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ゼレンスキー大統領、後退した方が有利だがセベロドネツク奪還は高くつく

ゼレンスキー大統領は6日、一進一退の攻防が続くセベロドネツクについて「後退した方が有利だが、後にセベロドネツクを奪還するのに支払う犠牲を考えると後退が高くつくことも知っておいてほしい」と述べた。

参考:Зеленский о Северодонецке: Если отойти, будет очень дорого возвращаться
参考:Данилов о Северодонецке: Временная потеря территорий – не трагедия

ロシア軍が先に攻勢限界を迎えてセベロドネツクから手を引く可能性もあるので、本当に撤退が実行に移されるかは謎だ

大統領の会見に参加した記者は「このままセベロドネツクを維持する方が良いのか、より有利なポジションのリシチャンシクに後退する方が良いのか」と質問、これに対してゼレンスキー大統領は「後退した方が有利だが、後にセベロドネツクを奪還するのに支払う犠牲を考えると後退が高くつくことも知っておいてほしい」と答えて注目を集めている。

出典:President Of Ukraine

セベロドネツクを一時的に放棄してリシチャンシクへ今直ぐ後退すれば「被る損害」を抑えられるが、セベロドネツクを奪還する際には多くの犠牲(攻撃側は防衛側の5倍の人員と装備が必要という一般論)を覚悟する必要があるので「セベロドネツクの放棄&リシチャンシクへの後退に関する決断は簡単ではない」という意味だ。

勿論「本格的な反攻がいつ始まるのか」「占領された地域をどこから解放するのか」「それまでセベロドネツクを維持するのに支払う犠牲はどれぐらいなのか」といった要素も加味すれば、撤退と死守のどちらが優れているのかは「戦争計画を主導する関係者=ウクライナ軍関係者」にしか判断できないと思うが、セベロドネツクは他の都市とは意味合いが異なるので政治的な判断が優先されるだろう。

出典:GoogleMap 大まかなセベロドネツク周辺の状況/管理人加工

2014年のウクライナ騒乱の際、一方的に分離・独立を主張して建国されたルガンスク人民共和国にルハーンシク州の正式な州都を奪われたため、ウクライナは「セベロドネツク」をルハーンシク州の臨時州都(州行政の中心地)に定めている。

つまりセベロドネツクを奪われればリシチャンシクが無事でも「ルハーンシク州(の中心都市)を制圧した」とロシアが世界にアピールすることができ、国際的なウクライナ支援の流れに水を差すような事態をゼレンスキー大統領が時期尚早と判断すれば環境が整うまで「セベロドネツクの死守」を軍に命じるかもしれない。

出典:Генеральний штаб ЗСУ ウクライナに提供するM777を輸送機に積み込むカナダ軍兵士

もしウクライナが独力でロシアと戦っているのなら「国民の支持」を失わない限り戦い続けられるが、ウクライナは国際社会が支援する武器や物資に依存する形でロシアと戦っているため「国際世論が戦争継続と早期停戦のどちらに傾いているか?」はゼレンスキー大統領にとって重要な問題だ。

因みにルハーンシク州知事のガイダイ氏は「セベロドネツクからウクライナ軍撤退の可能性」について言及したことはあるが、これまで中央政府や軍の関係者が撤退の可能性に言及したことは一度もない。

出典:President.gov.ua / CC BY 4.0

しかしウクライナ国防安保委員会のオレクシー・ダニロフ氏が英FT紙の取材に「ウクライナ軍再編のためセベロドネツクを含む地域(恐らくルハーンシク州からの)全面撤退もありえる。領土の一時的な喪失は悲劇ではないが国の喪失は悲劇だ。反撃に必要な武器さえ到着すれば失った領土は必ず取り戻す」と言及しており、セベロドネツクの放棄で国際社会に与えるショックを緩和するための発言ではないかと管理人は解釈している。

もしウォーゲームならリシチャンシクへの後退を今直ぐ実行すべきなのかもしれない、しかしセベロドネツクを実際に放棄するためには世論を調整しておく必要があり、ダニロフ氏の海外に向けた発言は特に興味深いと感じるが、ロシア軍が先に攻勢限界を迎えて手を引く可能性もあるので本当に「リシチャンシクへの後退」が実行に移されるかは謎だ。

関係記事:今度はロシア軍が反撃、ウクライナ軍はセベロドネツク郊外に後退

 

アイキャッチ画像の出典:Сухопутні війська ЗС України

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コメント

    • 半蔵
    • 2022年 6月 07日

    単に市街に相手を入れて自国の大切な都市ながらアウトレンジから確実に効果的な定点を砲撃するほうが楽に戦力を削げるだけの話。市民と市街の破壊を無視すれば。

    3
      • WSO
      • 2022年 6月 07日

      自国民がまだ多数存在するセベロドネツク市街にウクライナ軍が無差別砲撃をする前提がすでに現実から乖離しているので、「~だけの話」などと利口ぶってるのがそもそも噴飯

      78
        • 浅見真規
        • 2022年 6月 07日

        ウクライナ軍がセベロドネツク死守してもロシア軍がセベロドネツクを砲撃する。逆にウクライナ軍がリシチャンシクに撤退しても精密砲撃用のエクスカリバー砲弾が十分に供給されれば停止しているロシア軍の多連装ロケットランチャー・自走砲・戦車等の軍用車両や弾薬保管所や補給路を狙い撃ちにして住民が巻き添えを食わないようにできる。問題は十分な量の精密砲撃用のエクスカリバー砲弾が供給されない場合、精密砲撃ができず横方向50m・縦方向100m以上の誤差が出て住民に危害が及ぶので、何らかの方法で砲撃の時間帯を事前に住民に知らせ地下室やシェルターに避難させねばならない。

    • 匿名
    • 2022年 6月 07日

    「効果的な定点を砲撃」と「無差別砲撃」って同じ意味なんですか?

    4
      • や、やめろー
      • 2022年 6月 07日

      効果的な場所というのはロシア軍の装甲車や戦車が駐機している場所や兵士の宿舎などを意味すると考えられます。無差別はあなたの想像にお任せします。

      15
      • 四凶
      • 2022年 6月 07日

       同じではないと思うが誘導弾使うのかも分からないしCEPの関係上、結果的は無差別になる事も含まれると思うので線引難しいのでは。言葉の定義としては曖昧さがあると思う。

       ロシア軍狙ったとして外れたりコラテラル・ダメージ食らったら無差別も同じだろう。ソフトスキン相手に破片散らすのだって効果的だろうが場所によっては無差別になるだろうし。

      7
    • zerotester
    • 2022年 6月 07日

    セベロドネツクをロシアが取ったところで国際世論が傾くことは無いと思えます。それより、ドネツ川の対岸に橋頭保が無いと後から反攻する時に厄介という理由が大きいでしょう。

    7
      • モーニング
      • 2022年 6月 07日

      そうかな?

      イタリアは正式に早期停戦を停戦を主張し始めたし、フランスとドイツも領土面で譲歩を伴う停戦を打診してきた位だからセベロドネツクを失えば、また早期停戦を持ち出す可能性は十分あり得そうだけど?

      逆に傾くことはないと言い切れる理由が知りたい。

      22
      • トブルク
      • 2022年 6月 07日

      前半部分の国際世論はどうでしょうか?
      イタリア、フランス、ドイツは早期和平派という報道があります。
      早期和平とは、ロシアが占領している係争地を事実上ロシア傘下の自治州にするような内容と受け取れるため、ウクライナとしては認め難いでしょう。
      最近、ウクライナ側や強硬派のイギリスの情報機関あたりが今後の反撃や楽観的な戦争の見通しを語ることが多く、なんとなくそう思ってる人も多いと思いますが、これは早期和平派への牽制だと思います。
      ロシアの攻勢が止まっても、ウクライナ側が被占領地を早期に奪回できないまま戦争が膠着状態になるようなら、それを既成事実として、ウクライナに対して早期和平派の支援国が和平を強く迫る可能性は、十分にありえると思います。
      この戦争に対して、ドイツとフランスとイタリアは基本的にヘタレと思って間違いないかと。

      27
      • zerotester
      • 2022年 6月 07日

      早く和平してほしいと思っている国はもちろんありますが、現状の東部と南部を広くロシアに支配されている状態で「ここで手打ちにしろ」なんてどの国も言えないし認められないでしょう。だからイタリアだって兵器を提供しています。セベロドネツクがどうこうよりもいつ反攻できるのか、どこまでやるのかという展望を気にしているでしょう。

      13
        • バーナーキング
        • 2022年 6月 07日

        どうでしょうね。
        そりゃただの外野がもうやめとけ言っても効果は皆無でしょうが、
        それこそ独仏伊がそれなりに支援をした上で、揃って「これ以上は無理」と言い出したら追従する国が出てきて流れが変わる可能性もないではありません。

        だからこそ上で言われてる様にそれを防ぎたい勢が牽制してるんじゃないですかね。

        7
          • hoge
          • 2022年 6月 07日

          早期講話も何も、そもそもロシアが止まらないのでは。

          12
      • 浅見真規
      • 2022年 6月 07日

      たしかにドネツ川の対岸に橋頭保を確保できずロシア軍が全ての橋を破壊して撤退すればウクライナ軍がドネツ川を渡河して反攻するのは、渇水期に流量が大幅に減って水深が浅くならねば不可能に近いでしょうね。ただ、軍事的にドネツ川を渡河できなくともルハンシクやドネツクを含むドネツ川の右岸(西岸)全部を制圧できれば交渉による交換の余地はありますし、交換できなくとも交渉によって住民保護の方法はあると思いますね。

    • ネコ歩き
    • 2022年 6月 07日

    「後退した方が有利だが、後にセベロドネツクを奪還するのに支払う犠牲を考えると後退が高くつくことも知っておいてほしい」
    ゼレンスキーの発言は背景に具体的数値があるという印象です。
    つまりはウクライナ軍参謀本部の見解ということなのかと。とすれば先のセベロドネツク固守方針の発言も、参謀本部の全体作戦計画に沿ったものだったのかもしれません。

    17
    • ミリオタの猫(ロシア軍、今度こそ架空戦記張りの大逆転をやるのか?)
    • 2022年 6月 07日

    最近のセベロドネツク攻防戦の様相を見ると「ウクライナ軍が市街地を奪還するとロシア軍が更なる戦力を注ぎ込んで奪い返す」パターンになっている為、今のウクライナ軍に取ってセベロドネツクはゴキブリホイホイならぬロシア軍ホイホイみたいな役割を果たしている感が有ります。
    なので、ゼレンスキー大統領の発言の裏には「限界一杯まで粘る事により、ロシア軍をセベロドネツクに招き寄せた上で消耗させたい」と言うウクライナ軍の意図が有る様に感じます。
    一方のロシア軍も6月10日までにセベロドネツクを制圧せよとの命令を受けている説が有る為、こちらも政治的な判断が作戦に影響していると思いますから、ゼレンスキー大統領やウクライナ軍上層部もその辺の状況を考えた上でセベロドネツクの攻防戦を指導しているのかなと考えています。

    22
    • general
    • 2022年 6月 07日

    開戦早々に取られたヘルソンへの攻勢で四苦八苦してるしな
    取り返すのはなかなか難しかろう

    7
    •  
    • 2022年 6月 07日

    戦略上は大して価値のない都市を巡って両軍が血みどろの市街戦を繰り広げていると言うね…
    ウクライナからするとルガンスク州の臨時州都なので政治的に引けないし、ロシアからすると取り敢えず東部2州の全制圧と言ってしまった手前絶対に制圧しなければならない地域となる。
    しかもロシア軍は制圧の期日を政治的に決定されている為に頼みの綱の砲兵力を活かせない市街戦に突入していると言う。

    2
      • ミリオタの猫(ロシア軍、今度こそ架空戦記張りの大逆転をやるのか?)
      • 2022年 6月 07日

      いいえ、セベロドネツクは戦略上の価値が有ります。
      何故かと言うとセベロドネツクはドネツ川の東岸側に有る為、ウクライナ軍はここを確保して置かないと将来想定される東部方面への反攻作戦の際にドネツ川渡河をやらないと行けなくなるんです(渡河作戦の難しさは、以前ロシア軍が大失敗をやったケースを見れば明らか)。
      逆を言えば、ロシア軍がここを取れば東部方面へのウクライナ軍の反攻は当面難しくなり、ロシア側は東部2州を制圧したと宣伝する事が出来るので、結果的にセベロドネツクの攻防戦の行方に対する注目度が増しているのが現在の状況です。

      6
    • ぱんぱーす
    • 2022年 6月 07日

    ここが天王山になるかもしれないと目される地点だけにウクライナ・ロシア両軍とも譲れない姿勢が見えるね
    ウクライナは包囲されたまま押し潰されるのは一旦防いだけど、未だに状況は不利なままだなあ

    • りにあ
    • 2022年 6月 09日

    郊外に撤退とのことですが、「郊外」表現が曖昧で、市内の工業地帯・コンビナートにウクライナ軍は兵力を集中させての籠城柵かもしれません。定石である兵糧攻めはアゾフ製鉄所のときのように時間がかかるので、ロシア軍は力攻めする可能性があり、ロシア軍の兵力を損耗させる狙いでしょう。
    籠城する場所はアゾト化学工場でしょうか。アゾフ製鉄所は外部に脱出する地下通路があると思ったのですが。
    また、ロシア軍は占領地区の土地面積拡大をしたがっているように思えます。戦況地図は視覚的に戦果をアピールしやすく、上官・究極的にはプーチン大統領に報告しやすいです。

    • 浅見真規
    • 2022年 6月 10日

    >ゼレンスキー大統領、後退した方が有利だがセベロドネツク奪還は高くつく

    もし仮に、後退後、将来、ウクライナ側が欧米の支援と新兵の訓練終了による兵力大幅増加等で、7月以降に優勢になったと仮定して考えます。

    もし仮に、将来、ロシア軍が敗走してリシチャンシクとセベロドネツクの間のドネツ川の橋を破壊すれば軍事的に渡河は不可能に近いでしょうが、ロシア軍にとっても橋を破壊すれば渡河困難になり反攻できなくなるので破壊しない可能性が高いでしょう。
    仮に、将来、ロシア軍が敗走してリシチャンシクとセベロドネツクの間のドネツ川の橋を破壊したとすればウクライナ軍にとって軍事的にドネツ川渡河は不可能に近いですが、ルハンシクには橋があるはずで、ルハンシク攻略時に陥落させる前に橋を押さえれば良いでしょう。仮に、それすらできない場合は、ドネツ川渡河できずともドネツ川右岸(ドネツ川より西側)全部を占領すればロシアとの交渉で交換可能でしょう。侵攻前にロシア側の傀儡国家のドネツ川右岸占領地にはルハンシクやドネツクのような内戦前の人口が40万人以上の都市があり、逆にドネツ川左岸(ドネツ川より東側)ではセベロドネツクでさえ内戦前の人口が20万人未満で、今や破壊されていても復興すれば経済的価値が高く、ロシア側のドンバス民兵の出身地でもあるので、交渉でウクライナが交換を提案すればロシアが交換に応じる可能性が高いからです。また、交換が成立すれば停戦も成立するでしょう。

    そういうわけでウクライナ軍はセベロドネツクから撤退しても、将来、盛り返せばセベロドネツク奪回可能なのです。

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