特別軍事作戦に参加するためドネツクに向かったロシア軍元大佐のイゴール・ガーキン氏が帰国、ウクライナで戦うロシア軍内部では戦争に対する巨大な無関心が蔓延して惰性で戦っているだけと明かした。
Bプランのない「幻の可能性」を頼りに長期戦の戦争戦略を追求することはロシアにとって自殺行為
クリミア併合やドンバス分離独立で重要な役割を果たしたイゴール・ガーキン氏(ロシア軍元大佐)はウクライナ侵攻後、Telegram上で精度の高い戦場の情報を提供して注目を集めていたが、10月に入ると特別軍事作戦に参加するためドネツク人民共和国(DNR)に向かいTelegramの更新がほぼストップしていた。
しかし6日にTelegram上で「DNRからモスクワに戻った」と明かし、帰国した理由については「DNR軍の最高司令官を務めた人物が何の相談もなくやって来て、軍事事務所で手続きを行い二等兵としてDNR軍に入隊したため軍上層部から煙たがれ、軍事訓練所やスバトボなどで任務に従事したものの自身のDNR軍入隊が抹消されていたことに気づいたため」と説明している。
所属していた連隊や大隊の指揮官は入隊抹消の事実を知っていたが、ガーキン氏は「自分が所属したことで優遇されていた援助物資や資金のため故意に事実を伏せていた」と指摘しており、結局10月から11月末まで許可なく部隊に所属し、許可なく武器や弾薬を携帯し、許可なく軍の施設や戦場に滞在し、万が一の事態が起きても「兵士の戦死」ではなく「一般人の事故死」で処理されることを恐れ、違法に支給された武器と弾薬を引き渡しモスクワに戻ったらしい。
DNR軍に参加して特別軍事作戦に従事するというガーキン氏の野望は失敗に終わったが、約2ヶ月間の旅で見てきたもの=前線や部隊の様子に関する情報は非常に興味深いものがある。
ガーキン氏曰く、ロシア軍の兵士や将校の大部分は「自分がなぜ戦っているのか」「何のために戦っているのか」「何がどうなれば戦争が終結するのか」を全く理解していないため惰性で戦っており、ロシア当局もこれを説明する能力がなく「そもそも明確な目的や勝利条件を設定して周知させないのはクレムリンの政治的な自由度を奪うからだ」と指摘、このような状態が長く続くと兵士は戦いの結果に無関心になり、無関心になると更に兵士の士気が下がり、与えられた任務についても「とりあえずこなすだけ」で結果についても無責任になり、ロシア軍内部には「巨大な無関心」が蔓延しているらしい。
さらに致命的なのはクレムリンがウクライナとの戦いに関して明確な軍事的・政治的戦略を示さないため軍も「どう戦えばいいのか」戦術を組み上げることができず、ガーキン氏は「インフラを破壊して国民生活が苦しくなればウクライナ国内で政変や反乱が発生して交渉による戦争終結が可能だとクレムリンは未だに信じており、ロシア軍はプーチン大統領がロシア領に併合した土地を守るためマンネルハイム線(マジノ線ではない)を建設しているが、長期戦の戦争戦略を追求することはロシアにとって自殺行為だと2014年にも今回の戦いが始まってからも言っている」と強調。
つまり秋の反撃で勝利したウクライナ人は「ロシア軍に勝てる力が自分達にある」と自信を深めているのに、クレムリンは「併合した領土をロシア領と認めるなら戦争終結に向けた和平交渉に応じる」と主張するだけでなく「インフラを破壊し続ければ何れウクライナが折れる」と本気で信じており、Bプランのない「幻の可能性」を頼りに長期戦の戦争戦略を追求すればNATOの支援でウクライナ軍がどんどん強化されてロシアの国力だけでは手に負えなくなる=ただの自殺行為に過ぎないという意味だ。
エネルギー価格の高騰に耐えかね欧州の結束がバラバラになってウクライナ支援が止まる可能性も、インフラが破壊されて寒さと空腹に耐えかねた大量のウクライナ人が難民化して欧州に押し寄せる可能性も、終わりの見えない戦いに疲れ果てウクライナ人が妥協する可能性もなくはないが、これは全て受動的な戦略なので望む結果を強制的に実現する「Bプラン=実力行使による選択肢」がないまま可能性が否定されるとロシアは惰性で戦うしかない。
逆にハルキウやヘルソンで勝利してみせたウクライナは世界に「武器さえあればロシア軍に勝てる」と示したもののエネルギー価格の高騰は欧州諸国の低所得者や年金受給者を直撃しており、日本でも北陸電力が来年4月に平均45%の値上げ(電気料金が45%値上げされるのはなく電気料金を構成する電力量料金を45%値上げするという意味)を申請して話題になっているが、英国、フランス、スペインなどでは何百万人(各国の数字を足せば1,000万人以上)も社会的弱者が電気代やガソリン代の支払いに収入の30%~40%が消えている・今後消える可能性(英国では来年4月に補助金が消えるため)があると警告されている。
既に何百万人もウクライナ難民を受けている欧州諸国について「人手不足が解消されて受け入れ国も喜ぶだろう」という声も見受けられるが、国外へ逃げて難民化しているのは高齢者、女性、子供、病人ばかりで労働者適正の高い男性の出国は禁止されており、国連はインフラ攻撃によって300万人のウクライナ難民が新たに欧州へ押し寄せるだろうと明かし、難民の受け入れ疲れも広がっているためクレムリンが「交渉による戦争終結」の可能性にすがる気持ちも分からなくはない。
まぁ経済が絡む政治的な話は守備範囲外なのでよくわからないが、この冬を結束の乱れなく乗り切るか、冬季の反撃でウクライナ軍が何らかの軍事的な勝利を収めれば「併合した領土を維持したままの戦争終結は実現不可能」とクレムリンが認識するかもしれない。
本当にウクライナとロシアの戦争はどのような形で終結するのか全く想像がつかないが、少なくとも年内に終わる可能性は限りなく低いと言える。
関連記事:ゼレンスキー大統領、ウクライナ軍が大半のミサイルを撃墜したと発表
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※アイキャッチ画像の出典:Стрелков Игорь Иванович
「巨大な無関心が蔓延して惰性で戦っているだけ」専制や封建制国家ですか、と思った所で自分の仕事を省みると。。。
動機付けとゴール設定って重要なんですね。ビジネスと一緒だ。
そりゃ組織的にはガーキン氏クラスが二等兵やっていたら上は困惑する
おかげで貴重なレポートに感謝
経済大国のイギリスでも必需食品の価格は先月最大42%上昇、今年の光熱費は88.9%も上回り、更にはペットフードで腹を満たす人もいるってんだから、とんでもねぇもんだよ戦争なんて
惰性で戦っているとは言い得て妙。
ロシア軍にはウクライナ全土の制圧は元より、キーウを陥として政権転覆する能力も無かったし、ロシア政府と国民にはその現実を受け止めた上で特別軍事作戦を中止する判断力が欠けている。
だからロシアから伝わって来るのは「ウクライナとの停戦を望む、ただし現状のラインで」なんてアホな言い草だし、ロシアがそんなザマだから戦争が終わらない。
「巨大な無関心」とはつまるところ、自己に都合の悪い現実に対する否認なんでしょうな。
NATOと物理的な距離をとるための緩衝地帯が欲しかっただけなのに。現状は占領地を奪い返されつつある上、フィンランドのNATO加盟を後押ししてエストニアとラトビアのみだったはずの接触面を増やしただけだからな。
物理的な緩衝地帯とは言うけど、確定的利益とか同一民族とか言っている時点で
取り込んだ時点でさらなる緩衝地帯が必要になるわけでね。
モスクワ大公国のレベルまで押し戻して差し上げるのが一番なんですかねえ?
だからってロシア連邦を構成する各地の共和国や州が独立されても、力の空白地帯やら国家間の係争問題が増えて混乱が加速するだけなので、ロシアにはデカい図体に悩まされながら衰退してもらいたい所ですかね。沿海州(ウラジオストク周辺)は
また変なところで切ってしまった・・・
沿海州はロシアが消えれば帰属をめぐって中国と北朝鮮(と韓国)で揉めて、日本にも間違いなく悪影響が出るので、それはそれで困る。
バルト三国と国境を接しているのに緩衝地帯もなにもないのでは。
フィンランドのNATO加盟申請に対する反応も、「領土問題を抱えていないので問題ない」だし。
ウクライナのEUとNATOへの加盟は見通し不明ですが「フィンランドからウクライナにかけて、NATO軍が攻め込んでくる可能性があるポイントが無数にある」のと「攻め込むルートがエストニアとラトビアの国境線のみ」の場合、ロシアはどちらが守りやすいと思いますか?
なんだか、明確な意志を持って戦って、今回のサッカー日本代表みたいに奮戦した日露戦争と、
なあなあで開戦してなあなあで戦った日米戦争を思い起こすなあ・・・・。
48時間電撃戦で完全占領できると思ってた脳みそパンと花束のクレムリンですから、あの頃に比べるとまだマシかもしれませんな
「勝てそうに見えたから」で始まった機会主義的な戦争、目論見と違い到底勝利する見込みのない戦況、傀儡国家や現地軍と足並みが揃わない本国軍首脳部、目的も死守ラインもなくダラダラ続く戦争、それら全てを覆い隠してしまうほどの強烈な銃後の国粋世論…。一連のウクライナへの侵略はどこを見ても日華事変の事を思い出してしまって複雑な気分になります。
かつての大日本帝国よろしくロシアにも滅亡と転生を経て平和主義や国際協調主義に目覚めて欲しい一方、その過程で世界大戦になってしまうことだけは避けて欲しいと、祈るっきゃないですね。
>かつての大日本帝国よろしくロシアにも滅亡と転生を経て平和主義や国際協調主義に目覚めて欲しい
まったく同感ですが、厳しいでしょうね…
安保理常任理事の核保有国に攻め入っての占領統治はどの国であっても不可能ですし、ロシアに対して日本人がされたような精神改造が可能なのか、又それはして良い事なのかどうかも分からない。
そして何よりも、敗戦を認めて国民に受け入れさせることが出来る存在がロシアには見当たらない。たといプーチン帝が玉音放送流したところで首を切られるだけでしょうね。
「完膚なきまでに敗けて、滅び去る」ことすら出来ないのが今のロシア。
それはそれで地獄のようで、ゾッとする話です。
ウ露戦争が終わったら、国連改革できるんですかね?
それとも、これは序章で大きな戦争が勃発するのか?
>>DNR軍の最高司令官を務めた人物が何の相談もなくやって来て、軍事事務所で手続きを行い二等兵としてDNR軍に入隊した
元将校が兵卒として入隊したってホンマか
そもそも今のインフレはFRBの高圧経済政策の副作用として出たもので、ウクライナ戦争やコロナといった特殊要因が無くても程度の違いこそあれ発生はしてた。
更に言えばインフレ自体にピークアウトの傾向が出始めており、2023年は景気後退入りの予測なのでスタグフレーションにでも陥らない限りは資源価格は下落してしまう。
この冬を乗り越えてしまうとロシアに残された時間はそんなに無いと思う。
北陸電力が45%引き上げを申請したのは、発電コストの上昇分を料金に上乗せできる「規制料金の上限」です。北陸電力は地域電力10社の中で、2022年の上限を最も低く設定していたため2月に上限に到達し、あとは出血大サービスをしてきたので率が大きくなっています。
ただ、原油の日本入着価格は6~7月の$116/バレルがピーク、ドル円も11月の150円/$がピークで、現在は80ドル割れ、135円割れですから、ピーク時の67%になっています。中国のゼロコロナが突如解除されて元気に石油やガスを使うようになればまた高くなるかもしれませんが、このまま落ち着けば申請された上限には届かない範囲の値上げに収まるでしょうし、2022年の上限を高く設定していて燃料費がピークだった9・10月に上限に到達した東京・中部は今月あたりは下がるはずです。
俺も惰性で結婚生活を続けてるよ。
ロシアと俺、どちらがより早く賢明な決断をできるか勝負だな。。
分かった事実はガーキンが従軍したのがロシアが動員を発令した時なので、懲罰招集だと言われてたが実際には志願兵だったということ。
それもロシア正規軍でなくドネツク軍だったということ。
ロシア軍に入隊できないのは予備役登録を抹消されているのだろう。
ドネツク軍も恐らくガーキンを入隊させるなとモスクワから圧力をかけられていたが、ガーキンが来ると彼のパトロンが送ってくる支援で部隊が潤うから書類上軍籍には入れずに部隊に取り込んでいた。
2か月も部隊にいても前線に出されないのを不審に思い調べると自分の名前が名簿にないことに気付く。
これでは軍人でなく戦地で違法に武器持って歩く民間人になるので帰国したということ。
死んでも戦死者として扱われないからね。
帰ってからも軍批判をしてるからワグネルあたりも拾ってくれるか微妙だな。
国のために自ら志願して死地に赴き、必要なら上層部にとって耳が痛い意見でも率直に語る。
一匹狼的独断専行気質がやや強いのがあれですが、愛国心と軍事的プロフェッショナルと責任力が
ほどよく合わさった、敵ながら天晴な軍人ですよね。
まぁこう言った実直なプロフェッショナルは、現在のロシアのような「不都合を見たくない」体制では
爪弾きにされちゃうものですが・・・(かつての我が国の総力戦研究所を思い出しながら)
カリスマ性のある軍人だし野戦指揮官としてゲリラ部隊を率いるならゲバラのような活躍をするんでしょうがね。
国家間戦争での軍の大組織の中ではこういうタイプは爪弾きにされてしまうということです。
2014年のウクライナの親露派の武装蜂起までで彼の役目は終わったんだと言えます。
ウクライナのネオナチ政権を打倒し親露政権を樹立、NATOとの緩衝地帯を設定
という当初主張した作戦目的は実現不可能なのが客観的情勢ですね。
権威失墜をごまかすために、部分制圧下にある3州の併合を一方的に宣言したわけです。
当該3州の併合を認めれば停戦交渉に応じる、というのは現ウクライナ政権の打倒がいまだに可能だと言う欺瞞にを前提にしたものでしょう。その希望的観測を確信するロシア国民は現状では極めて少ないのではないでしょうか。
その点はプーチンも認識していて、現状では国民や国軍に現実に即した戦争目的を明確に再提示できないでいるように見えます。戦争目的が曖昧になってしまっているわけで、惰性で戦争行為を継続しているという見解は的を射ているのかと思います。
ヒトラーの様に指揮し
旧日本軍の様に戦略を策定し
イタリア軍の様に戦い
国民党軍の様に汚職し
ソ連軍の様に掠奪する
プーチンロシア様はWW2のハイブリッド軍と言える
アメリカのリアリティーショーで社長が身分隠して自社の倉庫とか工場の職場に新人として入って
仕事しながら従業員の本音を聞いた後、最後に身分をバラして従業員が「Oh・・・・」っていう顔してる横で
社長が「君の希望、叶えて上げるよ。1か月の有給休暇を与えるからぜひ故郷のお母さんの手伝いをしておいで」
とか言いながら従業員の不満や希望を叶えるパターンのこれは
最初からバレてて従業員に利用されまくってるパターンやな
泥沼だなぁ。4州とってやんわり停戦がロシアにとって初手の電撃戦成功以外で一番望ましい状態な落とし所なんだろうけど、そうはウクライナというかアメリカも許さなそうだしどうすると良いんでしょうね。
プーチンっていうてもっとタカ派と親欧州派(貿易とかの)の間もちみたいな人物だと認識していて、後釜もまともなやついないぞ
初期に脱走した下士官の話よりも上の方の事情が知れたようですね。本人は単に上層部もっとしっかりしろと言いたかっただけかもしれませんが、自軍の内側をバラされたと知った前線のロシア兵は更にやる気を失いそう。逆に真偽に関わりなくこの話を聞いたウクライナ兵の士気は上がるかも。やる気だけでなく命まで失なう前にロシア軍が完全撤退するだけの理性を取りもどしてくれるといいのですがね。
> ロシア軍はプーチン大統領がロシア領に併合した土地を守るためマンネルハイム線(マジノ線ではない)を建設している
マジノ線ではなくマンネルハイム線だというのが強烈な皮肉ですね。しかもいずれにしても長期戦になるのであればロシアにとって自殺行為であると。