ロシアの第5世代戦闘機「Su-57( NATOコードネーム:FELON/フェロン)」について米メディアが興味深い分析を行った内容の記事を報じている。
参考:Russia’s Su-57 Stealth Fighter Could Be an Aerial Sniper
ロシアと米国が第5世代戦闘機で実現しようとした哲学の違い
米メディアの「The National Interest」紙は13日、ロシアの第5世代戦闘機に対するアプローチは米国と考え方が根本的に異なり、ロシアの第5世代戦闘機Su-57と装備品は西側航空戦術の脆弱性を突いて格差を是正し、戦場の環境をひっくり返す可能性があると指摘している。
両国の第5世代戦闘機に対するアプローチが大きく異る原因は戦闘機に搭載する兵器の射程に大きな違いとなって現れており、ここを理解するとロシアと米国が第5世代戦闘機で実現しようとした哲学の違いに気がつく。
米露が戦闘機に搭載して運用することができる代表的なロングランスはAIM-120DとR-37Mになるのだが、AIM-120Dの射程は最大でも100km程度しかないのに対しR-37Mは200km以上の射程距離を誇り、最大到達速度はAIM-120Dよりも速い極超音速域=マッハ5.0で作動する。

Author:Vitaly V. Kuzmin / CC BY-SA 4.0 ロシアの空対空ミサイルR-37
もちろんAIM-120Dは純粋な対戦闘機用の対空ミサイルで、R-37Mはより大型で機動性が落ちる標的=早期警戒管制機や空中給油機を撃ち落とすためのものなので同じ用途で比較すること自体が間違いなのだが、米国にはAIM-120D以上の射程を持つ対空ミサイルがなく、そもそも米国に大型機を長距離から狙い撃ちするような対空ミサイルを開発する発想が無かったため仕方ない。
そもそも米空軍の対地攻撃は今だに精密誘導キット「JDAM」を取り付けた汎用爆弾のMk.80シリーズが主流で、敵の戦闘機や防空システムを目を掻い潜り標的に近づく必要がある。これは航空機が搭載できる射程の長い対地攻撃用兵器が米国に無いのではなくコストの問題であり、敵の懐に飛び込む必要があるのに空対空ミサイルだけ射程を延長しても活用できるシーンが限られるためロシアのような遠距離から攻撃を行う=兵器の射程を延長していくことに意義を見いだせなかったと考えたのだろう。
補足:米海軍だけは冷戦期に、ソ連の航空戦力から空母を守るため長射程の空対空ミサイルAIM-54フィニックスを運用していた時期がある。
逆にロシアは米国式の航空支配を打ち破るため航空機搭載兵器の射程延長に注力し続けたので両者の空対空兵器には射程に大きな違いが生まれることになるのだが、これは米国がロシアに技術力で劣っていると言う訳けではなく両者の哲学が異なるためだ。
では、ロシアが考える米国式の航空支配を打ち破るため秘策とは何か?
恐らく、この部分がロシアの第5世代戦闘機に対する独自のアプローチであり米国の第5世代戦闘機とは別物になった理由だ。

出典:public domain F-22
上記のように米国の第5世代戦闘機は敵の懐に飛び込むことを要求されるため敵に発見されるリスクを軽減する必要があり、そのため高度で全方位に対するステルスに特化したF-22やF-35が開発されたのだが、ロシアの第5世代戦闘機Su-57は米国のもより射程の長い空対空兵器のアドバンテージを活かして米国の早期警戒管制機、空中給油機、地上レーダーサイトなど高価で重要なバックエンドを破壊することを目的に開発されたためステルスを正面方向のみに限定することで機体設計上の制約を最小限に留め、米国の第5世代戦闘機よりも「速く」「高く」さらに空中給油を受けること無く「長く」飛べるよう設計されており、ロングランスを備えたスナイパーのような運用に特化しているとThe National Interest紙は分析している。
では、米国の早期警戒管制機、空中給油機、地上レーダーサイトを集中的に狙うことで米国式の航空支配を打ち破れるのはなぜか?

出典:U.S. Air force Photo by Chad Bellay
米国の戦闘機は基本的に空中給油による燃料補給を前提に設計されているため機体が携行する燃料だけでは作戦半径が短く、特に第5世代戦闘機のF-35はステルスを優先したため携行できる兵器搭載量や燃料が少なく、早期警戒管制機によって空域をコントロールした効率的な航空作戦下でなければ能力を最大限することが難しいため、これを支える早期警戒管制機や空中給油機を破壊して弱体化を図り有利な戦場環境を作り出すことを狙っているのだ。
実際、ロシアの狙いが米国式の航空支配に効果的である例が存在する。
米国のランド研究所が2008年に実施した台湾周辺での米軍と中国軍と衝突をシミュレーションしたウォーゲームの結果によれば、米軍のF-22は中国軍のSu-27を48機撃墜して空中戦で勝利を収めることに成功するのだが、F-22の迎撃ラインをすり抜けた少数のSu-27によって6機の空中給油機、2機の早期警戒管制機、4機の対潜哨戒機、2機のグローバルホークを失い効果的な支援体制が崩壊した結果、大半のF-22はガス欠で墜落してしまった。

出典:public domain F-35Aに空中給油を行う米空軍のKC-46A
確かにウォーゲームの空中戦でF-22は中国軍のSu-27を圧倒することに成功したが、後方空域でF-22の活躍を支える空中給油機や早期警戒管制機を失えば効果的で組織的な航空支配を維持することが難しく、一気に前時代的な個々の戦いに様変わりし、空中給油機を失えば空中給油を前提にした作戦は崩壊し「ガス欠」で貴重なF-22を失うことになるリスクが見つかったのだ。
もちろん、この結果は中国軍としても多大な犠牲を払って実現した戦果なので決して褒められた結果ではないが、もし対戦相手がSu-57をもつロシアであれば、もっと簡単に少ない犠牲で空中給油機や早期警戒管制機を狙い撃ちすることが出来たかもしれない。
仮にそうなったとすれば圧倒的だった米国の航空支配は完全にひっくり返され、まだ誰も想像したことも見たこともない戦場が生まれることになる。
ただ米国もロシアによって既存の航空支配が無効化される状況を認識しており、長射程の新型空対空ミサイルAIM-260開発や対地攻撃用兵器の長射程化に取り組み早期警戒管制機に頼らない状況認識力の構築を急いでいるので、ロシアのアプローチが今後も効果を保ち続ける保証は何処にもない。
最後に大切なことなのでもう一度言っておくが、今回の話は米国のF-22やF-35が個々の能力でロシアのSu-57に劣っているという意味ではない。あくまでもロシアのSu-57は米国式の航空支配を崩すのに効果的であると言う意味で米国の運用体制下でSu-57を運用すれば非常に中途半端な存在になるはずだ。
※アイキャッチの出典:Baranov / stock.adobe.com
米国が長射程のAAMを持たなかったのは
相手に高価な目標が無かったからというのが一番では
圧倒的に優勢なアメリカ空軍に非対称戦を挑むというのは理解できます。
アメリカ空軍としても放っておけないでしょう。
しかし何度もこちらのブログでも皆様が書かれていますがロシアの新型ミサイルって目標に命中するんですか?
まだまだその域に達していないように思われます。
それは実戦で試すまで分かるわけがない
R-73ショックの例もあるし、過小評価せずに備えるしか無いでしょうね
管理人さんも言ってる通り機動性の低い味方大型機にはけっこうな脅威だとは思います
つまり補給線を叩くという基本に忠実な側が強いということ
その通りですね。
以前某国のASBMというのが空母キラーといわれて話題になったミサイルがありましたが、よくよく調べると補給船叩き用だったといったことがありましたね。
そうなんですか? 空母も補給船も「狙う」という意味では同じような難度だと思うけどな。
恐縮ですが補給船狙いだとするHPとかを紹介していただけませんか
ここにあります。
ご参考ください。
リンク
アメリカが長射程距離のAAMを実用化する事と相手が放った長射程距離AAMの探知と回避技術を確立すれば優位性は崩れる。
言うは易し。
そんな誰もが分かってることをドヤられてもねぇ
早期警戒機の機能を提供する機器をもっとコンパクトにしてF35に搭載できればF18グロウラーでしたっけ?みたいな運用が出来るんじゃないかな?
空中給油だって、F18だったかラファールだったか、相互に給油の授受が最初から可能なように設計されている
とどこかで見た記憶がありますが。
バディシステムですね。
給油機役のF-18が同行するのですが、専用機に比べると効率が悪いです。
そこで、無人ステルス給油機が出てくる訳です。
早期警戒管制機そのものの機能じゃないけど、F-35関係者(パイロットとか)の方は、F-35はデータリンクと各種センサー(と搭載コンピューター)を駆使すれば、早期警戒管制機抜きでも結構戦力になると主張しているらしい。
どうも元々ステルス爆撃機を兼ねていた為か、早期警戒管制機が付いてこれない環境も考慮した上で開発された節があるみたい。
AWACSの探知距離伸延と給油機の無人化が進むのかね?
どっちにしてもアメリカとロシアがガチ正面衝突したらどっちも物量作戦になるのだろうが。
サーバ集中からピアツーピアになるようなもんですかね。
物量作戦ならアメリカ圧勝ですね。
なんか旧軍のアウトレンジ戦法的な机上の空論に聞こえるなぁ…
ウォーゲームの結果だって給油機撃破されても戦闘機が無事なら再攻撃できるんだが
防衛側の戦闘機壊滅してたら防御手段無くなるじゃん
第二波攻撃で敵国側補給線が潰されてジ・エンドになるだけでしょ
敵側が戦闘機すり潰して戦線崩壊したけど相手の補給線潰したぞバンザーイって言ってたらんなアホなと思うわ
Su-57にR-37M積めるのかな?
Su-57のウェポンベイ、底が浅そうな気がするのですが。
しかも、場所が台湾周辺というバカでかい不沈空母が2つもある場所ですからね。
韓国もいれると3つになるんだが・・・はたして中国と争うときに味方かどうか。
よしんば戦闘機が生き残れても反撃が届かない。
敵は味方の射程の遥か外にいて、そして既にそこに居ない。
戦術データリンクによるミサイル万能論がウリのF-35他にとって
長距離射程ミサイルを装備したスーパークルーズ戦闘機なんて悪夢のような存在。
単発なのに燃費悪い上に空中給油を頭から潰されたら手も足も出ない。
こちらにありますよ。
リンク
えぇぇ。。。これ単なる推測しかもソース無しじゃないですか。しかも空母艦隊の更に後方の支援船団をどうやって探知し、どうやって照準を合わせるのかの視点無し。支援船団にイージス艦を張り付けなければならないのはそうかもですが、昔みたいに戦時急造駆逐艦がいるわけでも無し、駆逐艦は全部イージス艦。しかも前線に近づく間だけは護衛が必要、という問題でしょ。
雑に見えるんですが。
意見するわけではありませんが・・・。
確かに雑ではありますが、視点は面白いと思います。
この手の兵器は当たる当たらないではなく、狙われているという心理にさせることが目的と思われます。
そうなると民間船に頼っている補給船は近づかなくなりますね。
このR-37Mというミサイルもそのようなものに思えます。
もちろん対抗策を考えておくことは必要と思います。
対抗策を考えておくことには同意しますが、単なる床屋談義でしかなく、そうであれば本職の方々は想定内というものでしょう。
津波を起こす核魚雷と同レベルの話でしかありませんよ
確かに床屋談議程度なのですがそれによって双方(この場合中国軍とアメリカ海軍)ともメリットが出てます。
今回の記事にも同じような臭いがします。
もちろん素人考えと承知の意見です。
今更JSFなんか持ち出すとかw
彼はもううだつの上がらないただの「艦これおじさん」でしょ?
給油機とAEWにデジタルステルス搭載するかデコイとかの欺瞞標的などを搭載するようになったりして
あるいは護衛用無人機にミサイルを搭載して対対空ミサイルをとか開発したりして
F社さんが出願した「飛翔体射出型ECM装置」って、今こそ活きてきそうですね。
リンク
電波強度は距離の二乗に反比例するので、距離を詰める事は意味がある筈だし。
日本のF-3はF-22よりはSu-57似になりそうですね。
日本の場合、数的劣勢を補うため、
・より小さなRCS﹙側方RCSの低減も重視﹚
・より広いレーダ/指令送信覆域
・ネットワーク機能での連携
といったのを必要としている様なので﹙23・24DMUでの空戦シミュレーション結果概要から﹚、
Su-57とは大分違うと思います。
どちらかと言うと、YF-23よりになる様な気がします。
FB-22よりの強化F-22みたいな代物になりそうな気もする
R-37は羽を改良してSU-57に入るやつを開発中ですね
もともと空戦用としては鈍重(8G機動が限界でしたっけ?)なんで更に鈍くなりそうですが、機動性の高い小型機向けにはR-77があるんで使い分けなんでしょう
成る程。
現状ダメでも、将来出来るように対応してたのですね。
ロシア側の早期警戒管制機の存在が一切話に出てこないまま
ロシア機だけが早期警戒管制機の支援なく、長距離ミサイル発射に必要な
諸元をSU-57単独で取得できるかのような想定には同意しかねるな。
へぇ「空飛ぶスナイパー」か…中二に響く…