欧州関連

トルコ、主翼が折り畳めるバイラクタルTB3で強襲揚陸艦を空母に変身させる

トルコはF-35Bの運用を想定して建造した強襲揚陸艦「アナドル」を無人航空機の空母に変身させるため本格的に動き出したと報じられている。

参考:Turkey plans to deploy attack drones from its amphibious assault ship

英国の次はトルコ、強襲揚陸艦「アナドル」を無人航空機の空母に変身させる取り組みを推進中

トルコ海軍初の強襲揚陸艦「アナドル」は回転翼機のみの運用しか予定していなかったためスペイン海軍向けに建造された強襲揚陸艦「フアン・カルロス1世」の設計を一部変更(スキージャンプ台の削除)して建造するつもりだったのだが、トルコ海軍は2015年にF-35B調達を決定してアナドルもスキージャンプ台を備えた設計に変更したのにロシア製防空システム「S-400」を導入したためF-35プログラムから追放されF-35Bが入手できなくなってしまった。

そこでトルコはアナドルに無人航空機を搭載して活用すると噂されていたが、遂にトルコの防衛産業企業Baykar社でゼネラルマネージャーを務めるハルク・バイラクタル氏が「アナドルへの着艦に耐えられる新しい無人戦闘機(UCAV)を1年以内に開発する」と明かして注目を集めている。

さらにトルコ国防省調達部門のイスマイル・デミール氏も「Baykar社はアナドルを無人機の空母に変身させるため複数の無人航空機開発に取り組んでおり、少なくとも10機の武装した無人航空機が1つの作戦に同時投入できアナドルにはUAVの管制能力が統合される。このプロジェクトが完了すればアナドルは主翼の折りたたみに対応した新型のバイラクタルTB3を30機~50機運用することができる」と語るなど興味深い点に幾つも言及した。

まずハルク・バイラクタル氏が言及した無人戦闘機(UCAV)とは恐らくイスマイル・デミール氏が言及した「バイラクタルTB3」のことを指している可能性が高く、バイラクタルTB3の存在自体は昨年11月にBaykar社で最高技術責任者(CTO)を務めるセルチュク・バイラクタル氏が明かしていたが「1年以内の開発完了」や「アナドルでの運用に合わせて主翼の折りたたみに対応する」という情報は完全に初耳で、1つの作戦に同時投入が可能な無人航空機が10機ということは無人機同士のエア・チーミングを示唆しているのかもしれない。

あとアナドルはバイラクタルTB3を30機以上も運用できるということは、さほどバイラクタルTB2と大きさが変わらないという意味なのだろう。

出典:Savunma Sanayii Başkanlığı トルコの無人航空機「バイラクタルTB2」

管理人的に注目したいのは「アナドルを無人機の空母に変身させるため複数の無人航空機開発に取り組んでいる」という点で、今月4日にハルク・バイラクタル氏は「トルコ初のAIを搭載した無人機の概念設計を建国100周年にあたる2023年までに完了させる予定だ」と明かしているので、この様な新型機もアナドルに対応させてくるのかもしれない。

この無人機の基本仕様は巡航速度マッハ0.8、最大運用高度1万2,000m、兵器搭載量約1トン、AIによる自律的に制御で近接航空支援、戦略的な拠点への攻撃、敵防空システムの破壊、ミサイル攻撃などの任務(飛行時間にして約5時間の任務)を実行することが出来ると報じられており、巡航速度や1回の任務時間から推測するとバイラクタルTB2のような滞空時間が売りの高耐久UAVではなくジェットエンジンを搭載して単独で作動する無人戦闘機ではないかと管理人は予想している。

ただ1つだけ問題があるとすれば固定翼の無人航空機を飛行甲板の短い強襲揚陸艦「アナドル」で運用するのかだ。

最悪、発艦はエンジンパワーでカバー出来たとしても着艦する際に飛行甲板の端から端まで使用すれば流石に運用効率が悪そうなのでアレスティングワイヤぐらいは必要になるのではないだろうか?丁度、英国もクイーン・エリザベス級空母で固定翼の無人航空機を運用するため電磁式カタパルトとアレスティングワイヤの搭載を検討している位なのでトルコも何かしらの対策を講じているだろう。

出典:Canbay34 / CC BY-SA 4.0 Bayraktar DİHA

まぁBaykar社は垂直離着陸に対応したUAV「Bayraktar DİHA」を実用化しているので無人航空機側に工夫を加えてくる可能性も0ではないはずだ。

果たして強襲揚陸艦を無人航空機の空母に変身させるというアイデアは実現するだろうか?もし実用化に成功すれば多くの国が興味を示すかもしれない。

関連記事:英海軍、空母で無人航空機を運用するため電磁式カタパルト採用を検討か

 

※アイキャッチ画像の出典:baykarsavunma バイラクタルTB2

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コメント

    • ソソソナス
    • 2021年 3月 12日

    無人機の機体管制を強襲揚陸艦から直接行うなら無人機用と個艦防衛用の両方のレーダーを搭載するのかね。もしそうなら互いのレーダーが干渉しあうような気がする。もし無人機が完全自立型なら巡航ミサイルのほうが射程も長く速度も速く威力も高くなりそう。

    3
    • 匿名
    • 2021年 3月 12日

    カタパルトによる発艦もアレスティングフックによる着艦も、パイロットという「壊れ物」を保護するためにかなりの安全マージンを取りながらやってるんだから、マージン取っ払って「制御された墜落」が「ほとんど墜落」になっても無人機ならイケるんじゃね?

    5
      • 匿名
      • 2021年 3月 12日

      飛行甲板も壊れ物なのでは…

      12
    • 匿名
    • 2021年 3月 12日

    最近トルコはイケイケだなあ。実戦に事欠かないこともあるのか、先進的な取り組みを研究レベルじゃなくてスピード感を持って実用化してくるのは大変うらやましい。

    9
      • 匿名
      • 2021年 3月 12日

      経済も外交も行き詰まってるから軍事につぎ込んでるとも

      12
      • 匿名
      • 2021年 3月 12日

      トップがあれだからコケたらジェットコースター並みの急降下になりそう

      7
        • 匿名
        • 2021年 3月 12日

        そして益々外向けに狂犬化するのは歴史上あるある

        12
        • 匿名
        • 2021年 3月 12日

        新オスマン皇帝エルドアン1世陛下、バンザーイ!!!!

        2
          • 匿名
          • 2021年 3月 12日

          フセインやカダフィやムバラクみたくならないといいですね(棒)

          8
    • 匿名
    • 2021年 3月 12日

    無人機と空母の組み合わせって良いな
    有人機とは別のロマンがある

    7
    • 匿名
    • 2021年 3月 12日

    祝 次期戦闘機 共同設計開始

    2
    • 匿名
    • 2021年 3月 12日

    肝心の射程距離?がクソ短いのはどうするんだろ
    攻撃のために陸に近づいたら、クソ雑魚テロリストはともかくギリシャとかからしたらいい的になりそうだけど

    5
      • 匿名
      • 2021年 3月 12日

      無人機なら帰還を考えなければ片道で十分なんだから有人機の倍航続距離があることになるよ

      1
        • 匿名
        • 2021年 3月 12日

        対空時間は長いけど、バイラクタルtb3がtb2と同じ仕様なら通信ができる範囲までしか使えないんで良くて200kmとかなんだよなぁ
        それ以上を目指すなら(自国で運用する)GPS的なシステムと通信衛星が必要になるっていう

        4
          • 匿名
          • 2021年 3月 13日

          衛星通信対応のバイラクタルTB2Sは発表済みですので
          TB3も当然対応可能でしょう。

          2
            • 匿名
            • 2021年 3月 13日

            そして価格が跳ね上がり、巡航ミサイルの方が安いやんってなると
            というか、現時点でも全然安い兵器じゃないしバイラクタルtb2

            こないだサウジがカミカゼドローンを全て迎撃したように、準備を整えたまともな軍隊に鈍足のUCAVは通用しないし、やっぱりテロリスト向けかな
            まあ、トルコの状況的にそれでも全然出番は多そうだけど

            2
    • 匿名
    • 2021年 3月 12日

    UAVは小国~地域大国レベルの国が手に入れた新たな武器な訳だけど、これから米露欧中と、列強レベルの国々がそれを真似て更に大規模かつ大量に導入し始めたら、その優位性もすぐに消えるんだろうな。軍事の歴史あるあるだけど。

    9
    • 匿名
    • 2021年 3月 12日

    建国100年記念にどうたら~って最近はトルコも中国みたいな言動ばかりだな

    7
    • 匿名
    • 2021年 3月 12日

    素朴な疑問なんだけどF−35Bを載せないこの強襲揚陸艦を敵の対艦ミサイル群から護衛する防空艦ってトルコ海軍は揃えているの?

    3
      • 匿名
      • 2021年 3月 12日

      イスタンブール級フリゲートの1番艦が確か先月に進水したばかり。量産や配備が間に合うかは別だが。

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        • 匿名
        • 2021年 3月 12日

        まあトルコの想定される紛争相手国や勢力で強襲揚陸艦を対艦ミサイル攻撃出来る様な所は無いかな

        3
          • 匿名
          • 2021年 3月 12日

          強いて言えばギリシャやエジプト、フランス、あとはロシアぐらいか。

          5
      • 匿名
      • 2021年 3月 12日

      そういう心配をしなくてよい相手はいくらでもいるから。トルコ空軍の制空権内、非対称戦争しかできない武装勢力等々
      限定された範囲ではかなり威力を発揮できると思うよ

      3
    • 匿名
    • 2021年 3月 12日

    もしこの強襲揚陸艦×無人戦闘機の組み合わせが当たれば相当な数の海軍が興味を示すだろうね
    軍事予算が世界50~80位くらいの中堅海軍でも挙って全通甲板艦と無人戦闘機を導入するかもしれん

    5
    • 匿名
    • 2021年 3月 12日

    「ぼくらの」で見た

    • 匿名
    • 2021年 3月 12日

    自衛隊のもがみ型のUUV運用能力しかり
    これからの艦は何かしらの無人機運用の為の専用装備を持っていく時代になるのかな

    1
    • ゆう
    • 2021年 3月 13日

    小型軽量な無人機なら、エアブレーキやドラッグシュートという手もあるのでは。
    ドラッグシュートは、有人機だと大きくて使用後に畳むのが大変だけど、無人機なら小さくてそんなに面倒でないと思う。アレスティングフックによる着艦より制御も楽だろうし。

      • 匿名
      • 2021年 3月 13日

      1機だけならそれでもいいけど複数機の連続着艦を考えると問題点の方が多いんじゃないかな。
      アレスティング着艦と言うと既存の米空母のアレを頭に思い浮かべるだろうけど、直線翼の小型UAVなら失速限界は100k/hを下回るだろうから動いてる空母の甲板との相対速度は60~70K/hまで落ちると思うのでワイヤーにちゃんと引っ掛けられる難易度は桁違いに低いだろう。
      ここまで遅ければプロペラピッチの逆進だけでも止まれるだろうけど安全策でワイヤー使うって程度じゃない?

      4
      • 匿名
      • 2021年 3月 13日

      いっそ着艦ネットでいいんじゃないの?
      ある程度機体にダメージはあるだろうけど数十回数百回使ってポイの無人機なら
      それで母子共に降着装置が大幅にコストダウンできるなら割りに合うかと。

      2
    • 匿名
    • 2021年 3月 13日

    高価で少数になった有人機の穴をつく形で安価な無人機が猛威をふるい、各国に普及する

    無人機を撃ち落とすための無人機が登場する

    無人機同士が空戦するようになり、各国はより高性能な無人機の開発競争を行う

    高価になり、少数化する

    はじめに戻る
    ような気がする

    2
      • 匿名
      • 2021年 3月 13日

      最終的には経済力が物を言うのは変わらないんですよね。トルコはアメリカとの対立、EUとの軋轢でその道を手放してしまった。

      6
        • 匿名
        • 2021年 3月 13日

        今は小型の無人機に対する対処能力の脆弱性が指摘されているけど、これまで脅威とみなさず対処していなかっただけで大国やイスラエルが予算を投じて本気で小型無人機に対する防空システムを開発に取り組んだら早い段階で対応されてしまいそう

        3
          • 匿名
          • 2021年 3月 13日

          世界的には2015年頃のウクライナとロシアの軍事衝突時から小型無人機の脅威は認識されて対応してたけど、それでも守備側の対応が無人機の進化について行けてない。

          小型無人機が今まで脅威と見做されて無かっただけで本気で対処すればなんて事実誤認も甚だしい。

            • 匿名
            • 2021年 3月 13日

            矛と盾のイタチごっこ、ってよく言うけど、
            実際にはいつだって有利なのは矛なんだよね。
            もちろん先に手を出すと国際的に不利、ってのはあるけどね。

            2
            • 匿名
            • 2021年 3月 14日

            それでも未だに頑なに専守防衛を続けてしまう日本という国
            もう既に手遅れやろ

          • 匿名
          • 2021年 3月 13日

          大国やイスラエルもまた本気だして無人機を開発してるのにかよ(笑)
          それは上にもあるように、盾と矛では矛が有利だから
          まだ気がついてないなら出遅れに過ぎない

          1
    • 匿名
    • 2021年 3月 14日

    ナゴルノ紛争では同じトルコ民族の兄弟国だからとアゼルバイジャンを全面的に支持・支援したクセに、同じくトルコ民族のウイグルを弾圧してる中国を支持してすり寄ってるダブスタにトルコは見損なった。

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