てみましたけど、具体的にどんな規制があるのですか?
空港等の周辺、人口集中地域の上空、緊急用務空域では、飛行許可申請が必要などは当然だと思いますけど。
視程外では飛ばせないとか都市部では飛ばせないとかだけで遊びで買う人はほとんどいないんじゃないかな
田舎の原っぱとかで見える範囲で飛ばしても面白くないだろうから
だから逆に本当に業務で使う人しか買わない
まあアメリカでも規制が緩和されて原則自由になったのは2年くらい前らしいからわりと最近みたいだけど
確か100g以上のドローン飛ばすには原則資格が必要で取得にめっちゃ金かかる。車の免許と同じかそれ以上だったような。
どうしても必要なら、デッドコピー作っちゃえばいいと思うんですけど
部品を安価に大量に調達ってなると、結局は中国で生産されてないと意味ないんでしょうね。
デッドコピー作るにも技術とノウハウが必要なんですねぇ…
私は結構昔から中国とロシアを含めた色んな国に技術指導しに行きましたが、中国の工場は日本から見るとカスみたいな環境だったけどとにかく学ぶ姿勢が貪欲で、ギリギリコピー製品じゃないデッドコピー作ってた工場が数年後には一端の製品作れるようになって関心したもんです
ロシアは……(ウクライナは工業国だけあってそこそこ良かった)
細かいツッコミを入れるなら、そもそも民生品をライセンス契約もせずに勝手にファームウェア改造して使ってる事が問題なんですけどね
ちゃんと契約してカスタマイズ品を大量購入するのが筋なのに、輸出規制食らった後で代用品探しに右往左往するのはどうなのよ
自分達で使う用にファームウェア改造することなんてギークが普通にやってますが…
それを政府(軍)がやるから問題になるのでは…?
一般人が勝手に改造、配布するのも企業によっては問題ですが、軍も人も今回のドローン攻撃と言い何をしでかすか分からないわけですし、どの企業にとってもテロに近い攻撃などに使われればイメージダウン間違いないでしょう。
軍用品があるのであればそちらを使えばいいわけですし、可能であれば自ら工場を立てて生産すれば良いわけです。民生品を改造して企業から怒られて使うなと言われてもしょうがないわけです。それすらも無視して改造して使うのであれば政府として破綻しているのではないでしょうか。似たような事例で言えばアメリカがPS3を改造してましたがあれもソニーから詐称されていた記憶があります。
それこそ西欧諸国がご自慢の技術力と増大する予算でDJI対抗のドローンを大量生産を目指せばいいのではないか。
勿論すぐにはDJIに並ぶものは不可能だろうし、コストも段違いに高いだろうがどのみち今後の軍事戦略上大量のドローンが必要で、それを中国に頼れないのは明白なんだから、自分達で作れるようにならないといけない。
いつもの意味不明規制で海外産を締め出しルールを作るのは得意じゃないですか、特にEU。
イギリスも新国防戦略でドローン連呼してるんだから、それこそ今すぐ西欧製ドローンの試作品でもウクライナに送り込んで試験して専用工場で大増産しないといけないレベル。
ファームウェア:(おそらく)FPVドローンに必要な機能を加えたDJI提供ファームウェアの改造品
ドローン本体ハードウェア:DJIをベースにFPVドローン改造を加えたもの
ドローン総順コントローラー(UI/UX):DJIのソフトウェアで動いている、またはFPV改造を加えた改造ソフトウェア
といった感じでしょうか。
確かにどれもDJI Mavic 3に依存しているため、同社のMavic 4にすら移行できないというのも納得です。
FPVドローンはまさしく「戦いは数だよ」ですが、民生品を利用する中で「ソフトウェアが変わっていく」「補修パーツも永続的に供給されない可能性がある」という点は管理人さんのおっしゃる通り、戦闘システムとして組み込んでいく中で大きな問題になりそうです。
>DJIは世界中から自社製ドローンのデータを収集し「様々な天候や動作条件下で作動するドローンの挙動」を分析できるため
これがあるから政府調達から中国企業製を外す必要があるんだよなぁ
中国に限らず外国にデータ収集されるのはリスクだし
エリア88 あんな多機種編成なんて現実ではありえない→各国の支援により東西混合の兵器群となる
ボトムズ 人命軽視の紙装甲兵器が主力→バイクや軽装甲車両による突撃
ガンダム 続々と投入される新型兵器→日月単位でアップデートしないと適応できない戦場
昭和のアニメや漫画は実はリアリティがあった…?
(まあこじ付けめいたところも多々ありますがご容赦を)
Mavic4でもだめというのが難しいですね
既存防衛企業の落ち度というかしょうもなさを露呈した感があるな。
そりゃ戦闘機とか戦車のごときレガシー兵器は作れるが結局戦場を
席巻するのはよりデカイ民需に支えられた民間企業だったと。
レガシー兵器にしろ主力張ってるのは意外と旧世代の兵器で…
西側供与の第4世代戦車でウクライナの反抗が始まる!とか
何だったんですかね。
これから安全保障にじゃんじゃん税金が放り込まれるだろうけど
誰に与えるかは良く考えたほうがいいわ。