ロシア関連

ロシア陸軍、主力戦車T-90の最新バージョン「T-90M Proryv」を実戦部隊に配備

ロシア陸軍は主力戦車「T-90」の最新バージョン「T-90M Proryv」が首都モスクワ近郊に配備されている精鋭師団に配備されたことを明らかにした。

参考:Russian Army receives first batch of new T-90M Proryv tanks

T-90の最新バージョン「T-90M Proryv」がロシア陸軍に引き渡される

主力戦車「T-90」は元々、湾岸戦争で評価を落としたT-72の改良型として開発されたモデルだったのだが「T-72」という名称自体のイメージが良くなかったため新しく「T-90」と命名されたのが始まりで、この戦車の最大の特徴は価格の安さにあり最新バージョン「T-90M Proryv」の国内向け価格は150万ドル~200万ドル、輸出向けでも約300万ドル(約3.3億円)と切ると言われている。

出典:Boevaya mashina / CC BY-SA 4.0 次世代主力戦車「T-14」

ロシアが次世代戦車「T-14」実用化を急いでいないのはT-90Mが性能の割に安価でT-14を1輛調達する予算でT-90Mを倍調達できるためだと言われているが、革新的なシステム全般の技術成熟に時間が必要なため繋ぎとしてT-90Mが必要というのが正しいのかもしれない。

そのため次世代戦車「T-14」の技術を多く採用した「T-90M Proryv」はある意味、次世代戦車「T-14」実用化に向けたテストヘッドという見方も出来る。

実際、ロシア陸軍の引き渡されたT-90MにはT-14と同じ125mm滑空砲「2A82-1M」や装甲が取り入れられている。それに加えて新しく開発された射撃管制システムや照準システムは目標情報をリアルタイムで共有することが出来るためT-90Mのの状況認識能力は格段に向上しており、アクティブ防護システム(APS)「アリーナ」の最新バージョン(M型)が攻撃からT-90Mを保護するため戦場での生存性もT-90Aより向上していはずだ。

特にT-90の弱点といえる機動力についても新型ディーゼルエンジン(最大1,130馬力)の採用で改善・強化されているため性能的には全く別の戦車に生まれ変わったと言っても過言ではない。

恐らく今回引き渡されたT-90Mは、今年5月に予定されている第二次大戦戦勝記念パレードで公式に世界に向けて披露されるはずだ。

シリアで反政府組織に鹵獲されたT-90A争奪戦の行方は?

以前の記事「NATO未入手のロシア製戦車? 反政府組織が捕獲した「T-90A」を巡って争奪戦勃発」を読んだ方には不要だろうが、このT-90シリーズは旧ソ連/ロシア製主力戦車の中で唯一、米国やNATOなど西側諸国の手に渡っていないため詳しい性能や弱点が明らかになっておらず、ロシアから伝わる情報を鵜呑みにするしかない「謎」が多い戦車だ。

しかし、このT-90シリーズの最新バージョン「T-90A」を入手できる可能性が出てきた。

今年2月、トルコとシリアの国境沿いに位置する「イドリブ県」を拠点に活動する反政府組織がシリア政府軍の主力戦車「T-90A」を鹵獲して運用していることが確認され、かなり熱い視線が注がれていたのだが新型コロナウイルス感染拡大で忘れ去られてしまった。もしかしたら話題にならないだけで動きがあるのかもしれないが公には何の動きもない。

出典:Vitaly V.Kuzmin / CC BY-SA 4.0 T-90A

一応、これまでの経緯をまとめておくとシリアの反政府組織が鹵獲したT-90Aはロシア陸軍も採用しており最新のT-90M開発のベースにもなってるため、これを入手して調べることが出来ればロシア陸軍が運用中のT-90Aや最新のT-90Mに対する対抗策を講じることが出来ると言われており、場合によっては政治的な問題に発展する可能性すら秘めている。

T-90Aを鹵獲したシリアの反政府組織はシリア政府転覆を狙うトルコが強力に支援しており、NATOとしてはトルコを通じて反政府組織からT-90Aを入手してしまうのが手っ取り早いが、ここには政治的な葛藤が含まれるため容易ではない。

NATOはこれまで何度もトルコに対し「反政府組織支援」を止めるよう言ってきた手前があるので、トルコを通じて反政府組織を利用すればトルコの行動を黙認しなければならなくなる。

一方のトルコとしても防空システム「S-400」導入を契機に対米関係が悪化しているためT-90Aを入手してNATOに引き渡せば対露関係まで悪化することになり、トルコの外交政策に大きな影響を及ぼすことは火を見るより明らかだ。

出典:ru:Участник:Goodvint / CC BY-SA 3.0 防空システムS-400「トリウームフ」

ロシアとしてもT-90AがNATOの手に渡るのを黙ってみているはずもなく、いざとなればシリアのフメイミム空軍基地に展開しているロシア空軍部隊を動かすだろう。

問題は米国がどのような動きを取るかだ。NATO主導でT-90Aが入手できれば特に問題はなく、仮にトルコがロシアとの関係に配慮してT-90A入手を渋れば独自に米軍を動かして反政府組織から入手し「トルコがT-90A入手に重要な役割を果たした」とでも発表すればトルコとロシアの関係を破壊することが出来るので一石二鳥だ。

ただ米軍は公式にシリアから撤退してしまっているため、反政府組織と直接交渉するのは直ぐには難しく時間を要すると思われる。

現時点で反政府組織が鹵獲したT-90Aがどうなったのか続報はないが先月5日、反政府組織が拠点にしているイドリブ県に対しロシア空軍が空爆(民間人に多数の被害有り)を実施したので、もしかしたら問題のT-90Aは既に破壊されてこの世に存在していないか、鉄スクラップになって無価値になっている可能性も否定できない。

参考:シリア・イドリブ県でロシア軍が空爆、民間人15人死亡

しかし反政府組織も鹵獲したT-90Aにどれだけの価値があり、援助や支援を引き出す交渉の切り札になるか心得ているだろう。そのためT-90Aをロシアに見つからないよう隠匿している可能性が高く、簡単に破壊されることはないと考えることもできる。

果たして、問題のT-90Aは一体が誰が何処に隠しているのだろうか?

 

※アイキャッチ画像の出典:Минобороны Россииが公開したYouTube動画のスクリーンショット

米空軍の爆撃機「B-1B ランサー」が大空にカムバック、極超音速ミサイルの発射母機へ前のページ

空飛ぶスナイパー? ロシアの戦闘機「Su-57」は米軍の航空支配を効果的に破壊する次のページ

関連記事

  1. ロシア関連

    ロシア陸軍、主力戦車に対する対戦車ミサイルのトップアタックを防ぐ保護装置を導入か

    ロシア国防省は17日、ウクライナと国境を接するロストフ州のカダモフスキ…

  2. ロシア関連

    ロシア陸軍の最新鋭T-90M、ウクライナと国境を接するクルスク地域に配備

    ウクライナ国境に近いロシアのクルスク州郊外で昨夜、鉄道車輌によって運搬…

  3. ロシア関連

    ロシアがスーダン内戦に関与か、露ワグネルがRSFに地対空ミサイルを供給?

    米国のCNNは21日「露ワグネルがスーダン軍と戦う準軍事組織(RSF)…

  4. ロシア関連

    ロシア軍にとって動員した人々は大砲の餌、たった1日の訓練で即前線投入

    露独立系メディアのMediazonaは「ドンバスに送られようとしている…

  5. ロシア関連

    NATO加盟取り下げ発言にロシアも反応、安全保障上の懸念払拭に役立つ

    駐英ウクライナ大使がBBCラジオに語った「NATO加盟取り下げの可能性…

  6. ロシア関連

    無人戦闘機時代は幕開け直前、ロシアが早くも量産モデルの「S-70」製造を開始か

    Su-57のロイヤル・ウィングマンとして作動するステルス無人攻撃機「S…

コメント

    • anonymous
    • 2020年 4月 14日

    SAA(シリア・アラブ軍)のT-90はサラーキブ市の攻防で一度反体制側に鹵獲されて大々的に報道されたけど、反体制側がろくに運用しないうちに、そのすぐ後にSAAがサラーキブ市を再奪回してT-90を取り返したような

    2
      • 匿名
      • 2020年 8月 04日

      大戦時のドイツ軍戦車とかだと、回収不可能と判断すると敵軍に使われない様に自爆処理したりしたみたいだけど、そういう事はしてないから、局地的に負けても、全体としては勝ち戦だからいずれ回収できると踏んでたのかもね。
      (まあ、シリアに限らずアラブ諸国の軍は、中東戦争でイスラエルに大量に鹵獲されてるから、そこまで徹底してないのかもしれないけど)

    • 匿名
    • 2020年 4月 14日

    >そのため次世代戦車「T-14」の技術を多く採用した「T-90M Proryv」はある意味、次世代戦車「T-14」実用化に向けたテストヘッドという見方も出来る。

    そうりゅう型にリチウムイオンバッテリーを搭載して次期型潜水艦のテストヘッドとも言われている「おうりゅう」みたいですな。

      • 匿名
      • 2020年 4月 14日

      たしかにそうですね。
      優秀なものとは一朝一夕でできるものではなく一歩一歩地道な改良の積み重ねなのでしょう。

    • 匿名
    • 2020年 4月 14日

    >今年5月に予定されている第二次大戦戦勝記念パレードで・・・
    この時節柄何を悠長にパレードなんかやるんだか・・・。
    大勢の人が集ればコロナ蔓延しますよ。

    • 匿名
    • 2020年 4月 14日

    ベースが同じT-72でも中華製のパチもんと違って納得できる砲塔のデザインをしている。

    • 匿名
    • 2020年 4月 14日

    T-54/55やT-72等の旧ソ戦車は随分と長生きですよね。西側だとパットンが一部の国で現役だったかな?
    いずれにせよT-90はまだ10~20年は第一線だろうから情報漏洩には気を配るとは言え、アルマータがあるからそこまで大事には考えてないかも。ましてやプーチンなら政争の道具として良いネタにしそう。転んでもただでは起きないというか。

    • 匿名
    • 2020年 4月 14日

    決して大きいな車体とは言えないのに、拡張性が高いですね。不思議。>T72系

      • 匿名
      • 2020年 8月 04日

      初期型から125mm滑腔砲と自動装填装置の組み合わせで、砲や照準機器が進化しても根本的なところを変えずに済んでるのが大きいかと。
      これが同時代に配備されたからって74式で105mm砲から120mm砲への換装、装填手1名を削減して自動装填装置の採用とかやろうとすると抜本的に変更しなきゃいけない。

    • 匿名
    • 2020年 4月 14日

    K2戦車の強力なライバル。
    輸出出来るMBTで製造してる企業は数える程度。

      • 匿名
      • 2020年 4月 14日

      T-90はK2より安価だから直接のライバルになり得ない。

      K2輸出するなら韓国製じゃ無くユーロパワーパック搭載が必須条件だけどドイツが安く売るはずは無いからT-90や中国のVT-4より遥かに高価格で売るしかない。

      • 匿名
      • 2020年 4月 14日

      何故K2が出てくるんだ・・・?
      あんな欠陥戦車と比べるとかロシアに失礼すぎる。
      というか、この地球上にK2をライバル視してる戦車製造国や企業が存在してるのだろうか?

      3
      • 匿名
      • 2020年 8月 04日

      T-90じゃないけど、T-80Uが韓国軍でも運用されてたね。

      本国使用で高性能なのと、K1/K2が不具合が多いのと相まって「韓国軍最強の戦車」と皮肉られてるとか。
      しかし、借款の現物返済で入手したものなのに、オーバーホールレベルになるとロシアに金払ってやってもらうってのは、ロシアが商売上手なのか、韓国がアホなのか、流石に最初からそういうものと割り切ってたのか。

    • 匿名
    • 2020年 4月 15日

    今のロシアの経済力じゃ新造戦車を全てT-14で行くのは無理だと思うからお安いT-90系列はまだまだ造り続けるはず。

    • 匿名
    • 2020年 5月 31日

    >125mm滑空砲「2A82-1M」や装甲が取り入れられている。
    滑腔砲だよ。
    恥ずかしい間違いw

    • ウスチノフ国防相
    • 2020年 9月 17日

    ロシアの滑空砲って分離式弾頭?で威力カスだよな。

    • KNOB CREEK
    • 2022年 9月 26日

    2022年9月26日に書き込むとなると色々切ない気持ちになる記事ですね…

    2
  1. この記事へのトラックバックはありません。

  1. 米国関連

    米海軍の2023年調達コスト、MQ-25Aは1.7億ドル、アーレイ・バーク級は1…
  2. 欧州関連

    アルメニア首相、ナゴルノ・カラバフはアゼル領と認識しながら口を噤んだ
  3. 中国関連

    中国、量産中の052DL型駆逐艦が進水間近、055型駆逐艦7番艦が初期作戦能力を…
  4. 欧州関連

    オーストリア空軍、お荷物状態だったタイフーンへのアップグレードを検討
  5. 中国関連

    中国は3つの新型エンジン開発を完了、サプライチェーン問題を解決すれば量産開始
PAGE TOP