ロシア軍元大佐のイゴール・ガーキン氏は「まもなく始まる攻勢は数ヶ月間に及ぶ動員や集積した物資を極めて迅速に消耗するため、どのような成功を収めたとしてもウクライナ軍の完全敗北には繋がらない」と指摘している。
戦線の動きは本質的に新しいことは何もない
ガーキン氏は現在の戦況について「本質的に新しいことは何もない」と語り、クピャンスク方面とリマン・クレミンナ方面でロシア軍は小規模な戦術的前進を見せたが再び戦線は安定し「フィールドポジションを巡る中隊レベルの戦闘が続いている」と指摘、成功を収めているバフムートについては「敵が予備戦力を投入したため前進速度が鈍っている。ロシア国防省は特別軍事作戦を開始した輝かしい記念日までに何らかの結果を出す必要があり、ウクライナ人も同じ理由でロシア人に結果を与えたくないと望んでいる」と述べている。
つまりロシア人は2月24日までにバフムートを占領もしくは包囲し「輝かしい記念日」を祝いたいと考えているが、ウクライナ人はこれを阻止して「輝かしい記念日」を台無しにしたいと考えているという意味だ。
第155海軍歩兵旅団が壊滅的な被害を被ったヴーレダー攻略については「指揮をとるムラドフ将軍は平時の優れた窃盗を賞賛され、戦争中に部隊を連続して壊滅に追いやった手腕を賞賛されている。彼はほぼ一方的にやられて敵の損失が少ない肉弾戦が事態を打開していると期待しているが、せいぜい勲章か昇進ぐらいしか手に入らないだろう。この地域は前進もなく確保した陣地を保持できても撤退するのは不可能で非常に厳しい状況だ」と批判し、他の戦線は砲兵部隊の小競り合い程度で概ね変化がないらしい。
米国やフランスなどがロシアとベラルーシに滞在する自国民に対して「今直ぐ出国しろ」と警告を発した件について「様々な推測が可能だが、ベラルーシ領からの差し迫った攻撃に関する情報を持っているのか、別のPRキャンペーンなのか情報を持っていないので判断できない」と述べている。
我が軍にそのような結果を生み出せるかは間もなく判明する
ガーキン氏は今後2週間以内に開始されるかもしれないロシア軍の総攻撃について「ベラルーシ領からのウクライナ北部・西部への侵攻」「ロシア領からハルキウ州への侵攻」「ザポリージャ州への侵攻」を挙げ、この3つの可能性について簡単な予測を披露した。
ベラルーシ領からのウクライナ北部・西部への侵攻
常識的に考えてベラルーシ領からキーウやチェルニヒウ、ウクライナ西部のヴォルィーニ州に侵攻しても成功が見込めず、管理する戦線を1,000km増やすだけだ。なぜなら侵攻初期と異なり奇襲が不可能で、この全ての方向に敵は訓練された部隊を配置し、ロシア軍が攻めて来れば河川にかかる橋を破壊、戦車が通行可能な道は地雷や障害物で封鎖されるだろう。荒れた荒野、森林地帯、湿地帯を突破して攻撃を成功させるためには現在の戦力では少なすぎる。
最も控えめな計算でもウクライナ北部・西部(ポーランド国境からロシア国境まで)に確固たる戦線を築くには15万人~20万人の兵士が必要で、このような部隊を追加動員なしに編成するのは不可能だが、このアイデアを実行に移せばウクライナ軍も相応の負担を強いるため反撃用の予備戦力や物資を消耗させるか、実行する反撃が著しく弱わまるかもしれない。
但し、戦力や物資を消耗するのはロシア軍も同じなので、本格的な攻撃ではなく陽動目的(限定な戦線でウクライナ軍の消耗を目的にした作戦)でなければ新たな戦線を開く意味がない。
ロシア領からハルキウ州への侵攻
ベラルーシ領から新たな戦線を構築するより遥かに可能性が高く賢明な選択だ。再びハルキウ州内に足場を築ければロシア領ベルゴロド州に対する攻撃を抑制することができ、ウクライナにとって事実上の第2首都ともいえるハルキウを占領することは戦略的にも意味があり、この都市や周辺地域の戦いは戦争の流れを変える可能性を秘めているかもしれない。
どちらにしてもハルキウ州を攻撃すれば作戦の成否に関わらず大きな損失をもたらすので、消耗された戦力の補充は新たな動員なしには成立しないと固く信じている。
ザポリージャ州への侵攻
この地域に対する攻撃は最も重要で、仮に上記の攻撃を仕掛けても必ず同時に実行する必要があり、ザポリージャ州は今後の攻勢の主になる可能性を秘めている。ザポリージャへの道を開くにはオレホボとフリアイポレを攻略しなければならず、これを無視してドニエストル沿いにザポリージャへ進めば敵に側面や背後を突かけるだけだ。
ロシア軍にとってのメリットは地形が比較的平坦なので大きな拠点に戦力を集中させないと守りにくいという点だが、デメリットはザポリージャ州が約1年間も平穏だったためウクライナ軍が拠点を要塞化してしまったことで、この戦線を素早く突破するには練度の高い戦力が必要になり、ここでも作戦の成否に関わらず大きな損失を被るだろう。
しかし作戦が成功して突破口から機械化部隊が侵入できればウクライナ軍の拠点や陣地を包囲・殲滅することでき、敵はドネツク州の後方を心配しなければならなくなるが、我が軍にそのような結果を生み出せるかは間もなく判明(攻勢がキャンセルされれば永遠に答えは分からない)する。
クレムリンは全てを成り行きと偶然に任せているように感じる
ガーキン氏は現在のロシア軍について「大規模な戦略的攻撃をウクライナ軍相手に成功させるほどの違いを持っておらず、上記に挙げた3つの内1つだけに攻撃部隊を編成して残りは陽動をして使うの理論的には可能だが、ドネツク方面での撹乱と時間稼ぎ目的の攻撃は当然継続されるだろう。何れにしても今回の攻勢は数ヶ月間に及ぶ動員や集積した物資を極めて迅速に消耗するため、どのような成功を収めたとしてもウクライナ軍の完全敗北には繋がらない」と指摘しているのが興味深い。
要するに30万人以上と見積もられている戦力では攻勢限界が知れているので、ウクライナに軍事的敗北を認めさせるレベルに届かない(仮に作戦が成功してもハルキウ州かザポリージャ州を切り取るの精一杯)とガーキン氏は見ており、攻勢の成否に関わらず「戦線維持に必要な人的資源や産業界の総動員をクレムリンが1日でも早く決断しなければならない」と指摘し、総動員がもたらす政治的・経済的な結果に怯えて決断を先延ばしにすればするほど「ウクライナに軍事的敗北を認めさせるチャンスが失われていく」と述べている。
因みにガーキン氏からクレムリンは「攻勢か反撃で新たな大敗北が生じるまで何も動こうとしておらず、全てを成り行きと偶然に任せているように感じる」とも書いている。
つまり政治的・経済的な影響を考慮してクレムリンは「動員の範囲を最小限にしたい」と考え、この願望が「何れウクライナが根負けして和平交渉に応じてくるか、西側諸国が戦争に疲れてウクライナ支援を打ち切るだろう」という受動的な戦略に繋がり、ウクライナに戦争集結を強制する能動的な戦略(ウクライナ全土やキーウを占領するプランがない)を用意する意思に欠けているという意味で、もしウクライナが火の玉のような決意を維持して西側諸国の支援が切れないとクレムリンは戦争の出口を見失うだろう。
追記:なぜ祖国の勝利を信じず、それを疑い、公の場で発言するのか?そのような行為が人々の勝利への信頼を損ない敵を助けることになるのだという批判にガーキン氏には「クレムリンと軍が勝利に不可欠な軍事経済と動員に対して責任ある行動を取れば祖国の勝利を信じるだろう。現在のクレムリンは戦争遂行に必要な義務を放棄し、戦争中であることすら認めず、大敗を喫した将軍たちも仕方がなかったと装うことで保身を図っているのに『祖国の勝利』を保証するのは滑稽だ」と述べている。
関連記事:特別軍事作戦に参加していたガーキン氏、ロシア軍は惰性で戦っているだけ
※アイキャッチ画像の出典:Минобороны России
・士気の低い即席軍隊による大量突撃
・偵察能力の低さによる機構部隊の壊滅
・夥しい犠牲に比して乏しい戦果
このブログで数日間ハルマゲドンのごとく喧伝されたロシアの「大攻勢」ですが、蓋を開けてみると管理人の期待をはるかに下回るパフォーマンスで展開されています。戦場には新たな戦術や改革はまるでなく、ソ連どころかロシア帝国レベルの戦術に逆戻り。ロシア軍はこの1年間軍で発生した問題を改善することを諦めた格好です。油断は禁物とはいえ、ロシア軍の活躍を期待してる一部読者もがっかりしていることでしょう。
まだ戦力が残ってる可能性はあるものの、攻勢の第一陣に投入された欠陥だらけの戦力は、この記事にもある通りウクライナを降伏させることが困難であることを示しています。仮にバフムト含むドネツク州を占領しても終戦にはつながりません。首都南京や港湾都市上海を大日本帝国に奪われた中華民国、アメリカに大量の国土を占領されたベトナムやアフガニスタンが良い例でしょう。
せめてハルキウ、オデーサ、キーウのうちいずれかを陥落するぐらいの勢いが必要なものの、機動力のない歩兵の正面突撃だけでは難しいと言わざるを得ません。ベトナムやアフガニスタンで苦戦を強いられたアメリカの100倍以上の困難に見舞われています。
とまあ、大体この記事と同じ意見なんですが、管理人はここ最近の流れに不服なんですか?昨日は無難な記事だけ更新し、今日1発目の記事はオデーサでのウクライナの強引な動員。まぁ予想を外したのは気まずいですけね。国家総出で緩慢な自殺を敢行してるロシアに期待できることは少ないと思いますよ。もはやロシアが大国の覇権争いに加わることも無くなるでしょう。アメリカに対抗どころかアンチテーゼを突きつける力もなかったのです。
ここの論調が嫌なら余所に行けばいいのでは?
twitterの方が合ってますよ。
ウクライナが勝ってるとこだけ見たいならYouTubeのゆっくり軍事とか上念とか見て気持ち良くなってればいいのにな。
こんなのTwitterでも某掲示板で相手にされないぞ。
ちなみに今のところロシアの攻勢は始まりつつあるけど、まだ全力を投入した全面攻勢には至ってないというのが、防衛研究所の高橋先生や、東大の小泉先生の見方でした。
現状はウクライナの前線を威力偵察(で旅団溶けてるが・・・)してて、ウクライナ側の戦線の綻びを探してる段階ではないかとも言ってた。
またアンタか。文句言いながらいつまで粘着してんだよ。他所行きなさい。
ここの管理人さんは中立を心がけてるとはいえウクライナ寄りの人だろう?
だいたいウクライナに迫る危機や問題の記事を見て「ここの管理人はロシア寄り!」って認知がおかしくないですかね…
私はロシアが勝ったほうが日本国の国益になると考えているものですが、
ここの管理人さんはウクライナ寄りの記事が多いと思いますよ。
しかし、客観的な視点から正確な情報をいつもあげてくれて感謝しています。
ご自分の考えに沿わない記事をあげることが気に入らないなら、スルーすれば
よいのでは。それができない、あるいはやめろというのは単なる言論弾圧です。
民主主義・自由主義国家に生きる人間としては民度が低いと思います。
この大佐は戦局を上手く見ていると思いますね。追記関してもクレムリンを堂々と批判している。その内消えてるかもしれませんがね…それにしてもザポリージャ方面がこの先主戦場になるんでしょうか。ウクライナも追加動員を始めているので春の大規模攻勢はどうなるのやら
戦局を観る確かな眼と、体制批判を恐れない態度。
しかしそれはクレムリンの戦争へのコミットが手ぬるいという超タカ派としての立場に基づくもの。
有能にして硬骨漢ではありますが、残念ながら世界にとっては有害な人物ですね。彼が露軍の現役でなくてよかったです。
…と、ここまで書いて何だか石原閣下みたいな御仁だなぁと思いました。なんとなくですが。
今まであんま気にしてなかったけど今無事なのが不思議だわ
愛国心からの助言というオブラートに包む絶妙なバランス感覚か何かなのか
ロシアにもこういうものの見方ができる人が残っていたのですね
てっきり粛清され尽くしたかと思いましたよ
願わくば内ゲバにて粛清されて欲しい人だけど、もし万が一現実主義的で終戦協定に臨める唯一の人物だった場合は生きてる方が良いのか…?
ウクライナにとって脅威になるのかイマイチわからない。
こう言う耳の痛い話しをする人をプーチン嫌いでしょ。
耳障りの良い事だけ言うイエスマンしか中枢では生き残れないから
いてもいなくても一緒かもね。
ロシアがモスクワまで押し込まれるくらいしないと変われないんじゃないかな ?
ワグネルの方は基幹の部隊が西側の基準に近く柔軟で、囚人などを囮にして成果を上げることが出来たかもしれませんが
ロシア軍の方はあいかわらずの旧態依然とした官僚的集団で同じ成果を上げられないかもしれないですね。
というかウクライナに負けて欲しくない側としてはそのあたりに希望を見出すしかないというのが現状です。
ロシア軍は練度の高い機甲戦力を喪失しており大規模な突破を行う能力に欠ける
歩兵と砲兵主体の攻勢故に初期の攻撃に成功しても次が続かない状況です
イゴールガーキン氏の言うとおり、国家総動員をかけて大攻勢をかけられたら
現状のウクライナでは支えきれなくなるし攻勢限界点もキーウまで持つかもしれない。
兵站の問題は出てくるかもしれないけど。
クレムリンがこのまま決断せず
ウクライナの戦備が整うまで
このままで行ってくれるとありがたい。
イゴールガーキン氏は少なくても去年のハルキウ攻勢の頃から
ロシアの敗退を正確にネットにあげて動員を訴えてましたね。
この方がクレムリン中枢にいないことは幸いでした。
ミリー統合参謀本部議長は「いつまで続くか分からないが、バフムートのウクライナ軍が諦めて負けるとは思えない」と予測していますね。
“Генерал США: Україна не здаватиме Бахмут, бойові дії там припиняться після поразки росіян”
リンク
凄まじい砲撃の痕跡、あの穴だらけの黒点の中に、どれだけ見えない残骸や遺体が転がってるかと思うと、たとえ敵兵でも暗澹たるものだ。
ロシアはますますただの面子、プライドのためだけに戦ってるとしか思えない。
一部の超国家主義者(それとロシアのフレンズども)がせっついている総動員?いいだろう、リソースを一点に集中させれば、いずれは突破口は開ける。だがそれで何を得る?ウクライナを破壊して、ロシア人は単に気晴らしができるだけだ。小さな勝利と引き換えに失ったものは大きく、永遠に帰らない。
どれだけ前線で死体を積み上げてもモスクワの市民、政治家や高級軍人たちは痛くも痒くもならない。やはり、ロシア連邦各地から集められた人肉を肉挽きしているだけでは何の解決にもならない。
ウクライナからのドローン攻撃を警戒して、モスクワに高射砲やSAM陣地が構築されつつあるらしいが、ここは「Shock and Awe(衝撃と畏怖)」を与える必要性があると思う。
クレムリン『初めは強くあたって、後は流れでお願いします。』
ガーキンさん、ロシア版清谷みたいになってない?w
清谷の分析は的外れですがガーキンの分析は一定の理解が出来ると言う点では違いますね
ちなみに清谷君はTwitterで大人のお風呂通いを自慢をするだけあって、下ネタ方面の知識と文章力は抜群なのだ!
風俗ライターにでも転身すればいいのにね
私はガーキン氏は若干悲観的だと思ってるけどね。キエフ占領までやらなくてもウ軍に致命的な人的損害を与えられれば戦争終結は可能じゃないかな?
それでも追加動員やより強い戦時経済体制への移行は賛成だな。戦争ってのはやるからには絶対に勝たなければならないからね。その為に兵力の余裕を確保するのは大切だし撃てる砲弾の量が増えれば死ぬロシア兵の数が減り結果的に戦後も楽になると思う。
ロシア軍の戦術の杜撰さを改善出来りゃ追加動員せずとも・・・と思ってるけど。
それが出来ればこんなに戦争が長引かないでしょ。開戦時と比べてロシアの国力が増大して使える兵器や優秀な兵士が増えたわけでもなく相対的に戦力がダウンしているのに。砲弾だって増やせば済むだけの話でもなく、放棄や弾薬庫や集積所の爆発無くす方向にしなければ無駄になるだけ。
スペツナズがミラクルな活躍をする、高性能なスナイパーライフルで重要な人物を狙撃、ウクライナ防空システムを殆ど潰す、ロングレンジで砲撃精度が劇的に向上、ミサイルや誘導弾を防げる装備とかロシアに望めない物ばかり。ゾンビみたいな事をして時間稼ぎしても明るい話題がないのはな、T-14出してこようが新型の榴弾砲とか装甲車出てきたとしても戦局ひっくり返せるような物ではないし。
割と最近で戦線が2000km未満だったと思うが1000km増えるなら1.5倍だが最低でも南部を切り捨てでもしないと無理な話じゃないかな。北部攻めて政権が崩壊するなら全振りもあろうが国土が広いせいで幾らでも逃げ先なんて有るし、現実的な話ではない。