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F-35が欠陥機?運用コストに優れる? 米空軍「F-15EX導入」を検討する真の理由

日本の一部報道では、F-35が欠陥機のためだとか、F-35に比べて運用コストに優れるからと言う理由で、80機のF-15EX導入を米空軍が決めたと書かれているが、どれも的外れに聞こえる。

米空軍がF-15EXの導入を検討している理由は、F-35の欠陥とは無関係

どうしてF-35A導入中の米空軍で、F-15EX導入話が持ち上がったのか、その真実はこうだ。

米空軍はF-35Aで、現在運用中のF-15C/D 266機、F-15E 165機、F-16C 791機、A-10 287機、計1,509機の第4世代戦闘機や攻撃機を全て置き換えるため、1,763機(当初は2,400機以上)のF-35Aを購入する予定で、遠い将来、米空軍は戦闘機の運用機種をF-22とF-35の2機種に集約する予定だ。

出典:Public Domain

現在、1,509機ものレガシーな第4世代戦闘機・攻撃機に対し、ステルス機の第5世代機は、F-22が178機、F-35Aが120機の計298機しか保有しておらず、第4世代機に対して、17%しかない現在の第5世代機戦力比率を、米空軍は50%まで高めたいと言っている。

そのためには、F-35Aの調達数を増やす必要があるのに、国防総省が出した2020年度予算要求案では、78機のF-35を要求しているが、空軍向けのF-35Aは48機に過ぎず、追加で24機のF-35Aを購入すべきだと下院議員99人による超党派グループが主張しているが、それを足しても年間調達数は72機にしかならない。

今後、72機づつ新しいF-35Aを導入しつづけ、同数の第4世代機が退役すると仮定した場合、9年から10年あれば、第5世代機の戦力比率が50%に到達するだろうと予想されるが、その10年という期間中に、レガシーな第4世代機、恐らくF-15C/Dの機体寿命が切れてしまうという問題がある。

出典:pixabay

もしも何も措置を講じず、機体寿命が尽きた順に退役させていけば、2023年までにF-15C/Dは50機を下回る数しか生き残れないと言われている。

約10年の歳月を掛けて、第5世代機の戦力比率を50%にまで引き上げたとしても、レガシーな第4世代機が自然淘汰されて行けば、空軍全体の航空戦力が減少することになる。

そこで、第4世代機のF-15C/Dを、F-15EXでリフレッシュする必要があるという話がでてきた。

ここまで読んで貰えれば、F-35が欠陥機のためだとか、F-35に比べて運用コストに優れるからと言う理由で、80機のF-15EX導入を米空軍が決めた訳ではない事が理解できると思う。

最も重要なのは、国防総省が米国議会に対し予算を要求しただけで、現時点で、米空軍がF-15EXを導入することが「決まった」わけではない。

F-35Aよりも優れているとは言えないF-15EX

第4世代機のF-15C/Dを、F-15EXでリフレッシュする必要があるという主張を後押しする意味で、価格や運用コストの面で、F-35Aよりも優れていると言う主張もあったが、状況は常に流動的だ。

最近の記事「もはや第4世代機より安いF-35A、15億円のコスト削減で約82億円実現!」でお伝えしたように、機体価格や運用コスト面で、F-15C/DをF-35Aではなく、F-15EXでリフレッシュするメリットは失われつつある。

出典:ボーイング

機体価格や運用コスト面で優位性を失ってしまえば、F-15EXのメリットといわれる他の主張も色褪せて見える。

マルチロール化したF-15Eを、同じくマルチロール化したF-15EXでリフレッシュすると言う話なら理にかなった話だが、リフレッシュされるのは制空戦闘任務用途のF-15C/Dで、もしF-15EXでF-15C/Dをリフレッシュすれば、既存のF-15C/Dに搭乗しているパイロットが大きな手間なく機種転換が可能というF-15EX導入の根拠が崩れる可能性がある。

マルチロール化したF-15EXの性能を活かすなら、対地攻撃や、地上部隊への近接支援任務などの訓練をしたこともないF-15C/Dのパイロットに、新たな訓練を施さなければならず、マルチロール化したF-15EXで制空戦闘任務しか行わないなら、8000万ドル(約89億円)という価格に含まれたマルチロール化費用の大半が無駄になる。

ボーイングが主張する「既存のパイロットが大きな手間なく機種転換が可能」という話は、眉唾ものという意味だ。

出典:pixabay

F-15EXの機体寿命は、F-35Aの2倍以上という話もあるが、機体価格や運用コスト面で優位性を失ってしまえば、これも意味を失う。

近接航空支援で最良のA-10攻撃機を、退役(現在、退役を撤回)させ、F-16で代用させようと主張するほど、米空軍は効率と合理性を要求する。唯一無二の特徴(耐久性、防弾性、30mmガトリング砲等)を持っていたからこそ、A-10は生き延びることが出来たが、最終的にはF-35Aで更新される予定だ。

将来、米空軍が保有する2000機近い第5世代機の中で、たった80機のF-15EXが、米空軍が求める厳しい効率と合理性から逃れ、F-35Aの2倍以上という機体寿命を、果たして全う出来るだろうか?

F-15EXは、最大13トン近い兵器搭載力(最大24発もの兵器搭載可能)や、大きな航続距離などF-35Aにはない幾つかの特徴があるが、1機辺りの兵器搭載量が劣るなら2機のF-35Aを出撃させれば良く、航続距離は空中給油で補えるし、他の方法で代用不可というレベルではない。

導入当初は良くても、F-22やF-35が主勢になった状況下で生き残れなければ、F-35Aの2倍以上という機体寿命を主張したところで無意味だ。

10年や20年で退役に追いやられてしまうようなら、果たして、ボーイングが主張する「頑丈な機体構造」のF-15EXが必要なのか?

F-15EXは良い戦闘機だが、F-35Aの装備が進む米国にとっては不必要な戦闘機

遠い将来、米空軍はF-22とF-35の2機種に集約される予定だが、それまでレガシーな第4世代機の運用を続ける必要があるのも事実だ。

第5世代機の戦力比率を50%に高めるという方針が、意味があるのか無いのかは別にして、第4世代機維持=言い換えれば現状の航空戦力の維持のためだけに、新規で第4世代機(F-15EX)を購入するのは、米空軍の方針にも、将来的な米空軍の戦力構成から見た場合にも、あまり良くない決定に見える。

出典:US Air Force / Photo by: Staff Sgt. Kate Thornton

F-15C/Dをリフレッシするため、5年で80機のF-15EXが必要なら、5年で80機のF-35Aを追加で導入すれば良いだけで、その方が第5世代機の戦力比率50%達成を数年前倒して達成できるだろう。

予定になかったF-35Aの追加発注に、既存の生産ラインが耐えられるのかという点も、恐らく問題ないだろう。

F-15EXは、5年で80機を調達する予定なので、1年に換算すれば16機程度だ。

F-35は、ロット12からフルレートでの生産体制に入るため、生産効率が上昇し、生産機数が増えるので、年間16機程度の追加調達なら問題なく受け入れられるだろう。

いざとなれば、トルコ向けのF-35A(100機)を米空軍が引き取っても良い。

残念ながら、F-15EXは良い戦闘機だが、F-35Aの装備が進む米国にとっては、不必要な戦闘機というのが真実だ。

 

このような背景を全く考慮せず、F-35が欠陥機だからとか、F-35に比べて運用コストに優れるからと言う理由で、米国は80機のF-15EX導入を決めたのに、日本はF-35を105機も追加購入すると批判する報道が、どれだけ的はずれな事を言っているのか、その理解の足しになれば幸いだ。

最後に、これだけは言っておきたい。

上記に関係なく、個人的には、コンフォーマル・フューエル・タンクを装備し、攻撃兵器をフル搭載した無骨なF-15のことを、世界一カッコいい戦闘機の一つだと確信している。

 

※アイキャッチ画像の出典:ボーイング

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コメント

    • お化けにゃんこ
    • 2019年 6月 14日

    F-15はカッコいいです。F-14の浪漫可変翼はもっと好きです。

    1
    • 銀魚
    • 2019年 6月 14日

    巷に無理解なF-35ディスりコメントが蔓延る中、主のF-15愛が炸裂する良い記事でした。
    リクエストになり恐縮ですが、EXまで設計されている昨今、自衛隊のpre-MIPS機は(米経由とはいえ)本当に売れるのか、単なる部品とりの言い訳なのか見通しをお伺いしたく。

    1
    • 匿名
    • 2019年 6月 14日

    そもそも、F-15C/Dは州空軍(本土の防衛)と沖縄のアメリカ空軍の一部だけしか使っていません。
    州空軍はF-16C/Dも運用しています、マルチロールだけど、対地攻撃をしない運用ってもあり(州空軍)
    なので、既存の戦闘機を延命ってのはF-16C/Dでしょうね

    アメリカ空軍としての第4世代のミサイル・キャリアってのなら、最前線では無人機(制御はFA-18E/F)、あるいは後方からの爆撃機からのミサイル(視界外ミサイル、長距離の巡航ミサイルが主流になるなら)とか、F-15EX以外の選択肢もある。
     そもそも、F-15Eは現有で、かつ、豊富に持ってる そして、2030年代まで運用すると言ってる(200機ぐらいは200年代の初めの製造)
    つまり、F-22/F-35/F-15Eの体制です

    2
    • F-15大好き
    • 2019年 6月 14日

    現在のステルス技術が陳腐化した時の保険では。

      • 匿名
      • 2019年 6月 15日

      たかだか80機で保険!? 陳腐化したときにはもっと大出力のエンジンや高性能ななレーダーがあると思わないのか? 理解に苦しむわ。

      1
    • 匿名
    • 2019年 12月 25日

    未だに未実験項目が一杯あるF35の本格量産なんて不可能。だから、F15戦闘機を新規に製造する事になった。一番の問題なってる維持費の高騰は未だに解決できずにいる。その間にロシアや仮想敵国がS500みたいな対ステルス兵器を投入する可能性がある。ステルス戦闘機は機体形状を最適化してレーダーや赤外線探知を免れる手法だが、弊害も多々ある。ペイロードの問題が最たるものだ。電子戦機と非ステルス機を組み合わせて戦闘機の脅威に対抗させる手法を米海軍は選択してるが、その動きが他にも波及しそうな状況を、米空軍へのF15採用に見れると感じる。

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