ウクライナ戦況

ハンガリーが方針転換、自国領を通過するウクライナへの武器輸送を容認

ウクライナのリヴィウを訪問したハンガリーのマディアル外務次官は19日、これまでの方針を転換して「ウクライナに提供される武器輸送の自国領通過を許可する用意がある」と明かし注目を集めている。

参考:В Венгрии вдруг заявили, что не против транзита оружия в Украину

今回の方針転換でウクライナへの輸送効率が劇的に変化するという訳ではないが、ロシア寄りと批判されてきたハンガリーにとって重要な決定

西ウクライナ地域と国境を接するハンガリーはNATOやEUの加盟国だが、ウクライナへの武器供与を拒否、他国が自国領を経由してウクライナに武器を輸送することも禁止、EUが導入を検討予定しているロシア産石油の禁輸措置には拒否権を発動すると公言するなど「間接的なロシアへの協力姿勢」が目立ち、他の欧州諸国から疑惑の目で見られてきた。

出典:Kremlin.ru / CC BY 4.0

この問題についてウクライナ国防安保委員会のオレクシー・ダニロフ氏は5月、出演した現地番組の中で「ハンガリーはプーチンから事前にウクライナ侵攻を知らされていた。彼らはロシアがウクライナで起こす戦争で自国領の一部を取り戻せるかもしれないと期待していたが、そのような結果は絶対に起こらない。このような振る舞いを選択したハンガリーにどのような結果が訪れるのか見てみよう」と語り注目を集めているが、主張の根拠については詳細を明かしていない。

ダニロフ氏が言及した「自国領の一部」とはハンガリー王国時代に領有していたザカルパッチャ州(西ウクライナ地域の一部)のことを指している可能性が高く、もしロシアとハンガリーの間でウクライナ侵攻に関する何らかの密約(協力と控えにザカルパッチャ州の譲渡など)が交わされていたのなら中々興味深い話だが、リヴィウを訪問したハンガリーのマディアル外務次官は19日「ウクライナに提供される武器輸送の自国領通過を許可する用意がある」明かし注目を集めている。

マディアル外務次官は「隣国で発生している戦争に直接関与しない方針は我々の戦略的立場でウクライナに武器を提供することはないが、第三国はあらゆる支援物資をウクライナへ輸送するため我々の領土を使用できる」と語り、武器を輸送するためハンガリーから西ウクライナへの通行を容認すると示唆した。

因みにハンガリーは「他国が自国領を経由してウクライナに武器を輸送することを禁止」したが、実際にはハンガリーからスロバキアやルーマニアを経由する武器輸送の自国領通過は黙認していたため、今回の方針転換でウクライナへの輸送効率が劇的に変化するという訳ではなく、ロシア寄りと批判されてきたハンガリーの国際的立場を改善するもの過ぎない。

関連記事:疑惑のハンガリー、ロシアのウクライナ侵攻に協力で旧領復活を期待?

 

※アイキャッチ画像の出典:Генеральний штаб ЗСУ NATOの補給部隊

ロシア軍の退路遮断に乗り出したウクライナ軍、ドニエプル川に架かる橋を攻撃前のページ

どんどん増えていくHIMARS、まもなくウクライナへの追加提供を米国が発表次のページ

関連記事

  1. ウクライナ戦況

    ウクライナ軍がドネツ川渡河に成功、ロシア軍は補給ルートを失う可能性も

    イジューム方面で戦うロシア軍の補給ルート遮断に向けて「ウクライナ軍がド…

  2. ウクライナ戦況

    バフムートの戦い、ウクライナ軍は損失を被りながらクリシェイフカに迫る

    ロシア側情報源は「ウクライナ軍が大きな損失を出してクリシェイフカの高台…

  3. ウクライナ戦況

    ロシア軍がノボミハイリフカ集落内に侵入、ヘオリフカ方向でも1.5km前進

    ドネツク西郊外方面についてウクライナ人が運営するDEEP STATE、…

  4. ウクライナ戦況

    ロシア軍が再びウクライナに大規模なミサイル攻撃、停電が広範囲で発生

    ロシア軍が再びウクライナ全土に大規模なミサイル攻撃を開始、首都キーウを…

  5. ウクライナ戦況

    ルハンシク州知事、明日にでもクレミンナやルビージュネから良い知らせが届く

    ルハンシク州のガイダイ知事は10日、ウクライナ軍の反撃に敵は浮足立って…

  6. ウクライナ戦況

    ゼレンスキー大統領、降伏を考えるロシア人へ3つの約束を発表

    ゼレンスキー大統領は24日、降伏を考えているロシア軍兵士に対して人道的…

コメント

    • ブルーピーコック
    • 2022年 7月 20日

    領土•国土を過去に取った取られたは、西欧諸国ですら未だに火種だからな。北アイルランドとか南チロルとか。

    ハンガリーは空気を読んだらしいが、じわじわロシアが競り勝ってるように見えて、時間が経てば経つほど支援の集まるウクライナを攻めきれなくなると見て日和ったとも取れる。

    17
      • バーナーキング
      • 2022年 7月 20日

      日和るってのは元は「日和見(日和(天候状況)を見て行動(本来は出航)判断する事)」なので空気読むとほとんど同じ意味かと。

      まあ実際ハンガリーの判断が変わる程度には空気が変わって来たって事ですかね。

      10
    • エニグマ軍曹
    • 2022年 7月 20日

    ブダペストでもデモが起こってたりでハンガリー国内の情勢不安も関係してそうですね。

    14
    • 無無
    • 2022年 7月 20日

    第二次世界大戦末期になると、それまで中立を保っていた非アジア圏の各国までが、形だけでも日本に宣戦布告したりする
    勝ち馬に乗るというか、沈む船からネズミが逃げ出すというか
    これが個人だったら日和見なゲス野郎認定されてるかも

    7
      • バクー油田
      • 2022年 7月 20日

      日和見は小国のサバイバルの知恵かもしれませんが、
      EUにも入り、NATOにも入りながらの今回の日和見は感心できませんよねw
      それを踏まえてハンガリー寄りの解釈が出来るとしたら、
      NATOの中にもヒエラルキーがあり、ハンガリーは捨て石扱いされてきてて
      ハンガリーのNATOに対する不信感から今回の日和見になったのか

      20
        • ブルーピーコック
        • 2022年 7月 20日

        不信感についてはハンガリーの側も言い分はあるのでしょう。
        シリア難民を押し付けてきたドイツとフランスの件とか(でも3カ国ともウクライナ人は受け入れる)
        自動車部品の輸出先としてデカい顔してくるドイツとか。
        ハンガリー同様にロシア制裁に反対していたのに、いきなり手のひら返したドイツとか。

        16
    • 折口
    • 2022年 7月 20日

    これまでヨーロッパの反逆児的な振る舞いをしてきたハンガリーですが、別に国民が親ロシア的な訳ではないんですよね(そういう政治団体はある)。
    ハンガリー人が嫌っているのは今対ロシアで団結している西側の国々(特に過去の大戦で団結してハンガリー領土を奪っていった隣国と国際社会)で、そういう国々と連帯することを受け入れられないからこそロシアと「中立的な」関係を維持しようとしていたんです。ところがロシアによる天然ガスパイプライン停止の影響はハンガリーにもあって、というかむしろ依存度が高かったぶんドイツよりハンガリーのほうがエネルギー危機が深刻な見通しになってる。日本でも民主党政権で対米関係の”適切化”を進めていた時に第二の友好国として期待していたはずの中国から突然梯子を外されて党内がパニックになった時期がありましたが、恐らくはそういう状態なのでは。

    ハンガリーは欧州との問題はロシアを、ロシアの問題は中国を頼るという感じで都合よくコウモリ外交を進めようとしていた節がありましたが、過去の禍根を忘れろとは言わずともこれを期に全体主義国家に何かを期待するのは愚かだということに気づいてほしいです。

    16
    • ポンポコ
    • 2022年 7月 20日

    なぜ、ハンガリーが、ウクライナ支持一辺倒でないのか。

    それは、ウクライナでは、バイダン革命以降、ウクライナのハンガリー系住民に対する抑圧(弾圧)がされるようになったからです。

    それに対して、ハンガリーが不満というか、しっくりこない感情を持っているからです。陸続きのヨーロッパでは、民族と国境の問題がありますね。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 軍事的雑学

    4/28更新|西側諸国がウクライナに提供を約束した重装備のリスト
  2. 欧州関連

    オーストリア空軍、お荷物状態だったタイフーンへのアップグレードを検討
  3. 米国関連

    米陸軍の2023年調達コスト、AMPVは1,080万ドル、MPFは1,250万ド…
  4. 軍事的雑学

    サプライズ過ぎた? 仏戦闘機ラファールが民間人を空中に射出した事故の真相
  5. 北米/南米関連

    カナダ海軍は最大12隻の新型潜水艦を調達したい、乗組員はどうするの?
PAGE TOP