ウクライナ戦況

ロシアのShahed生産は1年前なら月300機程度、現在は同数を3日以内で出荷

ロシア軍は24日夜から25日朝にかけて弾道ミサイル、巡航ミサイル、誘導ミサイル、無人機を計367発も発射、今回の攻撃に投入された自爆型無人機は298機(囮を含む)で、Economistは25日「ロシア軍の無人機を使用した攻撃規模はもっと大きくなるだろう」と警告した。

参考:ЗБИТО 45 КРИЛАТИХ РАКЕТ, ЗНЕШКОДЖЕНО 266 ВОРОЖИХ БПЛА
参考:Russia is raining hellfire on Ukraine

参考:MBDA in Deutschland baut neue, hochmoderne Lenkflugkörper-Produktionsstätten

空からのアプローチ量も国土の深さも対等ではない条件的にはウクライナが不利だ

ロシア軍は17日夕方から18日未明にかけて273機のShahedを発射し「ウクライナ侵攻後最大の無人機攻撃」と呼ばれていたが、ロシア軍は24日夜から25日朝にかけて弾道ミサイル、巡航ミサイル、誘導ミサイル、無人機を計367発も発射し、ウクライナ空軍は「発射されたShahed(囮を含む)の数は298機だ」と発表したため「ウクライナ侵攻後最大の無人機攻撃」の数字が更新され、Economistは25日「ロシア軍の無人機を使用した攻撃規模はもっと大きくなるだろう」と警告している。

ウクライナ空軍が報告したShahedの攻撃と迎撃に関するデータ(5月18日までの数字
発射総数撃墜数行方不明・落下有効数
2024.06454機419機35機
2024.07578機515機63機
2024.08868機708機73機87機
2024.091,442機1,187機144機111機
2024.102,013機1,156機680機177機
2024.112,527機1,365機1,020機142機
2024.121,896機1,022機815機59機
2025.012,740機1,657機929機154機
2025.023,992機2,305機1,576機111機
2025.034,147機2,408機1,355機384機
2025.042,745機1,352機969機424機
2025.051,205機538機447機220機

“今から1年前、ウクライナを攻撃する自爆型無人機が一晩で数十機にもなれば「異常なこと」と認識されていたが、現在では数百機の自爆型無人機がウクライナ軍の防空能力を飽和させている。ロシア軍は24日夜から25日朝にかけて298機もの自爆型無人機を発射し、これは無人機を使用した1度の攻撃規模として過去最大だ。さらにロシアはミサイルの使用量も増やしており、現在の停戦交渉が失敗に終われば迎撃ミサイルの使用も制限しなければならなくなり、より多くのミサイルや無人機が防空シールドを通過して前線から遠く離れた町や都市にある産業が破壊されるだろう”

“ロシア軍が使用するKN-23の数は増加傾向で、もはや弾道ミサイルによる攻撃の大部分は北朝鮮製と言っても過言ではない。この脅威に対抗できる現実的な選択肢はパトリオットシステムとPAC-3弾の組み合わせで、これまで150発以上の弾道ミサイル(空中発射方式のキンジャールも含む)を撃ち落としてきたが、このシステムは8セットしかなく主に首都周辺に配備されているため、ゼレンスキー大統領は「もっと多くの都市に安全を提供するためパトリオットシステムをあと10セット、これで使用するPAC-3弾が必要だ」と言う”

出典:U.S. Army photo by Eugen Warkentin

“ウクライナは欧州が供給する資金を使用して「(パトリオットとPAC-3弾を手に入れるためなら)幾らでも支払う用意がある」と訴えているものの、主の変わったホワイトハウスの反応は冷ややかだ。バイデン政権は2024年6月「ウクライナへの迎撃ミサイル供給を優先するため同盟国・友好国向け輸出を一時的に停止する」と発表したが、トランプ政権下でウクライナの立場は「優先顧客」から「限られた生産能力を巡って競合する潜在的顧客の一つ」に転落し、さらにインド太平洋地域を重視しているため保有するパトリオットやPAC-3弾をウクライナに提供することもないだろう”

“そのためウクライナはPAC-3弾のライセンス生産権を求めているが、これも実現が難しいと分かっている。MBDAとRTXは2022年11月「GEM-T弾(PAC-2形態で使用する最新の迎撃弾で弾道ミサイル、巡航ミサイル、航空機との交戦能力が向上したタイプ)のドイツ生産で合意した」と、NATO支援調達庁は2024年4月「加盟国が運用するパトリオットシステムの迎撃弾=GEM-T弾調達を一本化して1,000発分の契約を締結した」と発表したが、工場建設の開始は2024年11月、完成時期は2026年夏、操業開始は2026年末予定なので、まだまだパトリオットシステムで使用する迎撃弾の供給は米国に依存することになる”

出典:MBDA

“さらに使用量が増加しているShahedへの対応も問題で、ロシアのShahed生産能力は月300機程度だったが、現在では同じ数を3日以内に出荷することができ、ウクライナの諜報機関は「1日の生産量を500機まで増やす計画を示唆する文書を持っている」「ロシアは1,000機の自爆型無人機を1度の攻撃に投入してくるかもしれない」と懸念しているが、ウクライナ人アナリストは「ロシアの軍需産業は威勢と虚偽の報告で動いているので、その計画は恐らく無理がある。それでもShahedの数が増加しているのは明らかだ」と言う”

“キーウの片隅にある極秘の工場では技術者がShahedの残骸を徹底的に調べており、彼らにとって最大の心配事項はShahedをどのように制御しているかだ。最新バージョンのShahedは妨害可能なGPSではなくAI制御で、ウクライナのインターネット網やモバイルネットワークを使用しているため電子戦に影響を受けることはない。この技術者らは「ウクライナに同情的なロシア人技術者が残したと思われるメモ」をShahedの残骸から発見したと言い、そのメモによればShahedはTelegramのボットを経由して制御され、飛行データや映像をリアルタイムでロシア人オペレーターに送信する仕組みを採用しているらしい”

出典:Повітряні Сили ЗС України

“最低でも6度の改良によって能力が強化されたShahedはレーダー探知を避けるため低空飛行で侵入し、目標の都市に近づくと高度を2,000m~2,500mに上げて機関砲による迎撃を回避するため、ウクライナ軍はヘリ、F-16、迎撃ドローンで対抗し良好な成果を上げている。ある高官によれば「首都周辺の防空シールドは自爆型無人機の95%を撃退している」「それでも防空シールドをすり抜けた5%が深刻な被害をもたらす」と述べ、Shahedに搭載された燃料空気弾頭や遅延タイプのクラスター爆弾も被害を拡大させている”

“ある専門家は「停戦交渉が失敗することを見越して防空と攻撃を組み合わせた生存戦略を策定しなければならない」「(発射されたミサイルや自爆型無人機を迎撃するだけでなく)ロシア領内の発射施設、生産工場、倉庫を破壊しなければならない」「我々は(停戦が成立するという)幻想を抱くべきではない」と訴えた”

出典:Генеральний штаб ЗСУ

Kh-101やKalibrといった巡航ミサイルの迎撃は比較的容易だが、IskanderやKN-23といった戦術弾道ミサイルは発射から着弾までの時間が極端に短い上、これを迎撃できる手段も限られているため防空シールドを貫通される確率は巡航ミサイルよりも高く、自爆型無人機の迎撃難易度は高くないものの「投入量」を増やすことで「防空シールドをすり抜ける5%」の深刻さを増加させることができるため、防空部隊の負担や被害を軽減するにはもっと積極的に根源を叩く必要があるという意味だ。

ウクライナには戦術弾道ミサイルや巡航ミサイルを保有(開発・生産に関する噂はあるものの未確認)していなため「ロシアのような複合攻撃を仕掛けることが出来ない」という戦術な欠点があり、ウクライナが経験している進化したShahedの脅威は「同じことをやり返せる可能性」があるものの、空からのアプローチ量も国土の深さも対等ではない条件的にはウクライナが不利だ。

出典:Повітряні Сили ЗС України

因みにウクライナ空軍は「Iskanderも改良されて迎撃が難しくなっている」と述べており、4年目に突入した戦争は双方が「相手を上回る努力」を止めないため適応の連続だ。

関連記事:Shahedを使用した攻撃方法の巧妙化、一部の機体は光に反応する
関連記事:米国が異例の措置を発表、ウクライナに1年半分の迎撃ミサイルを供給
関連記事:NATO、欧州のパトリオット運用国向けに1,000発の迎撃弾を一括発注

 

※アイキャッチ画像の出典:ДСНС України

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コメント

  • コメント (13)

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    • 現実主義者
    • 2025年 5月 26日

    つい先日ドニプロペトロウシク州でパトリオットシステムが弾道ミサイルで破壊されたという情報がロシア側から出ていましたね。
    実際のところはどうなのでしょう。

    12
    • 774
    • 2025年 5月 26日

    ロシアは自国のリソースで戦争しているからリソースを有効利用するための進化適応が早いのだろうな

    15
    • 理想はこの翼では届かない
    • 2025年 5月 26日

    「首都周辺の防空シールドは自爆型無人機の95%を撃退している」とウクライナ軍は主張していますが、言質の地上での爆発数の報告を見る限りでは5%どころでは無い数がすり抜けてるように思えます

    17
      • トーリスガーリン
      • 2025年 5月 26日

      首都近郊ですら公称5%となると他の都市での迎撃率は…

      7
    • 他人事では無い
    • 2025年 5月 26日

    サラッとトンデモナイ事書いてないか?
    相手国の通信インフラを利用してドローンを誘導しているとか。
    携帯SIMが流出していると、ヤバいのでは?

    13
      • たむごん
      • 2025年 5月 26日

      ニセ基地局詐欺というのが、最近の日本でもありまして。

      発信元(基地局)を偽装できるわけですから、受信する方はより容易なのかもしれませんね。

      安価なドローンに組み込めるくらいに、安く小型化して量産しているのは脅威であり、インフラ(携帯基地局)を止めるわけにもいかないですから仰る通り厄介ですね…

      7
    • もへもへ
    • 2025年 5月 26日

    欧州も反トランプで団結してこれからは軍需産業と国防のアメリカからの自立を目指してるのだから、装備しているパトリオットをアメリカへの抗議も兼ねて大多数をウクライナに引き渡せばいいのに。

    浮いた穴は欧州製の防空システムで埋めればいいし、西欧なんてパトリオットを並べておいても何も迎撃するものないのだから訓練用のみ残して。

    実際やればトランプ大統領と米国軍需産業への強烈なメッセージとなるし、国内世論もアメリカに楯突いたことで支持率も上がるし、欧州軍需産業も注文舞い込んで大喜び、ウクライナ人も喜ぶし、困るのはロシア人とアメリカ人だけでしょ。

    今こそ欧州は大衆主体の米国製品打ち壊し運動(日米貿易摩擦の時にアメリカ人がやったような)をやって政権支持率回復を目指すべき。

    5
    • たむごん
    • 2025年 5月 26日

    経験曲線が働く上に、新ライン建設などに国家資源が配分されていますから、生産力は増していきますよね…

    発射数増加=有効数増加が、相関しているように見えますが、対空装備(防空ミサイル・対空砲など)はドンドン消耗しているのが現状でしょう。
    落下に判定されているものも、市街地上空ならば被害も生じるでしょう。

    例えば、半年・1年これが続いたとして、防空能力を保てるのかシミュレーション結果が気になりますね(公表できないのでしょうが厳しいものになる気がしています)。

    5
    • 58式素人
    • 2025年 5月 26日

    ロシアの戦争経済?は凄い?ですね。こうした国を止めるのはどうすれば良いのかな。
    物流に目を向けるのが良いのかな。大陸国だから、航空/鉄道/河川水運なのかな。
    航空は西側製部品の不足、鉄道は良質な軸受けの不足で縮小傾向に見えます。
    残る河川水運は、今現在は、まったく健在に見えます。多分、ヴォルガ水系。
    そうすると、ヴォルガ河下流とカスピ海のロシア領海に機雷敷設が必要に思えます。
    白海〜聖ペテルブルグ(バルト海)〜黒海の河川輸送を止められます。多分。
    現在は、敷設手段がないので、ドローンなどの進化を待たないとでしょうか。
    水深は浅いようなので、おそらく500lb爆弾に改造キットを付けた沈底機雷
    になるのでは、と想像します。Mk82爆弾で227kgの重さがあります。
    こうした考えだと、まだまだ、戦役は長引きそう気がします。

    3
    • とある帝國臣民
    • 2025年 5月 26日

    此れソックリ其のまま日本もヤバいのでは。
    支那の生産力はロシアの比ではない。
    今の内から長野か岐阜の地下に工作設備だけでも備蓄しとかないと。

    3
    • kitty
    • 2025年 5月 26日

    北朝鮮はウハウハですな。
    その金で豪遊でもしてくれればいいのに、どうせ益体もないことにしか使わないのは想像に難くない。

    3
    • cosine
    • 2025年 5月 26日

    コロナ時のマスク騒動然り、現在の米騒動然り、自国内で生産と流通を賄え非常時に柔軟性も示せる体制を維持することの重要性が如実な事例ですね。

    そして日本の近隣には、ロシアをも遥かに凌駕する生産能力を有している国があるのが現実なわけです。
    もっとも、ロシアほどの回復再建や間に合わせ運用の能力の高い兵站なのかはわかりませんが。

    一部を破壊されて十全でない時に何処まで機能させられるのか。
    もちろん、それを突きつけられるのは西側兵器も同じです。

    1
    • 赤狐
    • 2025年 5月 26日

    記事全体についてはほぼ異論が無いのですが、気になった所があります。
    それは、
    > ウクライナ人アナリストは「ロシアの軍需産業は威勢と虚偽の報告で動いているので、その計画は恐らく無理がある
    > 。それでもShahedの数が増加しているのは明らかだ」と言う
    ここです。
    ウクライナ侵攻後で最初ガタガタしていたロシアですが、その後のロシアの立て直しぶりや、戦いぶりを見るとほぼ常に西側の期待を裏切って、戦争を継続する能力も、戦意も、軍需生産で底上げされてると言っても経済も、何れも全てが西側の想定を超えています。
    そして、つい先日もキーヴへの大量のドローン攻撃があった。夏期攻勢もどうやら始まったし、ISWの戦況図でも動いてる戦線では進撃速度はなかなかなものだと言うしかありません。
    にも関わらず、相も変わらず「威勢と虚偽の報告で動いているので」とつい言ってしまう。
    これは最早病(やまい)です。
    ウクライナ人がこれだけ負け続けているにも関わらず、ごく自然に口先だけでも相手を侮るのをやめられない。これはゼレンスキーだけではなく、最早国民性なのではないかと、思うのですね。

    > 2025.05.23
    > ウクライナ人ジャーナリストのブトゥソフ氏、軍に入隊したことを報告

    > “私が配属された第13特務旅団はテクノロジー、作戦手順、戦闘アルゴリズムの環境を構築し、人員や装備の数で
    > はなく戦術、計画、部隊の運用方法を柔軟に変更でき管理と組織の質、訓練の質において優位性を生み出している。
    > このような質の高い組織と管理の拡大こそが、この戦争における我々の優位性であり、勝利への唯一の可能性だと信
    > じている。そして全ての人々が全力を尽くさなければならないと信じている。そして信念は行動によってのみ証明さ
    > れる”

    今、ウクライナに必要なのは結局ドローンもさることながら前線を支える兵隊です。そしてゼレンスキーを支える支持者が多いキーヴやリヴィヴにおいてはまだ大規模な動員はやっておりません。つまり「全ての人が全力を尽くしてはいない」し、もっと言うとゼレンスキー支持者は戦争を続ける事には賛成してますが自分達は参加しようとしない。「信念は行動によってのみ証明される」のであれば、もう既に証明されたと思います。
    まともな形で停戦をするためにも前線を支える必要がある。にも関わらず、もっと戦争に前向きな人達が結局参加しようとしない。これでどうにかなるのでしょうか?
    ウクライナはまずこのような自分達に対するごまかしと、ロシアに対する侮りを克服しなければなりません。
    ですが、俺はここまでの戦争を経緯を見る限りそれが出来るとは思っておりません。

    2

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