中国企業によるモトール・シーチ買収で航空機用エンジンの技術流出が懸念されていたが、ゼレンスキー大統領が率いるウクライナの与党「国民の公僕」はモトール・シーチ国有化に必要な関連法案を議会に提出すると発表した。
参考:Ukraine intends to nationalise Motor Sich soon -top security official
ウクライナは安全保障上の戦略的重要性からモトール・シーチ国有化に踏切る
中国はここ数十年で航空機開発能力を飛躍的に向上させた結果、第5世代戦闘機「J-20」や大型輸送機「Y-20」など西側製に匹敵する航空機を次々と実用化させているのだが、国産エンジンの性能が足を引っ張り設計通りの性能を発揮できないでいる。
設計時に予定されたJ-20の性能を完全に引き出すためには国産エンジン「WS-15(最大推力180kN)」を2基搭載する必要があるのだが、十年以上の開発を経ても所定の性能を達しないため本格的な量産移行(※)が見送られており、本格量産に移行した大型輸送機「Y-20」も搭載予定の国産エンジン「WS-20(最大推力120kNもしくは140kN?)」の開発が難航しているため推力の劣る「D-30KP-2(最大推力103kN)」を搭載して量産されているので最大積載量が55トンに制限(設計通りなら66トン)されている。
補足:WS-15の遅れを補完するためロシア製AL-31F(145kN)よりも推力が大きい「WS-10C」を搭載したJ-20や推力偏向ノズルを採用することで機動性を改善したJ-20Bの本格量産が始まっているという説もある。
戦闘機用のWS-15に関しては地道に開発する以外に今のところ手段がないのだが高バイパス比エンジン「WS-20」については宛があり、中国が狙っているのはウクライナ企業「モトール・シーチ」がもつ航空機エンジンの技術力だ。
モトール・シーチは旧ソ連時代から大型輸送機や攻撃ヘリ向けにエンジンを製造してきた実績をもつウクライナの民間企業で、同社の高バイパス比エンジン「D-18T(最大推力229.8kN)」に関連した技術を狙い北京天驕航空産業投資有限公司(中国航空発動機集団傘下)が同社の株式を取得して子会社化することを発表したのだが、モトール・シーチの技術が中国企業に移転されるのを懸念した米国がウクライナを動かして同社の株式売買を一時的に凍結させたため中国企業によるモトール・シーチ支配は完了していない。
これに対して中国側はウクライナ国内で株式凍結解除に向けたロビー活動を展開、これが失敗に終わったため中国はウクライナと締結している通商協定に基づき第三者による裁定=つまり仲裁(株式凍結を解除しないのなら約35億ドルを支払えと言う内容)を正式に申し立て仲裁の成り行きに注目が集まっていたが、ウクライナは安全保障上の戦略的重要性からモトール・シーチを国有化する方向で動いているらしい。
ゼレンスキー大統領が率いるウクライナの与党「国民の公僕(単独過半数を超える議席を確保中)」はモトール・シーチ国有化に必要な関連法案を議会に提出すると発表しており、順調に手続きさえ進めば商業的アプローチでモトール・シーチの技術を手に入れようとした中国側の試みは失敗に終わるだろう。
因みにモトール・シーチ国有化への動きはバイデン政権によるウクライナへの対外軍事援助(約1億2,500万ドル分)発表とタイミングが一致しているので、米国とウクライナの間で何かしらの取引があったのではないかと管理人は思っている。
関連記事:航空機エンジンの開発に苦しむ中国、ウクライナ企業買収に向けて再始動
※アイキャッチ画像の出典:Alert5 / CC BY-SA 4.0
ソ連崩壊時アメリカがウクライナに対して日本にロケット技術を渡すなと言ってたそうですが
日本は共産圏から技術を買うという発想がなかったので全く無意味な事だったのですが
アメリカは安全保障に関して手を抜かないなと感じました
余り知られていないのだけど、1960年代に日本がユーゴスラビアへカッパロケットを輸出した結果、その技術がユーゴスラビア国産の地対空ミサイルへ転用されたと言う実話があるのよ
この時、ユーゴスラビア側はロケットに使われていた当時最新の固体燃料で先進国では軍事機密だったコンポジット推進剤の製造方法と製造設備を狙っていて、まんまと入手に成功している
その後、インドネシアにもカッパロケットが輸出された際に軍事転用を懸念したマレーシアが日本に抗議した事もあって、その結果あの悪名高き「武器輸出三原則」が誕生した程、日本の防衛政策にとっては重大な事件だった訳
だから、米国は今でも「昔日本は共産圏に武器転用可能な技術を売った実績が有るんだから、その逆も有る筈」と疑っていてもおかしくない
ユーゴのミサイルそのものは失敗作で終わってるが、その誘導にはアメリカ製のレーダーも用いられていたというオチ
どこから入手したのやら
実は、ユーゴスラビアは共産圏なのにチトーの指導力で「必ずしもソ連には同調しない」と言う政策を取っていたので、1950~60年代には米国が大規模な軍事援助を実施していたのですよ
だから90年代のユーゴスラビア内戦の時にM18やM36対戦車自走砲が出て来たのです
それ以外だと、M47戦車やF-86D戦闘機等多数の兵器を当時のユーゴスラビアは米国から受領していますので、恐らくその伝手で米国からレーダーを(合法か非合法かはともかく)入手出来たのではないでしょうか。
教訓は、平和主義の学者なんて容易く騙されて利用される、アメリカは実はダブルスタンダードでアレコレやってる、自分たちの技術の価値は他人のほうがよく知ってる、
こんなとこか(笑)
どこの国も知的財産権の保護に本気になってきた
こっちの企業もうかうかしてるとダミーを通じて誰に買い取られるやら
買い取られるというか、引き抜かれた技術者経由で、ノウハウを隣国に盗まれた過去はあるみたいですね。
アメリカが先手を打っていますがひっくり返されないとも限りません。
特にトルコ→韓国経由で漏れいうことも考えられるのでは?
当面気は抜けないですね。
いちお最新の輸送機なのにバイパス比低そうな古臭い見た目のエンジンやな
航続距離とか捨てて積載量をとった感じか?
結局のところ推力が足りなくて難儀してる訳ですから
燃費よりも推力最優先なんじゃないですかね。
中国側の記事で、日本の戦闘機エンジンについて完成できるはずないと喚いてたのは、自分たちが完成させる目途がたたないから。
日本は粛々と作業を進めて、大成させて欲しいね
それをおいしく頂かれたらやだなぁ
ウクライナはこれまで散々節操なく兵器や技術を売りまくって来た訳だが改心したのか?
技術を安売りするよりも売らない事でアメリカから金をせびる方が
コスパが良い、という事かもしれませんね。
当ブログ本文にも書いてありますが、米バイデン政権によるウクライナへの対外軍事援助(約1億2,500万ドル分)の発表とタイミングが一致しているので、米国から軍事援助を貰う条件としてモトール・シーチ国有化の件を要請された結果、ウクライナ政府がそれを受諾したと言う所だと思いますよ
改心したって日本的な発想で国際外交には当てはまらないと思うよ。
節操なく兵器や技術を売りまくるのは、そこにウクライナの国益があるだよ。今回も中国の資本によってモトール・シーチが発展するのと対米関係を天秤にかけた結果、モトール・シーチを国有化したほうがウクライナの国益になると判断しただけ。
兵器は兎も角、技術を売るのは﹙長期的には﹚国益に反すると思います。
目先の利益と言い換えるのなら、別に否定はしませんが。
マジで金ないんだから仕方ないじゃん
同情するなら金をくれってやつ
つい先週に、WS-20を搭載したY-20が衛星写真で撮影されたので、ウクライナ企業がいなくてもY-20のエンジン問題は解決しつつある。
企業を買収してエンジン技術を手に入れたほうが楽だけど、駄目なら自分達でエンジンを開発・運用していますからね、今の中国は。
それとは別に、中国もまたアメリカ同様の論理でウクライナの技術を押さえておきたいのかも知れない
。たとえば将来の超大国でありライバルのインドにウクライナのエンジン技術が流れるのは絶対に容認しないだろうし
一応完成したけど燃費や耐久性が劣るからウクライナからエンジン技術を取り込みたかったんじゃないのかな。
あの葉巻のように細い低バイパス比のエンジンでは航続距離も稼げないように見える、現行の高バイパス比のエンジンはターボプロップのプロペラと変わらないぐらいファンで推力を稼いでいる。
衛星写真を見た限りですと、WS-20はロシアのD30KP2より短くて太かったですね(Y-20の主翼の形状も若干変わっている)。
上手くいっているかどうかは、WS-20搭載のY-20が量産されないと判明しませんね。
エンジン開発はどちらにしろ時間の問題だからな。この貴重な時間を我が国としては大事に使っていきたいが…さて。
極限技術のジェットエンジンはいくら金と時間をつぎ込んでもどうにもならないものがある、中国はIHIと桁の違う資金を投入しても重要な機体のエンジンはロシアから輸入している。
この先ロシアからの輸入が減れば、それは技術向上をあらわすことになるが。
戦闘機用のエンジンはもうロシアから輸入していませんよ。
単発機やステルス機にも自国製のエンジンを搭載し始めていますね。