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米軍、自爆型無人機はインド太平洋地域の競争を勝ち抜くのに不可欠

米中央軍は対イラン作戦=エピック・フューリー作戦中、Shahed型無人機の米国バージョン=LUCASについて「この作戦に欠かせない兵器だ」と公言し、LUCAS開発を推進したマイケル・ホロウィッツ元国防次官補代理も「これは中東地域やインド太平洋地域の競争を勝ち抜くのに不可欠な要素だ」と述べた。

参考:How America’s Shahed-136 Kamikaze Drone Clone Suddenly Became An “Indispensable” Weapon Of War

米軍は2番目に優れた能力であっても実用的な価値があるというマインドを受け入れた

軍事利用されるプロペラ推進の無人機について「低レベルな紛争向け」「正規軍同士の戦いには通用しない」「高度な防空システムの保護を突破することはできない」という評価が一般的だったが、有人機と比較してサイズの小さい無人機は低観測性に優れ、弾道ミサイルや巡航ミサイルよりも調達コストが安価なため量を揃えることができ、ウクライナとロシアは自爆型無人機を使用して互いの軍事施設やインフラを攻撃し合っている。

出典:ТЕЛЕКАНАЛ ЗВЕЗДА

特にイラン製自爆型無人機=Shahed-131/136の大量使用(もしくは他の攻撃手段との併用)は防空リソースに無視できない影響をもたらし「これを従来概念の防空アプローチでは対処できない」と証明され、米軍も産業界に「安価なShahed型無人機を開発して欲しい」と要請し、米軍と産業界は中東で鹵獲したShahed-136の設計や特徴を模倣してShahed型無人機=LUCASの開発を進め、ヘグセス国防長官は7月にSpektreWorksが開発したLUCASを視察していたが、米中央軍は2025年12月「中東地域に一方通行の攻撃ドローン部隊=Task Force Scorpion Strikeを配備した」を発表。

TFSSにはSpektreWorksが開発したLUCASが配備され、War Zoneの取材に応じた米軍関係者は「どれだけの数が配備されたかは言及したくない」「それでも相当なレベルの能力を提供できる数が配備された」「この無人機は自律的な協調が可能な機能が含まれているためスウォーム戦術や協調攻撃に適している」と、別の関係者は「LUCASの調達コストは1機あたり3.5万ドルだ」「この拡張可能なシステムは従来の長距離攻撃兵器と比べて極めて安価で最新の機能を提供できる」と言及。

出典:U.S. Central Command

さらに米中央軍は配備したLUCASの画像を複数公開し「LUCASの機体後部には小型の衛星データリンクが搭載されていること」「ジンバル式カメラを搭載したタイプとそうではないタイプが存在すること」が判明、これはLUCASが発射後のMan-in-the-Loop制御に対応していること、特にジンバル式カメラを搭載したタイプは目標付近の状況を視覚的に認識することができ、War Zoneも「ジンバル式カメラを搭載したタイプとそうではないタイプをペアで使用すれば視覚的な状況認識力を共有できる」「これによりLUCASは静止目標だけでなく移動目標への攻撃が可能になる」と指摘している。

要するにLUCASはウクライナやロシアが採用しているモバイルネットワークを利用した不安定なMan-in-the-Loop制御ではなく、衛星データリンクを使用した高品質なMan-in-the-Loop制御が可能で、LUCASの取得コストはShahed-136(2万ドル~5万ドル)よりも多少高価だが、それでも600万円未満で視界外の移動目標を攻撃できるのは、それを大量に調達できるのは米軍にとって魅力的だ。

このLUCASはベネズエラ侵攻作戦にも投入された可能性があるものの、米中央軍は2月28日に開始された対イラン作戦=エピック・フューリー作戦にLUCASが投入されたことを公式に言及(この作戦に欠かせない兵器だ)し、4月8日には「昨夜、エピック・フューリー作戦の一環としてイランに一方通行型攻撃ドローンによる攻撃を実施した」「米中央軍は1ヶ月前に低コストの攻撃型無人機を戦闘で初めて実戦投入するという歴史的な先例を打ち立てた」と発表。

バイデン政権下でLUCAS開発を推進したマイケル・ホロウィッツ元国防次官補代理はWar Zoneの取材に「これほど効果的な兵器の米軍採用に時間がかかった理由」「一方通行型攻撃ドローンが将来の中国に対して使用される可能性」について独自の見解を述べており、非常に興味深い内容に沢山触れている。

米国がウクライナを通じてShahedを入手したのは2024年初頭で、同年5月にShahed型無人機の可能性に関する検討事項がホロウィッツ氏の机に到着し、当時のことをホロウィッツ氏は「精密誘導兵器の大量使用時代に突入していたのに、米国の兵器体系は依然として高性能で高価かつ製造が困難なものばかりで構成されていた」「そのためより低コストで消耗を前提とした自律的に稼働する代替システムの模索に関心が集まっていた」「私は低コスト兵器を高性能で高価な兵器を補完する存在として位置づけ、米国もこうしたローエンドの精密攻撃システムを大量に製造すべきだと考えた」と明かした。

LUCASは従来の兵器と全く毛色が異なるもので、世界最高の兵器を作るのではなく「量そのものが質になる」という発想に基づき「超低コストの能力に投資する」というアプローチでLUCASは開発され、完璧主義に陥らず実用性を重視するという当時の状況においても理想的なシステムで、LUCASの開発コストも非常に僅かなものだったものの「予算計上されていない開発資金の確保(数千万ドル)」は簡単ではなく、ホロウィッツ氏は関連部門や各軍に「これは統合軍が必要としている重要な能力であり、極めて短期間で開発できる可能性がある」と説得して回ったらしい。

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Jonathan Sunderman/Released

米軍がローエンドの大量精密攻撃システムを導入するのに時間がかかった理由については「米軍は常に最高の能力を保持するという前提で構築され、我々のシステムは圧倒的に優れているから数が少なくても問題ないというマインドが主流だったからで、そのマインドを払拭して『2番目に優れた能力であっても実用的な価値がある』という考え方を受け入れてもらうのに時間がかかった」「LUCASはトマホーク400発の製造コストで4万6,000機も製造できるため米軍の弾薬備蓄を新しい次元に引き上げられる」「この能力こそが中東地域やインド太平洋地域の競争を勝ち抜くのに不可欠な要素だ」と指摘している。

LUCASを含むShahed型無人機は精密攻撃が可能でも「撃墜されやすい」という側面があり、ホロウィッツ氏もLUCASの運用方法について「防空網を飽和させる目的で軍事目標に大量に投入するか、あるいはより高性能な兵器と組み合わせて敵の防空網を欺き、高性能兵器の突入経路を切り開くために使用すべきだ」と述べた。

出典:DoD photo by U.S. Navy Petty Officer 1st Class Alexander Kubitza

さらに精密攻撃が可能な兵器の生産についても「もし短期間で生産量をスケールアップしたいなら、10年単位ではなく数年単位でスケールアップする方法を探しているのなら民間の生産ラインを転用できるローエンドの精密攻撃システムにこそ活路がある」「そうすれば高性能な精密兵器を補完するため、この種の兵器を数万機~数十万機保有できる可能性がある」「ただし、LUCASのペイロードは小さいのでトマホークの代わりになれない」「あくまでLUCASはトマホークを補完する兵器だ」と指摘し、LUCASの生産加速のためリバティ船モデルを採用して複数の企業に同時生産させるべきと付け加えている。

今後も高性能な兵器のニーズはなくならないものの、ごく一部の国にしか製造できなかった長射程の精密誘導兵器がデュアルユース技術と市場で入手可能な部品で製造できるようになり、精密誘導兵器(ここでいう精密誘導の精度はトマホークのようなm単位の精度ではない)の大量使用時代に突入したため、これに高価で製造に時間がかかる兵器で対応するのが不可能になったため「最高の兵器だけしかいらない」というマインドとの決別を強制されたのだ。

出典:Baykar

海外の防衛市場にはLUCASと同じコンセプトの自爆型無人機がどんどん登場しており、乱暴な言い方をすれば「毎月、新しい自爆型無人機が複数登場している」で、欧州諸国も既に「最高の兵器だけしかいらない」というマインドは捨て去っているように見える。

日本は反撃能力を確保するため事実上の巡航ミサイル「12式地対艦誘導弾・能力向上型」の地発型、艦発型、空発型の3種、極超音速滑空体(HGV)を搭載する事実上の弾道ミサイル「島嶼防衛用高速滑空弾」の早期配備型(Block1)と性能向上型(Block2A/Block2B)、極超音速巡航ミサイルの「極超音速誘導弾」を開発中で、ウクライナ製攻撃型無人機(恐らくFP-1)の自衛隊導入も検討中だと報じられているが、依然として開発・調達資金は「最高の兵器」に集中しているように見え、もう戦場トレンドの素早い変化に政策や方針が追いついてないように見えるのは管理人だけだろうか?

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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Central Command

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コメント

  • コメント (4)

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    • 無印
    • 2026年 4月 10日

    >「最高の兵器」に集中している
    予算をはじめ、何もかも足りてないから、少数豪華主義に走らざるをえない背景もあるしなぁ
    そしてその少数すら満足に揃えられない…orz
    陸で満足な数が揃えられたのが「軽装甲機動車」なのが、どれだけ予算足りてなかったか…

    巡航ミサイルや高速滑空弾、極超音速ミサイルなどは今まで無かった分、遅れを取り戻すのには仕方ない気もしますが
    むしろこれら無しで、中国の空母や揚陸艦を拒否する方法が思い付かないし
    自爆型ドローンと組み合わせて中国海軍の防空艦を飽和させる戦法を私でも思いつくのに、防衛省が考えてないわけないと思う

    自衛隊に頑張って欲しいのは、自爆型ドローン狩り
    それも攻撃ヘリに頼らない方法で
    …無理かなぁ

    3
    • たむごん
    • 2026年 4月 10日

    日本軍を苦しめた、米軍が戻ってきましたね。

    超高価な1発に賭けて、弾薬不足に悩んだり・ジャミングでポシャルよりも、米軍らしい原点回帰(物量作戦)は非常にいいと思いますよ。

    2
    • 朴秀
    • 2026年 4月 10日

    弾幕こそパワーは米軍の原点回帰っぽいです

    安く小さく作るのはわーくにの得意分野(だった?)ですから
    わーくにもシャヘド作れば中国に対する抑止力になりそうですね

    • Authentic
    • 2026年 4月 10日

    シャヘドは炸薬量はそこそこだけど射程がすごく長いってのがミソだね
    だから戦術兵器じゃなく産業インフラへの攻撃に使える戦略兵器になった
    よくシャヘドはハーピーのコピーって言う人がいるけどあくまで戦術兵器だったハーピーとはそこが決定的に違う

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