米海軍は予算が不足する中で即応性維持を優先、2025年度予算案の中でF/A-XXへの投資削減、バージニア級原潜の調達数を削減、フォード級空母や大型無人水上艦の調達延期、タイコンデロガ級巡洋艦など計10隻の退役を要求した。
参考:Navy’s new budget request would retire 10 ships early, buy only 6
参考:Navy delays carrier procurement, says industrial base investments, maintenance will stem damage
参考:Navy postpones several modernization programs to pay for operations
参考:US Navy nixed a Virginia sub amid spending frenzy to support suppliers
参考:What is most significant in the Pentagon’s China military report?
実質的なマイナス予算の影響で米海軍と中国海軍のギャップはますます広がって行くことになる
昨年成立した財政責任法の制限を受け、2025年度予算案に含まれる国防関連の予算(国防総省向けの資金と核兵器の開発や維持に関するエネルギー省向けの資金など)は1%増の8,952億ドルに設定され、インフレの影響をカバーできないマイナス予算を受け入れるため、国防総省は前年度の計画から100億ドル以上の削減を余儀なくされている。

出典:Boeing F/A-XX
米海軍も財政責任法の影響を受け、F/A-XXへの投資を15億ドルから5億ドルに、毎年2隻づつ発注してきたバージニア級原潜を1隻に削減、フォード級空母5番艦の調達を2028年から2030年に、大型無人水上艦の調達を2025年度から2027年度に延期し、資金供給が維持されたプログラムも軒並み予算が削減されおり、海軍が提出した予算案は主要な請負企業やサプライヤーに衝撃をもたらしている格好だ。
海軍上層部はF/A-XXへの投資削減について「即応性と投資のトレードオフで財政責任法に原因(実質的な予算削減)がある」と説明しているが、ボーイングは昨年2月「海軍がF/A-18E/Fの新規調達を望んでいない」という現実を受け入れて「2025年に生産ラインを閉鎖する」と発表済みで、Breaking Defenseは「F/A-XXの開発が遅延し、F/A-18E/Fの調達が0になるという2025年度の組み合わせは確実に議会の反発を招くだろう」と報じている。

出典:Boeing
さらに海軍はバージニア級原潜×1隻、アーレイ・バーク級駆逐艦×2隻、コンステレーション級フリゲート×1隻、サン・アントニオ級ドック型輸送揚陸艦×1隻、中型揚陸艦×1隻の発注を予定しているものの、タイコンデロガ級巡洋艦×2隻、ホイッドビー・アイランド級ドック型揚陸艦×1隻、スピアヘッド級遠征高速輸送艦×4隻、遠征移送ドック×1隻、インディペンデンス級沿海域戦闘艦×2隻の退役も要求しているため、海軍の艦隊サイズは293隻から287隻に減少してしまう。
国防総省は2023年10月に発表した年次報告書の中で「中国海軍の艦隊サイズは370隻以上(2022年の年次報告書から30隻も増加)で2025年までに395隻、2030年までに435隻に増加する」と言及しており、もはや米海軍が有人艦で中国海軍のサイズに対抗するのは絶望的だ。

出典:Public Domain
このギャップを埋めるのに役立つと期待されているのがゴースト・フリート(戦力分散化の概念)の下で開発が進められている大型無人水上艦だ。有人艦の追加弾薬庫として機能するLUSV(1,000トン~2,000トン/VLS16セル~32セル)を25年度×1隻、26年度×2隻、27年度×3隻、28年度×3隻調達する予定だったのだが、調達開始が2025年度から2027年度に延期されてしまったため、米海軍と中国海軍のギャップはますます広がるかもしれない。
更に問題のはフォード級空母5番艦の調達を2028年から2030年に延期した点だろう。

出典: Official U.S. Navy/Public Domain
産業界は空母建造能力やサプライチェーンを維持するため「4年毎の発注するの望ましい」と訴えているが、既にフォード級の発注スケジュールは1年遅れで、これを2年も先送りするということは産業界に深刻な問題を引き起こす可能性が高く、海軍も「産業基盤への投資や継続的な保守作業を通じてダメージを最小限に食い止める」と説明している。
因みに空母や強襲揚陸艦といった大型艦建造の場合、正式発注の数年前から建造準備(資材調達)に資金供給が開始されるため、2025年度予算案で5番艦の調達延期を要求したのは「本来なら2025年度予算に建造準備の資金を計上する必要があった」という意味だ。
※米軍の予算を毎年取り上げているので読者の方はご存知だと思うが、各軍が予算案の中で要求している内容は議会の承認が必要なため「まだ何も決定されいない」と認識してほしい。
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※アイキャッチ画像の出典:Petty Officer 3rd Class August Clawson
艦艇数の差を埋めるために単艦に高機能を盛り込み出さないといいけど、、、
このご時世でまだ無人大型艦とかいってるのに危うさを感じますね。
航洋性を考えると、ある程度大きくないと使えない。
黒海は、内湾だからね。
中国は、民間船舶の建造能力が世界一、鉄鋼生産能力が世界一ですからね。
アメリカ海軍は、単純なコスト競争で、中国海軍に勝つことは不可能になっています。
アメリカ海軍が空母や原潜の調達を先延ばししても、ハンティントンインガルスが独占・寡占していますから、調達価格・整備補修費に上乗せされるだけで何も変わらないでしょう。
アメリカ政府は、昭和後半~平成にかけて防衛産業の買収・部門統合を進めて恩恵を受けてきましたが、独占・寡占が進みすぎて競争が働きにくくなり対価を払う事にもなっていますね。
そもそも軍需だけで工業生産基盤を維持するのはかなり無理があるけど
アメリカの場合は集約するのはいいとしても寡占独占の企業を作るだけでヨーロッパのトムソンやBAEのように政府が一定程度出資したり黄金株を発行させたりしなかったからね
そりゃそんな政府が経営を監督できない完全民営の巨大軍需企業なんか作ったら企業の言い値の青天井になるのは当たり前
まさに重要な2点、仰る通りです。
アメリカ政府、政治的な要請だったのかもしれませんが、特に国防省(監督官庁)が悪いと思っています。
アメリカ大企業が、M&A・リストラで独占・寡占化を目指すのは、いたって普通の話ですから弊害も有名な話なんですよね(スタンダードオイルなどの歴史もありますし)。
べつに国防総省は好きでもないけど国防総省が悪かったと言い切るのはちょっと可哀想な気はするけどね
米政府の経済ブレインは国家による経済への介入が大嫌いな新古典派経済学者でアメリカの官僚はそれに従っただけとも言えるし
結局、社会学者のエマニュエル・トッドが10年以上前(というか25年以上前から)指摘し続けてるように
市場原理主義の新古典派経済学が70年代のスタグフレーション以降ケインズ経済学に完全に取って代わって
政治家や官僚に理論的裏付けを提供するはずの経済学の分野が非現実的な市場万能論で席巻されてしまったのが今の西側諸国で起きてる問題の根源だと思います
たむごんさんも興味があったらちょっと調べてみたら面白いかもしれないけど
本当に経済学って社会のあらゆる領域に影響を与えてるのに合理的経済人とか完全情報とか絶対利得だけを重視する貿易とかとてつもない非現実的仮定で成り立ってますからね
僕は史系の学徒ですけどそれでいて理論系の学者は常に自信満々なんだから質が悪いw
まあ、最近はマリアナ・マッツカートのように史系の学者で国家主導の産業振興の重要性を指摘してる人の本が結構売れたり少しづつ状況が変わりつつありますけどそれも10年くらい前では考えられなかったし
経済学は、現実に合ってない前提が、仰る通り多いですよね。
二国間貿易とか、今さら講義を受けたところで、時代に合ってないなあと思った記憶があります。
経済学は、数学による証明を求められてきましたから、どうしても仮定を無理矢理おかざるをえなかったのかなあと解釈していました。
人間は、合理的に選択するという事を仮定としてよく使われますが、実社会は必ずしもそうではないですよね…。
>人間は、合理的に選択するという事を仮定としてよく使われますが、実社会は必ずしもそうではないですよね…。
そうなってるのは古典派経済学・新古典派経済学が物理学に憧れて物理学みたいな条件さえ同じなら必ず同じ結果になるような普遍理論を作ろうとしたからそう想定しないと成り立たなかったってだけですけどね
同じ物事に対して育った環境や文化の違いで反応が違ったら普遍理論になんかなりようがないですから
まあ、実際のところはその主体(個人あるいは個人の集合としての企業または国家)が追い求めてその為だけに生きてるはずの利益という概念自体が何を利益とみなすかという文化に影響を受けてるんですけど
その点で言えばケインズ経済学も進化経済学とか他の非主流学派ほど新古典派から遠くないし新古典派と理論的に共有するものも多いですが少なくとも国の財政支出を認める理論ではあったんで
そろそろ世論も対中強硬論の非現実性を理解してもらいたいものだ
民主主義のための戦いでロシア牽制は対中の役に立つとか馬鹿げたこと言ってる場合じゃない
別に強硬論とか関係ないですよ。
何よりも戦争を起こさないことが重要なので、戦争は割に合わないと思わせることが重要です。
つまり軍事的な圧倒的優位を保てなくても、侵攻を躊躇ってくれれば抑止力としては十分ですよ。
世界と日本のためにも、
アメリカはウクライナ戦争を早く停戦させ、対中国共産党に備える装備をちゃんと拡充して欲しい。
日本政府も何を考えているのか。
今のウクライナもロシアもソ連共産党の支配下ではないのに。
いえいえ。今の日本はウクライナ戦争で漁夫の利を得てますよ。燃料高騰は痛いですが。
戦後に奇跡の復興を遂げた日本が、長期停滞に追い散った原因の一つが冷戦の終結でした。
その冷戦構造が戻りつつあります。
世界中の投資家が金の匂いを嗅ぎつけてて、投資資金が集まってきています。
日本はこの状況をうまく活用すべきでしょう。
仰る視点、重要と思います。
日本の強みは、『政治の安定・治安の良さ・西側的価値観』などですから、世界が荒れた方が評価される(荒れすぎても問題ですが…)というのは皮肉な話だと思う時があります。
同時に対中国の面で、台湾海峡・東シナ海が荒れ狂い過ぎると、投資資金(特に海外勢)は逃げるリスクがありますから、国防への投資増加が不可欠だと感じています。
米国も、「やっべー、このままだと米軍負けるわ!」という認識を、米国人の血ではなく、ウクライナ人の血の代償で学べたのは大きいですね。
2014年の時点でも、米軍の一部のもののわかった軍人さんは「アメリカが対テロ戦争で遊んでいる間に、電子戦含めた正面戦力が弱体化した」と警鐘を鳴らしていましたが、まったく本気にされていなかった。
情報ありがとうございます、勉強になります。
Youtubeで元自衛隊将校、山下裕貴元陸将が、米陸軍の電子戦装備は遅れており共同演習で教える立場だった。
陸上自衛隊は、旧ソ連を仮想敵国としてきたため電子戦部隊を保有しており、自衛隊の方が米軍よりも進んでいるという趣旨の発言をされています。
戦争は、当事国にならない方が経済面だけでなく、痛手なしに学べるメリットが仰る通り大きいですね。
(2023/11/22 山下裕貴×佐々木孝博】ロシア軍が優位に立つ電子戦…電波妨害の実態…ウクライナ前線部隊を独自取材…最新装備は【深層NEWS】Youtube 21:10~)
こりゃあ、沖縄が琉球自治区になる日は近いな
中国共産党政権(中共)は台湾総統選挙で独立派が勝利し続けるのを許さないでしょう
既に台湾軍事制圧を決定してる可能性があり、毎年核弾頭を100発も量産してるのは
アメリカの台湾軍事介入を核抑止力で阻止するためです、現にロシアは核抑止力を行使し
ウクライナへの米NATO軍の派兵阻止に成功している
琉球独立工作は中国共産党だけでなく台湾の親中派も沖縄本土復帰以前から画策していた
中共軍が台湾親中派と電撃作戦で台湾制圧した後、沖縄南西諸島EEZを狙うのは必然です
日本が憲法9条改正と核共有を含む核抑止力を確立しなければ沖縄南西諸島は奪われます
リンク
中国は大規模な軍拡をしている。アメリカには7つの軍用造船所があり、中国には19の大型軍用造船所がある。長江にある江南島造船所だけでも、アメリカの7つの造船所すべての合計よりも大きな能力がある。
艦もそうですけど、F/A-XXすら開発費削減って制空権無視した100年前の海軍に戻れと言うのだろうか議会は
核兵器は金かかるしアメリカが許可してくれなそう
AUKUS枠組みにおいて行われる米国からオーストラリアへのバージニア級3隻の供与には「米海軍向けの潜水艦が足りない時、米議会はオーストラリアへのバージニア級供与を差し止めできる」という条項があるらしいんです。バージニア級の供給は現に全然足りてなくて、全力で作っても事実上の純減ですから発注するのが2隻でも1隻でも納品数は一緒かもしれませんが、果たしてこのままでAUKUSは大丈夫なのか(日本の視点で優先順位を考えるなら豪州より米海軍のほうを先に充足してほしいですが)。
かと言って、イギリスに原潜作る余裕があるのか、というところですね。
オーストラリアがゴネずに初めから日本の通常型を数隻用意していれば、つなぎとして良かったのでは、と思います。
米海軍もそうですが、装備体系に穴が開くのが一番ヤバイのでは。
これ、数的には米海軍を凌駕しましたが、艦艇の維持管理コストどうなってるんでしょうね?
今後膨大な艦艇のメンテナンスコストがかかりますし、演習コストもかさみます。
今の中国経済のやらかしを見てるとそれに耐えられる費用を維持出来そうにないように見えるんで、
直近数年で台湾戦を開始しなければ、錆だらけの艦艇がそこら辺で係留されてる事態になるように見えますね
ただ、少し前の記事で米軍側が実施した模擬演習では今米中が衝突したら米軍が辛うじて勝てるとなっていました。
日本が開戦に踏み切ったのはワシントン条約が失効して建艦競争が始まったのであのタイミングが一番日米の戦力差が小さかった(机上演習では既に負けてたにも関わらず)ので開戦に踏み切った背景にあるのではという分析がありました。
そんな事で開戦に踏み切って先人が積み上げた日本の実績を全て失わせる東條英機みたいな信じられない無能は世界にもなかなかいないので
習近平は金が尽きた場合一旦艦艇が錆だらけのままになる方を選ぶ(そうなっても自分の政権が揺るがないように国内治安体制に予算を物故むと思います)はずですが、そうなったらそうなったで人民解放軍が衰退する面白ニュースが数年後から沢山出てきそうですね。
西側とロシアの物価が違うように、中国の物価も西側より安く、物価を考慮した購買力平価(PPP)のGDPは中国は米国の1.3倍もあり(ちなみにPPPだとロシアのGDPはドイツに次ぐ世界6位)、また軍事費の対GDP比率は1.6%と米国の半分程度に過ぎません。単純に考えるとまだ2倍くらい引き上げても問題ないということですね。
別の記事のコメント欄でも書いた気がしますが、不動産バブルが破綻して国家財政が破綻し軍備を維持できなくなるのであれば、日本や米国はそうなっていてもおかしくないですが、そうはなっていません。日本はバブル崩壊後の経済のハンドリングに大失敗し失われた30年となりましたが、それでも自衛隊は拡張しています。むしろ積極的に軍拡をすることで総需要を回復し経済を立て直す可能性が高いです。中国の対外債務残高はG7のどの国よりも少なく、経常収支は黒字であり、中央政府の債務は対GDP比77%、国として破綻するような状況には程遠いです(ちなみにドイツ以外のG7は100%を超えています)。中国は「大きな政府」のイメージが強いですが、実は政府の歳入・歳出の対GDP比もG7のどの国よりも小さい「小さな政府」であり、増税や国債発行の余地がまだまだあります。失業率が増大しても軍人を含む公務員の大幅増員で吸収出来てしまいます。
せいぜい地方政府が破綻したり年金が無くなったり投資した国民が泣きを見る程度でしょう。それで国民が暴動を起こしても鎮圧すればよいのです。
そもそも年金に関しては少子高齢化で各省政府ごとに何年で枯渇するか公開されており、若い国民は今の老人を支えるために保険料は払わねばならないが、自分の老後は自助努力で備えろと政府が言っています。日本以上に若者に厳しい国です。
太平洋戦争時もそうだった
そのギャップを知恵と創意工夫で巻き返した