イスラエル防衛産業は多面的な紛争による国防支出増、さらに海外からの受注増も伴って記録的な売上増を叩き出している中、イスラエルメディアは「防衛産業は海外のサプライチェーンに依存するのではなく自立するべきだ」と訴えているのが興味深い。
参考:Israel’s defense industry at a crossroads
安定な安全保障環境や分断された世界を危惧して「経済性よりも国内調達を優先する流れ」が来るかもしれない
イスラエルはハマス、ヒズボラ、フーシ派など多面的な紛争に直面しているため国防支出が急増しており、2024年は前年比65%増の465億ドル、2025年も369億ドルを費やす予定で、さらに海外からの受注増も伴ってElbit Systemsやイスラエル航空宇宙産業などは記録的な売上増と受注残高を叩き出している中、イスラエルメディアのYnetは「戦時中の緊張と世界的な圧力に晒されているため、防衛産業は海外のサプライチェーンに依存するのではなく自立するべきだ」と訴えているのが興味深い。

出典:Israel Defense Forces
“この戦争に幻想を抱く余地はない。もはや「サプライヤーが必ず供給してくれる」「援助が必ず届く」「世界は常に我々の味方だ」という間違った安心感に浸る余裕はない。厳しく複雑な現実は「そうではない」と証明している。イスラエルは1960年代に主要供給国だったフランスから輸入禁止措置を受けた。支援は一夜にして打ち切られ、イスラエルは独自の能力を開発する必要性に迫られ、現在の防衛産業が誕生したのだ。あれから60年が経過した今、我々は新たな形=静かな抵抗を目の当たりにしている”
“フランス企業は明確に我々との協力を拒否し、ユーロサトリのような主要な防衛展示会からも排除され、オーストラリアやイタリアなど多くの国がイスラエル防衛産業に対して慎重な、時に敵対的なアプローチを取るようになった。規制、遅延、制限、そしてソフトな制裁によって外交で達成できなかったことを実現しようとしている。その結果、イスラエルの重要な軍事プロジェクトが遅延し、装備品の到着が遅れ、計画が停滞し、その代償は人命、軍の即応性、国民の信頼にまで及ぶといった状況が生まれている”

出典:Benjamin Netanyahu
“生産を海外にアウトソーシングすると政治的・物流的なリスクだけではなく、イスラエル経済にも悪影響を及ぼす。海外への生産委託は経験豊富な労働者の退職、後継者の不足、技術、工学、実務といった貴重な知識まで失われていく。そして国内工場の閉鎖や縮小は産業基盤の土台=地域経済を徐々に弱体化させ、それが海外調達への依存度を高め、国内生産をさらに弱体化させるのだ。一般的に若者はテクノロジー産業で働きたいと考えられているが、実際には各職業、安定した雇用、目的意識で働き方を選んでいる”
“近代的な防衛産業は工学者、技術者、生産労働者、ロジスティクス担当者、品質技術のスペシャリストなど何千人もの安定した雇用を生み出しており、この産業は過去の遺物なのではなく未来への架け橋なのだ。イスラエルの防衛産業を守り強化するためには包括的な政策措置が必要で、政府は防衛産業を国家の重要なインフラとして認定する必要がある。この認定は強靭化と対応力を確保するため多額の財政措置、規制緩和、業務の合理化が含まれなければならない”

出典:Daniel Hagari
“イスラエルで製造可能な防衛製品については輸入を制限するメカニズムが、これに国内生産と能力開発への投資を促進させる的を絞ったインセンティブを組み合わせる必要がある。たとえ海外企業の提案が費用対効果に優れてるように見えても、公共入札においてはイスラエル企業を優先すべきで、政府契約において国内の中小企業を優遇する米国モデルは適切なアプローチだ。こうした包括的な戦略転換がなければ、高度な武器システムがあってもプロトタイプもスペアパーツが入手出来ず、生産や保守に携わる人材もいないという状況に陥りかねない”
“行動を起こすのは備蓄が底付き、2倍のコストで緊急調達を強いられるようになった時ではない。防衛産業の自立は生命保険であり決して贅沢品ではない”

出典:Israel Defense Forces
イスラエルの武器開発には米国の資金援助や米企業が関与しているケースが多く、Arrowシリーズの開発・製造にはBoeing、David’s SlingとIron Domeの開発・製造にはRTXが深く関与しているため、イスラエル企業が単独で当該システムの迎撃弾を製造出来るわけではなく、他のシステムも海外サプライヤーからの構成部品供給に依存している可能性があり、これらの供給を「費用対効果が悪くても国内に戻す必要がある」と言いたいのかもしれない。
特にYnetが「イスラエルで製造可能な防衛製品については輸入を制限するメカニズムが必要」と言及しているのは大変興味深く、このアプローチは自国の防衛産業を育成したいインドや中東諸国が採用している手法を彷彿とさせ、不安定な安全保障環境や分断された世界を危惧して「経済性よりも国内調達を優先する流れ」が来るかもしれない。
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※アイキャッチ画像の出典:Israel Defense Forces/CC BY-SA 2.0
建国から今日に至るまで度重なる戦争に晒されて来たイスラエルだからこそ説得力のある言葉ですよね。
もっとも経済あっての国家ですし逆に言えば軍事力あっての国家ですからそういう状況が望ましい物かと言えば複雑な感じですかね?
ユダヤの民による経済ネットワークが世界に広がっているからこそ言えるのか…。
外国からすると金だけ毟りに来るユダヤの民は…(あれ?どこかで見たような。
説得力はあるけれども、イスラエルと関わりたくない…
バックドア入れられそうですよね
いきなり爆発したりとか(実績あり)
サプライヤーが必ず供給してくれる」「援助が必ず届く」「世界は常に我々の味方だ」という間違った安心感に浸る余裕はないと、非常に現実的な思考だと思うし本邦も夢物語は辞めて政治的、軍事的にもしっかりとした備えが必要ですね。特に世界は我々の味方であると勘違いがある様で有れば即是正しないと非常に不味いとは思う。
まさに仰る通りです。
『国際社会・西側諸国』ふわっとした言葉に、一体感があると勘違いするのは、極めて危険と感じています。
例えば、対中国に限って言えば、西側諸国・NATO諸国は味方とは限らないというのが、日本目線でみた平成の教訓でしょうね。
現状よりも政治経済軍事外交の自立は必要だなとは思いますが、対中に関してはアメリカは日本へは不沈空母の役割を期待しているでしょうし欧州は正直な所で言えば東洋人の区別等しっかり理解している方が少数派でしょうし結局は金と技術と工業力有るのが過去は日本で今は中国が取って変わったのでその中国との関係を失ってまで日本を助けようとは残念ながら思わない可能性は大分高いかなと思いますし欧州がアメリカに今後対抗するなら尚更中国との関係は重要視される様な気がします。
自分も、仰る点に同意です。
中国=EU・中国=独仏の親密な関係は、平成を通して・歴史の教訓として、我々の世代は見てきましたからね。
台湾海峡問題において、日欧協調が当たり前のようにできる論旨をTVなどで見かけるわけですが、(好嫌・良悪ではなくて)中国=ヨーロッパは親密な関係であるという事を認識しておくのは極めて重要だと感じています。
同盟国やら友好国やらに「依存する」のはマズいけど「孤立する」のはもっとマズいよーな…
言ってることはもっともらしく聞こえるけど、そもそも今の状況を作り出してしまったイスラエルの安全保障政策自体が自らを崖っぷちに追いやっているような気がする。今のイスラエルの状況で「世界は我々の味方」なんてありえないでしょ。まずそこからなんとかしないと。
イスラエルは建国以来ずっとそんなもんですよ。
建国以来周辺は全て敵、第一次中東戦争では英・仏どころかアメリカからすらも武器輸出を禁止されて、ユダヤネットワークを使って四苦八苦しながら時には相手を騙してまで、全世界から手に入るだけの武器を搔き集めて戦争を生き延びた国なので。
鉄屑として手に入れたスクラップを寄せ集めて戦車でっち上げたとか、パーツが無いのでエンジン載せ替えて戦闘機飛ばした話とか割と有名です。
なので「例え全世界から孤立しても我々は生き延びる」が国としての信条です。
おおクフィルかあとか思ったら、ネシェルだった落ち。
日本だとエリア88のせいで、クフィルの方が有名なんだよなあ。
そもそも経済を犠牲にしてまで1から100まで全て自国で賄うなんて現実としてどの国も無理でしょ。
経済的ダメージ無く自国で全て補える国なんてあっても中国ぐらいじゃないですかね?
日本は少なくともかつてはあらゆる工業をフルセットで持ってたから絶対無理ということはない
ただし輸出を考慮せず自国市場の独立採算でそれをやるにはかなり大きな市場が必要だろうね
中国やアメリカはできるだろうけど日本くらいの規模でできるかできないかドイツやフランス規模なら数か国集まらないときついと思う
それでも国費を入れ続けることを前提にすればイスラエルくらいの国でも鉄鋼や工作機械・ベアリングのようなクリティカルな製造業を部分的に保護することはできるはずだしすべき
>経済的ダメージ無く自国で全て補える国なんてあっても中国ぐらいじゃないですかね?
自国市場だけで独立採算できるだけじゃなく海外の安いものを買えないという保護主義の損失なしにできるとしたら中国だけだろうね
だから20年後には中国が世界最強になってると思う
人民元がかなり弱い通貨なので無理でしょうね、だからこそかつての大東亜共栄圏のごとく(なんとも微妙な)自前の経済圏の構築を頑張ってるわけで
あと中国の劇的な経済成長は不動産バブルと投資・輸出主導型による経済発展が大きいので既に成長に陰りが見えつつあります
G7や欧州みたいな消費主導型の経済発展に転換できれば世界最強も夢じゃありませんが、若年層の減少と失業問題を解決しないとかなり厳しいでしょうね
なんか、フフッって笑ってしまう
>既に成長に陰りが見えつつあります
エマニュエル・トッド氏も言ってるけど見かけの経済成長なんてどうでもいいんだよ
市場での交換価値の大きさにはなんの実態もないからね
それよりも本当に重要なのは技術革新が起きてるかどうか
これね。
NVIDIAなんか未だに中国へGPUを売りたがってるけどアホな話だ……。
ロシアの戦争での強さを見てて改めて確信したが、やっぱり営利企業には国家による統制が必要だわ。
レッセフェールじゃ無理ぽ。
だから見かけの経済成長は十分良いんだよめ、中国
でも上で書いた通りその原動力は国による投資と不動産バブルなうえ、政府以外の隠れ債務が膨大だから大分不味くなってるってだけで
もちろん中国が崩壊なんかしたりはしないけど、日本の失われた30年みたいになる可能性は十分ある
まあ肝心のトッド氏はあまり中国を評価していないと言うよりむしろ崩壊を予想してるんですよね
これは彼が家族論の専門家で人口に注目したアプローチをとっているので一人っ子政策で歪んだ人口と日本より低い女性の地位から来る日本より低い出生率と人口流出を危険視しているからですが
人がいなくなれば兵士も農場や軍需工場で働く人も減りますから
その点イスラエルは人口は珍しくクリアしているので後は工業ですね
トッド氏はたしかに前は中国に対する評価が低かったね
ただ直近のインタビューでは中国に対する見方が変わったと明言してて毎年アメリカの4倍のエンジニアを輩出してるのはやはり脅威だと言ってる
しかもトッド氏も認めてるけどそのアメリカの理工系の研究者やエンジニアには中国系がかなり多いからそういう人たちを単純にアメリカのエンジニアにカウントしていいのかどうか
留学生に占める割合も今ちょうどハーバードが話題になってるけど中国系は突出して高いし(全ての学生が理工系ではないだろうけど
あと、べつにエマニュエル・トッドの受け売りで言ってるわけじゃないからね
日本でも有名な学者だから前置きに使うことが多いけど
専攻が主に異端派の経済学説史と経済史・産業技術史だからトッド氏の研究領域と重なるところがあるだけで
制度経済学・進化経済学的観点からするとトッド氏が言ってる家族形態はあくまで認知・行動に影響を与える慣習の一つだからそれで主体の全ての行動が説明できるとは思ってないし
産業技術史の学徒としてもこれからは自働化の技術が重要だと思ってるから人口の多寡だけで発展の可否が決まるとも思ってない
一度戦争が発生しますと、富がすさまじく失われますからね。
戦勝国でさえも、戦後の政治混乱・国力消耗で旨味が少ないという事例が多々あります。
戦争を発生させないために、できるだけ他国に依存せずに最大限抑止力を保つことは重要とは思うのですが、イスラエルはあまりにも特殊な気がしますね…
日本目線=極東情勢を考えれば、日本がどの程度の感覚でいるのが適切なのか、なかなか難しい塩梅だなと感じてしまいます。
”「経済性よりも国内調達を優先する流れ」”
我が国には欧米の10年前に流行った理論や流れを有難がって導入するという悪弊があるので、本邦では10年前に流行った経済性最優先、国内調達はガラパゴスの流れになって10年後にやっと国内調達優先になると思う。
物によるでしょう。
予算の関係もあるのでしょうが、防衛省の場合国内技術基盤の育成と確立を優先させる傾向があって、研究/研究開発事業といった要素技術の確立を目指す事業が多いです。
装備化を目指す開発は一定範囲の要素技術を確立した次の段階になりがちで、結果的に諸外国に遅れをとるケースが多かったと思います。
防衛力の抜本的強化政策で防衛予算倍増が謳われた結果、スタンドオフミサイル開発に見られるような技術実証に留まらない装備化前提の開発が増えてきましたので、今後は徐々に改善されていくのかと。
言うて肝心の砲弾やミサイル等はアメリカ頼りだし、第四次中東戦争での窮地を救ったのも結局欧米からの支援だった訳だし、孤立政策の尤もらしい言い訳でしかない気が。
防衛産業の基礎は工業生産基盤だから工業と読み替えれば真理だと思うね
工業をアウトソースすればするほど国は弱くなる
イスラエルの国家規模で完全国内生産を達成できるのかは疑問ですが、アメリカの支援も無限ではない事への危機感があるのでしょうね
自国(日本)の話ですが、他所の記事の孫引きをすると。
陸自の19式155mm自走砲を英国に送って、
以前に購入したVULCANO砲弾の実射試験をするとのこと。
同砲弾はセミアクティブレーザー誘導とのこと。
レーザー照射は、独自のクアッドドローンを開発予定とのこと。
同レーザー照射はL-JDAMも誘導できるとのこと。
こう言う記事を読むと、少し安心します。
イスラエルはパレスチナ人弾圧政策を改めるのが先でしょ。こんなナチスみたいな政策やって平和と安定を手に入ると思っているなら狂っているとしか言いようが無い。政治の失敗を軍事力でカバーは出来ないよ
こういった産業自立論の殆どは(極端に恵まれた条件を持つ国家でない限り)あくまで特定の国家・陣営との関係が悪化・途絶した際の備えであって、それ以外の国家・陣営との貿易は存在する前提、もしくは短期間の有事への想定だと思っています。
文字通りの意味で孤立しかねないイスラエルの立地や外交関係を考慮すると、この自立論も西側からの本格的な制裁等を考慮したものではないでしょう。
そう考えられる立ち位置にいることこそがイスラエルの大きな強みの一つなので、(メディアの真意はともかく)優位を自ら捨てるような意見を育てかねない発信には慎重になるべきではないかなと。
ナクバ起こして建国した国は、矢張り強硬的だな。協調と言う言葉を忘れたようだ。
満州国の様に極めて人工的な国家が欧米(主にアメリカ)の都合で存続してしまっているので、適切な“近所付き合い”-近隣諸国との距離感のノウハウが欠如しているのかも知れません。今後数百年位経てば熟成されてゆく可能性もありますが、それまでに今回クラスの犠牲が伴うとしたら…悲惨です。
サムネイル画像がミラージュ系戦闘機なのは「フランスが実際に供給を止めた実例」ですよね。
第三国経由で設計図を盗み出し、F-4のJ79エンジン付けて魔改造した時代とは異なり、国際サプライチェーンからハブられたら手段が限られる以上、自国で完結するサプライチェーンは必須ですね。
とは言え全てを自国で賄うのは材料輸入の観点からも困難なため、中東を占領するくらいの武力が必要になりそうです。
これはこれでものすごく困るのですが
欧州や豪州の態度は表向きは人道を理由にしていますが、本音は「こっちの方は現状米国にやらせておけばいいから」でしょうね…
「ユダヤ」をのさばらせたくはないが、「イスラム」をのさばらせるなど尚更ありえないこと。これがあちらさんのスタンダード。
そしてあちらさんの「のさばらせたくなき」には当然、中国・日本・韓国なども含まれており。
イスラエルのこういう姿勢は我が国に足りないものですね。