ウクライナの都市に対するロシア軍の大規模攻撃を受け、ドイツのメルツ首相は26日「ウクライナに供給された英仏独米の武器から射程制限がなくなった」と発言したが、27日「昨日の発言は過去の取り組みについて言及しただけ」と説明し、新たな措置が講じられたわけではないらしい。
参考:Merz in Finnland
参考:Decision on lifting range restrictions on arms for Ukraine made months ago, Germany’s Merz clarifies
英仏独米がロシア軍の大規模攻撃を受けて「新たな措置を講じた」という意味ではない
ドイツのメルツ首相はWDR Europaforumで「我々は軍事的支援を含めてウクライナ支援継続に全力尽くす」「もうウクライナに供給されてる英国、フランス、ドイツ、米国の武器に射程制限はない」「ウクライナは供給された武器を使用してロシアの軍事目標をどこでも攻撃可能だ」「ロシアは容赦なく民間人を攻撃し、都市を爆撃しているがウクライナはそんなことをしていなし、今後もそうあるべきだ」「しかし、自国領内でしか侵略者に対抗できない国は十分な自衛ができない」と発言。

出典:Photo by John Hamilton
欧米諸国がウクライナに提供した長距離攻撃兵器はHIMARSで使用するGMLRS、GLSDB、ATACMS、戦闘機で使用するJDAM、JDAM-ER、GBU-39/B、Storm Shadow/SCALP EG、AASMなどがあり、これらの兵器は当初「ウクライナの主権が及ぶ範囲でのみ使用可能」という制限があり、ロシア軍に占領されたクリミアを含むウクライナ領内の軍事目標に対して使用出来ても、ロシア連邦領内の軍事目標に対しては使用できず、ロシア軍によるハルキウ再侵攻後に国境を越えた攻撃への使用が認められた。
英仏は提供した長距離攻撃兵器のロシア連邦領への攻撃に制限を設けなかったが、米国は使用兵器をGMLRSに限定して攻撃範囲も「ハルキウを攻撃する国境沿いのロシア軍や軍事目標」に制限し、クルスクを巡る戦いに北朝鮮軍が参戦すると「クルスク州内のロシア軍と北朝鮮軍に対するATACMSの使用」を認め「クルスク州以外にも使用範囲を拡大させる可能性」に言及したものの、この時点でウクライナに提供したATACMSの残弾数は僅かで、トランプ政権は追加のATACMS供給を承認していないためロシア連邦領内に対する長距離攻撃兵器の主力はStorm Shadow/SCALP EGになる。
但し、Storm Shadow/SCALP EGの供給数も非常に限定なので戦争の流れを変えるほどの影響力はなく、メルツ首相も自身発言について27日「射程制限の問題は数年前から問題になっていた。昨日も申し上げたように射程制限を課していた国々は既に本要件を放棄している。この点に関して言えば昨日の発言は『ここ数ヶ月間に起こっていること』について述べた、つまりウクライナは国境を越えてロシア連邦領内の軍事目標に対し、受け取った武器を使用する権利を持っているいうことだ」と説明。
要するにメルツ首相の射程制限解除発言は「過去の取り組み」について言及しただけで「英仏独米がロシア軍の大規模攻撃を受けて新たな措置を講じた」という意味ではないため、ウクライナ軍の長距離攻撃能力に変化はなく、今後もロシア連邦領内の軍事目標を攻撃する手段は主に自爆型無人機のみだ。
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※アイキャッチ画像の出典:Petteri Orpo
「メルツ首相の射程制限解除発言は新たな措置ではなく、実際は変わらない」というこの記事に目を開かれた。冷静かつ周囲に認知が必要な記事だと思う。どちらを応援しているとかは別にして。
ということは先のメルツ首相の発言が修正されたのか先走りだったのかもしれないが、個人的には報復合戦がエスカレートすると停戦どころかNATOとアメリカ対ロシアの第三次世界大戦になる可能性があると心配していた。
供与したところでゲームチェンジャーになる訳でもなくロシアがマジギレすることもないと思う。
ただキレたふりして停戦交渉を引き延ばしたり報復の空爆強化の正当化に利用するだけでウクライナにとっていいことはひとつも無い。
この首相、キレやすくて、暴言や失言が多いって心配されてる人だから、興奮して言って、同じ党の人達から怒られたかもね。
ネット界隈では、これでタウルス数百発がモスクワに撃ち込まれる日が来る。とか騒いでるけど。
メルツ首相の射程制限解除発言は、実際には今までと変化はないということで、個人的には安心しました。
報復合戦がエスカレートすると、第三次世界大戦の可能性が出てきたと心配していました。
逆にこれ以上、支援している欧米諸国がロシアにできる措置は何かあるのでしょうか……。経済制裁も結局は約四年近く耐えている、あるいは向こうは向こうで経済圏が強固になりつつある状態かも知れませんし、天然資源に関してもじゃあアメリカなどから買わないといけないよね。と言うのもヨーロッパは受け入れるのでしょうか…?戦車などの資源をとことん送り込んでも実際に停戦に繋がかは分かりませんし、長距離ミサイルなどを大量に支援すれば成果は見えやすいですが、それはそれでロシアは停戦を考えないでしょうし、この先ゲームチェンジャーになる経済措置、支援などがあるのかどうか、このまま4年目、5年目まで続きそうな気もします。
仰る通り、何ができるのかなと…
マクドナルド・コカ・コーラ・スタバ・VisaMastercardなど、非常に分かりやすい事例かもしれませんね。
ロシア資本が、それらの会社にとって代わって、海外に利益が流出しなくなったという何とも言えない結末もあります(JTは維持してますね)。
北朝鮮が究極的な話しになるかと思いますが、厳しい経済制裁を受け続けても続いているわけで…
ロシアの方が、北朝鮮よりも人口・経済・資源・軍事外交が強力なわけですから、近々の経済制裁で国家崩壊はないでしょうね。
欧州の企業がロシアの市場に戻れるか非常に疑わしいと言われてますね。
トランプとプーチンの電話会談を真に受けるなら、アメリカには戦略的に門戸を開く可能性が残されそうですが。
仰る通りです。
英仏のオイルメジャーだけでも、BP・シェル・トタルだけでも、それぞれ数千億円~1兆円以上の損失を出していて元通りは無理だろうなと。
日本政府はJTの筆頭株主なわけですが、稼ぎ頭のJTロシア法人を残したり、サハリン2継続したり上手くやりましたよね。
EU諸国でさえも、ロシア産天然ガスの輸入を続けてきたわけで、線引きなんか俺ルールみたいなものだったなと…
アメリカは、仲介国の対価として、いろいろ得ていくのか気になりますね。
日本ではあまり語られませんが、アメリカの対ロシア経済制裁はトランプの一存で解除できるものではありません
というよりも、2014年以前の状態に戻すことは実質不可能なのです
2017年に制定された”制裁によるアメリカの敵対者に対する対抗法(CAATSA)”があります
簡単に言えば、簡単に言えば敵対者として認定されたロシア・イラン・北朝鮮に対しては、経済制裁を課しやくすく、一方で解除を著しく困難にする法律です
制裁は大統領令により議会での審議や関連省庁での協議なしに課すことができます
十分な審議を経ることなく、大統領府の思い付きや好き嫌いで範囲を決めることができ、数百件をまとめて制裁することもできます
一方で、制裁の解除は大統領令でもできなくするのがこの法律のミソです
対象者は一件一件、議会でアメリカの敵対者ではないかどうかを審議して許可を得ないといけません
時間も労力も膨大で、その可否は大統領個人ではなくアメリカ議会に委ねられます
ロシアはこの複雑な仕組みを十分理解しており、トランプがいくら調子のよいことをいったとしても、現実的にはどれだけトランプが精力的に動いたとしても任期中の達成は不可能だと見透かしているのでしょう
だから、はやく停戦して経済制裁を解除してもらわないとロシアはやばいぞ、という説得には効果がないのです
西側の仕掛けたトラップの筈のものがロシアに対してはあまり効果的では無いのはこのウクライナ戦争全般に言えると思います。
その中でも代表的なものがウクライナ側の「プーチンとの交渉を禁じる政令」でしょう。
これを有効にしたままならウクライナはかりにロシアとどんな取り決めを締結しても後で「あれは違法だった」という事が可能になってしまいます。結果、それなら後でひっくり返される可能性が高いのでまずそこをどうにかしない限りはロシアはゼレンスキーとは事実上交渉しない、しても無駄だと言えるわけです。
一方ウクライナにしてみると自信満々で決めた政令ですから、それを新たに取りやめると誰から見てもロシアの圧力に屈した形になってしまいます。それはゼレンスキーの政治生命に直結する問題ですから、ゼレンスキーもゼレンスキーを支持する議会も翻せない。
よって、「あれをどうにかしない限りは何も決められないよ。だから戦闘続行だね」とロシアが動いても、道義的非難とかあれこれしても、ロシアの主張を論理的に突き崩す事が出来ません。プーチン政権を交渉相手と法的にも認めない限りは何も進められないぞ、については、ウクライナ側がやった事ですからロシアにもどうにも出来ないのです。
そしてこれが有効であるうちはロシアは真面目な話し合いは結局しないと思われます。
何でこんな事をしちゃうんだろう……、ってのはウクライナ側については本当に一杯ありますが、これはやはり代表的なものだと言うしかありません。
お気持ちの表明は気が向いたらまたとしまして、此度のドイツのムーブの意義を真面目に考えてみました。
ロシアの報道官?が「非常に危険な判断だ」と反応してしまったのが若干ダサかったくらい…ですかねぇ。
欧州大国の言葉も、真に受けすぎない方が無難に感じますね。
ウクライナ欧州派遣軍も、英仏首脳が盛り上げまくっていましたが、気付けばどこかに吹き飛んでしまいましたし…
この調子じゃ対イスラエル政策も現状維持なんだろうな…
でしょうね。イスラエルの現状を批判はしても、イスラエル支援を止めるとは言ってないですから
それにしてもこれまでのあれこれを見るにメルツ首相は舌禍で支持率低下を招きそうな気配がします
最初から自分達は制限なんてかけてなくてウクライナが配慮してただけという体裁にする為に言ってるだけでは?
EUが今年の7月からロシア産の肥料へ更に関税をかけるので、これでドイツやフランスの国内世論がどうなるか注目ですね。
現地の農家への取材を見ると現時点でも相当な反発があるようですが。
特にフランスはねぇ……。
ロシア産のカニが、アメリカ経済制裁の影響で、日本に格安で入ってきたのを思い出しました。
築地カニ祭りが、外国人がカニの爪を食べて、大好評だったというのが放送されていたんですよね。
肥料はNo、天然ガス・魚介類はOKというのも意味が分からないですから、日本が格安で買い叩けるのであれば物価安に繋がるかもしれませんね。
肥料や飼料はロシアと中国が占めるウエイトがデカイですからねえ…
ロシアから買わない代わり中国から買う事にする!ではわーくにとしては困った事になるわけで
メルツ発言の後にすぐ副首相が否定したから政府内で合意ができてた訳でもなく、メルツの個人的な発言なのに大きく取り上げられてしまっただけのこと。
昔マクロンが派兵すると言って後に火消しに追われた時と同じ
CDUは政権を取る以前は運用制限の大幅な削減に前向きだったので、その時期のニュアンスだと思われて広まると何かと面倒でしょうからね。
とりあえずメルツ首相がいきっていただけで、一応安心ですね。
ドイツに変に暴走されてしまっては第三次世界大戦が現実的になります。
ロシアの脅威よりドイツが軍事力持とうとする方がヨーロッパにははるかに危険なのですから