米国関連

ようやく本領発揮、世界最強の戦闘機F-22Aが「神の視点」を味方に提供

米空軍は2020年、ついに戦闘機「F-22Aラプター」への戦術データリンク「Link-16」搭載を開始するとナショナル・インタレスト誌が報じている。

参考:The F-22 Is Becoming A Force Multiplier For America’s Non-Stealth Fighters

ようやくF-22AにLink-16の送信モジュールが搭載され味方に「神の視点」を提供

1980年代に計画され1990年代に本格的な開発が行われた戦闘機「F-22Aラプター」はステルス性能を高めるため独自の通信プロトコルを用いているため、F-22A同士はリアルタイムで戦術情報の共有が行えるのだが最新鋭のF-35やレガシーな戦闘機(F-15C/DやF-16C/D等)と情報を共有するためには一旦、地上局か早期警戒管制機E-3に収集したデータを送信して共有する必要がある。

要するに戦闘空域が早期警戒管制機E-3の管制下(通信範囲内)であればF-22Aは他の航空機と戦術データの共有が行えるため、敵の厳重な防空システムに守られた空域に侵入して情報を収集できるF-22Aは味方にとって「神の視点」に等しいという意味だ。

出典:U.S. Air Force photo by Staff Sgt. Michael Battles

しかし、ロシアや中国が実用化を進めている極超音速空対空ミサイルや長射程の空対空ミサイルは米国やNATOが用いる航空戦術の土台「早期警戒管制機E-3」を前線空域から追い払うことを目的としており、米国もNATOもE-3を用いた航空管制が通用しない=撃墜されるリスクが高すぎるためNATOは2035年までにE-3の廃止を発表、米空軍もE-3の早期退役を検討していると言われており、近い将来E-3のような大型機による集中的な早期警戒管制システムは廃れ、無人機や戦闘機が収集したデータをネットワークを通じて共有することで巨大な空域情報を作り出し管制する方向へ移行していくものと思われる。

そこで問題になるのがF-22Aの戦術情報共有問題で、もしE-3が存在しない空域でF-22A以外と戦術情報を共有するためには無線を開いて音声によって味方に情報を伝えなければならず、この問題は以前より指摘されてきたF-22Aの弱点ともいえる問題(因みにF-22AはLink-16の受信モジュールだけは装備しているため戦術情報の「受信」だけは可能)だ。

ナショナル・インタレスト誌は4日、この問題を解決するため米空軍は全てのF-22AにLink-16の送信モジュールを搭載する作業を開始すると報じており、この作業が完了すれば味方は直接「神の視点」を共有することが出来るようになると報じている。

プロトコル変換装置「GatewayOne」でF-22とF-35が直接戦術情報を共有出来るようになる

但しLink-16で戦術情報共有問題の全てが解決したとは言えない。

最も新しいステルス戦闘機F-35は戦術データリンク「Link-16」以外に、低観測機(ステルス機という意味)同士が戦術情報を敵に感知されにくく大容量のデータを高速で通信しあえる「MADL」と呼ばれる戦術データリンクも搭載しておりF-35の運用効果を飛躍的に向上させると言われている。

問題はF-22が搭載している独自の戦術データリンク「IFDL」とF-35が搭載する「MADL」には互換性がないため、敵の厳重な防空システムに守られた空域に侵入したF-22とF-35は隠密性の高い通信で情報を共有することは出来ず、仮に情報を共有するとしても暗号化されただけの戦術データリンク「Link-16」に頼らなければならない。

出典:U.S. Air Force photo by Senior Airman Christopher Quail

そこで米空軍は昨年、GatewayOneと呼ばれるプロトコル変換装置を使用してIFDLとMADL間で戦術情報の共有を行うテストを開始している。このテストが成功すればF-22とF-35はLink-16に頼ることなく直接、戦術情報の共有が可能になるだけでなく、このGatewayOneを現在開発中の無人ステルス戦闘機「XQ-58ヴァルキリー」にも搭載すると言われている。

要するにステルス戦闘機F-22やF-35、その忠実な僚機(Loyal Wingman)として用いられるXQ-58は戦術データリンクの規格に縛られることなく、GatewayOneを介して戦術情報を共有できるようになるという意味だ。

GatewayOneのテストは4ヶ月程度の予定なので、そろそろ結果が出てくるだろう。

因みナショナル・インタレスト誌は今回の改修を行うことで、ようやくF-22Aが「世界最高の戦闘機」の名に恥じないものになるだろうと結論づけた。

 

※アイキャッチ画像の出典:U.S. Air Force photo by 2nd Lt. Samuel Eckholm

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 4月 06日

    ラプターの航空優勢が確保出来るなら、これでアメリカの第6世代戦闘機開発のタイムリミットが先延ばしに出来そう。

    2
    • 匿名
    • 2020年 4月 06日

    Link-16搭載と言えば聞こえはいいが、対空ミサイルに対してF-22の相対的優位性(特にステルス性)が失われて来ていると遠回しに認めてるようなものなのでは?

      • 匿名
      • 2020年 4月 06日

      ステルスではなくて戦術データリンクの話ですよ
      味方機とのデータリンクに難があったって話

      7
      • 匿名
      • 2020年 4月 06日

      F-22の優位性は揺らがないけど、F-22の数とでできることは限られている。だからF-35とかが必要になってくる訳だが、秘匿性の高い情報のやり取りができないので、それをできるようにするよってのが今回の話だろ。

      6
    • 匿名
    • 2020年 4月 06日

    管制官は地上の何処に居ることになるのか
    RAFの防空司令部みたいなのをあちこちに作るのかなk

    • 匿名
    • 2020年 4月 06日

    記事とは関係ないけど実際極超音速ミサイルって航空機に当てれるのかな?

    3
      • 匿名
      • 2020年 4月 06日

      仮に今すぐにできないとしても、将来的にいつか出来るようになるだろうという判断でしょうね。そうなってから対応するのでは遅い、時間のある内に次の戦略を完成させたいのでしょう。

      3
      • 匿名
      • 2020年 4月 07日

      装甲皆無の航空機相手なら「極超音速の石ころ」でも致命傷でしょうから
      前方の適正距離に標的を捉えたら広範囲に子弾が拡散する様にすれば
      それなりの成果は見込めるのではないでしょうか。

      3
        • 匿名
        • 2020年 4月 07日

        それって、現代版の三式通常弾?

        3
          • 匿名
          • 2020年 4月 07日

          そぉ、正に『現代版』。
          弾体の運動エネルギーだけで敵航空機を粉砕出来る程の速度が出せるなら炸薬弾頭を廃して命中直前にリサリティエンハンサーを展開する方式の方が弾頭を軽く作れるので射程もしくは速力をより増強出来て有利になると思う。
          実際に炸薬弾頭のPAC2より直撃方式のKV弾頭を積んだPAC3の方が小型化されているし。

          5
    • 匿名
    • 2020年 8月 26日

    時代はクラウド。

    しかしタイムラグなしで数百キロ四方のデータがコクピットに映し出されたら負ける気がしない、センサーノードのF-22のデータで別の機体や艦艇からミサイルを撃つって、もはや戦闘ではなくで業務。

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