米空軍が実用化を急いでいた極超音速兵器「AGM-183A ARRW」について調達・兵站担当のハンター次官補は「調達するつもりはない」と明かし、米メディアは「問題だらけのARRWを見捨てた」と報じている。
参考:Broken ARRW: Air Force to ditch troubled hypersonic missile
ARRWの開発失敗はデジタルエンジニアリングに依存し過ぎた開発体制の見直しに繋がるかもしれない
米空軍が開発を進めている「AGM-183A ARRW」はブースト・グライド・ビークル(極超音速滑空体/HGV)を搭載する極超音速兵器で、この分野で先行するロシアや中国とのギャップを埋めるため「2021年中に量産を開始、2022年中に初期作戦能力を宣言する」と豪語していたが、量産に移行するための試射が尽く失敗して性能確認が進まず開発が難航。

出典:ロッキード・マーティン AGM-183A ARRW
2022年5月にB-52Hからの切り離しとブースター点火に成功、2022年12月の試射で「ブースター」と「HGV」が想定通りに作動したため希望が見えてきたところだが、2023年3月の試射が再び失敗してしまう。
議会の公聴会に出席したケンドール空軍長官は「2023年3月の試射では必要なデータが何も得られず、何が起きたのかを理解するため調査を行っているところだ。年内にあと2回の試射を行う予定で、この結果を元に2025会計年度予算の中でARRWプログラムを継続するかどうかを決めることになるだろう。現時点はARRWよりHAWCの方に空軍は力を入れている」と語り、年内に予定されている試射の結果によってARRWの開発を中止する可能性を示唆した。

出典:DARPA HAWCのイメージ
米空軍は試射が失敗したARRWへの資金供給を削減(2022年/3.8億ドル→2023年/1.15億ドル)し、2024会計年度予算でも1.5億ドルの資金を要求しているが「調達資金」を要求しておらず、関連文書からもARRWの継続開発に必要な資金計画について触れていなかったが、ハンター次官補は29日「年内に予定されている試射が成功してもARRWを調達しない」を明かしたため注目を集めている。
米空軍で調達・兵站を担当するハンター次官補は29日、下院軍事委員会に提出した報告書の中で「プロトタイプのテストが終了してもARRWを調達するつもりは今のところない」と言及、2024会計年度予算で要求した資金の位置づけは「ARRWの継続開発」ではなく「将来の極超音速兵器開発に役立つノウハウとデータの収集だ」とも明かしており、米メディアは「空軍が問題だらけのARRWを見捨てた」と報じているのが興味深い。

出典:Air Force photo by Matt Williams
つまりケンドール空軍長官が「2025会計年度予算の中でARRWプログラムを継続するかどうかを決める」と言及したのは実用化に向けた取り組みではなく、引き続き資金を提供して「ノウハウとデータの収集を続けるかどうかを決める」という意味になり、既にARRWの実用化には見切りをつけているのだろう。
因みにジョン・ハイテン統合参謀本部副議長(現在は退任)は2022年1月「極超音速兵器の開発競争で中国に米国が負けるのは、未成熟な技術を開発する過程のテストにおいて失敗を許さない官僚主義や議会に問題があるからだ。萎縮した米軍は極超音速兵器のテストを過去5年間で9回しか実施していないが、同じ期間に中国は数百回のテストを行っている」と指摘。

出典:Air Force photo by Giancarlo Casem B-52Hに搭載されるAGM-183A ARRW
米政府説明責任局も「開発中の極超音速ミサイルが直面している問題の多くは国防総省が従来の兵器開発プロセスをバイパスする新しい開発権限を行使しているためで、未熟な技術と6ヶ月以内にプロトタイプ製造して5年以内に量産ミサイルを配備するという積極的なスケジュールにある」と指摘しており、少なくとも米軍全体が「極超音速兵器の開発で中国に負けている状況を早く解消したい」と焦っているは事実だろう。
デジタルエンジニアリング採用を主導した米空軍のウィル・ローパー次官補(現在は退官)は「従来プロセスでARRWを開発すると初期作戦能力の獲得は2027年になるが、デジタルエンジニアリングを採用して開発したARRWなら僅か4年で実戦配備できる」と語っていたことがあり、ARRWの開発失敗はデジタルエンジニアリングに依存し過ぎた開発体制の見直しに繋がるかもしれない。
関連記事:米空軍は極超音速兵器の早期実用化を断念か、失敗続きのAGM-183Aを見放す可能性
関連記事:米空軍が極超音速兵器の試射に失敗している原因、デジタルエンジニアリングと開発スケジュール?
※アイキャッチ画像の出典:ロッキード・マーティン AGM-183A ARRW
「極超音速兵器のテストを過去5年間で9回」そりゃあ新規の極超音速兵器をこれだけというなら少ないわなあ。アメリカの経験というならX-15とスペースシャトル以降、何十年も手付かずだったんだろうか?
個人的には、アメリカの一番の宿痾は競争原理至上主義だと思う
技術が確立されコストや付加価値勝負になった段階なら良いと思うけど、新技術をそれぞれの企業がバラバラにやるのは非合理的
コロナワクチンで最速開発目指したときのやり方すれば良いのよ
最速すぎて重篤な副反応を無かった事にするのはちょっと
強制じゃないんだから副反応が怖い人は打たなければいい。それを承知で打った方がメリットを感じる人だけが打てばいい。
コロナワクチンに限らずどのワクチンでもそういう判断基準で打つものだと思うのだが。
B21を持つ空軍は極超音速兵器に頼らずともスタンドイン兵器で攻撃出来る為にあまり大きな期待してない姿
むしろ、陸軍海軍による極超音速兵器による予算と任務の密漁が危険かもしれない
いや、んなわけねーだろ
三軍の中でいち早く極超音速兵器の開発に乗り出してんの空軍だろ
ミッチェル研究所のMark Gunzinger氏の意見
リンク
彼は元爆撃機パイロットだが秀才で論文には単なる身びいきとは言い難い説得力がある
アホなことを言うかもしれませんが。やっぱり、天才には敵いませんかね。
彼等は、デュアルコアやクアッドコアのパソコンみたいに、
コアの数だけ常人の数倍の思考をしますからね。
しかもそれぞれのコアの演算速度が速い。
単なるデュアルコアならば、おそらく、皆様のお隣に一人づつ居ると思いますが(笑)。
かつて、天才ナポレオンに対抗するために参謀本部方式が創られましたが、
それがナポレオンを超えたかは疑わしいですしね。
今回のデジタルエンジニアリングも似たようなものに思えます。
常人のやることには検証が欠かせないと言うことかと思います。
デジタルエンジニアリングに比重を置き過ぎた結果失敗って、フォード級で全く同じような話聞きましたね…
デジタルセンチュリーズもデジタルエンジニアリングの積極活用で開発のサイクルを早めるという話だったけど、こうも失敗続きだと不安になる
地発型HGVは最大射程におのずと限界があるので米空軍が空発型での実現を志向したのは頷けないこともないですが。
撃墜の難度は縦方向の運動性が高いHGVが上ですが、HAWCに目処が立ったのなら空軍として必ずしも必須な装備ではないということですかね。この分野で中露との差を埋めるために早急な装備化が求められている米軍では、長期を要すると見込まれる開発に消極的なんでしょう。
結局のところデジタルエンジニアリングもデータ化された既知現象や既知ノウハウが無ければ信頼性を確保できないんで、検証されていない理論をぶち込んで新規技術を短期間に確立できるような魔法では(現在は)ない。
これがかつてのスカンク・ワークスの成れの果てとはね…
まあ昔もD-21で散々凡ミス失敗してたけど(スカンク・ワークス中の人はB-52に載せるため引き渡した後の軍の管理がずさんだったせいと言い訳してた)
何がデジタルエンジニアリングだよ銀の弾丸などないって散々言われてるだろおお!?!?
空力解析構造解析ならともかくブースターの点火失敗など一連のミスはシミュレーションで見つけ出せるようなものじゃない
官僚主義を廃する以外策はなし
もはや計画発表時にデジタルエンジニアリングの単語が入ると失敗フラグ
シミュレータの作り込みが甘いのか?もしくは開発下請け辺りに中華資本が流入して妨害してるか?
デジタルエンジニアリングのポイントはどれだけリアルの情報をデジタルにフィードバックできているか、なのでARRWのプロジェクト停止はその点で不備があった(=情報不足の要素が多かった)、と言うことになると思います。
リアルとデジタルをどれだけ近づけられているか、それを認識するための仕組みと近づけ検証するための仕組みづくりができているか、というサイクルをうまく回せるか、は重要ですね。
デジタルエンジニアリングの敗北になるのか、HAWCはARRWの倍以上の期間開発している筈から順当な結果って気もするが。
米軍というのは過去の遺産でなりたってるってのはもう隠しようがないですよね
F-35のエンジントラブルとか、新空母とかも本当にひどい
しかもこれだけ問題だらけなのに米国は敵国に比べてクリーンであるという幻想が覆ってるのは不思議でもあります
日本の高速滑空弾ブロック2の弾頭が
爪型から旧来の円錐型に変わったのって
これの影響があるのかいな?
米軍から「やめた方が良い」ってアドバイスされたとか
ブロック2A/2B(能力向上型)の滑空飛しょう体は共にウエイブライダー型です。
ブロック1(早期配備型)が円形断面型滑空飛しょう体で2026年度から装備化を予定(射程数百km)。これでウエイブライダー滑空飛しょう体以外のシステム確立が行われます。
本命のブロック2B(射程2,000~3,000km)は2032年度から装備化予定ですが、射程の短いブロック2Aを2030年度に装備化する計画です。
いや、そんな公開情報をドヤ顔で語られても困るんですけど・・・
えつ?ブロック2の滑空体が事業開始前に計画変更されたんですか?
それはうかつにも知りませんでした。すいませんが、ソースを教示願えませんか。
海軍が出来たから、それを使えば良いのでは?
米空軍はたまにこういうグダグダをやっちゃう時あるよね。
失敗を許さない官僚主義と議会、あと競争原理主義と世論は日本にも通底するものがありますね。H3ロケットの時とか「失敗」という言葉をひねり出す記者とか、実際に失敗したときに「日本の技術力の凋落」と評するブロガーとか。
けれど中国だってなかなかに硬直した官僚主義だし、独裁体制な分失敗も許されなさそうだけど、どうなんだろうか?
失敗が許されない時って往々にして「競争に負けている」とか、「ここで追いつかないと取り返しがつかない」とか、余裕が無くなりつつある時ですよね。
Hー3なんてまさにこれ。ここでしくじると宇宙ビジネスでの存在感がほぼ無くなる(かもしれない)。
ロケットに失敗はつきものだからあんまり騒ぐのもどうかと思いますが…。
話題を戻すと、中国はこの分野では先行しているのでそこまで慌てる必要も無い。
人も物も予算もたんまりあって、新しいことに挑戦しやすい雰囲気なんじゃないでしょうか?
ま、彼の国は「失敗した」と発表することがほぼ無いので実態が見えにくいのがなんとも…。
中ロがミサイル開発に熱心なのは、航空戦力やその投射能力で欧米に勝てないからミサイルがんばるしかない、という理由からだと思います。
逆にアメリカはここ頑張る必要あるんでしょうか。迎撃能力は必要だけど。航空戦力が以前ほどは圧倒的じゃないということなのかな。