米国関連

米メディア、多くの国が欲しがるロシア製防空システム「S-400」の性能は過大評価され過ぎ?

米国のナショナル・インタレスト誌はスウェーデン国防省がまとめた報告書を元に、ロシアの接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力は過大評価され過ぎていると結論づけた。

参考:Deadly Or Overhyped? How Capable Are Russia’s S-400 Missile Defenses?

ロシアが開発した防空システムS-400の性能は過大評価され過ぎている?

スウェーデン国防省は昨年、バルト海におけるロシアの接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力は過大評価されていると主張した報告書を発表した。ロシアの接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力の核心は当然、ロシアが誇る防空システムS-400「トリウームフ」のことを指しており、このシステムはNATOにとって大きな脅威になると軍事アナリスト達が口を揃えて主張してきた部分だ。

ロシアのS-300やS-400などの防空システムは複数の用途が異なるレーダーと迎撃ミサイルを統合した総称であり、航空機や巡航ミサイルの迎撃から弾道ミサイル迎撃まで柔軟に対応できるのが特徴で、航空機や巡航ミサイル迎撃はパトリオットミサイルシステム、弾道ミサイル迎撃はサードミサイルシステムに分かれている米国製の防空システムとは考え方が異なる。

NATOにとって脅威だと言われているのはS-400に統合された射程400km以上といわれる40N6迎撃ミサイルの存在だが、実際に400km先の航空機に対し40N6迎撃ミサイルを誘導するためには水平線以遠の目標を捕捉できるOTHレーダー(Over The Horizon Radar:超水平線レーダー)か共同交戦能力が必要になるとスウェーデン国防省は指摘している。

出典:public domain 米軍が過去運用していたOTHレーダー

スウェーデン国防省は効果的なミサイルの誘導が出来ないOTHレーダーを使用するなら、おおよその位置に向かって40N6迎撃ミサイルを発射し、搭載されたアクティブレーダーシーカー(有効範囲30km)が目標を捕捉することに期待しなければならず、この方式で命中率は第二次世界大戦中に使用されたV-2ロケット程度しかないが、早期管制警戒機や空中給油機などの大型機に対しては一定の効果があるかもしれない。

結局、射程400km以上といわれる40N6迎撃ミサイルを有効に活用するためにはA-50などの早期管制警戒機や目標に近い空域を飛行している戦闘機などとS-400をネットワークで結び、地上から観測不可能な水平線以遠の目標データを得なければならず、同様のコンセプトは米国でも「共同交戦能力」や「ネットワーク中心の戦い」として研究開発が進められているが完全に実用化されてはいない。

そのためロシアでもネットワーク構築には時間がかかると見ており、現時点で40N6迎撃ミサイルの脅威は限定的になるしかないと指摘している。

さらにスウェーデン国防省は防空システムS-400の攻略方法も提示した。

S-400は統合された複数の迎撃ミサイルを使用して16から64個の目標と同時交戦することが出来ると言われているが、小型の無人機やデコイ(おとり弾)を使用すればS-400の射撃管制装置を飽和させることは十分可能だと主張している。

米海軍の戦闘機F/A-18は108機の小型の無人機を空中投下し編隊飛行を行う実験を成功させているので、このような技術を使用すればロシアの接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力を打ち破ることも不可能ではないが、S-400にはデコイを見破る=無視する能力があると言われており、さらにS-400の配備は対無人機に有効な近距離対空防御システム「SA-22グレイハウンド(ロシア名:96K6パーンツィリ-S1)」とセットで行われているため、小型の無人機やデコイを使用した方法が本当に通用するのかはやってみないと分からない。

もう一つ付け加えるなら、今後実用化されるであろう指向性エネルギー兵器(レーザー砲やマイクロ波兵器)が配備されれば、小型の無人機やデコイなどの迎撃効率が向上するためS-400を破壊するのは今以上に難しくなる可能性もある。

どちらにしてもS-400単体で影響を行使できる範囲はレーダー地平線よりも上空に限られるため、従来通りの低空飛行による接近は今後も有効性を失うことはない。ただロシア軍が共同交戦能力を獲得すれば40N6迎撃ミサイルが本領を発揮するかもしれない。

 

※アイキャッチ画像の出典:Соколрус / CC BY-SA 4.0

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コメント

    • 匿名
    • 2020年 2月 28日

    重要なのは、論理的に考えれば無いであろう能力を現時点で謳っているということ、そしてそういう兵器を購入する国があるということですね。価格などの問題があるとはいえ、西側の主要国とは価値観が違うと思います。

    • 匿名
    • 2020年 2月 28日


    • 匿名
    • 2020年 2月 28日

    指向性エネルギー兵器は西側でも開発中、ということはロシア自慢の高速ミサイル迎撃すら見通しはあるということです

    • 匿名
    • 2020年 2月 28日

    >同様のコンセプトは米国でも「共同交戦能力」や「ネットワーク中心の戦い」として研究開発が進められているが完全に実用化されてはいない。

    AAM-4は、僚機からの目標情報や指令送信で中間誘導することが可能な様ですが、上記記事だと「完全に実用化されてはいない」扱い﹙研究開発レベル﹚になるのかな?

    • 匿名
    • 2020年 2月 28日

    >おおよその位置に向かって40N6迎撃ミサイルを発射し、搭載されたアクティブレーダーシーカー(有効範囲30km)が目標を捕捉することに期待しなければならず、この方式で命中率は第二次世界大戦中に使用されたV-2ロケット程度しかないが、

    中SAMだと、デジタルマップ目標経路予測機能と、ミサイル本体の目標探索機能の組合せにより、
    ①標的の経路を予測してミサイルを発射
    ②予測地点付近でミサイルが索敵を行う
    ③発見した目標に向け終末誘導を実施
    といった振る舞いが出来たかと思います。

    上記は、﹙超低空から飛来する﹚巡航ミサイル対策のため与えられた機能でしたが、
    これに、ステルス機対策﹙低RCS対処ミサイル誘導制御技術﹚で研究されている
    「目標運動予測に基づく誘導航法技術」を適用したら、戦闘機などの高機動目標相手でも「おおよその位置に向かって発射」で対処出来るかも。

      • 匿名
      • 2020年 3月 02日

      目標の未来位置に誘導するくらいの技術は現代のほぼ全ての中長SAMが有しています
      問題は、OTHレーダーはHFを使用するため目標の位置精度が低く、運動の解析も不十分になるということです
      そのため、 正確な位置が分からないため航法システムがいくら良くてもだめなんです

    • 匿名
    • 2020年 10月 28日

    大型機にXQ-58A無人機を回収可能デコイとして随伴させればよいです。

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