米国関連

ステルス戦闘機F-22、製造ライン再開・再調達に約644億ドル(約7兆円)必要

もしF-22の製造ラインを再構築し、調達を再開した場合、一体、どれだけの費用が掛かるのか?

再調達に必要な製造ラインの再構築費用だけでも7,580億円

米議会は米空軍に対し、F-22の製造ラインの再構築及び、近代化を施したF-22の調達に掛かる費用の調査を行うよう命じ、米空軍は昨年、その調査結果を議会に報告した。

F-22の生産ラインの復旧、サプライチェーンの再確立、熟練した生産要員の確保及び再訓練、旧式化したF-22の主要システムの再設計などに掛かる費用は、70億ドル(約7,580億円)から120億ドル(約1兆3,000億円)が必要で、近代化されたF-22の製造再開までに、約5年程度の時間が掛かる。

空軍は、近代化されたF-22を197機調達した場合、機体単価は約2億1,600万ドル(約234億円)から約2億6,600万ドル程度(約288億円)と見積もっており、F-22の製造ラインを再構築及び、近代化されたF-22の取得に掛かる総費用は、最大で約644億ドル(約7兆円)が必要なると見積もっている。

出典:Public Domain アラスカのエルメンドルフ空軍基地所属のF-22

近代化されたF-22の取得に約644億ドルも予算をつぎ込めば、空軍が研究を進めている次世代戦闘機「FX」の開発に必要な予算を奪い尽くすことになり、仮に、F-22の輸出型を用意しても、2億ドルを超える高額なF-22を購入出来る国は限られ、その限られた国はすでにF-35を購入しているため、恐らくF-35の購入をキャンセルしてF-22を購入するしかなく、米国の防衛産業にとってプラスにはならない。

では、F-22の製造ラインの再構築及び、F-22の近代化を、複数の国と共同で行う「F-35方式」で行えば、米国が負担するコストを削減しつつ、F-22の販売先まで確保することができるが、現在、米空軍が置かれた状況を鑑みれば、その様な時間的余裕はない。

米空軍は、自分たちだけの要求をストレートに反映させた次世代戦闘機「FX」を、出来るだけ早く完成させる必要があり、そこに「輸出を前提にした設計や配慮」などが入り込む余地はない。

それほど、中国とロシアの技術的な追い上げに、余裕が無くなっているという意味だ。

結局、F-22の製造ラインを再構築し、調達を再開するために約644億ドル(約7兆円)もの費用を投資するくらいなら、次世代戦闘機「FX」開発に、その費用を投資した方がマシという話だ。

但し、米空軍の議会に対する報告に反応した国が1つある。

その国は、オーストラリアだ。

オーストラリアは、F-22の再生産を支持しており、米国、オーストラリア、日本の3ヶ国で、再生産されたF-22を最低でも388機、米国が197機、日本とオーストラリアで191機を購入することがF-22再生産のために役立ち、将来的には、英国やカナダなどファイブアイズの国も再生産されたF-22を導入すれば、再生産に必要な費用を削減できると主張している。

出典:Public Domain

F-35の導入を決定する前、F-22の生産ラインが閉じる前なら、日本もF-22の調達を支持したかもしれないが、次期戦闘機「F-3」の開発を検討している日本にとって、もはや近代化されたF-22を、再生産の費用を負担してまで購入する意味はない。

再生産されるF-22の導入費用は、1機あたり3.2億ドル(約350億円)だ。

もし導入すれば、FMS方式の導入になるため手数料が加算され、パイロットやメカニックのトレーニング費用、シミュレーターの導入、保守パーツの購入など、導入にかかる費用まで計算に入れれば、1機あたりの導入費用は400億円近くになるかもしれない。

日本とオーストラリアで191機のF-22を購入した場合、約706億ドル(7兆6,000億円)もの費用が必要になる。

どうやら、F-22の製造ラインを再構築し、調達を再開するという話は、夢の中だけの話にした方がよさそうだ。

 

※アイキャッチ画像の出典:US Air Force / Airman 1st Class Isaiah Soliz

米開発中の新型対空ミサイル「AIM-260」、中露を圧倒する射程300km台実現?前のページ

運用可能な戦闘機がたった119機? 最も長い歴史を持つ英国空軍の没落次のページ

関連記事

  1. 米国関連

    国防総省が報告書の機密を解除、撤退8ヶ月前にアフガニスタン空軍崩壊を警告

    国防総省はアフガニスタン軍崩壊を警告していた報告書の機密指定を今月18…

  2. 米国関連

    DF-17開発に携わった中国人技術者の米国亡命、中国の実力を推し量るチャンス

    亡命した中国人技術者が米国の極超音速兵器開発に大きなブレークスルーをも…

  3. 米国関連

    米海軍は資金不足、中国海軍とのギャップが287隻対395隻に拡大する可能性

    米海軍は予算が不足する中で即応性維持を優先、2025年度予算案の中でF…

  4. 米国関連

    米空軍がステルス無人航空機「RQ-180」と推定されるイメージを初めて公開

    米空軍は今月9日、ステルス無人航空機「RQ-180」と推定される機体イ…

  5. 米国関連

    あと20年は戦える! 米空軍、第5世代レーダー「SABR」に換装したF-16完成

    米空軍は9日、本土防衛のためメリーランド州兵空軍が装備するF-16C/…

  6. 米国関連

    バイデン政権高官、パレスチナ人の死亡者数は発表より多い可能性が高い

    ガザ保健省が発表する死亡者数(9日時点で1万800人以上)についてイス…

コメント

    • 匿名
    • 2019年 7月 03日

    前の記事もそうだけど、もっさりしたf22がカッコよく見えるアイキャッチですね。シルバーグレイとゴールドのコントラストでシャープに見える。

    • 匿名
    • 2019年 7月 04日

    しかしアメリカもここ20年ぐらいあらゆる兵器開発でやらかしてるな
    小銃や戦車、戦闘ヘリに沿岸警備艇から駆逐艦に哨戒機、果ては空母まで…
    F-22あたりが炎上せずに作れた最後の兵器なんでは…
    試作機で未来的なのは出てきて気がつきゃポシャってるんだけど大丈夫かいな?

    • 匿名
    • 2019年 9月 30日

    F-22を最初から日本に売ればよかったのにね。
    もうF-3開発は決定しているので今更F-22は買えない。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 軍事的雑学

    サプライズ過ぎた? 仏戦闘機ラファールが民間人を空中に射出した事故の真相
  2. 米国関連

    米空軍の2023年調達コスト、F-35Aは1.06億ドル、F-15EXは1.01…
  3. 欧州関連

    オーストリア空軍、お荷物状態だったタイフーンへのアップグレードを検討
  4. インド太平洋関連

    米英豪が豪州の原潜取得に関する合意を発表、米戦闘システムを採用するAUKUS級を…
  5. 欧州関連

    BAYKAR、TB2に搭載可能なジェットエンジン駆動の徘徊型弾薬を発表
PAGE TOP