アゼルバイジャンとアルメニアは「領土の相互承認」が含まれる和平条約の実務的作業に入ることで合意したが、ザンゲズール回廊の設置に反対するイランは大規模な軍事演習を開始、アルメニア国境の変更を強行すれば力ずくで阻止するつもりなのだろう。
参考:Iran Holds Military Exercises on Border Amid Tensions With Azerbaijan
イランがザンゲズール回廊の設置を阻止するための政治的なオプションは今のところ見当たらないが、、、
ナゴルノ・カラバフ紛争の停戦協定にはアルメニアとナゴルノ・カラバフを結ぶ「ラチンを経由しない新ルートの建設と提供」が盛り込まれており、この新しい回廊には検問が設置されないためアルメニアとナゴルノ・カラバフ間の自由な往来が保障されているのだが、この停戦協定にはザンゲズール回廊の設置も盛り込まれている。
ザンゲズール回廊とはアゼルバイジャン本領と飛び地のナヒチェヴァン自治共和国を結ぶ道路や鉄道のことを指しており、この回廊も検問が設置されないためアゼルバイジャンとトルコはナヒチェヴァン経由で自由に往来が可能になる上、国境に沿って回廊が設置されるとアルメニアとイランの交通が分断される=恐らく回廊の管理権限がアゼルバイジャンに与えられるため「ザンゲズール回廊の設置はアルメニア国境の変更だ」とイランは主張。
イランの最高指導者ハメネイ師も「ザンゲズール回廊が設置されると非友好国のトルコとアゼルバイジャンに囲まれる」と難色を示したため、アルメニアは停戦協定で義務付けられた回廊設置を半ば放棄、停戦協定の履行を保証したロシアも何の措置も講じないため「自力でナヒチェヴァン自治共和国までの道を確保する」とアゼルバイジャンは公言していたが、両国は「領土の相互承認」が含まれる和平条約の締結に向けて動きだしたためザンゲズール回廊の設置が現実味を帯びてきた。
これに危機感を募らせるイランは国境沿いに機械化部隊を展開させていたが今月17日に大規模な軍事演習を開始、アゼルバイジャンとイランの国境として機能するアラス川の渡河が演習メニューに含まれているため、アルメニア国境の変更を強行すれば「力ずくで阻止する」という政治的なメッセージが込められているのだろう。
ただザンゲズール回廊の設置に応じなければアルメニアはナゴルノ・カラバフとのアクセスを失う上、和平協定で「領土の相互承認」と「国境策定」を実現しない限りアゼルバイジャンとの武力紛争とトルコの国境封鎖は半永久的に続き、ロシアから米国に安全保障の後ろ盾を変更するには「現在進行中の紛争」を法的に解決しなければならない事情があるので、イランがザンゲズール回廊を阻止するための政治的なオプションは今のところ見当たらない。
もしイランがザンゲズール回廊の設置を阻止するなら軍事的なオプションしかなく、そういった意味でアラス川の渡河訓練は非常に不気味だが、非合法な手段として有り得そうなのは和平協定の締結を進めるパシニャン首相を引きずり下ろすことで、和平協定の締結に反対するアルメニア勢力とイランが手を組んでも不思議ではない。
因みにパシニャン首相は「私のことを裏切り者だと国民は罵るかもしれない内容の文書に署名することを考えている。恐らく国民は私を権力の座から引きずり降ろそうとするかもしれないが、29,800km²の国土でアルメニア国民が永続的な平和と安全を享受できなら自分がどうなろうと知ったことではない」と述べている。
関連記事:アルメニア、ナゴルノ・カラバフをアゼル領と認め和平条約に署名する方針
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※アイキャッチ画像の出典:Reza Dehshiri/CC BY 4.0
国内が炎上してるしロシアと同じく不満を外に向けるためにアゼルバイジャンに攻め入るってのもまぁあり得る話ではあるな。
ただガチで武力行使をした場合、これを大義名分にイランと敵対してる国々が工作含めて色々やってくるだろうし結果的にイランの今の体制の寿命を縮めることになりそうではある。
今はむしろイランのロシア支援を妨害するためにも、アゼルバイジャン―トルコのラインが積極的に動いて欲しい
足下が火事になればロシアに兵器を送るどころでは無くなる
イランが巻き込まれたらロシアは渋い顔になるよね
この後どう転がるかな?
把握できる限りは、このままだとイラン革命になりそうなぐらいは大炎上してるのにな
ハメネイは国内の半分は女性だっていう認識がないのかもしれん(イランでは女性は人権が怪しいし)
国内外に敵だらけなんて亡国まっしぐらにしか思えないのは同意です
文化か違いがあるがイスラム教でも、汝殺すなかれ、は戒律のはず。
スカーフ一枚で人殺しはまずいと思う。
原理主義者や過激派は何でキチガイになるんだろう?
アゼルバイジャンvsアルメニアでさえ苦心してるだろうに、イランまで加わったらクレムリン発狂するんとちゃうやろかw
ちょっと興味深いからアゼルバイジャンやってみてくれ〜
イランが参戦してロシアへの兵器供給が難しくなる可能性はないか
アゼルバイジャンとイランが衝突した場合、イランはロシアサイドだけどアゼルバイジャンはアルメニアの敵だし…敵の敵は何なんだぜ?
なんならトルコも何か言いたいことありそう
先の二次ナゴルノカラバフ紛争では、国内のアゼル系住民に配慮してイランはアゼルを支持したけど、ザンケズール回廊設置が現実化すると、アゼルVSイランの構図に戻った。今後アルメニア支援を名目にイランは介入するとしても、西側とのつながりが深いアルメニア指導層にとっては、ありがた迷惑。
イランはこれ以上動けないだろうな。
イランが動いたら、トルコが介入してくる。
イラン対アゼルバイジャンの戦いではあるがトルコがアゼルバイジャンを支える。
アルメニアがイランと呼応して戦うかというと、現在のパニシャン政権ではありえない。
懸案を解決して平和を求めようとしているのに、なんでしゃしゃり出てくるんだと言う奴。
つまりイラン以外の利害関係国すべてが望んでいない。ロシアもね。
豚さんの言う通り。
エルドアン政権は「大テュルク主義」とまでは言わないものの、トルコをアラブ世界やイスラム世界、あるいはテュルク系諸民族の盟主の地位に戻すという巨大な目標を掲げてきました。シリア介入やリビアへの関与、トルコ軍の強化などはその政策の過程な訳ですが、この東への回帰はサウジアラビアのような旧オスマン帝国領から台頭した大国や、それ以前の地域覇者であるイラクやイランとの対立が避けられないという見方がかねてよりありました。そしてまさに今、直接ではないものの伝統的弟分であり実質的な自陣営No.2であるアゼルバイジャンとイランの間に軍事危機が発生してしまった訳です。
これはトルコにとってはエルドアンが掲げるマスタープランが最初にぶつかる障害であり、この40年ほど中東地域を良いようにしてきたイランに対してどちらが格上か印象付ける最初の機会にも映っているんじゃないかと思います。逆にイランにとってはNATOを傘に着た、あるいはNATOの尖兵をやっているトルコの手がカスピ海(テヘランはカスピ海にほど近い場所)にまで伸びてきている訳で、純粋に座視できないのも確かでしょう。イスラム革命の輸出と反米工作のためなら地球の裏にも行くと言われたイランが目と鼻の先のコーカサスをノーマークだったのはロシアに対する配慮があったからですが、ウクライナの戦いで露呈したロシアの地域プレゼンスの形骸化に対して全ての陣営が驚いて、そして幾分過激な手段によって自分の持ち分を守ろうと動き始めているのかなという印象です。
回廊設置でトルコ―アゼルに囲まれる…はイランの建前。
イランが狙っているのは、優良な油田とカスピ海を擁するアゼルそのもので、
アゼルと関係を深めるトルコの政治・軍事介入を阻止したいだけ。