フォンデアライエン欧州委員長は「まもなく英国とも安全保障・防衛協定を締結する予定だ」と述べていたが、英国とEUは19日に大規模な貿易・防衛関係の再編で合意し、英防衛産業は欧州再軍備計画=ReArm Europe Planにアクセスできる可能性が開かれた。
参考:Starmer hails ‘new era’ of UK-EU relations as Badenoch says deal ‘taking us backwards’
参考:Security and Defence: EU and UK sign a Security and Defence Partnership
参考:EU, UK agree defense partnership as prelude to tighter cooperation
参考:UK on path to access £150bn EU defence fund
参考:German Navy considers Tomahawk cruise missiles procurement
英企業は域外調達35%制限を回避することができ、欧州諸国は制限を気にすることなくBAEやRolls-Royceからの調達が可能になる
英国は国民投票の結果を受けて2020年1月末にEUから完全離脱したものの、ウクライナで勃発した本格的な戦争、ロシアの軍事的脅威、トランプ政権の不確実性など欧州を取り巻く安全保障環境は急激に悪化し、英国もEU離脱で寸断されていた対欧州関係を修復する必要に迫られ、フォンデアライエン欧州委員長も「まもなく英国とも安全保障・防衛協定を締結する予定だ」と述べていたが、英国とEUは19日に大規模な貿易・防衛関係の再編で合意し、欧州再軍備計画=ReArm Europe Planにアクセスできる可能性が開かれた。
Today we struck a landmark deal with the EU.
A deal that is in the national interest: delivering more jobs, cheaper bills and secure borders. pic.twitter.com/fM5BjJGhhe
— Keir Starmer (@Keir_Starmer) May 19, 2025
英国とEUは今回の合意によってウクライナ支援、防衛産業、兵站、戦略協議、サイバー、ハイブリッド戦争への対抗など広範囲な安全保障問題で協力関係が強化され、欧州再軍備計画に含まれるEU融資=1,500億ユーロにアクセスできる可能性が開かれ、この点で合意できれば英企業は域外調達35%制限を回避することができ、欧州諸国は制限を気にすることなくBAEやRolls-Royceからの調達が可能になる。
スターマー首相は「ブレグジットを巡る政治的争いから抜け出す時がきた」「今回の合意は双方にとって利益がある」と、フォンデアライエン欧州委員長も「英国と合意は歴史的手段だ」と歓迎したが、この種の交渉事は常に犠牲が発生するため、貿易・防衛関係の再編で恩恵を受ける防衛産業、鉄鋼業界、食品業界、農家分野の関係者は「合意を歓迎する」と表明したものの、EU加盟国の漁船が英領海内で操業する権利を12年間延長したため保守党は合意に批判的だ。

出典:pixabay
保守党はEU離脱の際「最も影響を受ける産業」の象徴に漁業(英国のGDPに占める漁業の割合は0.1%程度)を掲げ、これをEUとの交渉材料に利用してきたため、保守党のバデノック党首は「協定の内容に驚いた」「これは漁業に対する裏切りだ」「我々はEU離脱から後退すべきではない」と、ジョンソン元首相も「漁業権に対する譲歩は一方的だ」「2038年まで海での略奪を許すのか」と批判したが、当事者の漁業関係者は「怒り」と「歓迎」に割れている。
漁業権に影響を受ける漁業団体は「合意は悲惨の一言」と怒っているものの、食品輸出に対する検査と規制の緩和に影響を受ける養殖団体は「煩雑な輸出手続きから開放される」と歓迎しており、両者が地域にもたらしている経済効果や雇用の規模も拮抗しているため「漁業権を取るか」「手続きの簡素化で競争力を高めるか」は漁業関係者にとっても複雑な問題なのだろう。

出典:Ministry of Defence UK
因みに英国は15日「射程2,000kmを超える長距離攻撃兵器をドイツと共同開発する」と発表していたが、ピストリウス国防相は「この能力はフランス、ドイツ、ポーランド、イタリア、英国、スウェーデンの6ヶ国で構成されるEuropean Long-range Strike Approach=ELSAの範囲で開発される」と述べており、これは昨年7月にフランス、ドイツ、イタリア、ポーランドが発表した長距離攻撃兵器開発計画のことを指している。
当時、この計画についてReutersは「射程500km以上の地上発射型の巡航ミサイルだ」と、ドイツのFrankfurter Allgemeine Zeitungは「射程1,000kmを優に超える地上配備型の兵器システムで、このプロジェクトには英国も参加する可能性が高い」「米国との合意でTomahawkの恒久的配備が言及されているが、ドイツは独自の解決策を求めていてTomahawk配備は当面のギャップを埋める時間稼ぎだと考えている」「このミサイルはロシアの目標に向けられる」「モスクワ攻撃が可能性な兵器」と報じていた。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Jonathan Sunderman/Released
つまりフランス、ドイツ、イタリア、ポーランドが発表した長距離攻撃兵器開発計画に英国とスウェーデンが参加し、この6ヶ国で射程2,000kmを超える長距離攻撃兵器を開発するという意味かもしれないが、ELSA内で英国とドイツのみが射程2,000kmを超える長距離攻撃兵器を追求するとも解釈できる。
追記:ドイツ海軍の司令官は「水上艦艇へのトマホーク搭載を検討している」と述べた。
関連記事:英国、射程2,000kmを超える長距離攻撃兵器の共同開発を発表
関連記事:第4世代機とウイングマンの組み合わせ、英国とドイツが共同開発を発表
関連記事:ミサイル競争が欧州でも勃発、米独が長距離攻撃能力のドイツ配備で合意
関連記事:欧州4ヶ国 、モスクワに届く地上発射型巡航ミサイルの共同開発で合意
※アイキャッチ画像の出典:European Commission
EUはnatoの領分まで侵して権益拡大してるが、それがソ連に近づいてる事に気づかないのか?それとも青いソ連に成りたいのか?